034 ゼックスの十戒・物事を勝手に決めつけてはならない
ピラミッドの内部に通じる転移石板より侵入したアシェル達だったが、ここでも怒涛の快進撃……とはならなかった。
『シンニュウシャ、ハイジョ。ハイジョ。ハイジョ』
「だぁああああああああ!! ドラコストライクッ!!」
ピラミッドの内部には生者も死者も居なかったのだ。部屋の内部には呆れ返る程の鉄巨人の大群がおり、何がなんでもここは通さないぞという意思を感じるほどだった。
「硬すぎでしょ……!?」
『ギ、ガガ……。ハイジョ、ハイジョ』
「アーシェ、右! 右~!」
「くっ……!!」
「プロテクション!! 一旦撤退したほうが良いわよ!!」
3メートル程の巨体、大盾と大剣を軽々と振り回し、アシェルのドラコストライクの直撃を受けてなおヒビが入る程度のダメージしか受けない頑丈なボディ。これが何体居るのだろうか? 10体? 20体? 部屋から更に奥へと続く通路からは追加の鉄巨人が投入され続けており、倒すペースよりも増えるペースのほうが早い状況だ。
「撤退!!」
「ティルトウェイト!!」
撤退の時間稼ぎのためにアイヴィがティルトウェイトの発動を決行する。今までティルトウェイトで倒せなかった敵はたったの1体、ドクターラジコングの作り出した改造人間兵器、ラジコングだけである。
『ピ……。ソンショウ、ケイビ……』
『ハイジョ……ハイジョ……』
『コウゲキ、ゾッコウ……』
「全然効いてないんだけど!!」
「ひぃい~!! アーシェ、ヤバいよぉ~!!」
「あはっ……!! やっぱり世の中、上には上が居る!! 凄い、凄い……!!」
「感動してる場合じゃないでしょぉ~!?」
「早く石板に戻らないと~!!」
今日、ティルトウェイトで倒せなかった敵が新たに1体増えた。鉄巨人達の情報は既にアシェルが直接触れて手に入れているが、それを確認している暇はなかった。撤退に成功した後で、ゆっくりと確認する必要があるだろう。
『シンニュウシャ、ロスト……』
『ハイジョ、セイコウ……』
『ツウジョウハイチ、キカン……』
『シュウリ、カイシ……』
「追ってこない……?」
「あの部屋から出た途端、攻撃が止んだわよ!」
どうやら、鉄巨人達が居る部屋より手前の通路であれば追ってこないらしい。アシェル達が倒せた鉄巨人はたったの4体、鉄巨人の数はその10倍は居ただろうか。とてもではないが、現状の戦力で倒しきれる相手ではないのは確かだ。
「ふっ……。これは、面白くなってきたわ」
「どこが面白いのよー!! 負けちゃったじゃないのー!!」
「退却一択なのは初めてだねー!」
「大丈夫、収穫はあった。あの石板で地上に戻るよ!」
今回はなんの成果も得られなかったとアイヴィとゼックスは思っているが、アシェルにとっては大収穫だったようだ。3人は入り口にあった転移の石板で地上へと帰還するのであった……。
◆ ◆ ◆
【ステイタス】
Name:リモコング・ナンバーセブン
True name:アージェント・ベリル
Lv (成長度):75/75
STR (筋力):105
CON (体力):105
POW (精神力):0
DEX (敏捷性):10
APP (外見):0
SIZ (体格):身長305cm
INT (知性):0
MAG (魔力):0
EDU (教育):0
ギフト
・改造人間:ドクターリモコング13世によって改造された
・自動迎撃:ドクターリモコング13世の居城を守っている
スキル
・爆発耐性5
・熱炎耐性5
・完全雷撃耐性
・リモコン操作:ドクターリモコングによって遠隔操作可能。電波障害に弱い
・グランドバスター:地を割る程の極大打撃攻撃
・メガトンパンチ:怒りの拳が宙を飛ぶ
・ハイパーガード:強力な防御行動
・インフラレッドスキャン:周囲を赤外線スキャンして生命体を探知する
特殊な装備
・傀儡の受信針
◆ ◆ ◆
「アイヴィ、見覚えは?」
「……ある! 倒せなかった巨人さん!!」
「へえ、あんなのと似たりよったりの相手と戦ったことがあったのね……」
アシェルが持ち帰った収穫、それはあの鉄巨人の正体だった。ミダス達のダンジョン内で模倣体となって彷徨っていたラジコングジュニア、そしてドクターラジコング……。それにそっくりの名前が急に現れたのである。
「人間を鋼鉄の兵器に変えて操る外道が居たのよ。これはその……近親者と見て間違いないでしょうね」
「人間を兵器に!? じゃあ、あの鉄巨人はゴーレムじゃなくて、人間だっていうの!?」
「ええ、ただし前に出会ったタイプよりは耐性が低い。その代わりに筋力と体力が上のようね。素早くはないけれど、数と威力で押されたら簡単に潰されるわ」
「現状の僕達では突破口がないね~……」
「ティルトウェイトで止まらなかったものね」
以前会った個体はティルトウェイトで機能を停止したが、今回の個体は誰一人として機能を停止しなかった。どうやらこの自動迎撃というギフトが関係しているらしく、操っている者が近くに居なくても勝手に動くように改造されているようだ。
