005 ダンジョンへ・2
東塔のダンジョンは、最近発見されたばかりの生まれたてのダンジョンだ。
鉄級まで入っても大丈夫と判定された上層、銀級以上でなければ通れないと判定された中層、下層以降は金級冒険者より上のみとされているが、未だに踏破出来ていないので危険度は未知数。とりあえず上層までは比較的安全性が高いので入ってヨシ、という判定がされたダンジョンである。
東塔のダンジョン以外にも、この世界には沢山のダンジョンが存在するが、2人以上でなければ入れないと制限があるダンジョンはここ以外に存在しない。どのダンジョンも基本的に階級さえクリア出来ていればソロでも通ることが出来る。ではなぜ、このダンジョンは2人以上と規制がされているのか。
「……確かに、冒険者ギルドの入場許可証だ。冒険者証に入場許可の情報も刻んでおいたぞ」
「通ってヨシ!」
「アイヴィの冒険者証、まだ返して貰ってないよ」
「チッ……。穢らわしいサキュバスの冒険者証など……」
「彼女は冒険者ギルドで従魔登録されているギルドメンバーだ。冒険者ギルドの判断に何か不満がお有りですか? ん? 神官殿?」
「…………通れ」
さて、アイヴィの冒険者証をなかなか返して貰えなかった件についてだが、これには理由がある。
まず第一に、アイヴィは魔族である。教会は魔族を穢れた存在として忌み嫌っており、サキュバスは討伐対象として敵視されているから。目の前に討伐対象が居て殺気立たない神官は居ないだろう。居ないはずなのだ。
第二の理由として、アイヴィは可愛らしい。ハヅキ族でなければ並大抵の男は無条件に鼻の下が伸び、耐性がなければ前屈みになってしまう男も居る。
第三の理由として、可愛い子には意地悪がしたくなるというのが男である。素直になれない馬鹿な生き物、それが……男なのだ。
ところでここに居る神官達だが、冒険者ギルドの派遣職員のように女性経験があるものはおらず、女性に対する耐性もない。これも余談になるが、神官全員は口でこそ悪態をついているが、前屈みであった。
「それじゃ、気を付けてな! 2人以上の理由は、まあ入ればわかる!」
「ゴリオさん、本当にありがとうございます。じゃ、いこう」
「うん! ばいば~い♡」
「うっ……くっ……」
「私は気分が悪いので、失礼させて貰うよ……」
「全ての冒険者に、女神様のご加護があらんことを」
そそくさと持ち場を離れる神官まで現れたが、この時アシェル達は『本当に教会の神官ってサキュバスが嫌いなんだな』程度にしか思っていなかった。どうして前屈みなのか、なぜ持ち場を離れたのか。その理由に気が付かなかったのは幸せなことだ。ギルド職員的には『この神官達ではサキュバスを倒せなさそうだな……』という心配が勝っていたが。
「さて……。遂にダンジョンだ……」
「アシェル、見て見て! 台座の上に石板があるよ!」
この都市の安全を守る監視塔である東塔、その1階は普通の監視塔の内部とほとんど同じだった。唯一の違いは、中央に子供ほどの大きさの石造りの台座があり、その上に謎の石板が置かれているという点だけだった。
「これが、ダンジョンの入り口……? 思ってたのと違うなぁ」
「多分、この石板の上に手を置くと、転移の魔法が発動するタイプのダンジョンだよ~! 僕ね、このタイプに何回か入ったことある~!」
「へえ~。でも、これが2人以上でしか入れない理由にはならないと思うんだけど……」
「この石板、手の形が2つあるよ! でもどっちも同じ形だから、右手が2つ必要だね~!」
「ああ~……。そういうことか~」
石板には、いかにもここに右手を置いてくださいと言わんばかりの手形が刻まれていた。その2つの手形は両方とも右手を要求しており、左手で触れても反応せず、右手で触れると青白い光を発して反応が返ってきた。これが、このダンジョンには2人以上でなければ入場出来ないと規制されている理由である。
「誰かの右手を切り取ってくれば入れるんじゃない?」
「そんな怖いこと言わないでよう~!!」
「ごめんごめん。でもこれ、帰ってくる時も同じなのかな? 中で右手を失ったら、出られないね」
「あ! そうかも……。気をつけないと~」
そもそも右手を失うような大怪我をしてしまっては、通常のダンジョンですら生きて帰るのは難しいことだ。出血多量によって意識が朦朧とし、精神的ショックによって恐怖や混乱状態になって正気を失う可能性が高い。そうなっては無事では済まないだろう。
