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冒険者アシェルは特異点 ~サキュバス×レベリング!~  作者: エリーゼ
第一章 東塔のダンジョン編

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023 "差"

 アシェルはこの1年の間に何があったのか、アシェル達が居ない3年の間に何があったのか。この都市が迷宮都市ラビリスと呼ばれるようになり、急増した冒険者に対応するため新たに建造された大きな冒険者ギルドの内部にて、情報のすり合わせ作業が行われていた。

「東塔のダンジョン……。なるほど、大至急立入禁止としましょう。危険過ぎますね」

「おいおい、アシェル達の話が本当だって確証は? 証拠はあるのかよ?」

 まず、アシェル達の出した情報から。

 あのダンジョン、東塔のダンジョンはアシェル達が踏破し、ダンジョンの支配者を倒したという話をした。その際、破滅の泉(・・・・)という存在がダンジョンを乗っ取ったため、今は全くの別物……。入ってきた冒険者を徹底的に破滅へと追い込む最悪のダンジョンになっているだろうという情報を話した。なお、ミダスに関してや、クロバネに関する話まではしていない。

「……アシェル君達は元々、鉄級冒険者だ。君達のような銀級、金級よりも下の階級のね。俺もこの3年間でかなり強くなってさ、今では白金級なんて座に辿り着いた。仲間のエミとゴリオと一緒にね。あーなんだ、その……。俺が言いたいのは……」

「ハヤトと私、それにゴリオと……ここに居る全員が束になってアーシェと戦ったとしても、私達には万に一つも勝ち目が見えないって言いたいの!!」

「うむ……。3年前のアシェル君達とはまるで別人だ。性別まで変わっているように見える……」

「アーシェは元々女の子よ!! 立派過ぎるレディになって帰ってきただけで!!」

「え、そうなのか!?」

「そうだったのか……。すまん、熱が出て寝込みそうだ……」

 この3年間で変化があったのはアシェル達だけではない。金級冒険者だったハヤト達の黒鉄の剣パーティは白金級冒険者に昇格し、この都市の話を聞いて集まった白金級以上の冒険者達と肩を並べて活躍しているのだ。そのハヤト達であっても、今のアシェルには束になっても勝てないと実力の差を悟り、『つまりあのダンジョンを踏破したのは本当なのだ』ということを遠回しに言っている。

「それにしても、なんでアイヴィちゃんはローブで全身を隠してるんだ?」

「魔族で、しかも神聖魔法が使えてしまう。ここまでバレているなら隠す必要もないと思うが……」

「アイヴィの姿を見たら、全員正気では居られないと思うがね。この私が一瞬トキメキを感じた程だよ」

「あのハヅキが……!?」

「おいおいハヅキが女に……!?」

「そりゃ、ヤバい……」

「俺達が見たら、見た瞬間に理性のない獣になるんじゃないか……?」

「そんなに美人なのかよ!! 見てえよ!! 脱いでくれーー!!」

「やだーー♡ アーシェとの約束だもーん♡」

「お゛……♡」

「いかん、声だけで魅了された奴が数人居る!! 叩いて目を覚まさせろ!!」

 冒険者ギルドのマスターであるハヅキは、女性に性的な興味がなく、中性的な容姿の男性との付き合いをヨシとする男色星人だ。今のアイヴィは、そんなハヅキすらも一瞬魅了しかける程の魅力を持つサキュバスになってしまっている。もし、耐性がない者がアイヴィを直視してしまったら、男としての本能を果たそうとする獣に変わってしまうのは目に見えている。実際に今、アイヴィの声を聞いただけでチャームにかかった冒険者が数人発生した程だ。

