030 後悔先に立たず
『――――ふ、ふざけんなぁ!! 俺は、俺は主人公だぞ!? 勇者候補で、最高峰のギフトを貰った、主人公なんだぞ!!』
それが、彼に判決が下された時に発した言葉だった。
商人ギルド、冒険者ギルドへの被害は多数。生死の狭間を彷徨った者さえ居た。幸いにも死者は出なかったが、ラビリス全体の物流を滞らせ、全住民にいつ襲撃されるかわからないという恐怖を与え、経済的にも精神的にも甚大な被害をもたらした。最後の襲撃は明確な殺意があり、乗り合わせた全員がそれについて間違いないと証言し、その殺意の証拠として頭部に直撃するであろう位置に攻撃されている馬車を出され、殺意についても間違いなくあったと認められた。
これらを踏まえ、ユウキに下された判決は…………。
『被告、ユウキを死刑とする』
死刑。この世界はユウキが元居た異世界ニッポンとは違う。人権というものが非常に軽く、大勢に害ある者と判断されればそれまでなのだ。たとえ自称主人公であろうとも、自称勇者候補であろうとも、それは変わらない。彼はこの世界で有害と判決が下ったのだ。
『……ぐ、うう……!!』
『バチアール!! おいバチアール!! なんとかしろよ!! 俺はこの世界を変えるのに必要な、いずれ現れる魔王を討ち倒すために必要な男なんだろ!? なあ、アルカナだってあんたが見抜いて俺をここまで強くしたんじゃないかぁ!!』
『黙れ……。誰か、そいつを黙らせろ……!!』
これに対し、中央教会側は異議を唱えなかった。なぜなら、凶行に使われた武器が中央教会の持ち込んだマジックウェポンだとなれば、それを持ち込む判断をしたバチアールもまた処罰の対象になるからだ。なんせこのバチアール、ホーリー&ジャッジメントやその他のマジックアイテムについても極秘で持ち込んでおり、その危険性を執政官に提出していなかったのだ。これはどの都市でも違法ではないが、それが原因でなにかがあった際には責任を取ることと多くの都市で定められている。
『あんたがこれで異端審問官を操り人形にしてるんじゃない!! あいつも罪人よ!!』
『静粛に。今回はバチアール殿の裁判ではなく、ユウキ殿の裁判です。その件については現在調査を進め、容疑が固まり次第裁判所へ連行となります』
狩猟者の証、洗脳の首輪、隷属のシンボルについては『教会のものを装った悪質な模造品、教会を貶めるための卑劣な品』とバチアールが反論した。これに対しほぼ全員が『あのゼックスがこうして証言して寝返ってるし、間違いなくそうなんだろうけど……』という、ほぼ間違いなく黒ではあるが断定出来ないという歯がゆい状態となってしまった。
また、狩猟者の証は隷属のシンボルを着けている者に命令出来るとあったが、どうやらそれについても既にバチアールが対策を打っていたらしく、ゼックスが所有しているもの以外は性能を変更して効果範囲の対象外として除外していたようだ。これで証明が難しくなり、模造品である可能性も捨てきれないという若干の可能性もあるとされてしまった。ただし、完全にそうではないのかという証明も出来ていないので、後日バチアールを中心とした異端審問官全員に調査が入ることとなっている。
『ゼックス、落ち着いて。今は刃を研ぐ時よ』
『でも、アシェル……!!』
『赦せないけど、今じゃないって……え~っと、僕もそう思う!』
そして冒険者クロバネだが、その正体がアシェルであるということを同行者全員に暴露した。口を慎まないほうと慎むほう、カデスと御者に関してはヨーコから口止め料を支払われたが、この秘密が原因で命の危機を感じた際には暴露してもよいと契約を結んだ。原則秘密だが、強制ではないということだ。アシェル達としてもそこまで秘密にすることでもないので、そこは了承した。
『異議なしですね。では、ユウキの判決は死刑で確定とする。なお、執行猶予はない。処刑は明日決行する』
ここで、最初の発言部分に戻る。こうしてユウキの死刑が確定し、ユウキの仲間3人については関与してないため無罪。バチアールは身の潔白を証明するため、後日調査に協力せよという判決でこの裁判は終了した。ゼックスとしては非常に不服な判決だが、『そんなマジックウェポンは知らない。それは教会のではない』と言い張り、それを証明する手段がない以上はどうしようもない。
後は執政官による調査団派遣が良い方向に転ぶことを信じ、アシェル達は裁判所を立ち去ることとなった……。
◆ ◆ ◆
――――と、いうのが2日前の出来事である。では、アシェル達は今、何をしているのか?
