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「――マジかっ」



「わーっ! すごいっ。雪いっぱい積んであるっ」


 姉ちゃんが馬車から跳ぶように降りる。

 僕もちょっと遅れて馬車を降りて周りを見渡す。


「ほんとだっ! すごいねっ」


 いくら防寒着を着てても、冷たい空気は馬車から出ると容赦なく僕の顔に襲いかかってくる。ちょっと痛いくらいだけど、目の前の白に埋もれた村の風景の前では逆にそれがいいと思えた。

 それにしても、僕より先に出たはずの姉ちゃんの姿が見えない。

 少し見渡すと大人ほどの高さの雪の山に人型の穴があいてる。

 ……もしかして姉ちゃんがあそこにつっこんで?

 なぁんてね、いくら姉ちゃんでもそこまでじゃないよね。どっかに隠れてるのかな? 呼んだらすぐ出てきそうだけど。


「おーい、姉ちゃーん。どこー?」

「ここー」


 返事のあった方を見るけど姉ちゃんはいなかった。ぽっかり穴のあいた雪山だけ。

 なんだかこもったような声で返事が返ってきた気がするけど……。外にいるよね?


「えー? どこー? 出てきてー?」

「ここー。出れないー。なんか崩れそうー。それに眠たくなってきたー」


 もう一度聞いてみる。声の出所は――

 うーん、認めたくないけどあの穴の中だ。姉ちゃんは早速雪の山に突っ込んだみたい。

 まったく姉ちゃんはしょうがないな。それに雪山で眠たいなんてまるで遭難した時の話みたいだね。

 こういう時寝たら死ぬぞっていうのが定番なんだよね。

 ……って、それって危なくない?


「うわぁっ! 父さんっ! 姉ちゃんがっ」

「ん? どうした? カイト」


 荷物を背負って後から出てきた父さんに姉ちゃんの穴のあいた雪山を指す。


「姉ちゃんがあそこに」

「――マジかっ」


 父さんは苦笑いすると、疾風のように雪山までいって穴に手を突っ込んで一気に姉ちゃんを引っ張り出す。雪まみれの姉ちゃんが出てきた。


「うー、雪まみれ。寒いかも」

「ドあほうっ! 当り前だっ! ったく。村ん中で遭難してどうすんだよ」


 父さんに片手で服を持って吊り下げられたままの姉ちゃん

 雪の冷たさと父さんに怒られたせいかちょっとしょんぼりな姉ちゃん。


「はっは。元気すぎたッポな嬢ちゃん。雪をなめちゃいけないポン」


 ダンディーな声に振り向くとさっきの御者さんがフードをはずして煙草をふかしていた。

 狸の耳を覗かせてきりっとした渋めの顔に皺を作って笑うと、煙草を携帯灰皿に入れて火を消す。


「これはサービスッポ」


 御者さんが父さんから降ろされた姉ちゃんの前までいく。両手の人差し指を擦るとたねを一瞬で右手に作ってそのまま指パッチンする。

 姉ちゃんについた雪が勢いよく巻き上げられて消える。目を凝らすと薄い膜が姉ちゃんの周りを包んでいた。

 西魔術? はやいっ!


「うわー、あったかい。ありがとうっ」

「すまねぇな、おやっさん」

「なに、大したことないッポ。帰りもポンポコ交通をよろしくポン。さて、そろそろうちのかわいいホバーボアに飯を食わせてやらなきゃならないッポ。ここらで失礼するポン」


 御者さんはそう後ろ手に手を振ると、もう一人の御者さんと馬車のチェックを始めだした。

 かっこいいなぁ。ああいう大人に僕もなりたいと思う。

 僕は御者さんの背中を見送ってると姉ちゃんの方から小さく悲鳴が上がる。


「もうっ、ソーラ。ダメでしょっ」

「むにゅ。だってぇ」


 振り返ると姉ちゃんが母さんに顔を両手で挟まれて叱られてる。

 僕に気がついたのか姉ちゃんがこっちをチラっチラッとみてる。たぶん助けてくれって事なんだと思う。

 ……しょうがないなぁ。


「ねえねえ。母さんの育った家ってどこにあるの?」

「あら、そうね。ほら、あそこよ」


 姉ちゃんを開放した母さんは村の中心の方を指さす。その中心には一本大きな樹がそびえたつ。遠目に見ても喜樹に負けないくらいだと思う。

 その樹は雪で真っ白に化粧されて空に溶け込んでいた。


「あの樹はね、喜樹より少し若い樹齢六千百年以上を生きる華樹かじゅよ。あそこに代々華樹を守ってきた社があって、そこでお母さんは育ったの」

「華樹かぁ……。あそこにも樹妖精がいるの?」

「そうよ、マッシュ様って言うのだけれど。千百年、キュービ村が出来た時から見守ってくださってるわ。でもほとんど華樹の中で寝てらしてるから、あまりお会いする事もないんだけどもね」

「そうなんだぁ。シイ様よりも年上なんだね」


 前にシイ様が純妖精は人とは生きる場所も時も違うって言ってたけど。こうやって樹の周りに村が出来ちゃったら一緒に暮らしてるって言えるかもしれないね。

 でも、ほとんど寝ちゃってるのかぁ……。シイ様とエリンちゃんは、わりと思いつきで父さん母さんと会いに行く時があるけどいつも出迎えてくれるから樹妖精だから寝てるってわけじゃないと思うけど。

 趣味なのかな? 同じ樹妖精でもそれぞれなんだね。


「んじゃま、チハヤの実家に行くかね。ソーラ、もうつっこむんじゃねぇぞ?」

「はーい。カイト、ダメなんだからね? いい?」

「……僕はそんな事しないよぅ」


 姉ちゃんが僕に言い聞かすように言いだす。まったく、姉ちゃんは……。まっ、姉ちゃんのを見てなかったらちょっとだけやりたかったけどね。

 そう思いながら僕たちは樹の方に向かって歩き出す。


「あっ、そうそう。その前に少しだけ寄りたいところがあるの。いいかしら?」

「かまわねぇけど、どこだ?」

「ふふ、いい所よ」


 父さんの質問にそう答えると鼻歌交じりで歩き出す母さん。

 父さんも姉ちゃんも僕も同じ角度で首をかしげて後から付いて行くのだった。


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