「――――身内の仲良しごっこはそのへんにしてくれませんか?」

「こっちは中央教会から派遣されて、ダンジョンの情報を共有してこいと言われて渋々やってきたんですのよ? 無駄話はその辺りにしてくださる?」

「第一、身内贔屓の話ばっかり。本当にその女達強いの? よいしょよいしょして、ダンジョンを独占したいだけ。そう聞こえる」

「あたし達もさぁ、暇じゃないわけ。ねえねえユウキー。あの女達の話が本当なら、あたし達なんて敵わないわけじゃなぁ~い?」

「そうだね。僕達は中央教会が認めた導きの戦士、光剣の聖戦士(・・・・・)だ。実力は白金級よりも上、金剛石級とされている。そんな僕達が勝てないのなら話は別だけど、正直彼女達はそこまで強そうに見えないね」

 異常な盛り上がりを見せる中、空気を凍りつかせたパーティが居た。光剣の聖戦士と名乗る4人組で、ユウキという男をリーダーとしたハーレムパーティのようだ。アシェル達が帰還した時には別のダンジョンに潜っていたようで、あの場で起きたことを全く知らないらしい。故に、アシェル達の話に関しても全く信用しておらず、東塔のダンジョンを独占するための口実と思っているようだ。

「僕達はね、女神から強力なギフトを授かった。最強の4人と言われているんだ。彼女達は……何かギフトがあるのかい? 3年前の登録時には、ギフト未検出だったらしいじゃないか」

 3年前にギフトを所持していたのはアイヴィだけであるが、そのギフトが強力過ぎるが故に検知されず、ギフトなしの従魔として登録されていた。何処からその情報を得たのかは謎だが、どうやらユウキ達の間では『ギフトなしは雑魚』という認識が常識となっているらしい。

「初めまして、ユウキさん。アシェルと申します。握手ぐらいは、してくださいますよね?」

「ええ、女性との握手を拒むような野暮な男ではありませんよ。光剣の聖戦士、リーダーのユウキです。よろしく」

 これは罠だ。アシェルが仕組んだ狡猾な罠。

 アシェルは、触れたものの情報を得ることが出来る腕輪を貰ったばかりなのだから。


◆ ◆ ◆


 【ステイタス】

Name:ユウキ

True name:ユウキ・アイバ

Lv (成長度):30/50


STR (筋力):24

CON (体力):23

POW (精神力):8

DEX (敏捷性):18

APP (外見):10

SIZ (体格):身長175cm

INT (知性):8

MAG (魔力):10

EDU (教育):7


ギフト

・転移者:異世界【ニッポン】から転移してきた者

・戦車のアルカナ:筋力、体力が上昇し、物理攻撃に強い耐性を持つ


スキル

・ホーリースラッシュ:信仰系、聖なる斬撃を飛ばす

・ハイスラッシュ:強力な斬撃

・スマッシュ:強力な打撃

・シールドバッシュ:盾での殴打


特殊な装備

・聖戦士の剣

 ┗ホーリースラッシュの射程が伸びる


◆ ◆ ◆


 なるほど、強気な態度を見せるには理由があったらしい。ユウキは転移者であり、異世界のニッポンという場所からやってきた男のようだ。スキルも装備との噛み合いが良く、その威力を発揮しやすいステイタスもしている。物理攻撃に対しての耐性も、威張り散らすには申し分ないギフトだった。口だけの男ではなかったようだ。一般的に見れば、化け物の領域に入っている強さだろう。

 一般的に見れば、だが。

「30」

「へぇ~!」

「30……? なんのことだい?」

 ユウキは『30』という数字を言われてもなんのことだかわかっていない。ユウキが居た世界には人間自体にレベルというものは存在していなかったが、楽しむために用意された仮想の世界にはレベルというものが存在していた。レベルという概念自体は知っているものの、この世界にはそれがないと思いこんでいるので、まさかレベルの話をしているとは夢にも思っていない。

