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「ぶにゅ」

ゆる~い話。の設定を引き継いで仕切り直しです。

前作を読んだ方もそうでない方もよろしくお願いします。

 ◇◆◇


 今は一年のうちもっとも太陽の光が強く長い光月こうがつの始めごろ。

 チュンチュンチュン。

 チチチチチ。

 小鳥たちが朝を告げると人の暮らしも動き出す。

 

 ◇◆◇ある村のある家のある部屋◇◆◇


 小鳥の声と朝日の光が窓から朝を知らせてくれる。窓から伸びる光の帯は僕の顔を容赦なく照らし、僕は瞼を閉じながら顔をしかめた。

 今は夏。昼にはもう真上から太陽が睨み付ける季節だけど、朝日と共に吹く風はいくらかは涼しげで悪くない。

 ……まだもう少し寝ていたい。

 そう思いながら、僕は寝ながらうつ伏せにって身体を少し縮める。

 日の光から顔をそらすため? 実はそうではない。

 こんな爽やかな朝とは似つかわしくない脅威がそこまで駆け足でやって来ているため、僕は体を身構えたのだ。


「カイトっ、おっはよぉっアタァック」

「アブナイッ!」


 僕が寝ているところに突然襲いかかってきた来訪者。その体全体で繰り出してきたボディアタックを、縮めた身体をバネにして、反動で飛び退いて立ち上がる。


「ふっ、ねーちゃんの攻撃は見切った」


 僕は僕の代わりにうつ伏せに寝転がる来訪者ねーちゃんを見下ろした。

 ねーちゃんは晴れの日はテンションが上がるのかいつも全力で僕を起こしに来る。さすがに毎度毎度の事になると、僕だって慣れたものだ。


「なんのっ、二式っ!」

「二式っ? うわっ――」


 と思って油断していたところに、ねーちゃんに足をカニバサミにされる。なすすべもなく布団のうえに倒れる僕。この時期は薄い布団だから、床の上に打ちつけられると少し痛い。

 ねーちゃんはすぐさま僕に馬乗りになってニコッとする。


「カイト、おはようっ。起きなきゃだめだよ?」

「ねーちゃん。攻撃避けた時点で僕起きてると思わない?」


 僕がぶーっと頬を膨らませて文句を言うと、ねーちゃんの両手で挟まれる。それから、ジーッと緑色の瞳で僕の目を覗き込んできた。


「ぶにゅ」

「カイト、あたしは起こしに来てあげたんだよ? それに、朝の挨拶はおはようなんだから」

「おはようございましゅ、おねえしゃま。いつもありがとうございましゅ」


 こうなると仕方ない。僕は顔を挟まれたまま丁寧に挨拶をするしかなかった。

 僕の朝を三文字で表すなら。理不尽。これ。


「はいっ、どういたしましてっ」


 理不尽な姉はやっと僕を解放するとニカッとお日さま笑顔を見せて笑う。ねーちゃんにこの顔をされると僕は何故か何も言えない。不思議。


「今日カイト五才の誕生日だね。おめでとうっ」


 そういうとねーちゃんは僕の頭をぽんぽん撫でる。


「ありがとうっ、ねーちゃん」


 そうそう、今日は僕の誕生日なんだ。一つ大人になったんだ。

 僕も嬉しくなって頬の緩くなった顔で返した。


「さっ、お父さんもお母さんも待ってるよ」


 そう言いながらねーちゃんは僕の手を引いてから前を歩く。

 青くて長い髪が左右に揺れている。


「今夜はどんなご馳走なんだろうねぇっ」


 ねーちゃんはかなりご機嫌なようで、ふわふわの青くて先っぽだけ白い尻尾をフリフリ左右に揺らした。


「今日って村にパルさん居てる日だし、パルさんのケーキあるかも?」

「あっ、そうだねっ! いいなぁ、カイトっいいなぁ。いーいーなぁー」


 ねーちゃんは振り返ると物欲しそうに僕を見る。

 おかしなねーちゃんだ。まだケーキがあるって決まった訳じゃないのに。


「いやー、楽しみだなぁー。僕一口で食べちゃうかも」

「そうだよねー……、一口だよねー……」


 ちょっとだけからかうように言ってみると、露骨にねーちゃんが肩を落とす。ねーちゃんが前に振り向き直すととぼとぼ歩きだした。頭の上のふさふさの青くて先っぽの白い耳も尻尾もしゅんと倒れる。

