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「そういうもんなのかなぁ」



 土月もそろそろ終わりで村にある畑もほとんど坊主になった。風がだんだんと冷たくなってきた気がすると、もうすぐ冬なんだなって思った。


「あーっ、もう日が落ち始めてるっ! お日さま浮かべっ、気合いをいれて浮かべっ!」

「姉ちゃん。お日さまにあんまり無理を言ってはいけないよ」


 空を赤色に染め始めたお日さまに、両手をかざして念じる姉ちゃん。


「もうっ、お日さまったらマイペースなんだから。あたしもっと遊びたいのに」

「そういうもんなのかなぁ……」


 お日さまにはお日さまの事情もあるよね。それに規則正しく動いているからみんな助かっていると思うんだけどね。

 それはそうと、今日もアンシェちゃんとラークくんと一緒に遊んでるところ。姉ちゃんってばまだまだ遊び足りないみたい。


「ソーラちゃんの気持ちわかるー。日が落ちるの早くなったねー」

「でも、日が暮れ始めたら夜になるのは早い。今日はここまでだな」

「そうねー」


 アンシェちゃんも残念そうに姉ちゃんに同意するけど、ラークくんの意見に頷く。


「しょうがないか。またいつでも遊べるもんね」


 姉ちゃんがそう諦めたように言うと、気のせいかアンシェちゃんとラークくんの顔が曇った気がする。


「どうかした――」

「おっ、ソーラの嬢ちゃんにカイ坊じゃねぇか」

「おじさんだっ」


 僕が聞こうとしたところで横から声をかけられる。姉ちゃんがブンブンと声の人に手を振って答える。その声の人は僕にいろいろな事をよく教えてくれる近所のおじさん。おじさんは収穫した荷物がいっぱいの荷車を引きながら近づいてきた。


「あっ、おじさん。こんにちはっ」

「ようっ、そろそろこんばんはかもな。ってそっちの子達は村じゃ見かけない子だな?」


 あっ、そうかも。って思って頭をポリポリ掻いていると、おじさんがアンシェちゃんとラークくんに目をやった。


「アンシェちゃんとラークよっ。双子なのっ」

「へぇ、赤と青の双子ってぇと。あぁっ! この子らがアインの子供かっ。いやいや、あの厳ついのがこんな可愛らしいのをなあ」


 姉ちゃんが代わりに答えると、おじさんは逞しい腕を組んでガッハッハと笑った。

 うーん、おじさんもあんまり人の事言えないくらいなんだけどね。


「父上と知り合いなのー?」

「あったりまえよ。この村の出身はだいたいそうよ。それにおじさんはアインの剣の先輩でもある」

「そ、そうなのかっ」

「つってもあっという間に腕前は抜かされちまったわな。あっ、そうそう」


 アンシェちゃんとラークくんの質問に答えたところで、おじさんは荷車の麻袋から僕の頭より少し小さいくらいの果物を二つ取り出す。


「双子ちゃんはこれ知ってるか?」

「わー、いい匂い」

「これはメロンだな」

「フッフッフ、違うんだな。ほれ、持ってみな」


 おじさんは嬉しそうにそう言うと一個ずつ二人に渡す。


「えっ! こんなおっきくて重いの持てな――。あれ?」

「……なんで、こんなに軽いんだ? それにちょっと柔らかい」


 二人は想像してた重さと全然違ったみたいで目を丸くする。

 その様子におじさんは嬉しそうに笑いながら僕と姉ちゃんにも一個ずつ渡してくれた。


「それはな、ワタメロンって言うんだ。食べてみな。ソーラ嬢ちゃんカイ坊、食べて見せて食べ方教えてやんな」

「え? 食べていいの?」


 僕が聞き返すと、おじさんはウンウンと頷いてから手で早く食べてみろと合図だけした。


「えへへ、やったねっ! じゃああたしのを見ててね。こう蔓の方を手に持ってひっくり返しておしりの方から皮を剥くんだよ」


 姉ちゃんがぴょんと跳ねて喜ぶと尻尾を横に振りながら早速ワタメロンを剥いて見せた。


「ふんふんー。わぁっ!」

「すごい、まるで雲みたいだ」

「で、そのまま食べるの」


 二人がそれぞれ感嘆していると、そのままパクっと食べ始める姉ちゃん。二人も同じように皮を剥こうとしたけど、イマイチよくわからなかったみたいで今度は僕が教えてあげると二人ともうまく剥けた。二人は手元のふわふわのワタメロンの実を見ると目をキラキラ輝かせる。


