「それよりさ、おっちゃんは俺の事だけを見てくれてたらいいから」
僕たちは再び村の門の所に行く。門は閉まってはいなくて開けられている。じゃあ通れるんじゃないの? って思うかもしれないけど、そこには門番さんからはキリっとした顔立ちで門の所に居た。
門番さんは村人のなかでも結構背が高い方で、見たかぎり虚を付いて抜ける事も出来なさそうなオーラを感じてしまう。
「ねぇ、どうやっていくの?」
見通しのいい門からの中央通路で、なんとか物陰を見つけて隠れながらエンくんに聞いた。
「まぁ、見てなって。うまくいったら合図するからそれ見て行けよな。サンカ、シカド行くぞ」
「わかりマシた。何考えてるかわかりマセんけど、上手くいくんデスか?」
「大丈夫だよぉ。エンはずっこい事考えるのだけは上手いからなぁ」
「うっせぇっ! 行くぞ」
そう言うとエンくんは二人の手を引いて後ろを振り向いて歩いて行こうとした。
「逆デスよ?」
「真っ向から当たるわけないだろ? それにちょっと準備があっから。あっ、カイト」
「何?」
「今の時期は村の外に魔物はめったにいないって大人の話だけどよ。だけど、もし万が一なんかあったら……」
エンくんが僕の目をジッと見る。言葉の続きは言わなくてもわかった。
「うん――」
「カイトは絶対に私が守りますのっ! そのために式紙も私の式紙もあるだけ持ってきましたのっ!」
「ちょっ! ちょっとちょっとっ! カイトを守るのはあたしっ! っていうか、二人ともあたしが守るんだからっ!」
僕の言葉を遮って前に出るアズサちゃんと姉ちゃん。
「え? ちょっとっ、僕だってっ」
「カイト、ちょー。ちょー剣下手くそだよ? 持って無いほうがましなくらい」
「ぐむっ」
「カイト東法術はろくに使えないし、西魔術も強力とは言えませんのに。またお守りの暴走でもさせるつもりですの? 正直体がいくつあっても持ちませんの」
「ぐぬぬ」
一瞬エンくんが目を丸くしたけど、ビックリした僕の顔をみると苦笑いをしたので僕もつられて苦笑いをする。
「何だお前、一番弱ぇのか? あんな無茶するくせに変な奴だな。でもまぁ、みんな無事で帰ってきてくれよな? カイト、お前もだからな。じゃないと許さねぇから。んじゃ、行くぜ。二人とも」
そう言ってエンくんは二人を連れて行った。
僕は三人の後ろ姿を見てうんと一度頷いた。
◇◆◇
エンくんとシカドくんはほどなくして走って戻ってくる。
あれ? サンカくんは?
僕は隠れながらそう思っていると、二人はそのまま門番さんの方まで行った。
「おっちゃんおっちゃん」
「エンにシカドか。今日も元気だな」
「おっちゃんこそ今日も髪型がキマってるぜ」
「うん、キマッてるキマってるぅ」
唐突に二人が門番さんを褒めだす。なるほど、褒めて油断させる作戦なのかな? でも、門番さんの髪型は特に変わった感じもしない感じなんだけど、それうまくいくんだろうか。
そんな心配をよそに門番さんはかなり嬉しそうにニヤリと口の端をあげる。
「ほう、お前達にはわかるか。実は毎日結構苦労して髪の毛セットしてたんだよ。他の奴らはどこが違うかさっぱりわからんとか言い出すが、やっぱり純真な子どもたちの目にはわかるんだ」
「そうなんだぁ。うん、かっこいいんだなぁ。たぶん」
「だろう? これぞこだわりにこだわった無造作ヘアだ。嫁には「ハイハイいいんじゃないの」と適当に返事をされて、妹には「バッカじゃないの」って目も合わさずに言われる始末だがやはりわかる人には――」
「おっちゃん、んな事どうでもいいや」
