「うん、その気持ちはボクも今身に染みてる」
「でも、僕たちで手伝うって言っても……」
「ちょっとどうしたらいいかわかんねぇな」
僕とエンくんが首をかしげると、やっぱりねといった感じでシキイさんは視線を真横に流して軽くため息をつく。
だけどサンカくんは目に力を込めてニイッと笑って言う。
「ここはボクたちの親を参考にしてみまセンか?」
サンカくんは人差し指を立てて得意気にする。
少しだけ身を乗り出して聞く姿勢をとるシキイさん。
「確かにそれなら成功談だ。ボクにも参考になるかもしれないね」
「では、まずは言いだしっぺのボクからいきマス。――ボクの父は言ってマシた。告白に必要なのはキメ台詞だと」
「なるほど。確かにそれは重要だ。その一瞬であらかたが決まると言ってもいいし、告白する側にもそれがあるだけで心強いね」
シキイさんはうんうんと頷いてサンカくんに同意する。
「で、君の親父さんはどんなキメ台詞を?」
「よくぞ聞いてくれマシた。ボクの父はとある文豪にあやかって母にこう言ったそうデス――」
ゴクリ。サンカくんの作る間にシキイさんの唾を飲み込む音が聞こえる。僕も自然と体重を前に傾けながらサンカくんの言葉を待った。
サンカ君は一度眼を閉じるとゆっくり開いてみんなの顔を見渡して口を開く。
「『月が……、いや。ムーンがビューティフルですね』――と」
サンカくんは人差し指を立てて得意気に胸を張った。
……サンカくんの父さんはルーなんとかさんなのかな? いや、なんの事かわからないけども。
うーん、でもそれでトゥギャザーできるのかなぁ?
「……うーん、エセ豹族弁? ……いや、それより君の親父さんはうまくいったのかい?」
「もちろんデスね。ボクがここにいるのが証明です」
「……まぁ、言われてみれば確かに」
「ただ、父が母にこれを言ったときは母は少しキョトンとしていたと」
「うん、その気持ちはボクも今身に染みてる」
シキイさんの頷く動作に僕も同調する。しかし、サンカくんは気にせず続けた。
「でも、その後に母が笑いだしてなんだかんだでうまくいったと言ってマシた。父はなんで笑われたのかよくわからないと言ってマシたけど、本当にわかり会える二人ならあの言葉で通じるのだとも言ってマシた」
「な、なるほど。うーん」
一応そう言うもののいまいち得心のいかないシキイさん。顔を少し空に向けて唸る。何とも言えない空気をシキイさんが発する中で、パチパチパチと拍手する音が鳴り響いた。
拍手の主はエンくんだった。
「サンカの親父さん……、深ぇなっ! 俺の父ちゃんなんかさ、母ちゃんに『好きだーっ!』って叫んだら『アタシの方が好きだっ!』って叫び返されたから、『こちの方がもっともっと』って言ってたら通りすがりの村の人に『お前ら結婚しちゃえよ』って言われたんだってさ。父ちゃんも母ちゃんもその発想は無かったって目から鱗で結婚したんだってよ」
「すごい勢いだ……。って言うかどうしてその発想が抜けちゃったんだろうね」
感想を漏らした後でシキイさんは僕の方に答えを求めるように顔を向ける。
……いや、僕の方を見られてもねぇと僕も首を傾げて返す。すると、今度はシカドくんがおもむろに手を上げて口を開いた。
「はいっ! 今度はおいらの番だなぁ。おいらの父ちゃんと母ちゃんは、小さい頃に『ずっと一緒にいれたらいいねぇ』って言ってたら、気が付いたらこうなったって言ってたんだぁ」
「ほのぼのとした雰囲気は安心感もあるしね。ボクにそれが出せるか……」
腕を組んで考え込むシキイさん。
……さて、順番としては僕だけど。少し困った。
「カイトの父ちゃんと母ちゃんはどうだったんだ? 青狼族はまた違うのがあったりするのか?」
案の定エンくんから声がかかる。サンカくんとシカドくんも少しだけ僕の方に身を乗り出す。シキイさんだけは少し首をかしげる。