「はい、アイヴィ様!! おめでとうございます!! 白金級冒険者としてぇ、認められてぇ……綺麗なお肌でしゅほげぇっ!!」
「申し訳御座いません、このポンコツ先輩が粗相を。アジェル様、アイディー様、そしてゼルクス様。こちら、新しい冒険者証となります」
冒険者ギルドにて、新しい冒険者証を発行して貰っていたのである。パーティには新たにゼックスを加え、与えられた等級は『白金級』。本来はその上の『金剛石級』を与えるべきだとハヅキが中央冒険者ギルドに進言したのだが、中央はハヅキの話が些か信用出来なかったらしく、白金級止まりということになった。
なお、冒険者ギルドの受付嬢のラナと、手荒れを治して貰ってアイヴィを神と崇めているシェリーに、新たなギルド受付嬢のメフィアという後輩が出来ていた。容姿こそ可愛らしいがシェリーに対して口が悪く、仕事はシェリーの3倍は出来る無表情な女の子である。ちなみに今もシェリーの頭をぶっ叩いてアシェルとゼックスへの非礼を咎めたところだ。
「あ、ありがと……」
「何も叩かなくて良いじゃないですかぁ!!」
「シェリー先輩、溜まっていた書類はどうしたんですか? まだですか? アリヴィ様に呆れた目で見られていますよ」
「見てないよぉ~?」
「…………冒険者ギルドの職員って、こんな人ばっかりなの?」
「ほら、シェリー先輩のせいで冒険者ギルドがナメられています。メフィアが手伝いますから、さっさと終わらせましょう。では、改めましておめでとうございます。今後益々のご活躍をお祈り致します」
「うう~……。メフィアが怖いよぉ~……!! アイヴィ様、見ていてください!! シェリーは必ずこの書類の山おげぇ!!」
「口を動かさない。手を動かす。ではアチェル様、御機嫌よう」
この2人はいつもこの調子らしい。こう見るとシェリーは一見ポンコツそうに見えるが、メフィアと異なり非常に記憶力が良いのだ。数年前のアシェル達の従魔契約の書類がどこにあるのかをすぐに探し出して持ってこられる程度には、彼女の記憶力は非常に優れている。なお、目の前にある書類の山に関しての『すぐに終わらせなければならない』という記憶は消えてしまうようだが。
「さすがに、シェリーさんが特殊なだけだと思うわ」
「そう? でも、メフィアって人もあたし達の名前全部間違えてたわよ?」
なお、メフィアはメフィアで優秀なのだが、人の名前を覚えられない。唯一覚えているのがシェリーだけであり、シェリーの名前を覚えるのにも1年掛かっている。本人としてはかなり注意しているらしいのだが、一向に直る気配はないそうだ。
「…………みんな、足りないものを補い合って頑張っているのよ」
「冒険者と一緒だね~♡」
「そうかしら……そうかも……」
「じゃあ、いきましょう」
「そういえば、何処にいくんだっけ~?」
「レイ……アイヴィ、もう忘れちゃったの? 南塔のダンジョンにいくんでしょ!!」
「あ! そうだったね~! 南塔のダンジョン!!」
さて、教会のごたごたは一旦保留として、アシェル達が次に向かうと決めたのは南塔のダンジョンである。このダンジョンは既にハヤト達がかなり調査を進めており、その性質はというと『非常に厄介』の一言に尽きるという。
「まず、ハヤトさん達から頂いた情報を整理するわね」
「そうね、もう一度確認しておいたほうが良いわよね」
「うんうん! 僕、あんまりよく覚えてな~い!」
まず、南塔のダンジョンは単純に『広大な砂漠』である。ダンジョンと言って良いのか不明なレベルのダンジョンで、砂漠が丸ごとダンジョンとして存在しているのだ。
「どこに転送されるかは毎回ランダム。ランダムっていうのは、毎回違う結果ということね」
「へえ~!!」
「およそ中央に、砂漠の都市があるのよね?」
「そう。その都市に入ると閉じ込められて、中にある脱出用の石板を見つけるまでは出られない。入る前に脱出用の石板があるから、都市に入らず出ることも出来るそうよ」