「あ、年齢ですか? そんなに老けて見えるかなぁ? 僕はまだ20歳ですけどね? あ、今年からお酒が飲めるなーなんて思ってたんですよ。この後ゆっくり、どうですか?」

「強さが知りたいのよね」

「え? 今握手した感じ、貴女の手ぐらいなら簡単に握り潰せるなーなんて思っちゃったりして! あははは!! 次元が違うんですよ、ギフトなしとギフトありって!!」

 なるほど、確かにギフトありとギフトなしの差は非常に大きいだろう。最も、これは数と質の話をしているのだが。

 それにアシェルは、ギフトの数と質の差が絶対的な実力の差ではないことを痛感している。どれだけ強力なギフトを所持していたとしても、油断や慢心、横着や傲慢で簡単に命を落とす。一度右腕を失い、クロバネにもう一度チャンスを与えて貰ったあの日、アシェルの中からそれらの言葉は消えてしまった。アシェルの中にあるのは『徹底的に全力で叩き潰す』という確固たる意思、純粋なる殺意だ。

「アシェル君……。やる気、だね?」

「ハヅキさん、どこか良い場所はありますか?」

「え? いやいや、今の流れ聞いてました? 僕ってギフト持ちで」

「だから?」

「え? え、いや……ギフト持ちなんで、相手にならないっていうか……」

「それは? 貴方達が信仰している女神とやらがそう言ったの?」

「…………」

 アシェルの純粋な殺意がユウキに突き刺さる。ギフトの差が実力の差などと考えている輩は、完全にアシェルの敵なのだ。ユウキはアシェルの敵として認識されてしまったのである。

「アシェル君、冒険者同士の力量を知るためにね、中央冒険者ギルドが魔法の訓練場を作ってくれているんだよ。そこはね、致命傷を負うと入場した時と同じ姿で外に叩き出されるという加護がかけられているんだ」

「殺しても問題ないのね」

「そう、なるね。だが……手加減して(・・・・・)欲しい」

 ハヅキは既にアシェルの異常さに気がついている。ハヅキとて全盛期は名のある冒険者で、今でも現役の金級や白金級の冒険者とはまだやり合える程の実力は有している。

 そのハヅキが、襲撃してきたゼックスをどうやって撃退したのか、全く見えていなかった。

 ハヅキは本能的に悟った。アシェル達がその気になれば、この都市の誰も彼女達を止めることが出来ず、簡単に滅ぼされてしまう可能性がある……と。ハヅキの生存本能が、全力で警鐘を鳴らしているのだ。

「さっきから黙って聞いていればなんですの!? わたくし達は全員がギフトを授かった最強の聖戦士ですのよ!?」

「そう。最強」

「あたし達とやろうってわけ? 上等じゃん!! ねえ~ユウキ~アイツらボコボコにしてさぁ、召使いにでもすれば~?」

「まあまあ、彼女達は東塔のダンジョンの踏破者だよ? 自称、だけどね? 3年振りに運良く帰還した、凄い冒険者さ。そんな功績を持つ彼女達を召使いなんて、そんなそんな……あはは」

 光剣の聖戦士の4人組もやる気満々だった。まさか自分達が負けるはずがないと確信し、アシェル達の帰還は『運良くダンジョン内を逃げ回り続けて脱出してきた』と思っている。

「運が良かったのは認めるわ。環境に、恵まれたのよ」

「うんうん~♡」

「へえ~。でも、僕達には運では勝てないと思うけどね」

「悪いことは言わない。止めておけ……」

「あんた達じゃ、アーシェに勝てないわ。だって私達、あんた達に勝てるもの」

「うむ……」

「あ゛あ゛……!?」

 普段温厚そうに愛想笑いを浮かべているユウキだが、本性は今しがた見せた下衆の部分だ。相手に見下されることを極端に嫌い、劣等感を抱えて生きてきた反動から相手を逆に見下すことに快感を覚え、持ち前のギフトでやりたい放題するのが至高の喜び。そんな性格の者が4人集まっているのが、中央教会お抱えの転移者パーティ……光剣の聖戦士なのである。