困った僕は少し眉をひそめながら答える。
「えっと、……母さんはこの村出身だし、青狼族も好きな人同士が結婚するだけだから特に変わったことはないと思うけど……。うーん、ごめんね。僕、父さんと母さんが出会った時の話って聞いたことないんだ」
「ちぇっ、残念」
よっぽど楽しみにしてたのか、エンくんは指パッチンして口を尖らす。
すごいなぁ、エンくん指パッチンできるんだ。
そう思って僕も二、三回スカッスカッと指パッチンをしてみるけどやっぱり鳴らない。
どうやったら上手く鳴るんだろう? と、エンくんの顔を見る。そこでシキイさんの考え事をしてるような顔が僕の視界の端に止まった。
――おっと、いけない。今は指パッチンよりシキイさんの事だ。
「ごめんねシキイさん」
「い、いや、いいよ。……それより、カイトくんもいろんな苦労があったんだろうね」
「ん? なんの事? ――あっ、それよりね、父さんたちの話はできないけど、ウルブ村でカップルが出来た時によく聞く話があるよ」
「へぇ、どんなのだい?」
「女の子がピンチの時に助けたりってのを聞いたことがある。女の子が魔物に襲われたところを助けたりとかそういう感じ」
「ふむふむ。ピンチを助けるかぁ」
何となく手ごたえを感じた様にシキイさんが頷く。「でも、そうそうないなぁ」と呟くとそのまま頭を横に倒して唸る。するとまた、サンカくんが控えめに片手を上げながら口を開く。
「あっ、そういうのナラ、ボクもありマス。男女二人で吊り橋を渡るとカップルになれるトカ」
「ええっ? それはなぜだい?」
シキイさんはサンカ君の方に身を乗り出す。サンカくんの上げた手が自身なさげに折れ曲がる。
「……ボクもそこまでは。なにか、超常的な力でも働くんではないでショウか?」
「……もしかしたらそれは呪いのアイテムの類いなのかもしれないね。……それはさすがに怖いなぁ」
シキイさんはがっくり肩を落とす。
確かに。そんな不思議な橋は絶対呪われてるね。僕は妙に納得しながらシキイさんを見る。シキイさんは短く深呼吸した後に、ゆっくり立ち上がった。
「あっ、……シキイさん帰っちゃうの?」
僕が声をかけると、シキイさんは少しの間をおいて首を軽く横に振る。
僕はエンくんとかと互いに顔を会わして、シキイさんの方を向く。
「ねぇ……。僕たち役に立ったかな? やっぱりあんまりだったかな?」
僕はシキイさんを見上げて聞いた。シキイさんは僕たちの頭をぽんぽんぽんと軽く撫でる。
「ありがとう。君たちのアイデアを生かしきれるかはわからないけど、勇気はもらったよ」
「と言うことはシキイさん」
「うん。――ボクは今日、サンさんに告白する」
シキイさんは僕たちにニコッと笑った後に、サンさんのいるお店の方を見据える。
「うまくいくかわからない。――いや、ボクなんかには本当に釣り合わないくらいの人なんだ。うまくいく方が難しいと思う
……でも行くよ、ボクはここで行かなかったらずっと前に進めない。へたれは今日で返上する」
「よぉっしっ! がんばれっ、シキイの兄ちゃんっ! 俺たちさ、ちゃああんと見てるからさっ。なっ!」
「ありがとう……。じゃあ行ってくるよっ」
そう言ってシキイさんは意気揚々とサンさんのいる店に向かった。
「……さぁっ、こっから忙しいぞっ」
「……え? 僕たち、見てるだけなんじゃない?」
「バッカ。シキイの兄ちゃんああ見えて足ガックガクに震えてたからよ、俺たちがこっそり助けてやんなきゃダメだろ?」
僕はなるほどと頷いた。シキイさんの顔しか見てなかったけど、エンくんはそれ以外も見てたんだ。
エンくん、サンカくん、シカドくんは三人とも気合いが入った顔をする。
そうだね、ここからが大事だもんね。
僕も自然と拳を握る手に力が入ったのだった。




