029 反逆者
ラビリスに戻るまで暇だったアシェル達は、ユウキが所有していたマジックアイテムについて詳しく調べていた。聖戦士の剣や狩猟者の証などは割とどうでも良かったため、それ以外の2点について特に詳しく念入りに。
「私の鑑定結果では、これは暗殺者の外套。気配を殺して俊敏に動けるものみたいね」
「全然! ただの布切れ、しかも動きにくいって感じだわ!」
「マジックアイテムは一度装備してしまうと、その人を主として認めてしまって他の人には使えないというものが多いの。この外套も使えない部類ね」
「使える場合もあるの?」
「マジックアイテムが譲渡に納得した場合ね。滅多にないけれど、意思を感じるものがあるのよ」
「それ本当? じゃあ、このソゲキジューって武器がずーっと何か喋ってるみたいに聞こえるのは?」
「~~ッ!? ~~ッ!!」
どうやら、ユウキが所持していた狙撃銃『ホーリー&ジャッジメント』は主をすぐさま変えてしまったらしい。マジックウェポン――防具や装飾品を含むマジックアイテムも同様――は一度主を決めると、その主と死別したとしても暫く次の主を認めないものがあるほど強いこだわりを持つものもあるが、この武器のようにすぐさま主を変えてしまうものもあるのだ。ユウキはこの武器がマジックウェポンだと知っており、それを取られたとしても自分以外には使えないと思っていて、まさかこんなにすぐ主を変えるものだとは思っていなかったので非常に焦っている。
「…………意思があって、主を変えたみたいね」
「なんだか、間違いないって言っているわ。あたしが良いって」
「ずっと担い手を探していた武器みたいだから、やっと見つかって嬉しいのかもしれないわね……」
「クロバネもこういう武器、持ってるの?」
「私よりレイチェルね。存在を秘匿しているから見えないけれど、マジックアイテムを5つも身に着けているのよ」
「ええっ!? 猫ちゃんが、どうやって!?」
「秘匿しているから、内緒よ」
『みゃ~ん♡』
「そう……。猫ちゃんは、秘密が多いものよね……」
「そうかな……。そうかも……」
喋ることを許可されていないユウキが焦って暴れているが、そんなことはどうでもいいとばかりにアシェル達は会話を続ける。話題はマジックアイテムからレイチェルへ、レイチェルの次に気になるときたら……クロバネという冒険者についてだろう。ゼックスは好奇心を抑えきれず、心の内にある疑問をぶつけることにした。
「ねえ、どうしてそんなに強いの? 失礼だけど、人間とは思えない強さだわ」
「……私達に道を示してくれた冒険者達への、恩返しかしら……。それに、必ず復讐したい相手が居るのよ。絶対に……徹底的に滅ぼさなければならないの」
『シャーーッ!!』
「レイチェルも復讐したいほどの相手なのね。貴方達をそこまで怒らせるような相手って、どんな奴なのかしら……。あ、ごめんなさい。込み入ったことを聞いちゃって」
「いいのよ。喋ったのは私のほう」
「でも、だからって強すぎるわ。木を紙切れみたいに斬り裂くなんて、本当に人間?」
アシェルはこれにどう答えるべきか悩んでいた。バカ正直に『1年以上ドラゴンを輪切りにしてました』とは言えず、かといって適当過ぎる嘘を並べるのもどうなのかと……。
「なあ、冒険者ってのは秘密が多いんだよ。猫ちゃん以上によ。あんまり聞かないほうがいいぜ」
「おい、口を……珍しく正論だな」
「冒険者を長く続けていれば、答えにくいことの1つや2つあるものですぞ……。ほっほ……」
「確かに、皆の言う通りだわ。あたし、強くなりたくって、ちょっと早とちりしちゃったわ」
同行していた冒険者とカデスの助け舟があり、この質問には答えずに済んだ。しかし、今度はアシェルのほうに疑問が浮かび上がる。ゼックスはなぜそんなにも強くなりたいのか? 教会の猟犬になっていた間の記憶はないはずなので、教会に対してそこまで憎悪の気持ちは湧かないはずなのだ。身に覚えのない怒りは湧きようがないのだから。
「どうして強くなりたいの?」
「どうしてって、あたし……村を焼かれたのよ! パパもママも、きっともう生きてない。本当のパパとママじゃなかったけど、心の底から愛してた。あの時、教会は魔族のしわざなんだって言ってた……でも、あの村の周囲に魔族が居たなんて聞いたことないし、あの時武器を持っていたのは教会の連中だけだった! それからずーっと記憶がないまま、教会の犬として飼われてたんでしょ? 猟犬狩りって、さっき聞こえたわ!!」
「あ……」
どうやら、アシェル達がユウキを拷問して聞き出した情報を、ゼックスも聞いてしまったようだ。
最後の記憶は村を焼かれ、武器を持った教会の連中に『魔族のしわざ』と言われたもの。そこから何年経ったのか、目が覚めれば教会の治療室。怒鳴り声を上げる司祭と、薄気味悪い異端審問官が何かを言い合っており、こんなところには居られないと教会を抜け出した。乗り合い馬車に転がり込めば襲撃を受け、耐えきったと思えば教会の猟犬狩りについての情報……。右も左もわからないゼックスの中で唯一繋がった情報……。
「パパも、ママも、みんな、みんな……。教会に、焼かれたんだ……!!」
「……でも、まだ」
「気持ち悪い、吐き気がする!! みんなを殺した連中のために、ずっと、ずっと、15歳の誕生日の後からずーっと!! あたし達の人生めちゃくちゃにして、自分じゃやりたくないからってあたし達に暴力を振るわせて、挙げ句の果てに壊れたら性処理のオモチャ!? ふざけてる、ふざけてる!! こんな奴らの私利私欲を満たすために、どうしてあたし達が犠牲にならなきゃなんないの!! 死ね!! クズ!! ゴミ!! 地獄に堕ちろぉおおおおおおおおおおお!!」
――――バン、バン、バン!!