 なおこれは余談だが、ハヤト達は白金級、ユウキ達は金剛石級相当で1つ上の階級とされているが、ユウキ達の方は中央教会の贔屓によるランク付けである。

「場所を移しましょう。ハヅキさん、見物席はあるの?」

「ええ、ありますよ。さあ、アシェルさんとユウキさん達の戦いを見たい人は、訓練場へと移動してください」

「僕達も移動しようか……。なんだか、ちょっと気分が悪いね」

「行きましょ、ユウキ!」

「行こ」

「あたし達の実力を見せて、ギャン泣きさせてやろうよ~」

 今、ハヅキはさらりと言った。アシェルさんと(・・・・・・・)、ユウキさん・・・・・・の、と。ユウキ達を倒すのに、アイヴィの参戦は不要だと、そう言ったのだ。

 しかし、ユウキ達はその侮辱に対して気がついていない。そしてここに居る誰もが、アシェルとアイヴィ、ハヅキを除く誰もが、2対4の戦いになるのだと思って訓練場へと移動している。

「観覧席はここから上に。アシェルさんは中へ、さあユウキさん達もどうぞ。では、アイヴィ君? 私と一緒にアシェルさんの戦いを観戦しようか」

「うん~」

「は? 何を言ってんだあんた……あ、ああ! 何を言っているんですか? アシェルさんと、僕達4人? どういうことです?」

「あんた達に実力を見せると言ったのは私だけよ。アイヴィは言ってない。それに……私だけで十分よ」

「なんだとぉ……!?」

 ユウキがそのことに気がついたのは、訓練場に辿り着いてからのことだった。新しく建てられた冒険者ギルドの裏にある訓練場は広く、レイモンが居た大部屋の半分程ではあるが、十分に広さが確保された訓練場となっていた。

「あの女! ぎゃふんと言わせて差し上げますわ!!」

「なぶり殺し~けって~」

「致命傷にならなきゃ出ていかないんだよね? じゃあ、致命傷にならないぐらいにボコボコにすればいっか~」

「美人だからって手加減して貰えると思うなよ? ()は女でも平気で殴れるんだぜ?」

「…………」

 アシェルはこれでも殺意を限界まで抑えている。訓練場の中に入って、これから戦闘するぞという場面まで、その殺意を解放することは決してない。これが油断や慢心といった言葉が消えている冒険者の姿……能ある鷹は爪を隠すとはよく言ったものである。

「それでは、二手に分かれて。敗北はどちらかの全滅、良いですね? それと、アシェルさんの実力を思い知ったのであれば、今後余計な口出しはしないと、我々と女神様に誓えますね?」

「あーあーそのぐらい別に良いですよ! じゃあ逆に俺達が勝ったら、今日この女を好き放題しても良いですよねぇ? 勝者の特権だろ!?」

「なんと下衆な……」

 なんとも下衆な申し出だが、アシェルはこの発言に眉一つ動かさず言い返す。

「別になんでも良いわ。じゃあ、勝った方は勝者の特権を行使出来るということね」

「ああそうだよ!! じゃあこれで成立したな!! ホーリースラ――――」

 ハヅキの開始の合図も待たず、ユウキが不意打ちの先制攻撃を仕掛けた。卑怯で下衆な攻撃だが、実際の戦闘にも始めの合図は存在していない。これはこれで、ある意味では正しい開戦なのかもしれない。

 だが、不意打ちの先制攻撃を仕掛けたところで、結果は何も変わらないのだ。

「伏せ」

「え」

 ユウキの背後から唐突に、グシャリという音が聞こえた。巨大なトマトでも潰したかのような赤い何かが飛び散ったと思った時には、訓練場の外に魔法使い姿の女が弾き出されていた。魔法使い姿の女はしきりに自分の頭部を確認し、先程の『地面に頭が叩きつけられて潰れた』という現象から、訓練場が命を守ってくれたことを確認し続けている。

「なんですの、今」

「あたしの」

「伏せ」

 今度は同時に2つ、グシャリという音が聞こえた。女騎士を彷彿とさせる姿の女と、弓使いの女が訓練場の外へと弾き出された。この2人も頭部をしきりに確認し、先程潰されたものがちゃんと付いているかどうかを怯えた手つきで何度も確認し続けている。

