028 森の襲撃者
『どう~? 居た~?』
「わあビックリした。猫ちゃんでも喋れるのね」
『メタモルフォーゼの応用だよ~♡ それで、どう?』
「リッチーが気配遮断を使った時みたいに、存在を探知しにくいわ。それに対して向こうは正確に攻撃してくる……何かあるわね」
アシェルは相手がユウキであることを前提に、攻撃してきた相手を探している。訓練場でアシェルとユウキが戦った時は一瞬だったし、そもそもユウキには気配遮断系のスキルが存在していなかった。なので、アシェルのスカウタースキルに引っかからないというのがそもそもおかしなことである。
『持ち出したアイテムが、1個だけじゃないのかも?』
「……!! そうね、確かに……。それは考えていなかったわ」
アシェルは死角からの攻撃であろうとも、音が聞こえたのが後の攻撃であろうとも、攻撃されそうだという部分に反応して咄嗟に動くことが出来る。スカウターとはそういう特殊な生存能力向上スキルで、アシェルの場合はそのレベルが非常に高い。それが反応しきらない攻撃ということは、攻撃しているマジックアイテムとは別に、他のマジックアイテムの効果も重ねがけされているのかもしれない。ヨーコは盗まれたとは言っていたが、1つだけだとは言っていない。つまり、1個盗まれているのは確定だが、他にもあるのかは未確定ということだ。
『メガネ先生、どう探せばいいのかな~?』
「私に良い考えがあるわ」
『え、アーシェちょっと待っ――』
気配こそ掴めるものの、確実な位置までは掴みきれない。森の中で視界が悪く、この環境は相手に有利なだけでアシェル達にはちっとも有利ではない。そこで、だ。アシェルは解決策を思いついたのでそれを実行することにしたらしい。
「ブレードストーム!!」
斬撃を飛ばすソニックブレードと、一瞬にして何度も斬りつけるストームブリンガー。その両方を同時に発動することで新たに編み出した攻撃スキル、ブレードストームである。威力や射程こそそれぞれのスキルに劣るものの、広範囲に無数の斬撃を飛ばすことが出来るので、雑魚相手の殲滅にはもってこいのスキルだろう。特に、相手が無抵抗の樹木であればその効果は絶大だ。
「圧倒的力で追跡されていると、相手に恐怖心を抱かせる。アイテムは強くても中身は小物よ。アイテムの性能を活用させずに、殺る!!」
『あ、うん! 僕もそれでいいと思う! にゃんっ!!』
「ブレードストーム!!」
一瞬にして何十本もの木々が斬られ、メキメキと音を立てて地面に倒れる。それもたった一度の出来事ではなく、何度も。
この異常な出来事がなんなのかを確認したのか、それとも誰かが迫ってきていることに焦ったのか、破裂音がピタリと止まった。ゼックス達への攻撃が中断されたということである。
「……足を止めた。心拍数が上がって、息が荒くなっている。人間が出す音までは隠しきれないようね……動きが、掴める!!」
『わ~凄い。僕なんにもわかんないよ~?』
「見つけた!! 居る!!」
『何も居ないよ~!!』
アイヴィにはどこに居るのか見当が付かないが、アシェルは犯人の足音や呼吸音を探知したらしい。これが、1年間以上いつ襲われるかわからない環境で常に警戒して過ごし、寝るには安眠効果のマジックアイテムに頼らなければならないほどに感覚が研ぎ澄まされてしまった冒険者の実力だ。アシェルは剣士としても凄まじい実力があるが、それと同等に斥候能力も凄まじいレベルなのだ。
「――――居ない……!? さ、さっきまで、5人だったはず……。1人、居ない……!? どこに……だ、大丈夫だ……! こんなに離れているんだから、わかりっこない……!」
それに対して、犯人は恐怖心に支配されていた。筒状の道具に目を近付け、馬車の方向を何度も確認している。しかし、どうやら探している相手は何処にも見当たらないようだ。自分は大丈夫なのだと言い聞かせるように何度も独り言を繰り返し、恐怖心を抑えるために理屈を並べている。だが、それでも探している相手は何処にも見当たらない。
