「少ないっ!」
「ソーラお姉さまったら本当に麗しい」
「うるわしい? えっと、ありがとう? アズサちゃんも――」
「いやんお姉さま。アズサの事は呼び捨てでお願いしますの」
「そう? じゃあ、アズサもうるわしいよ?」
「はうう、鼻血が出てしまいそうですぅ」
ずっとこんな調子でアズサちゃんが姉ちゃんの腕に絡んだまま離れない。なんだかわからないけどフワフワした気持ちになって落ち着かない。
「その美しいまでの力強さ。いつからですの? 何か秘訣がありますの?」
「えへへ、あたし美しい? 照れるなぁ。秘訣って言われても剣やってからかなぁ?」
もう、姉ちゃんったら忘れっぽいんだから。その前から怪力ですよ?
……言わないけどね。
「剣までおたしなみになられて、さすがソーラお姉さま。ステキですわっ、きっとお強いんでしょうね」
「へっへー、これからは女性も強い時代なんだから」
アズサちゃんのよいしょに気分をよくすると、鼻の穴をふくらませてガッツポーズを取って見せる。
ふふっ、強いって……腕力? 僕は一人ひそかに笑う。
って、心の中で突っ込んでばかりじゃあまりに僕の存在感がなさすぎる。
と言うわけでなんとなく蚊帳の外だったけど動くことに。
「ねぇねぇ、アズサちゃん。アズサちゃんって年はいくつ?」
アズサちゃんがあまり顔を向けずに横目でチラッとだけ見る。
「五歳。――それよりソーラお姉さま」
え? おしまい?
一瞬あぜんとするもここで下がっては何となく負けた気がする。負けじと今度は前に回り込む。
「ぼ、僕も五歳なんだよー。一緒だねっ」
「えー……」
嫌なのっ?
かわいい顔を露骨にしかめられると心が折れそうに――。だけど僕はくじけないっ!
「アズサちゃんは何月生まれ?」
「水月……」
「ちょっと前なんだね。僕、光月だから僕の方がちょっとお兄さんだね」
「なっ!」
絶句するアズサちゃん。しばらく口をパクパクさせてから俯くとワナワナと震えだす。
……何かまずい事を言ったかな?
「えっと、アズサちゃん?」
声をかけるとキッと顔をあげて僕を睨む。
「勝手に兄だなんて認めませんわっ! わたく――私の兄になる人のイメージはもう決まってますの。いつも優しく微笑みかけ、その微笑みは安心感をもたらせて下さるの。そして雄大な海のような心の広さでいつで包み込んでくださって、イケメンでお金持ちも外せませんの。今度の誕生日にお父さまとお母さまにおねだりするつもりでしたのよっ」
――どうかなぁ? お兄ちゃんは誕生日プレゼントにいけるかなぁ?
一気にまくしたてるアズサちゃんの言葉に首をひねる。
「それが――っ! あなたみたいなチンチクリン、兄としては何一つ間に合ってませんのっ! ふんっ」
「チ、チンチクリン……」
「ぶふぅっ、あはは。チンチクリンってかわいいー」
怒ったようにそっぽを向くアズサちゃん。そして吹き出して笑う姉ちゃん。
むぐぐ、さすがの僕も頭にきたぞ。アズサちゃんだって姉ちゃんと頭一つ分違う癖にっ!
「僕の事をチンチクリンって、アズサちゃんだって小さいじゃないっ」
「あらぁ? ふんっ、あなたよりはましですの」
僕の頭のてっぺんからつま先まで眺められて鼻で笑われる。怒った。もう引けない。
「じゃあ背比べだっ!」
「受けて立ちますのっ!」
「じゃああたしが審判するね。はい、背中くっつけて」
姉ちゃんに促され背中を合わせる。
――負けられない。どんな事があってもこの勝負だけは。僕というすべての存在をかけて。そして僕である事を証明するために。
固い決意が自然とかかとを少し浮き上がらせて臨戦態勢に入らせた時、脳天に拳骨が落ちた。
「こらカイトっ! かかと浮かせちゃダメでしょうがっ」
「いたいっ! 背が縮んだらどうするのっ!」
「大丈夫でしょ。縮むほどないんだから」
「ひどいっ」
「お、おほほ。まったくセコイこと。あなたは根性までチンチクリンですのね」
「もう、そう言うアズサもプルプルするほど背伸びしてズルしないの」
「むぎゅ」
姉ちゃんに二人とも頭からしっかり抑えつけられる。
「これでやっと……。ほとんど差がないなぁ。あ、カイトのが指一本分だけ高いのかな?」
「えっ? 本当っ? やったぁっ」
「そんなっ、……そうだ耳、耳まで入れたら絶対私の勝ちですのっ」
「そんなのズルいっ! 往生際が悪いよ、アズサちゃん。まっ、これでアズサちゃんのほうが小さいって証明されたんじゃない?」
「ふっ、ふんっ! 乙女は少し小さいくらいのほうがかわいくて結構ですのっ!」
「……じゃああたしかわいくないんだね?」
「「え?」」
アズサちゃんと言い争ってる間にポツリともらす姉ちゃん。二人同時に姉ちゃんに顔を向けると、僕たちから背を向けて顔を俯かせていた。
「な、なななぁんてのは昔の話ですの。これからはスラッと背の高くてステキな乙女がトレンディですのよ」
「……そうかなぁ? でもやっぱり小さい子のほうがかわいいとあたしも思うもん」
「そんなことないですのっ、そんなことないですのっ。――ムキーっ! あなたのせいでソーラお姉さまが傷ついていらっしゃるでしょ!」
「ええっ! ひどい言いがかりっ!」
「ぷっ、もうダメ。あははは」
「「え?」」
息がかかりそうなくらい詰め寄ってきたアズサちゃんと笑い声にポカンとすると、姉ちゃんのほうを振り向いた瞬間に二人一緒に抱きかかえられた。
「もう、二人ともかわいいなぁ」
見上げると二カッと笑う姉ちゃん。でもその後に少しだけ眉をひそめて諭すような大人びた顔つきになる。見た事のない顔に、僕は少し緊張して胸の音が高鳴った。
「でも、ちょっとの背の差くらいでケンカしちゃダメ。大人になっても小さいままではいられないんだし、どうせ背伸びをするのなら心の大きさでしたらいいんだから。だから皆仲良くだよ」
「……姉ちゃん」
姉ちゃんの言う通りだ。僕ったら背の大きさばっかりずっと気にして、ちょっと恥ずかしいね。
「ってあたし、村の男の子と背の大きさでケンカしたときにお母さんに言われた事があるんだ。あはは」
「なんだ、母さんが言ってたのか。なんか損しちゃった」
「なによカイト、損したって」
笑いながらおでこを軽くこつんとぶつけてくる。
「それでも感動いたしましたわソーラお姉さま。わかりましたわカイト、仲良くしましょう」
「うん」
僕は手を伸ばすとアズサちゃんは僕の小指の先だけつまむように握る。
「あなたの事はこの小指の先ほどだけ認めてあげますの」
「少ないっ!」
「あはは、カイトがんばれー」
なかなか難しいなぁと思うと一つ大きくため息がでた。姉ちゃんはそんな僕を見ると妙に楽しそうに笑っていたのだった。
まぁ、一歩前進かなぁ?