「え……。え、え……」

「伏せ」

 後ろを確認する暇もなく、今度はユウキの頭部が背後から鷲掴みにされる。瞬間、抗うことの出来ない重力。それはまさに、超重力と呼ぶのに相応しい程の怪力だった。

 まるで犬の躾でもするかのように、たった一言『伏せ』と命じられ、頭を地面に叩きつけられる。礼儀を欠いたことへの躾、その教育費は頭部の圧壊という形で支払われることとなった。

 グシャリ。やや頑丈なトマトが、いや……中身が詰まっていないのでピーマンだろうか? 潰れたものが一瞬飛散し、それはすぐに復元されて訓練場の外へと弾き出された。ユウキもまた、怯えた手つきで潰されたものをしきりに確認し続けている。

「まだやる? 100回やっても100回勝てる。1000回やっても1000回勝てる。まだ、やる?」

 アシェルの瞬間移動としか言いようがないスピードをなんとか追えていたのは5人、ギリギリ確認出来たのは3人だけだった。ハヤト達は後者の3人で、ハヅキとアイヴィは前者の5人の中に入っているほうだ。

 ではもう3人は? それは、今しがたダンジョンから帰還したら、何やら面白そうなことが始まっていたので野次馬にきた、金剛石級に最も近い白金級冒険者パーティ、青い夜風の3人組だった。

「ありゃかなり手加減したな」

「スキルの発動、誰か確認出来まして?」

「あーしは確認出来てないな~。多分純粋な身体能力だよ~」

「ユナが確認出来ないなら、そういうことだな。ありゃヤバい、バケモンだ。勝てるビジョンが見えねえ」

「あの子達が、さっき噂されていた東塔の帰還者ですわね。あれ程の実力が底で、3年掛かって帰還できる程のダンジョン……」

「あーし絶対行きたくない。無理。南塔に行こ?」

 ドラゴンスレイヤーのような極大剣を背負った屈強な戦士の男、細剣を腰に下げた如何にもなご令嬢、派手な見た目の斥候らしいユナと呼ばれた少女、この3人は今の戦いを目で追えていた。いや、戦いとは言えない、蹂躙……? 駆除……? そのようなものであったが、とにかく目で追うことは出来ていたのだ。

 体が反応するかは別として、だ。

「勝者、アシェル。さて、勝者の特権を行使出来る約束……だったね?」

「ええ、そういう約束」

「え、あ、そそそれは、こっちの話じゃ……」

「この訓練所にはね、戦闘の動きを確認するために中で起きたことを記憶出来る機能もあるんだよ、ユウキ君。ほら、ここだ」

『――じゃあ、勝った方は勝者の特権を行使出来るということね』

『ああそうだよ!! じゃあこれで成立したな――』

「ほら、ね?」

 ユウキ達はこれまで散々イキリ散らして生きてきた。ギフトを絶対のものと信じ、自分達は最強だと疑わなかった。実際それなりに実力があったからだ。

 しかし、それに慢心した。慢心とは、如何なる強力な生命体をも弱体化させる、超強力なデバフである。

「特権行使、東塔のダンジョンへの入場禁止。貴方達では、破滅の泉に飲み込まれるだけよ」

「だ、そうだ。ユウキ君、今の映像は中央教会にも送らせて貰うよ? 入場禁止に至った経緯を、説明しないといけないからね?」

「ユナ、ジュリ、俺達も東塔には行かない。良いな? せめてあのアシェルちゃんの底に追いつくまでは禁止だ」

「ええ、構いませんわ。エンドの意見に賛成ですわよね?」

「あーしもそれでオッケ~。追いつけるかな~」

 青い夜風のメンバーは身の程を弁え、相応の実力が付くまで絶対に近付かないと誓ったようだ。これが金剛石級に最も近いパーティ、慢心のなさは強力なバフなのだ。

「ハヤト、東塔は駄目。それで良いわよね?」

「絶対に行きたくない。俺達じゃ死んで模倣体になるだけだ」

「うむ……。アイヴィ君は、アシェル君が何度か死にかけたとも語っていた。あの実力で、だ。その意味が理解出来る者は、絶対に近付かない」

「ゴリオの言う通りだ。アシェルのあの力は、限界まで手加減して多分アレだろ? 全力で戦って死にかける? 無理だ、絶対に」

 黒鉄の剣のメンバーも冷静だった。ただ、口では無理だ無理だと言っているが『いつか俺達も……』という闘志はメラメラと燃えたぎっている。冒険者の成長とは闘争(・・)逃走(・・)にある。戦い、逃げ、戦い、逃げる。その繰り返しの経験が、冒険者を強くするのだ。