なんせ、探している相手は彼の真後ろに居るのだから。
◆ ◆ ◆
【ステイタス】
Name:ユウキ
True name:ユウキ・アイバ
Lv (成長度):50/50
STR (筋力):30
CON (体力):28
POW (精神力):6
DEX (敏捷性):22
APP (外見):10
SIZ (体格):身長175cm
INT (知性):8
MAG (魔力):12+10
EDU (教育):7
ギフト
・転移者:異世界【ニッポン】から転移してきた者
・戦車のアルカナ:筋力、体力が上昇し、物理攻撃に強い耐性を持つ
・猟犬の主:中央教会の隷属のシンボルから力を抽出出来る
スキル
・ホーリースラッシュ:信仰系、聖なる斬撃を飛ばす
・ハイスラッシュ:強力な斬撃
・スマッシュ:強力な打撃
・シールドバッシュ:盾での殴打
・スナイピング:射撃武器での遠距離攻撃、スキル名を口に出す必要性がない
特殊な装備
・聖戦士の剣
┗ホーリースラッシュの射程が伸びる
・ホーリー&ジャッジメント
┣魔力+10
┣聖銃ホーリーとジャッジメントを組み合わせた、聖なる狙撃銃
┣魔力を実弾に変換して発射する
┣本当に悪い人達なのかな?
┗本当にそうなのかな?
・暗殺者の外套
┣DEX+10
┣気配を遮断する
┗こんな目立つ武器で暗殺者とは……。
・狩猟者の証
┣猟犬の主として認められた者に与えられる証
┣中央教会の隷属のシンボルから力を抽出出来る
┗隷属のシンボルを着けた猟犬に命令を下すことが出来るが……。
◆ ◆ ◆
アシェルは今『はぁ~……。なるほど、この外套が原因だったんだ』と納得している。メタモルフォーゼが原因でスカウターが発動していないのか、それとも自分の力不足が原因なのか、相手が対策アイテムを所持しているのか、どれが原因なのかハッキリしたからだ。
そして、攻撃の正体はホーリー&ジャッジメントという長細い武器、狙撃銃というものによる攻撃だということも発覚した。つまるところ、使っている人間が強かったのではなく、使っていたものが強かっただけだという話。レベルが上昇しているのは恐らく、狩猟者の証というアイテムを使って教会の異端審問官達から力を奪ったのだろう。自分で得た訳では無い仮初めの力を使って、強力な武器を振り回して他人を傷つけ快楽を得ていただけの、正真正銘の小物ということである。
「……メタモルフォーゼ」
アシェルにメタモルフォーゼは使えないが、ある意味では使うことが出来てしまう。もっとも、これで男性が女性の機能を得るわけではなく、男性がその能力を失うという意味での変容であるが。
「あ、お――――…………!! うぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
『にゃっ!? にゃぁあああ~!!』
アシェルの筋力と敏捷性で股間を蹴り上げられ、無事で居られるような男はほとんど存在しない。いや、女性であっても無事では済まないのだが、男性は特にだ。この痛みは、一時的にでも男性の気持ちを知ることが出来たアシェルにもわかる。この世のものとは思えない想像を絶する痛みが、ユウキの股間から脳天へと駆け抜けたのだ。
「レイチェル、とびっきり可愛いのをお願い」
『みゃう? みゃんみゃ~ん♡』
「うああ、ああああああ……!! あああああああ…………」
未だにのたうち回っているユウキだが、アイヴィのチャームの効果が発動すると共に大人しくなった。潰れた股間を抑えて悶絶しながらも、チャームの効果が発動してしまって動けなくなってしまった。見えざる森の襲撃者の哀れな末路である。
「武器を置け。それと、脱げ」
『みゃお、まぁ~お!』
「は……い……」
これ以上触れるのも嫌だったアシェルが、アイヴィを通じて武装解除を命じる。その命令を聞いて素直に従い、ユウキが痛みに震えながらくねくねと体を動かして全ての武装を解除する。もちろん、下着まで全てである。