「それじゃ、入るよ……」
「うん! わ、光った――――」
2人が台座に右手を置き、一瞬光に包まれたかと思うと転移魔法が発動し、次に目を開くと……そこは明るい結晶洞窟の中であった。地面は普通の岩肌の道だったが、壁面が見たこともない結晶に覆われ、淡い光を放っている。
「わあ~凄い! 明るい~!!」
「洞窟系のダンジョンだったんだ……。松明のことは、考えてなかったわ……」
「要らなかったね!」
ダンジョンにはいくつかのパターンが存在し、建物の内部に出来た場合はその建物に似たダンジョンとなる場合があり、森の中であれば森の中、洞窟なら洞窟のように、ダンジョンが出来た環境に内部が引っ張られる傾向がある。これは絶対的なパターンではなく、今回のように塔の中だったが洞窟のような場合も存在する。洞窟系のダンジョンは基本的に暗いので、松明や魔法の灯りなどが必需品となる。しかし今回に限っては、壁面や天井の結晶が明るいのでそれは不要だった。
「帰り道は……」
「右手が2つ!」
「やっぱり、右手を失ったら終わりみたいね」
帰り道も入り口同様、右手を2つ要求する台座が置かれていた。どうやらこのダンジョンは『この中で右手を失うような者は死んでしまえ』という方針らしい。右手は大事にしなければならない。
「他の冒険者は……? 誰も入った形跡がないみたいだけど」
「転移型のダンジョンは、転移先がバラバラなのが多いよ! お姉様達と転移型に入った時も、先に入ったオーガさん達と別の場所だったもの~」
「へえ~……」
このダンジョンの性質上、他の冒険者パーティの救助も期待出来そうにない。これは本格的に、中で右手を失ったらどうにもならないようだ。
「通路は広くて動きやすい方ね。前から炎の壁でも迫ってこない限り、不可避の即死ってことはなさそうだわ」
「ダンジョンは基本的に、通路にはトラップがないみたい。でも一応、僕は飛んでおくね?」
「え? 飛んで?」
「うん! サキュバスはね、浮遊して移動出来るんだ……あだ、あだだだだ!!」
「能力は包み隠さず言う約束でしょ」
「サキュバスは皆飛べるよぉ~!! 隠してないよぉ~!!」
サキュバスは空中を浮遊移動することが出来る。これは全てのサキュバスがそうであり、アイヴィとしては『常識的な機能だから能力を隠しているわけではない』と判断していた。これはこの世界で一般的に知られている常識的な知識の範疇なので、今回は知らなかったアシェルが悪いのであるが……。
「はぁ……。まあ、いいわ。足元に気をつけるのが私だけになったってだけだし……。あ、魔力の消費は大丈夫なの?」
「うぅ~……。魔力はほとんど使わないよ~……」
「そうなのね。じゃあ、飛んでて」
「はぁ~い」
兎にも角にも、これで足元に注意しなければならないのはアシェルだけとなった。ダンジョンにはトラップが仕掛けられていることがあり、床に設置されている感圧板を踏んでしまうと、様々なトラップが起動してしまう場合がある。水をかけられたり、石ころが飛んでくるだけの可愛らしいトラップもあれば、毒矢や爆弾など致命傷に繋がるトラップがある場合もある。まず踏まないということが大事なのだが、これが魔物との戦闘中に起きる場合もあって、起動を避け続けるというが非常に難しい。
「前に何か居る……。気をつけて」
「う、うんっ!」
通路を歩いていると、曲がり角の先から早速来客である。通路が明るいため、まだ10メートル以上離れている状態でも相手が視認できる。
「ミサイルラビットだ!」
「ミ、ミサイルってなに!?」
「飛んでくるってことよ!」
『プゥゥウ!!』
ミサイルラビットは、強力な脚力で跳躍し、そのままの勢いで突進してくる魔獣だ。これは獣が魔物化したものであり、まだ獣の要素が強いために魔獣と分類されている。突進の威力は人間の子供が全速力で衝突してきた程度であり、この程度であれば……。
「はぁああ!!」
『プ…………』
突っ込んできたミサイルラビットを、アシェルなら簡単に串刺しにすることが出来る。ミサイルラビットは一撃で絶命し、最初の戦闘は見事にアシェルの勝利という形となった。
「凄いよ~!! アシェルって、凄く強いんだ~!」