「~~ア、ァア……!!」
「ゼックス!!」
「あたしが弱いから……!! 弱いから、なんにも守れなくて、みんな奪われて……!! うわぁあああああああああああああああああああああああああ!!」
「……こいつは死んで当然の野郎だ。俺がゼックスの立場なら、頭をふっ飛ばしてるところだ。よく、足だけで済ませたな」
「こんな奴らが教会の中にはうじゃうじゃと蔓延ってる。こんなのを野放しにして、なんの天罰も与えない神なんて……」
「償わせてやる!! あたしのパパと、ママと、友達の分もみんな!! みんな、全部!! 全部、償わせてやる!!」
誰かのための怒り。弱い自分への怒り。力を持たざる者は、力を持つ者に弄ばれて消えてゆく。アシェル達はこの瞬間、思い出していた。ドラゴン討伐を夢見て散った冒険者のことを、もう一度全員で冒険がしたいと300年以上も祈り続けた冒険者のことを、そんな彼らが解放されるまで見守り続けた冒険者のことを。そして……ありとあらゆる者を弄び、破滅へと導いた邪悪な泉のことを。
ゼックスとアシェル達は似ていた。自分のために道を示してくれた者達を失い、憎むべき巨悪が存在する。だが、アシェル達にはチャンスが存在していた。自分達で作り出したチャンスに加え、クロバネ達が与えてくれたチャンスが存在していた。ゼックスにはそれがない。こんな時、クロバネ達ならどうするだろうか? クロバネの姿を借りているアシェルなら、どうするべきだろうか? 答えは、1つしかないだろう。
「……私達のパーティに入らない?」
「…………クロバネについていったら、強くなれる?」
「それは、ゼックス次第。私達はチャンスを与えるだけ。掴み取るのはゼックス、貴方次第よ」
クロバネは、右腕を失ったアシェルにやり直すチャンスを与えてくれた。今度はアシェルが与える番ということだ。アシェル達を導いてくれた偉大な冒険者、クロバネ達ならそうしただろうから。
「あたし、どんなに辛いことでもやるわ……。教会を、絶対に……!! 尻尾を掴んで引き摺り出してやる……!!」
「俺達、恐ろしい瞬間に立ち会ったのかもなぁ……」
「おい、口を慎めよ。今は俺達が喋って良い場面じゃない」
「ほっほっほ……。このカデス、あの中央教会を討つというのであれば、全力で応援致しますぞ」
「……わかった。とりあえず、ここに居る全員はこの後ヨーコさんのところに集まって。あ、御者さんもね? 今の話、聞いただろうから」
「え!? は、はい!!」
『みゃ~ん♡』
「レイチェルちゃん、よろしくね……。あたし、頑張るから……」
今日ここに、新たな冒険者にして復讐者が誕生した。名を、ゼックス。真の名をゼクシェリアス・オル・シェルナー。王家の娘として生まれながら、その強大過ぎる力を隠すために身を寄せていた村を教会に焼かれ、教会の猟犬として洗脳されていた悲しき少女。血は繋がっていなくても本物の家族のように愛してくれた両親の仇討ちのため、村で親しく接してくれた人々の仇討ちのため、新たな復讐者が怨嗟の産声を上げた。
「ところで、クロバネは冒険者で、レイチェルとパーティ? なのよね? 名前はあるの?」
『みゃう~?』
「……特にないけれど。ゼックスと私達の共通点と言ったら……。さしずめ、反逆者ってところかしら」
『みゃあ!!』
「じゃあ、あたし達は今日からリベリオンね!! かなり直接的な名前だけれど、良いわよね!」
「ゼックスはまだ、冒険者登録をしていないから名乗れないわよ」
「えっ」
彼女達は復讐者。願いの泉という巨悪と、中央教会という巨悪を滅ぼさんと集った反逆者。
アシェル達のこの決意は徐々に、しかし確実に。今はまだ小さな亀裂であるが、それは徐々に大きな亀裂となって、この世界を大きく動かすこととなるだろう……。
【ゼックス】
愛称はゼックス。真の名をゼクシェリアス・オル・シェルナー。
王家の娘として生まれるも、すぐに特別なギフトを持つ子だと発覚し、その存在を秘匿するために『死産』とされ密かに匿われていた少女。
ユウキから奪った狙撃銃『ホーリー&ジャッジメント』に『この者こそが我が主』と認められた。元々は二挺拳銃であり、狙撃銃の姿は合体した時の姿。不要な時は彼女の聖痕の中に格納することが出来る。