「今日はこれ以上考えても無駄ね。とりあえず、ピラミッドは現状攻略不可能。修行をし直す必要が」
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど……」
「ん? 何か?」
これ以上考えても無駄だと解散しようとしたところ、アシェル達をゼックスが引き止めた。どうやら何か聞きたいことがあるようだ。
「なんで宿の部屋が別々なの? 前もそうだったわよね?」
「あっ……!!」
「あ~……あ~……」
「女同士なんだし、あたしだけ別の部屋だと値段が高いじゃない。なんだか、ちょっと……気を遣って貰ってるみたいで、悪いわ」
アシェルとアイヴィはこの質問にどう答えるべきなのか非常に悩んだ。バカ正直に『そういう関係を持ってます! 夜は一緒にイチャイチャしてます!』と答えるわけにもいかないが、下手にはぐらかしても余計な詮索を生むだけである。どうしたものだろうかと悩んでいる時間もまた、ゼックスに対して悪い印象を与えるばかりだ。
「き、嫌っているわけじゃないのよ。むしろ好きだし、ね? ゼックスは可愛いから」
「そう! えっと、僕もゼックスちゃんのことが大好きだけど、えっと、えっと……!!」
「ふぅ~ん……。もしかして、愛し合う仲だったりとか!!」
「ひぇ!? は、え、あっ!? いやその、ああ、あの!!」
「そそそそそそ、そう、だけど、えっと!!」
「ふ~ん、そうなんだ。そうなのね……。ふぅ~ん……」
結局態度でバレバレという結果となってしまった。赤面して沈んでいる2人を横目に、ゼックスがおもむろに立ち上がって宿のレストランから立ち去ろうとする。不潔だと嫌われてしまったのだろうかと心配したが、ゼックスの口から放たれた言葉は別のものだった。
「じゃ、あたしはしばらく夜のお散歩。お構いなくイチャイチャしててよね~」
「あ、あう~……!」
「いってらっしゃい……。き、気を付けて……」
「何かあったらすぐに戻るわ~」
ゼックスに気を遣ったつもりが、逆に気を遣われてしまう流れとなってしまった。時刻はすっかり夕暮れを過ぎ、散歩をするには女性一人では危ない時間帯であるが、ゼックスなら自分の身ぐらいは自分で守れるだろう強さなので、なんら問題ないだろう。
「…………んっ」
アイヴィがアシェルの服の裾をくいくいと引っ張る。深く愛されることを知ってしまったアイヴィにとって、夜という時間はもう我慢が出来ない時間帯になってしまったのだ。それはアシェルも同様で、早く部屋にいって楽しみたいという気持ちでいっぱいなのだが……。
「…………きょ、今日ぐらい、我慢しない?」
「ゼックスちゃんに、全部バレてるのに~……?」
「だ、だって今日の今日だと……」
「えへへ~……。じゃあ、今日は立場逆転~?」
「えっ、それはまあ、興味があるけど……」
「じゃあ、決まりね♡」
こうなったら気分転換とばかりに、以前とは攻守を変更することにしたらしい。食事を終えたことをスタッフに伝え、自分達の部屋に戻った瞬間に2人はバスルームへと向かい――――。
――――夜が更け、日付も変わろうかという頃……。
「――――ねえぇ!! まだ、起きてる!? 起きてるわよね!! 開けるわよ!!」
バァンッ!! と、勢い良くアシェル達の部屋の扉が開かれた。開けたのは勿論、ゼックスである。
「大変なのよ!! とにかく、今すぐ…………」
「あっ……」
「あ、あっ……♡ え、は……♡」
「…………? え、え? 女の子……。女の子…………男の子…………胸はあるし…………え…………?」
ゼックスは大きな勘違いをしていた。そして、アシェル達も大きな勘違いをしていた。
ゼックスが思っていた『イチャイチャ』とは次元が異なるイチャイチャっぷりであり、アシェル達は全てバレていると思っていたが、ゼックスは『たぶん、お部屋で仲良くちゅっちゅしてるのね!』ぐらいの認識だったのだ。
「え、え」
「おね、がい♡ 叫ぶ前に、し、しめ……♡」
「ゼックスちゃん、入ってからし~めて♡」
バタンッ!! と、勢い良くアシェル達の部屋の扉が閉められた。閉めたのは勿論、ゼックスである。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
ゼックスは心に誓った。もう二度と、他人の関係性を勝手に決めて、わかったフリをしないようにしよう、と……。
この夜は結局、ゼックスの乱入によって2人のイチャイチャタイムは終了となり、ゼックスより事情を聞いたアシェル達は急いで身支度を済ませ…………。
「ねえ、アーシェ? 大丈夫~?」
「だ、大丈夫……。ちょっと力が、入らないだけ……」
「ご、ごめんなさい! だって、そんな、あんな、あの……」
「いいの、いいのよ。うんうん、誰にだって勘違いや間違いはあるから……」
アシェルがしっかりと立てるようになるのを待ってから、現場へと急行することになるのであった……。