「都市に入ると出られないんだ~? 危ないの~?」
「砂漠に生息している魔物から打って変わって、人型の魔物が大量に出現するそうよ。ゾンビ、スケルトン、リッチー……不死系の魔物が多いと聞いたわ」
南塔のダンジョンは砂漠地帯のランダムなポイントから開始され、中央にある都市を目指して進むこととなる。その間、昼夜が猛烈な速度で切り替わり、約2時間で日の出から日没、その後2時間は真っ暗な夜という4時間で1日が経過するダンジョンとなっている。なお、ダンジョン内の時間経過が非常に早いだけで、中の時間で数日滞在したとしても、外に出るとほんの数十分しか経過していないという現象が起きるらしい。
「東塔とは逆だねー!!」
「そうね。東塔は中に1年居れば、外で3年経過する。こっちは6日滞在しても1時間しか経過しない。こちら側の常識はダンジョンに通用しないということね」
「時間の流れが違うなんて、ダンジョンって不思議なところなのね……」
「不思議よね……。独自の世界、ということなのかしらね」
「それで、都市の中っておばけがいっぱいな以外だと、何があるのかな~?」
「それはハヤトさん達にも調査出来なかったみたい。ただ、都市の中央に宮殿があるのと、それぞれの民家の中には大量のアンデッドが蔓延っていて、必ず宝箱があったそうよ。罠もあったって」
都市の内部はアンデッドの巣窟だ。特に建物の中が酷く、内部はアンデッドで溢れかえっている。中央に宮殿があるそうだが、そこまではアンデッドが多すぎたために近寄れなかったそうだ。環境的にも非常に過酷で魔物の数も多いため、かなり過酷なダンジョンだからとハヤト達は攻略を一時中断しているらしい。
「どうしてここなの?」
「外の時間が進まないから。執政官の調査団とバチアールの動向、気になるでしょう?」
「確かにそうね……。他のダンジョンは、時間の経過が異常じゃないの?」
「他のダンジョンは等速だそうよ。西も北も、いずれも1日が1日だって」
「お水をいっぱい持っていかないと~!」
「アイヴィ、クリエイトウォーターの魔法は、教えて貰ったのよね?」
「うん! そればっかり使ってて魔力切れになったら困るって、メガネ先生が言ってるから~、普通の水も用意するべきだって~!」
「その、気になってたのだけど、メガネ先生って?」
「このメガネが先生なんだ~。僕の知らないこと、い~っぱい教えてくれるの~!」
「それは、凄い先生ね……」
ゼックスはまだ、アシェル達のことを詳しく知らない。現状ゼックスが知っているアシェル達の情報は『物凄く強い』というざっくりした情報と、『姿を変えることが出来る』という情報、それに多数のマジックアイテムを所持しているという点だけだ。アシェル達がどういう人物なのか、自分達で自身のことを説明したところで『何言っているの?』となるだけなので、百聞は一見にしかずということで詳しく説明していないのだ。
「じゃあ、とりあえず南塔のダンジョンに向かいましょう。ゼックス、頑張ってついてきて」
「え? あたしだって戦えるわ! 冒険者ギルドで実力は証明したし、この銃だって扱い方がわかってきたもの!」
「あっ!」
「そう、そうね……うんうん……」
アイヴィは今、『あっ慢心だ~!』と言おうとしたのだが、それはメガネ先生が止めてくれた。言ったところでゼックスがムッとするだけなので、実力差でわからせたほうが良いのだ。そのほうが、早く心が折れるだろうから……。
「じゃあ最後に、もう一度だけ言うわね」
「うん? なぁに?」
「頑張って、ついてきて……」
「…………あたしだって、アシェル達みたいに魔物を倒してみせるわ! 同じだけとは言わないけど、半分ぐらいはやっつけてやるんだから!!」
「へえ……」
「わぁ~……!」
――――この後、ゼックスはこの発言をしたことを後悔することとなったのは、言うまでもないだろう…………。