「アーシェ!! やっぱり強いねー♡」

「こらこら、観客席から飛び降りないの。はしたないでしょ」

「お兄さん達、弱かったね~。あ! 僕達は暗いところでも全然戦えるから、また戦いたい時は夜でも良いよ~♡」

「馬鹿に……!!」

「ひっ……!!」

 アイヴィはニコニコとしながらアシェルのところへと飛んできて、夜でもかかってこいなどとユウキ達に言っているが、この言葉を侮辱と捉えたのはユウキだけであった。アイヴィにはそんなつもりは全くなかったのだが、ユウキ以外には『夜道に気をつけろよ、お前達ぐらいいつでも殺してやれるぞ』と聞こえてしまったのである。

「ユウキ!! 帰る、帰る!! 帰る帰る帰る帰る!!」

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……!?」

「待って、置いていかないで!! 待ってぇえ!!」

「く、うっ……!! うわあああ!!」

 ユウキ以外のメンバーの女性3人組は情けなく這いつくばるように駆け出し、教会の方角へと走っていった。ユウキは捨て台詞が思いつかなかったらしく、言葉にならない言葉を発しながら彼女達を追いかけていく。長らく彼らがイキリ散らしていたのが気に食わなかったのか、冒険者の中には今の光景を快く思って大爆笑している者さえ居た。

「――――お前達が強くなったわけではないぞ!!」

「…………ッ!」

 これを叱咤したのは、ギルドマスターのハヅキであった。

「彼らがアシェル君達に負けた、アシェル君達が彼らに勝った。だからと言って、お前達が強くなったわけではない!! 確かに彼らの振る舞いは目に余るものがあった。しかしそれは、それ相応の実力があったからこそギリギリ赦されるものだった。まあ、赦して良いものではない行為も多々あったが……。だが!! 君達は、彼らを笑えるのか? 君達は、アシェル君達よりも強いのか? 私よりも強いか? 金級は? どれだけ居る? 白金級は!! 金剛石は居るのか!!」

 ハヅキの怒りは、向上心がない冒険者へ向けたものだった。アシェル達に負けたユウキを笑える程、お前達は強いのか? 成長しているのか? 向上心はないのか? そう伝えたいのだ。

「この3年の間に、この迷宮都市には4つのダンジョンが出現している。東西南北それぞれの監視塔に1つずつ!! 東塔以外の踏破者は、未だに存在していない!!」

「確かに……」

「笑えるような立場じゃねえな……」

「強者に甘えるな!! 本当の危機に直面した時、己の身を守れるのは己のみと知れ!! 進め! 立ち上がれ!! 冒険し、何度も挫折し、立ち上がり、進み続けろ!! お前達は、冒険者だろうが!!」

 反論出来る者は誰一人存在していなかった。唯一反論出来るのはアシェル達ぐらいなものだが、アシェル達もまた先程の嘲笑の渦には不快感を感じていた。

「お前達は今、東塔のダンジョン……忘れられし黄金郷、今は破滅の泉なる邪悪が支配するダンジョンを攻略した最高峰の冒険者の力の一端を見た。全員がこうなれとは言わない。だが、求めろ!! 自分の限界を自分で作り出すな!! 理解出来たのならこれで解散だが、意見がある者は武器を手に取り、かかってこい!! 私が相手になってやる!!」

 繰り返すが、ハヅキは今でも白金級冒険者と渡り合える程の実力を持つギルドマスターである。それは『単体で』の話であり、白金級冒険者パーティを1人で相手しても対等に戦える程の実力、という意味である。ハヅキがここまで激昂するのは非常に珍しいことで、これまでハヅキが感情を高ぶらせたのを見たことがないという者も多いほどだ。

