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「あれっ? チハ――わだはぁっ!」

 ◇◆◇村の一番水路の近くの道◇◆◇


 大きい水路の近くの道。鈴蘭によく似た、淡い色の花のつくランタンスズが並んで咲いている。

 ランタンスズは、暗くなると花がほんのり光るんだ。水のあるところの近くによく生えてるから、暗いときにランタンスズのあるところに行っちゃダメってよく言われる。

 実はこの道はヴォルクス様のところに行く道から一本ずれるんだけど、こっちはちょっと高いところにあってヴォルクス様の家が見えるんだ。これなら迷わないしいいよね。

 一瞬、こっちきたとき「あっ――」って姉ちゃんの声がした気がしたから、僕はドキッとして振り返ったけど、誰も居なかったから多分気のせい。

 着いてこないって二回も言ってたもの。

 べ、別に見られたからってなんでもないけどねっ。ちゃんと理由があるし、これは寄り道じゃないよ。うん。

 あと、こっちだといいものが見れるかもしれないんだ。こう水路の水の上を、黒い――

 わっわっ、おっとと。水路の方を見ながら歩いてたら、端に生えてる時桂樹にぶつかりそうになっちゃった。よそ見しながら歩いたらいけないね。前を向いて足元も確認しなきゃね。

 そう思って足元を見ると、石の上をダンゴムシがてくてく歩いていた。


「おはよう、ダンゴムシくん」


 僕は近くに落ちてた木の枯れ葉でツンツンすると、クルンって丸まった。これはおはようって言ってるんだと思う。

 そういえば、ダンゴムシって賢いらしいよ。迷路とか解けるんだって。じゃあ本当に賢いか、僕も実験。

 ちょうど姉ちゃんも居ないし。


「ダンゴムシくん、問題です。姉ちゃんは、怪力だ。マルかバツか」


 ダンゴムシがまた歩き出したところで、問題を出してツンツンする。

 ダンゴムシは丸まった。これはまるって言ってる。

 ……正解だっ!


「すごいっ! ダンゴムシくん正解です。姉ちゃんは、怪力だ。答えはマルですっ――」

「なんだとぉっ――ムグッ」

「えっ! ……えっ?」


 姉ちゃんの声がした気がして僕は息を飲んで来た道を振り返る。

 ……居ない、よね?

 来た道だけじゃなくて回りもキョロキョロ見回す。

 やっぱり居ないし。


 僕は大きく息を吐いた。着いてこないって言ってたんだから、居てるわけないのにね。


 僕を視線をダンゴムシに戻すと、ダンゴムシは石の上から降りようとしていたから、僕は枯れ葉に乗せてまた戻した。

 まだ実験は終わってないよ。今のは、まぐれかもしれないからね。


「じゃあ次の問題です。姉ちゃんは大人になったらたぶん美人だ。マルかバツか」


 またつんつんってすると丸くなるダンゴムシ。

 うん、今度もマルって言ってるね。


「ダンゴムシくん、おしいです。姉ちゃんは大人になったら絶対に美人だ。が、正しい答えなのでバツになります」


 いい線いってたけどここまでみたいだね。ふふ、ちょっといじわるな問題だったかな?

 でも、アルマジロに勝つにはこれくらい答えてくれないとね。なんの勝負かは知らないけどね。

 僕は丸くなったダンゴムシを少しだけ転がした。


「ダンゴムシくん。母さんがとても美人なのでそこから考えると簡単な問題ですよ?」

「あらあらまぁま――」

「ちょっ――、お母――」

「――えっ! ええ?」


 今度は母さんの声も聞こえた。

 ……もしかしておばけが?

 日も出てるのになんて恥じらいのない。それに声がよく似てるし……。これは、よく訓練されたおばけ?


 いや、もしかしたらもしかして母さん着いてきてるんじゃ?

 あやしい……

 でも、どっちも違うかもね。

 実のところ僕が考える一番可能性が高いのは……

 ズバリ悪の秘密結社だ、と思ってる。


 これは直感……、なんだけどねっ!