「ミサイルラビットぐらいなら、都市の外側にも結構居るから。これぐらいなら慣れてるよ」
『プ……プ……グゥ……』
「あ、またきた!」
早くも第二の来客である。アシェルは『鳴き声からしてミサイルラビットだろう』と構えていたが、最後の『グゥ……』の鳴き声で血相が変わる。ミサイルラビットは、『グゥ……』などとは……鳴かないのだ。
「ドリルラビット……!!」
「え? さっきのと違うの~?」
ドリルラビット。これは魔獣ではなく、魔物である。ミサイルラビットが完全に魔物化した姿であり、跳躍して突進してくるのは同じだが、額に鋭い一角が生えており、体ごと錐揉み回転しながら突っ込んでくる。スピードも耐久性も段違いであり、アシェルであっても一撃で串刺しという決着にはならない。不幸にもここは一本道の通路であり、横への回避にあまり余裕がない。ドリルラビットが戦いやすい場所であった。
「こいつは魔物! さっきより、速い!!」
『グゥゥウウウウ!!』
「きた!! 戦うよ!!」
ドリルラビットが突っ込んでくる。スピードはプロ野球選手の全力のストレート程、時速150キロ前後で錐揉み回転をしながら突っ込んでくる。これが直撃したらひとたまりもない……普段のアシェルなら避ける選択をするところだが、今回は後ろにアイヴィが居る。避けてしまったらアイヴィに直撃するかもしれないと考え、立ち向かうという選択を取った。
「戦うんだね~!! ファイアボール!!」
『グゥウウ!?』
アシェルはすっかり忘れていたが、アイヴィは下級魔法の火球が使える。鋳鉄が半融解する程の高熱が目の前に発生し、バレーボール大の球体となって発射された。もはや方向を変えることなど不可能なドリルラビットはその球体へ見事に飛び込み、次に球体から姿を現した時には全身が黒く焼け焦げていた。
「はっ!!」
「倒した? 倒した!?」
「……うん、死んでる。凄いね……? これがファイアボールなんだ」
「うん! お姉様から教わった、護身用魔法? だよ~!」
護身用魔法で相手を焼死体に変える威力であれば、本気の戦闘用魔法はどんな威力なんだというツッコミを胸に秘め、アシェルはドリルラビットの死体を素早く斬り裂く。解体して肉を~……というわけではなく、魔物は必ず体内に魔石を持っているのだ。魔石は様々な魔導具の燃料として重宝され、ドリルラビットの魔石であれば、都市の灯りを支える魔導具1つの燃料として半年は使える。
つまり、魔石はお金になるから持ち帰ろう、ということだ。
「ねえねえアシェル~」
「ん、どうしたの?」
「今みたいに、敵が出てきてから毎回戦う許可を貰うまで、僕は待機したほうが良い~?」
「え……? あ、ああ!! そっか!!」
そしてアシェルは忘れていたが、アイヴィはアシェルの許可を貰わないと能力を使ってはいけないということになっている。今は『戦うよ』という声に反応してファイアボールが使えたが、ミサイルラビットの時は許可がなかったので何も出来なかったのだ。
「ダンジョン内では、自分の判断で戦闘に参加して良いよ。誰かに指示を出すなんて余裕がないし……」
「うん、わかった! これからは僕の判断で戦って、アシェルの役に立てるよう頑張るね!」
「あ……! 逃げる時は逃げるって言うから、絶対に従って」
「逃げる時は逃げるんだね!」
これでアイヴィは自分の判断で戦えるようになった。ここで重要なのが『好きに能力を使って良い』とは言っていない点である。戦闘に参加して良いだけなので、戦闘中でなければ能力が使えないのだが……残念ながら、アシェルは今回もそれに気がついていない。当然アイヴィも気がついていないので、非戦闘時には能力が使えない状態である。
「あ、部屋があるよ!」
「中は、暗いね……」
曲がり角を右に過ぎると、更に奥へ続く道の他に、左手方向に小部屋があるのを発見した。だが、その小部屋は通路とは打って変わって暗く、中に光る結晶が存在していなかった。
「中央に何かあるみたいだけど」
「魔物かな~……?」
「魔物ではなさそう。気配がしない」
「僕のファイアボールで、明るくなれ~! あれ? あれ~……?」
「ファイアボール、もう使えないの?」
「10回ぐらいなら使えるよう~!! あれ、どうしてだろう~……」