「剥くと香りがいっそう強くなるな」

「そうだねー。はうーっ! お口の中でほどけるーっ! すごいーっ!」


 ほっぺたを落としそうになりながら夢中になって食べる二人。

 ふふ、おじさんのワタメロンはこの村の名物の一つだからね。僕は何となく誇らしげに胸を張ってみる。

 おじさんも僕たちが食べる様子に満足そうにウンウンと頷く。


「どうだい、今年のできは?」

「ほんと美味しかったっ! 今まであたしが食べたワタメロンの中でもとびっきりだったよっ」

「嬢ちゃんのお墨付きもらったら月末の市でも間違いねぇや。双子ちゃんも気に入ったらアインやヴォル翁におねだりして買ってってくれよなっ。じゃ、そろそろ行くわ。お前らも早く帰れよ」


 そう言うとおじさんは荷車を引きながら鼻唄混じりに行った。


「もう、土月もおわりなんだねー……」


 おじさんの背中を見送っているとふと呟くアンシェちゃん。その言葉はいつもの陽気な感じのアンシェちゃんとは違っていた。僕は顔をアンシェちゃんに向けた。


「この村って優しいがいっぱいだねー。優しい空気に村の人。優しいお花に優しい匂い。……もう土月も終わりなんだね。なんとなくずっと続くと思ってたのに。やだな。いやだよう」

「アンシェ、しょうがないだろう。父上は騎士団の隊長だ。父上が戻らなければ困る人もいっぱいいるんだ」

「わかってるーっ! わかってるけど……」


 アンシェちゃんはラークくんの胸に顔をうずめて泣き出した。ラークくんも少し涙ぐんで鼻を赤くしている。

 突然の事で状況がわからない僕は姉ちゃんは傾げる。


「えっと……。どうしたの?」

「あっ、すまない。カイト達には話せてなかったな。実は俺たちがこの村にいれるのは土月末までなんだ」


 アンシェちゃんの背中をぽんぽんと撫でるラークくん。ラークくんも最後のほうは少し声を詰まらせていた。


「そんなっ! せっかくあたし達仲良くなれたのにっ」


 姉ちゃんが思わず声を漏らす。

 僕もどうしたらいいのかわからないままただ立ち尽くすしかなかった。


 僕たちのお別れはもう目前に迫っていた。


ちょっと短めでした。


 --- 図鑑 ---


 《ワタメロン》

 植物。

 獣人の森ではわりとどこでも自生している植物で比較的メジャー。地を這うように生え、夏ごろに橙色の花を咲かせる。秋になると果実を実り始め終わりごろには食べごろになる。

 この果実は実り始めから収穫期前くらいまではずっしりと水分が詰まった果実である。よく熟れてくると今度は果実の中の水分が急速に失われていき皮の中身は繊維状の綿のようなものだけが残され通常のみずみずしい果肉は失われる。

 この繊維状のものは食することができ、甘みや風味がうんと凝縮されている。これを利用してデザートや料理などに用いることができる。

 しかし、通常森の中で自生しているものは青臭い風味も凝縮されているため食材としてはものすごく安価である。

 ただし、獣人の森のある農家の努力によりその青臭さは一切取り除き気高い風味の実を圧縮したワタメロンの栽培に成功しており。この安価な果物は一転してその村の高品質な特産品の一つとして数えられるほどの昇華をしているところもある。

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