 僕は来た方の道を振り返る。まばらに生えた時桂樹の他に木箱がたくさん積んである所がある。

 あの後ろなら隠れれるかな?


 僕は立ち上がると木箱の方へ向かう。

 母さんだったらひどいよね、着いてこないって自分で二回も言ってたんだよ。

 僕はほっぺたを膨らましながら歩を進める。

 ……でも、やっぱりおばけだったらどうしよう。

 そうだったら怖いな嫌だなって考えてたら、ほっぺたの空気がぷシューって抜けちゃっていく。

 じゃあ、悪の秘密結社だったら……? ゴクリ……

 色々考えていると、水路の川に繋がる方からパシッパシッて水を切る音がしてくる。


 うわっ、あぁっ、きたぁぁぁぁっ!


 水面スレスレを猛スピードでやってくる黒い弾丸。それは腹這いになってやってくるペンギン。

 確かな仕事、確かな信頼、確かにペンギンがモットーのミズキリペンギンの郵便屋さん。


 すごいんだよ、水の上をね馬よりずっとずっと速く移動するんだ。

 カッコいいよねっ!

 僕ね、四歳の頃は大きくなったらミズキリペンギンになりたいなって思ってたの。おっかしいでしょ? 五歳になった今では僕もさすがにね……。ふふ、四歳ほど子供じゃないからね。


 そんなことを思い出しているうちにミズキリペンギンが僕の横を一瞬で通りすぎて、先にある桟橋に向かっていく。

 すごいスピードなんだけど、意外と静かなんだよ。水を切ったところもあんまり波が立たないしね。

 って、こうしちゃいられない。


「郵便屋さん、待ってぇぇっ」


 せっかく見れたんだし、近くまでいかないとね。

 僕はさっきのことはすっかり忘れて、すぐに振り返って郵便屋さんを追いかけた。


 ミズキリペンギンの郵便屋さんが桟橋近くまでいくと、羽で水面を叩いて高くジャンプする。

 そして、空気でくるんって一回転してから着地体勢に入った。

 そのまますとんって桟橋に足をつけると、羽についた水を一回振り払ってから桟橋にいる村の人に凛々しい目をしてビシッと左の羽の先を目の横に当てて敬礼をする。村の人も同じように返す。

 ここでやっと僕も到着。桟橋近くまで来ててよかったぁ。

 そう思いながら僕は桟橋近くの階段に腰を下ろす。


 揚陸の瞬間も敬礼も遠めだったけど見れたもんね。遠目でもすごい迫力だったけど、一回近くで見てみたいなぁ。

 僕ね、この瞬間にすごい憧れてミズキリペンギンになりたいって思ったんだよ。


 敬礼の後にお互い歩いて近付く。と言っても、ミズキリペンギンって陸の上は歩くのが遅いんだ。短い足でヨチヨチ歩くからね。

 体の大きさは大人の人くらいあるんだけど、このギャップがまたいいんだよね。


「いつもご苦労様」


 ある程度近づいたから村の人の声が聞こえる。若い男の人かな?

 郵便屋さんはショルダーバッグの中をごそごそ探ると、翼で器用に葉書の束を持って村の人に渡す。


「うん、確かにうちの村人宛だね。じゃあうちからの手紙がこれだから頼むね」

 郵便屋さんは村の人から手紙を受けとるとバッグにしまった。

 あんなに激しく水の上を移動してるのにバッグが全然濡れてないんだよ。もちろん濡らしちゃたら中の葉書がダメになっちゃうから、濡らさないようにしてるんだけどすごいよね。


「あと、これが差し入れだね」


 村の人は桟橋の端に行って水路から籠を引き上げる。その籠の中に手を突っ込んで魚の尻尾取り出すと、郵便屋さんのクチバシの上まで持っていく。

 そのままクチバシを開けて丸呑みにする郵便屋さん。凛々しい目が少しだけ細くなる。

 美味しかったんだ、よかったねっ。

 いいな、僕も魚をあげてみたい。

 でも、ミズキリペンギンって大人の人くらいあるからね。村の人もちょっと背伸びしてたし。あの村の人はちょっと背が低いからだけどね。


 魚をあげた村の人は郵便屋さんから少し離れる。


「じゃあ、次の村に行ってらっしゃい」


 村の人が敬礼しなが言うと、郵便屋さんもクェーって鳴いて敬礼する。

 僕もっ! 僕も立ち上がって同じように敬礼する。

 そしたら郵便屋さんも気がついたみたいで、こっちを向いて僕にも返してくれた。


 やったぁっ! すごい嬉しいっ!