「ど、どどどうでもいいっ?」
心底どうでもよさそうな顔をするエンくんに驚きつつも、がっつり肩を落とす門番さん。
よいしょと持ちあげといてスコーンと落とすなんて、なんて恐ろしい子なんだろう。とはいえ、僕たちも時間はあまりないから急いでは欲しい。
「それよりさ、ちょっとお願いがあるんだよ。サンカと三人でキャッチボールしてたらさ、家の屋根にボールが乗っちゃってとれなくなっちゃったんだよ。とってくんねえかなぁ? いや、今サンカがなんとか下から取れないかって言ってやってんだけど、やっぱ無理そうだからさ」
「……そんなのそこの家の人にでも頼めばいいんじゃないか?」
「それが家にばあちゃんしかいねぇんだよ。さすがにちょっとなぁ?」
「じゃあ、誰か他の人を探したらどうだ? 門番という職務上ここを離れるわけにはいかないからな」
「あー、そっか。そうだよなぁ……」
あっさり諦めたような事を口にするエンくん。
門番さんをどうにかするなんてやっぱり無理だったかも。次の作戦を考えなきゃかなぁ。
「関係ねぇんだけどさ、俺門番のおっちゃんの仕事ってすげー憧れててさカッコイイと思ってるんだ」
「ほほぉ? でもお前この前まで冒険者になるって言ってたじゃないか」
「いや、そうなんだけどさ。でもさよく考えてみたら門番さんの仕事ってすげーじゃん。村の裏方役みたいだけど、いつもその門で危ない奴とかから村を守ってくれてるんだろ? 村に危険なくらい魔物が近づいてきたら狩人に変わって退治もするしさ」
「うんうん、しかも楽勝なんだよねぇ。かっこいいんだぁ」
エンくんとシカドくんがそれぞれ褒めだすと、肩を落としていた門番さんの背筋がむくむくと伸びる。
「ふっ、まぁな。村の平和を預かる身としては強くなくては務まらないから当然だ」
当然と言うものの、門番さんの顔はとてもうれしそうに口の端が上がる。
「村の人の頼みごともいっぱい聞いたりして本当すげーってみんな言ってたぜ」
「力仕事くらいしかしてないが、そうかそうか力自慢もたまには役に立つか……」
少し顔をあげて空を見上げる門番さん。少しして腰を曲げると、エンくんやシカドくんと目線を合わす。
「よしっ、俺がとってやるよ。今日は少しくらいなら大丈夫だろ、特に何か来る連絡はないし俺の門番としての直感がそう伝えている。……今朝早くにウルブ村のギルドマスターが飛び出たのが気にならなくはないが」
「本当か? やったーっ!」
エンくんシカドくんと一瞬無邪気に喜んで見せるとぐいぐいと門番さんの手を引っ張って行こうとする。
そしてちらっと僕たちの方を見てあごで行けと合図をした。
それに皆立ち上がろうとする。
「ん? 何かいるのか?」
門番さんの顔がこっちの方を向いた。僕たちは一斉に立つのをやめる。アズサちゃんは声も出そうになったのか両手で口を押さえていた。
焦ったぁ……。門番さん鋭すぎだよ。
心臓がバクバクする。落ちつけぇ、落ち付け僕。
「き、気のせいだよっ! あっちには何にもねぇからっ! それよりさ、おっちゃんは俺の事だけを見てくれてたらいいから」
「……それはいろいろ誤解を生む言葉になるぞ?」
「え? なんで?」
「大人になったらわかるかもな」
「ちぇー、それくらい教えてくれよなぁ。ケチー」
門番さんは一度肩をすくめてクックックと笑うと、エンくんとシカドくんと村の中の方へ行った。
「びっくりしたですの」
「そうね。でも落ち着いてる暇はないわ。今のうちに行きましょっ」
僕とアズサちゃんはうんと頷くと、村の外に出て行ったのだった。