 なんだかかわいそうになってきちゃった。

 ほんと、ねーちゃんは食いしん坊なんだから。


「ねーちゃん、半分こしようよ」

「えっ! いいのっ!」


 ねーちゃんが目を輝かせて振り向く。


「うん、いいよっ」

「ありがとうっ、カイト優しいねっ」


 雲に隠れた太陽がその隙間からのぞきだしたかのような笑顔を僕に見せながら、ねーちゃんが抱きついてくる。

 僕はちょっとだけ照れくさくて、目線を少し左に泳がせた。


「ぼ、僕はねーちゃんみたいに何でも一口では食べられないしね」

「こらーっ! まるで、あたしが食いしん坊みたいにゆうなーっ!」

「ぐえぇっ」


 ねーちゃんに抱きつかれたまま締め上げられる。


「ふんっ、まったくカイトはっ」


 そう言いながら一度鼻を鳴らすと僕を解放する。


「あたし食いしん坊じゃないし、今日は半分こしたときに大きい方をカイトにあげるからねっ」


 あたしお姉さんだから譲ってあげるよといいたげな体で腰に手を当てながら言う。

 いつの間にかねーちゃんは、さも自分のものかのように振る舞う。

 いやいや、ちょっと待ってほしい。


「もともと僕の誕生日のだと思うんだけど……」


 僕はぼそっと呟いてみるも、姉ちゃんには馬の耳に東の風が吹いたかのよう。

 まったくもって恐ろしい……。

 そう再認識しながら居間に入る。


「おっ、カイト起きたかっ。おはようっ」

「おはよう、カイト」

「おはよう。とーさん、かーさん」


 僕が挨拶をすると、とーさんが飲み物の入ったカップをテーブルにおいて腰を上げた。


「さて……。カイトーっ!」

「なっ、なに?」


 とーさんが突然声を張り上げる。僕はびっくりして何事かと一瞬身をすくめると、とーさんが僕を抱きあげて頬擦りしてきた。


「おめでとうっ! 今日は誕生日だなっ! 昨日より大きくなったんじゃないのかっ?」

「とーさんありがとう。でも昨日とはそんなに変わらないと思うよ。あと髭が痛い」


 僕がそう言うながらペチペチと軽く叩いて下ろしてくれと訴える。

 このままじゃ、そり残しの髭というなのおろし金におろされる。


「うーん、ちゃんと剃ったんだけどなぁ」


 そう言いながらとーさんは頬を撫でながら一瞬口を尖らしたけど、ニカッと笑いながら僕の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「よっし。まぁ、カイトの顔見たし行ってくるわ」

「あら? リック、もう行くの」


 父さんは飲みかけのカップを一気に飲み下す。


「ああ、今日のカイトのためのパーティーターキーを見つけたら教えてくれって若い奴らに頼んでてな。もう連絡はあったんだ」


 父さんは左耳につけている文様の入ったイヤーカフスを触った。

 それがあると離れていても何人かと連絡がとれるらしい。


「カイトっ、楽しみにしてろよ。カイトの誕生日にどかんとデカイやつとってきてやるからな」


 とーさんは腕を大きく広げてどーんとでかさを表現する。

 パーティターキーかぁ、楽しみだなぁ。前衛ターキーの弾力のあるお肉もいいけど、後衛ターキーのやわらかいお肉のから揚げが僕は大好物だ。

 僕は想像するだけで口の中を溢れだす唾を飲み込むと、出かけようとする父さんの背中に声をかける。


「とーさん、がんばってね」

「おうよっ! じゃ、チハヤ、行ってくるよ」

「行ってらっしゃいまし、あなた」


 とーさんはかーさんと軽くチューをしてから、青い尻尾をたなびかせて出ていった。


「今日もお父さんとお母さんらぶらぶだねー」


 ねーちゃんが僕に耳打ちする。

 僕たちにとってはいつもの光景だけど。

 ふと、近所のおじさんが言ってた事を思い出す。


 

『はぁー、カイト坊主の父ちゃんと母ちゃんまだそんな仲良しなのかい。ソーラ嬢ちゃんは確か七つだっけか?

 じゃあもう結婚してから8年目だろ? それなのにまだ新婚さんみたいな事してんだなぁ。

 まぁでも、チハヤちゃんまだ若いし別嬪さんだもんな。いやー、あれくらいの別嬪さんなら俺も毎日チュッチュチュッチュしてるだろうな。もう、うちのかあちゃんときたら――』

『あたしがどうしたってんだい?』

『かっ! かあちゃん!』

『悪かったねぇ、チハヤちゃんみたいに別嬪さんじゃなくて』

『ち、違う、そんなこと言ってないんだ。俺はかあちゃんみたいな奥さんを貰ってこのウルブ村、いや獣人の森一の幸せもんだなとしみじみとだなカイト坊主に語ってたんだよ。ハハハっ』

『はんっ、調子のいいことを。じゃあ、そんなありがたい奥さんになんかプレゼントでもしてくれるかい?』

『え、いやっ、そりゃー、してやりたいのはやまやまだが先立つあれがだなぁ……』

『……あんた、戸棚の裏にあたしに黙って結構隠してたんだねぇ』

『なぜそれをっ』

『さあてね。フフフ、何がいいかなぁ、最近流行りのあれなんかいいねぇ』

『……グフッ、お手柔らかにおねがいします』



 えっと、あれは結局何の話なんだっけ?