「…………え、ちっさ」
『みゃぁああ!? (アーシェの半分もないよ!?)』
「うう……うう……」
特に辱めるつもりはなかったのだが、ミダスの最高傑作でも感知出来ないような未知のアイテムをそこに収納していては大問題だ。アシェルの徹底っぷりは容赦がないのである。
「まあ、そんなことより。何が目的? 言え」
『みゅあぁあ!!』
「お、俺を、見下す奴全員、後悔させてやろうと思って……。ス、スキル上げを……」
「スキル上げ? それは何?」
『みゃあ!!』
次に、ユウキの目的を吐かせる。曰く、理由の方は察しの通りのものだったが、スキル上げの方はアシェル達にとって初耳の言葉である。
「敵を、た、倒すと、スキルに経験値が溜まるらしいんです……」
「誰から聞いた?」
『にゃぁあ~?』
「バチアール司祭から……」
「中央教会はいつもこんなやり方なの?」
『にゃあ!!』
「中央教会は、猟犬狩りをするんだ……。異端者が居るって、村を襲わせて……。それで猟犬の確保とスキル上げをして、その猟犬から力を吸い出して、力をつけるんだ……。お、俺も、猟犬狩りの代わりに、商人狩りを……」
「クズが……!! 今すぐ殺したいわ」
「ひぃぃいい!! ぃいい、命だけはぁ、あああ!!」
ユウキの口から次々と中央教会の悪事が明らかになる。どうやら中央教会は裏で『猟犬狩り』と称して辺境の村々を異端審問官に襲撃させ、恐らくは無抵抗の住民達を司祭達が狩り、それでスキル上げを行っていたのだろう。レベルの方は猟犬が蓄えた力を吸い取れば良いので、効率よく強くなれるというわけだ。
「洗脳の首輪は? 隷属のシンボルは? 何処で作ってるの。量産品なはず、絶対どこかで作っているはずよ」
『みゃう!!』
「し、知らない……。本当だ、嘘じゃない……ぁあああ……!! 知らないん、だぁあ……!!」
「猟犬の選び方は? どうしてお前は教会に特別扱いされてる?」
『まーお!!』
「アルカナだ!! ア、アルカナホルダーを、見分ける方法があるって、バチアールが言ってた!! 転移者とか転生者には、よく出るんだよ!! それを見分けられるのがバチアールなんだ!!」
「アルカナって? どうしてそれが特別なの?」
『シャーーッ!!』
「知らない!! ただ、凄い力があるって、でも無理に言うことをきかせようとすると、ゼックスみたいに凶暴化して手が付けられないから自由意志を尊重するん、があああああああああ!? なんで、喋ったのにぃいいいい!!」
「ムカついたから」
アシェルの八つ当たりメタモルフォーゼキックが再び炸裂する。どうやら、ゼックスには完全に命令を下せていない状態だったようで、帰還したアシェル達に対して命令を無視しても突っ込んできたのはそういう理由があったようだ。それを聞いてアシェルは苛立ちが半分、安堵が半分といった具合の気分になった。
「……つまり、ゼックスは言うことをきかない状態だったから……強制奉仕とかには、使われてないってことね」
『ま~お?』
「はぁ……はぁ……!! きょ、強制奉仕……? そんなことしたら、洗脳が解けるって……。でも、使い物にならなくなった猟犬は、手足を切断してそういうのに、あ、がっ――――」
「あ、今のは力が入りすぎたわ。完全に潰れたと思う」
『…………あ、気絶してる~! アーシェ、やり過ぎ~!』
「つい力が入っちゃったのよ……。イラッとして……。絶対に、赦せない……クソッタレの中央教会……!!」
アシェルが遂に完全なるメタモルフォーゼを遂行してしまった。ユウキくんからユウキちゃんになってしまった彼――もとい彼女は痛みの限界を突破して気絶し、潰れたカエルのようになって地べたに這いつくばっている。これを回収して連行するのも嫌なものだが、それは仕方ないことだと割り切って手を伸ばした、その時……。
「――――クロバネ!! やっつけたのね!! こっちから凄い声が……え、なにこいつ? なんで脱いでるの!?」
