舞台の袖に
「なあ」
「何」
振り返りはしない。
それでも返事をくれるだけましになったと俺は思った。少し前までは、視界にさえ入れてもらえなかったのだ。
「お前らさ、お互いのどこが好きなわけ?」
「「全部」」
双子は俺には絶対向けないような笑顔をして、即答した。
「ふーん。じゃあ、顔も?」
ほんとこんなくだらない質問にも答えてくれるようになるなんて、一ヶ月前の俺は思いもしなかっただろう。
「そうだよ」
「当たり前じゃん」
そう言った時、俺達は食堂についた。
話を中断して俺は席を探す。
しょせん双子にとって俺は道具でしかない。それでもあいつらの近くにいれるなら。壊れる前に手を差し延べられるなら。
俺は一番の道具になることを選んだ。
だからこそ、今昼食を一緒に食べられるのだし、くだらない質問にも答えてくれる。
はたからみたら、友達に見えるかもしれない。俺はそれで十分なのだ。
席を見つけて昼食を買うと、俺はさっきの質問の続きをした。
「じゃあ、お前らは自分の顔を好きなわけ?」
「まあ、祐樹が好きな顔なら好きだよ」
「でもそういう意味の質問じゃないでしょ?」
くすくすとお互いを見て笑う双子に、俺は背筋に汗が伝うのを感じた。
この笑いだけはどうしても怖い。
「ああ……」
この双子はまったく顔が同じだ。見分けるための黒子がなければ、髪型もまったく同じ。俺からしてみれば、祐樹の顔が好きなら優季の顔も好きだろうし、その逆もまたしかり。
「お前らにはきちんと違く見えるわけ?」
「ううん」
「同じだよね」
今度は本当に嬉しそうに笑う双子。
「でもー」
「祐樹は怒ってるときが」
「優季は泣いてるときが」
「「一番綺麗だよね」」
無邪気に笑う双子に俺は何も言えなくなった。
……もう取り返しがつかないのかもしれない。
「あ、チャイムだ」
そう言ったのはおそらく優季。
「いいじゃん、別に遅れても」
むくれるのは祐樹。
「ダメ。僕は空気として過ごしたいの」
「僕といたくないの?」
「いたいけど、クラスで目立つ方が嫌。僕は祐樹以外と関わりたくない」
一瞬だけ俺を見た。
無感情な瞳が何を思っているかはわからなかった。
「そっか……」
あからさまに安堵の色を浮かべた祐樹に、優季はため息をついた。
「むしろ僕は皆と仲良くしてる祐樹に文句を言いたいよ」
祐樹は平気なんだね。
そう言って優季は先に行こうとした。
「待ってよ!」
優季は足を止めない。けれど、何となくわかってしまった。
絶対笑ってやがる……。
双子がお互いを一番に思っているのは、揺るぎない事実。それをわかっていての発言。
言ってしまえば、茶番だ。それでも繰り返す双子は、やはりどこか不安を感じているのだろう。その不安が崩壊に繋がる。
「あんな奴ら、どうでもいいよ」
「道具、でしょ?」
「そう。使い捨ての道具。もしかしたら優季の盾になってくれるかもよ」
全部優季のためだから。
どうでもいいけど、優季の役に立つかもしれないから。
そう言って優季の手を握る祐樹。
双子は肩を並べて歩きだした。
「ねえ、優季に何かあったら好きに使っていいよ」
「わかった、覚えとくよ」
俺は教室につく前に、こっそりと双子から離れた。深入りしすぎると俺も使い捨てられるだろう。
あいにく、使い捨てられる気はまだない。
これから先も俺は双子に捕われ続けるだろうから。
甘くてどこか痺れる、それでいて力を入れてしまえばすぐに割れてしまう飴玉を、
もう少しだけ味わっていたいのだ。