幸いにも、ここで非戦闘時の能力制限について気がつくチャンスがやってきた。今回はアイヴィが自分の判断でファイアボールを使おうとしたが、非戦闘時なので使えなかったのである。
アシェルはこの現象について暫く考え、先程自分が口に出した内容を振り返ってみる。そこで『自分の判断で戦闘に』という部分を思い出し、ハッと顔を上げた。
「アイヴィ、戦闘以外でも能力を使って良いよ、このダンジョン内限定で」
「うん? でもそれはさっき……」
「さっきの命令だと、戦闘時しか能力が使えなかったんだよ。従魔契約って、本当に強力だね……」
「え~! そんなに細かいんだ~! じゃあ今度こそ、ファイアボール!!」
アイヴィにダンジョン内での全能力解放を言い渡すと、今度はファイアボールの発動に成功した。小部屋の中が一瞬で明るくなり、どうやら壁に掛かっていたらしい松明にも火が灯った。ファイアボールが消滅した後も小部屋内は松明の火が揺らめき、部屋中央にあったものの正体を照らし出していた。
「「宝箱だ!!」」
ダンジョンには【宝箱】というものが存在している。浅い階層の宝箱には大したものが入っていないことが多いが、それでも極稀に見たこともない程の貴重品が飛び出してくることがある。まさに一攫千金、宝が詰まった箱なのだ。
その中身は宝箱の外見に左右されることが多く、大抵の場合は鉄製の縁に木の材質の宝箱。良いものは鉄製の部分が銀製に変わったり、金で出来ている場合もある。もしくは、宝箱の全てが金で出来ているなどということも……。だが今回はどうやら、鉄製に木の材質の普通の宝箱のようだ。
「早く開けようよ~!」
「待って、トラップがあるかも」
だが、残念なことにこれらの宝箱にはトラップが仕掛けられてる場合がある。これも水をかけられるような可愛いものから、爆弾や折りたたみの槍が飛び出してくるもの、果てはダンジョンのランダムな場所に飛ばしてくるテレポーターが発動する場合もある。慎重に開かなければならない。
「あ、石板がついてるよ~?」
「ええ? 石板……あ、本当だ」
そしてこのダンジョンには、更に厄介なものがついていた。箱の左右に2つの石板が取り付けられており、それぞれに1つの手形と文字が刻まれていたのである。
「なんて書いてあるんだろう~……」
「古代エルーシャ文字ね。勇気ある者は右手を、臆病なる者は左手を……。それぞれに相応しい道が拓かれるだろう」
「どっちかの石板に手を乗せれば、宝箱が開くってこと?」
「そう、みたいね……」
宝箱を開くには、石板に右手か左手をかざす必要があるらしい。ここでもう一度、このダンジョンの特殊な点を振り返ってみよう。
まず、入退場には2人の右手が必要になる。左手では反応しないので、必ず右手でなければならない。2人の場合、どちらかが右手を失った時点でこのダンジョンから出ることは出来なくなり、入場場所はランダムなので救助が来る可能性も限りなくゼロに等しい。宝箱にはトラップが仕掛けられている可能性がある。それなのにこの宝箱は、右手か左手をかざさなければ開かないらしい。
――――もしも、宝箱に右手をかざして、トラップが作動してしまったら。
「…………僕は、左手で開けたほうが、良いと思うなぁ~」
「アイヴィ」
「う、うん……」
「こんな低階層で臆病にも左手をかざすぐらいなら、ダンジョンになんてこないほうがいいの」
「アシェル、もしかして……」
「私は…………やるよ」
アシェルは、宝箱に右手を差し出した。ガチャリ、と宝箱の錠が開いた音がし……。
――――カチャ……。
「今の音!!」
「うっ……!?」
――――宝箱は、何事もなく独りでに開いた。
「は、はうぅぅう……」
「トラップは、なかったみたい。嫌な音だったけど……」
「ねえほら、僕の心臓ばくばくしてるよ!? ほらぁ!!」
アイヴィがアシェルに強く抗議し、アシェルの左手を引っ張って自分の胸に押し当てる。どうやら心音を確かめさせたいようだが、アシェルは少し顔を赤らめて困惑の表情になってしまった。
「や、柔らかい……」
「そうでしょ!? え? あ、そっちじゃないよう!! もっと奥~!!」
「ちょっと!! こんなことしてないで、中身!!」
「あ、うん……」