「ゼックス! こんな汚いモノ見ちゃダメよ、目に悪いわ」
『ま~お』
「レイチェルちゃん、無事だったのね! 心配したわ、猫ちゃんに怪我がないかって……」
「あ、そうだ」
潰れたカエルの絶叫を聞いて、ゼックスが駆けつけてきた。攻撃が止んだ後にあれだけの絶叫だったので、クロバネが犯人を撃退したと見てこの場にやってきたのだろう。
アシェル的にはこの光景を見せたくなかったのだが、それはそれとアシェルに良い考えが浮かんでしまったので、ゼックスの到着は何も悪いことばかりではないなと前向きに考えることにした。
「このネックレス、着けてくれる? 多分誰でも使えるタイプのマジックアイテムだから」
「え? うん……? 別に良いけど……あ、それさっき私が着けてた首輪とシンボル!」
「リペア」
アシェルに浮かんだ良い考え。それは、主従の逆転である。
ゼックスに着けられていた洗脳の首輪と隷属のシンボルをリペアの魔法で修理し、それを今度は潰れたカエルに装着する。反対にゼックスは狩猟者の証を首から下げ、猟犬から主へと下剋上に成功した。
「ゼックスの言うことには絶対服従。誰にも危害を加えることは赦さない」
「え、これってもしかして、言うことをきかせるやつ? あたし、こんな汚いの要らないんだけど」
「力を返せって念じてみて。多分、ゼックスの力はこいつが奪ったのよ。恐らく記憶もその時に……記憶の方は戻ってこないかもしれないけど」
「ええ!? 本当!? でも、この不思議な力までは吸い取れなかったんだ……。あたしの力、返しなさいよ!! この卑劣漢!! 変態襲撃者!!」
「う゛……!? はっ……!!」
ゼックスの鋭い蹴りで意識を取り戻したユウキは、一か八かの賭けに出た。全裸ではあるが、今ならもしかしたら逃げ出せるかもしれない、と。レベルだけは高かったので、身体能力任せに走り出せば逃げ切れる可能性があるかもしれないと。しかし、あてにしていたレベルはまさに今、ゼックスへと返還が完了したところであった。
「あ、あっ!? うわああああ!!」
「何逃げ出そうとしてんの変態!! おすわり!!」
「うわあ、あああ! なんだこれ、体が、勝手に動く!!」
「あ~もう、気色悪い!! でも、凄く力が湧いてくるわ!! 記憶は、全然戻らないけど……」
記憶が戻らないのではなく、記憶がないのでそこは仕方ないのだ。なんせ、記憶を奪われたというのはクロバネの嘘。元からないものは奪いようがない。しかし、ユウキが奪ったレベルのほうは元々ゼックスのものであった可能性が高いので、そっちは返して貰って問題ないだろう。
「正常に作動するようね。こいつが森で商人狩りをしていた犯人……私は商人ギルドからこれの討伐を依頼されていたのよ。今から商人ギルドへ報告に戻るけど、ゼックスはどうする?」
『ま~お!』
「あたし、行くあてないし……。それになんだか、クロバネって色々と知ってそうだし、あの気持ち悪い集団……あれ、本当に教会なのよね? 全部知りたいの。連れていってくれる?」
「私は構わない。レイチェルも、良いって。随分と貴方のことが気に入ったみたいね」
『みゃ~!!』
「本当? やった! ねえ、帰り道はレイチェルちゃんを抱っこしてても良い?」
「引っ掻かれないように気をつけてね」
「うんっ!! えっへ、レイチェルちゃんおいで」
『んみゃ!』
「お、俺は……あがっ……!!」
「喋るな変態。あたしが良いって言うまでずーっと喋らないで。耳が腐りそうよ、気持ち悪い!」
こうして、見えざる森の襲撃者……。中央教会の暴走した子飼いを確保したアシェル達はラビリスへと戻ることにした。この後襲撃された馬車がアシェル達を心配して戻ってきたので、襲撃の証人として同行して貰えないかと説得し、全員から賛成を得られたので帰還することとなった。
なお、ユウキの状態を見た男性陣は、全員が『絶対にこの子達には逆らわないようにしよう』と心に誓ったのは、もはや言うまでもないだろう。