 僕は敬礼しながらぴょんぴょん跳ねた。

 郵便屋さんは羽を下ろすと体を水路の方に向けて、シュタッと羽を軽くあげてお別れの挨拶をする。


 行くんだね、郵便屋さん。僕も手を振って返す。


「またねーっ! お仕事頑張ってくださーいっ」


 僕は声を張り上げて応援すると、郵便屋さんは桟橋の端から力強く水面に向かって水平に飛び出すと、猛スピードで水を切っていった。

 やっぱり、かっこいいなぁ。


「オッス、カイト」


 僕は郵便屋さんが見えなくなるまで見送ってると、背中から声をかけられる。


「あれ? ドライさんだ。おはようございます。どうしたの?」

「いやいや、さっきそこで郵便物の受け渡ししてたんだけど」

「えっ、あっ、そうだったんだ。ごめんね、ちょっと夢中だったみたい」

「あはは、確かにいいよね。俺もミズキリペンギン大好きだよ」


 そっか、ドライさんだったんだね。


「ドライさんって手紙の配達屋さんしてたの?」

「いや、俺は助っ人だよ。いつも担当してる人風邪引いちゃったみたいでね」

「そうなんだ。きっとお腹だして寝てたんだね。もう寒いのに」


 「そうかも」って言って笑うドライさん。それにしてもドライさんって狩りだけじゃなくて色んな助っ人してるんだねぇ。


「それより、カイト一人なの?」

「あっ、うん。今日は一人でヴォルクス様に会いに行こうと思って」

「えっ、じいちゃんに? そうなんだ、きっと喜ぶよ。えっと……、一緒にいこうか?」


 手に持つ手紙の束を一瞬見るドライさん。


「ううん、いいよ。一人でいけるもん、こっからだと家見えてるしね。それに手紙待ってる人がいるでしょ?」

「ん、そうだね。カイトなら大丈夫だね。じいちゃん多分家の裏の道場にいると思うから。じゃあ、俺は配達行ってくるよ。またね」

「うん、またね」

「闇十、風二十、ウィンドウォーク」



 西魔術を使って僕が来た方に走っていくドライさん。僕も一瞬だけ見送ってからヴォルクス様の家に向かって歩き出す。

 それにしても、詠唱(しかけ)の雰囲気がなんか違うかったね。一言で終わったって言うか?


「あれっ? チハ――わだはぁっ!」


 後ろでドライさんの声が聞こえたかと思ったらすぐに爆発音がする。

 僕はびっくりして振り返るとドライさんが宙を舞っていた。

 すごいっ、あれも西魔術かな? 空も飛べるんだね。


 でも僕は感心した後でプッと吹き出してしまう。だってドライさんってば、まるで誰かにぶっとばされたみたいなポーズで飛んでるんだもん。

 うーん、さすがオチ担当(ドライさん)。徹底してるなぁ。手紙の束をちゃんと落としてないあたりがやっぱり職人だよね。


 西魔術楽しみだなぁ。


 ヴォルクス様の家に向かう僕の足取りはとっても軽かった。


 《ミズキリペンギン》

 鳥系。肉食。

 身長170cm程度のペンギン。大きな湖や、海岸の近くに群れをなして生息している。不思議な力で水の上を滑るかのように腹ばいになって水を切って移動する。

 ミズキリペンギンの翼はとても強くかつ器用であり、水を切って高速で移動しているところを水面に叩きつける事で急激な方向転換や、跳ねる事が出来る。普通に泳ぐ事もできる。

 野生のものについては、特に人に対して慣れやすいという事はないが、一部の村では何世代にもわたって卵から世話をする事でミズキリペンギンと川を使った郵便網を確立している。

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