 それほどまでにギルドマスターは怒り、現状を憂いている。これが理解出来ないようであれば、冒険者を卒業して静かに暮らしたほうが身のためだろう。

「ありがとう、ハヅキさん。言いたいこと、全部言ってくれて」

「…………汚れ役は、私の仕事だからね。君は、君達は、希望だ。模範だ。冒険者の指標だ。君達に怒りの矛先を向けられては、たまったものじゃないからね」

「格好良いね~♡」

「お……。いかんな、私ともあろう者が、君相手だとトキメキを感じる。君の声は危険だね……」

 ハヅキに意見があるものは誰も居なかった。それぞれが再度冒険者として何を目指していたかを思い出し、再び目標へ向かってその道を歩み始めた。

 冒険者は立ち止まって休んでも良い。時には危険から逃れるために逃げ出しても良い。だが、後退してはならない。危険から逃げ出すのは後退ではなく、安全への前進。未来への前進だ。危険だからと挑戦しなくなるのが後退なのだ。それはもう冒険しているとは言えず、もはや冒険者を名乗る資格は存在していない。冒険者たるもの、前進あれ。

「ところで……。アシェル君、是非……手合わせ願いたいのだが」

「……構いませんよ。アイヴィは同伴しますか?」

「いや、アイヴィ君が本気を出したら、私は手足の自由を奪われて成すすべがないだろう。純粋な強者の暴力というもの、それを知りたい。いや、思い出したい……!!」

「それなら、手加減しませんよ……」

 見物人がほとんど帰った訓練場で、こっそりと第2回戦が開催される。今度のアシェルは手加減無し、本気で勝負(・・)する気のようだ。先程のような()とは違う、本気の戦いである。

「ヤバいな、残ってて正解だったか。そう思うだろ、ハヤト」

「エンドさん、俺達もアシェルに……いや、アシェルさん? アシェルちゃん……?」

「アーシェに一戦挑みたいんでしょ? わかりやすいのよ、ハヤトは」

「うむ……」

「あーし達が6人束になっても傷一つ付けるのがやっとだと思うけど~」

「傷を付けられたら勝利という条件ならやりますわ」

 見物人は、何か面白いことが始まりそうだと察知した白金級の6人のみ。アシェルとハヅキ、実力未知数同士の衝突が、今……始――――。

「ハァッ!!」

「シルフィード」

「アアアアアアアアアアアアアアア!?」

 ――――まり、今……。終わった……。

「ぶ、分身した……!?」

「幻影だ。あまりにも速すぎて残像が出てるんじゃない。あれはスキルによる幻影、それも質量を伴った幻影だ!」

「じゃあ分身じゃないの!!」

「あーし達6人でも、分身が2体だから3体6で、あれ? 不利? 有利?」

「1対6でも無理ですわ」

「うぅむ…………」

「ぴぇ……!!」

「ギルマス、今……ぴぇって……」

 ぺしゃんこにされたハヅキの体が復元され、訓練場の外で情けなく転がっている。ハヅキは全盛期の感覚を取り戻すどころか、初心者時代に味わった恐怖を、思い出すこととなってしまったのであった……。


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― 新着の感想 ―
許されないのも多々あったって秒で矛盾してる⁉ とか笑ったのって実力に対して?身の程わきまえないレベルのイキりかまして格上に喧嘩売って~って愚行と無様さに対してじゃなくて?論点ずらしてやり込めようとする…
いい具合のかませでしたねぇ(´ω`*) でも自分が強くなった訳ではないだろうと周囲を一喝するハヅキさん、カッケェ✨ ‥‥まあ、手合わせはね。。。練磨されまくったシルフィード初見で対応は同格でもキッツイ…
スレンダーだろうがムチムチだろうがどっちも良し!! ハヅキが女にトキメキを?! 明日大雪ですね。 凄いかませ出てきたな……ばーwww 今回のハヅキもうめちゃくちゃだよぉ…… お"っ" ……ふぅ、今回…
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