 みんな仲良しってことかな?

 ま、いっか。


「それにしてもとーさん今日はずいぶん出るの早いね」


 いつもはとーさんは、どんなに急いでいてもみんなで朝ご飯を食べるくらいはするのに。


「そうだね、朝ごはんくらい食べて行ったらいいのにね。獲物だってそれくらいは待っててくれると思よね」

「……いや、ねーちゃん。待ちはしないと思うけどね」


 真顔で言うねーちゃんに僕はすぐに否定する。ねーちゃんは、えーって顔をするが僕は気にしない。


「ふふふ。さあ、カイト顔を洗ってらっしゃい。今日は朝からカイトの好きなものを用意してあるわよ」

「う、うん。やったぁ」


 母さんはそう言うと、ねーちゃんと同じ形のふわふわの白い尻尾をフリフリゆっくり振ってご機嫌に台所へ向かった。

 僕はかーさん言われて顔を洗いに行く。

 僕の好きなものって何だろう。 

 唐揚げかな? グラタンかな? それともハンバーグ?

 どれでも嬉しいな。早く顔を洗いにいかなきゃ。

 行かなきゃなんだけど……

 でも、僕は顔を洗うのがちょっとだけ憂鬱だった。


 ――話は変わるけど、僕はとーさんもかーさんもねーちゃんも好きだ。


 とーさんは青髪青目で頭の上には狼の耳があって、フカフカの狼の尻尾がある。

 家ではちょっぴりスキンシップが暑苦しかったり、かーさんとイチャイチャしてたりでなんだかなって思うときもあるけど。

 優しいし、村の人の誰よりも足が速いし、カッコイイ。と僕は思う。


 かーさんは白髪で目はいつも閉じてるけど、まれに開いたときはねーちゃんと同じ緑色。頭の上に狐の耳ととーさんよりもふわふわの稲穂みたいな狐の尻尾がある。

 かーさんはおしとやかな人で、村の人からも美人のお母さんだねってよく言われて僕も鼻が高い。

 でも、怒ったらとても怖いんだ。普段はすっごく優しいけどね。


 それと、ねーちゃん。青髪に緑の目。耳はとーさん譲りで、尻尾はかーさんと同じふわふわの尻尾。顔はかーさんに似てるけど表情はなんかとーさんに似てる。

 ねーちゃんはとーさんに似てるねっていわれると怒るけど、僕はいいと思うけどな。

 いつも元気いっぱいで、僕を振り回す。泣きたい時もよくあるけど、泣いてる暇がないくらい。ねーちゃんの表情は山の天気よりもよく変わるけど、基本いつもニコニコ良い天気。ねーちゃんといると元気が出てくる。


 僕はこんなみんなが好き。

 ……だから、いつもこの瞬間はそれが壊れそうで怖くなる。


 顔を洗うための水桶に映る僕の顔。

 黒髪黒目。耳は顔の横に付いてて毛がない。そして僕には尻尾もない。


 ……僕は拾われっ子だったんだ。



 --- 図鑑 ---


 《パーティーターキー》

 魔物。鳥型。雑食。

 大型の七面鳥によくにた鳥。森に生息している。特徴的なのは、常に3~6匹で行動していてそれぞれ役割が前衛、後衛、哨戒に分かれている。

 前衛ターキーは羽毛が固くほとんど鱗のようであり、敵と遭遇した時は手羽を広げて他の仲間の盾役になったり、そのまま体当たりしてきたりする。他に比べて体が一番大きい。瞬発力があるため、意外と素早い。

 後衛ターキーは不思議な力で、声をかまいたちの矢に変えて飛ばしてくる。大きく羽を広げた前衛ターキーの後ろから巧みに攻撃してくる。意外と攻撃力も高いため非常に厄介。足が速いわけでもないので前衛ターキーを抜ける事さえできれば比較的しとめるのは簡単。

 哨戒ターキーは行動範囲が広く、他のターキーに危険を知らせたりする。また、逆に奇襲をしかけるための音頭をとったりもする。足を引っかけたりするためのちょっとした罠をくちばしで器用に仕掛ける事もある。足が非常に速く、他のにくらべて飛ぶことも多い。体は比較的小柄。戦闘では、前衛ターキーが盾となってるところを、横や上から足の爪で攻撃してくる。

 このように、非常に連携がとれているため、駆け出しの冒険者パーティーやソロでの冒険者では苦労する事になる。

 それぞれ肉の付き方などが異なるため、同じパーティーターキーとは思えないほど味や歯ごたえが変わってくるため、全てしとめる事が出来ればそれだけでいろんな味が楽しめる。

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