いくら同性とはいえ、相手の胸を触るのはアシェルとて抵抗がある。アイヴィもアイヴィで、後から自分のやったことに赤面しているので、アシェルは余計に恥ずかしくなってしまった。そんな恥ずかしさを隠すために、アシェルは宝箱の中身に話題を戻す。気になる宝箱の中身だが……。
「うん……? 斧? 杖?」
「片手斧には大きすぎるし、両手斧には少し小さいし、杖って言われれば杖だし……」
宝箱の中身はマジックバッグよろしく、魔法の収納スペースになっていた。斧のような大きな物体でも問題なく詰め込むことが出来るので、今回のように長い柄の武器が収納されていることもあるのだ。魔法の空間から引き摺り出したその武器は、斧と杖の間の子のような中途半端な武器だった。
「これは、一旦売りに戻ったほうが良いか、悩むね……あっ!」
「宝箱、消えちゃった!」
ダンジョンの宝箱は、中身が取り出されると消滅するようになっている。前述の通り、この宝箱はマジックバッグの役割も果たす。力自慢の者がこれを背負ってマジックバッグ代わりに使うなど悪用されないよう、ダンジョン側が意図的に回収している……と、冒険者達の間で推測されている。実際のところどうなのかは解明されていないが、これが最有力説なのだ。
「これで全部だったみたい」
「この武器、どうしようね~……あれ? 軽いね~?」
「軽いの? あ、確かに軽い……」
それよりもこの仮称【斧杖】だが、アシェルやアイヴィが軽いと言うほどには軽いようだ。見た目は非常に重そうな武器だが、特殊な材質なのだろう。とにかく、持っていても邪魔にはならない重さらしい。
「それに、魔力と相性が良さそう! 僕の力と反発しないで、よく馴染むよ~!」
「それなら、アイヴィが使うと良いんじゃない? 武器、持ってないし……」
「うん! そうする~! さっきのドリルラビットの死体で、斬れ味を試した~い♡」
「斬れ味の確認は大事ね。じゃあ、少し戻ろうか」
とりあえずこの斧杖は、アイヴィの武器にする方向で決定した。なんとも言えない形状の武器ではあるが、この洞窟型ダンジョンではコンパクトに振り回せるという利点があり、アイヴィの魔力と相性が良いとあっては絶好の武器だろう。問題は斧部分の斬れ味だが……。
「えいっ! おお~!」
「そんなに力を込めたようには見えなかったけど……」
「スパッと斬れたよ! 刃は鈍そうに見えるのに、不思議~!」
「刃の部分を手で触っちゃ……! あ、今の絶対怪我したでしょ……」
「うん? 大丈夫だよ? ほら!」
ドリルラビットの死体は容易に切断したが、刃に触ったアイヴィの手は斬れていなかった。アシェルはこの現象に聞き覚えがあり、まさかという気持ちで斧杖を見て、その名を口に出す。
「まさか……。マジックウェポン……?」
「え~? なにそれ~? 凄い武器なの~?」
マジックウェポン。持ち主の体の一部のように扱うことが出来て、決して持ち主や仲間を傷つけない。使い続けると持ち主を絶対の主と認め、他人には決して扱えなくなるという魔法の武器……。それが、マジックウェポンである。
「年間数本しか産出されないっていう、珍しい武器よ……!」
「…………僕、これ手放したほうが良い?」
武器の種類にもよるが、取引相場は金貨でいうと約1000枚。10枚で2年は遊んで暮らせる額なので、200年は余裕で遊んで暮らせる……。つまり、これ1本で一生働かなくて良い人生イージーモード引換券だったということになる。
「アイヴィ、さっき魔力が馴染むって言ってたよね……」
「うん!」
「ちょっと、貸して」
「はい!!」
「あ、ぐっ!? 重……ッ!?」
「えええ!? ちょっと、アシェル大丈夫~!?」
なお、この尻軽ウェポンは既にアイヴィを絶対の主と認めたらしく、他の誰にも扱えないマジックウェポンとなった。持ち主が死んでも死後数年から数十年は次の主を認めないと言われており、こうなると価値は暴落。展示品として金貨5枚そこらが関の山である。
「大丈夫、大丈夫よ……。金貨1000枚が5枚ぐらいになっただけだから……」
「…………え、どういうこと~!? それって大変なことじゃな~い!!」
「もう取り返しのつかないことを悔やんでも仕方ないの。アイヴィ、その武器は大切に使ってあげなさいね……」
「は、はぁ~い……?」
この時アシェルは『やっぱり持って帰るべきだったなぁ~……』などと考えていたが、後にこの選択は良い選択だったのだと思い知ることとなる。




