019 慢心なき鉄級冒険者達
『ガアアアアア!?』
「伏せ。ドラコストライク」
「どらこ、すとらぁああいく!!」
『ガアア、アアア……』
今日も東塔のダンジョンの下層に、ドラゴンの悲鳴が響き渡る。
「デッドエンド!!」
『…………――――』
「ファイアボール!!」
不意打ちで脳天を潰され、龍殺しの極大剣が突き刺さった頭頂部からファイアボールが叩き込まれる。脳を破壊された上に焼かれて無事な生命体はほとんど存在しない……。今日も傲慢なドラゴンは、傲慢故に命を落とすこととなった。
「油断しないで。脳死しても動くかもしれない」
「これまでそれで動いたことないよ~」
「今回はあるかもしれない」
「アーシェは慎重だね~」
「もう右腕を失うわけにはいかないもの」
「あっ…………」
「そ、そんなつもりじゃなかったの。ごめんなさい」
「ううん、僕のほうが悪いこと言っちゃった。ごめんなさい」
「…………じゃあ、おあいこね」
「うん!」
通路の魔物を狩り、リッチーを狩り、ミノタウロスを魅了して宝箱を開けさせて処理したり、ハイリザードマンに奇襲したり奇襲されたり、ドラゴンを一撃で葬ったり……。アシェル達は毎日のレベリングを効率的に熟していた。この流れを1日3セット、およそ4時間毎にレベリングへ出かけて、ハイリザードマンの死体を必ずドラゴンの側に置く。ミダスの食器を使ってバランスの良い食事を心がけ、残った12時間はおよそ6時間ずつ睡眠を取る。
「今日はこの本にしようっかな~♡」
「今度は魔法書だと良いわね」
「魔法書じゃなくても、メガネ先生が隅から隅まで解読に付き合ってくれるせいで、たまーにレベリングサイクルが崩れるよね~」
「アイヴィが途中で起こしてくれれば良いのだけど」
「快眠の外套で作ったベッド、寝心地が良すぎるせいでアーシェ起きないんだもん」
アシェルが簡易で作ったベッドは、快眠の外套というマジックアイテムで作られていた。この外套に触れた者は良質な睡眠を得ることが出来るが、独りでに起きることが難しくなるという困ったアイテムだ。ただ、この外套のベッドでなければアシェル達は警戒が解けず眠ることが出来ないため、これを使わないという選択が出来ないのが現状だ。
「あ……。このドラゴンで、1000体目よ」
「ええ~もうそんなに倒したんだ~。毎日毎日頑張って倒してるもんね~」
「…………」
このドラゴンで1000体目。休息日は1体も狩らず、いつもの日は3体ずつ討伐している。
――――もう、1年以上経過しているということだ。
リッチー達が出現する部屋の奥の通路も確認しに向かった時あったが、そこにあったのは奥へ進む石板だけだった。つまり、この階層にはこれ以上の魔物が存在しておらず、アシェル達があの日に計画したレベリングプランは、一度も破綻せず今日まで続いているということである。
「最後にレベルを確認したの、いつだったかしら……」
「ん~……。ティルトウェイトを最後に撃った時じゃない? ドラゴンが400体目ぐらいの時?」
「部屋を出てすぐの場所にハイリザードマンとスライムが同時に出てしまった時ね。あれは驚いたわ……」
「うんうん! そこからはずーっと確認してない気がする~」
レベルを確認したのも、もう随分前のことになる。レベルの数値よりも自分の感覚を信じて戦っていた彼女達は、数字に踊らされないようレベルを確認していなかったのだ。今日は遂に、その封を破りレベルを確認することにしたらしい。
「ステイタス……」
「あ、見るんだ! 僕も見た~い」
◆ ◆ ◆
【ステイタス】
Name:アシェル
True name:アルシエル・ヴィンセント
Lv (成長度):66
STR (筋力):49
CON (体力):39
POW (精神力):42
DEX (敏捷性):67+40
APP (外見):20+5+15
SIZ (体格):身長165cm,B90cm,W56cm,H90cm
INT (知性):30
MAG (魔力):41
EDU (教育):51
ギフト
・勇敢なる者:不明
・泉の代償:APP+15、その魅惑的な体型を隠すことは出来ない。
・やり直し:クロバネより授かりし右腕。使用済み。
・龍殺し:貴方は龍を殺すことに長けている。
スキル
・スカウター9:斥候能力を発揮し、死角からの攻撃や僅かな異変も察知する
・エクセキュージョン4:相手を一撃で仕留めやすくなる
・シルフィード6:一時的なDEXの向上 (+50)、自身の幻影を作り出す
・デッドエンド4:致命的な刺突攻撃。一撃で仕留めやすい
・ストームブリンガー4:ズタズタに引き裂く嵐の如き斬撃
・ドラコストライク5:龍の一撃の如き強力な打撃攻撃
・ソニックブレード3:斬撃を飛ばす攻撃
・ステルス7:姿を隠し、匂いと音も消す魔法。朧鴉を使い続け獲得した
・リペア5:装備の修理魔法。秘匿された魔法書により修得した
特殊な装備
・ステイタスの腕輪:ステイタスを表示可能になる
・真・龍殺し
┣筋力+15
┣龍族を殺すことに特化した大剣。
┣勇敢なる者に力を与え、全ての龍を畏怖させる。
┗傲慢なる龍よ、我を恐れよ。我が主を恐れよ。
・魔法殺しの短剣
┣魔法生物を殺すことに特化した短剣。
┣魔法攻撃、魔法による妨害等に強い抵抗力を得る。
┗発動前の魔法陣を破壊出来る。
・黄昏と黎明の細剣
┣敏捷性+20
┣秘匿された情報を明らかにする。
┗自身の秘匿性を格段に向上させる。
・龍鱗の軽量盾
┣龍殺し
┣魔法殺しの短剣
┣黄昏と黎明の細剣:選択中
┣どんな武器でも収納出来る。残り1枠。
┗衝撃を非常に大きく緩和する。
・黒羽の戦姫・疾風
┣敏捷性+20
┣敏捷性に応じて幻影を発生させる。
┗日に数回、致命傷を避ける加護がかけられている。
◆ ◆ ◆
【ステイタス】
Name:アイヴィ
True name:アイヴィ
Lv (成長度):66
STR (筋力):35
CON (体力):55
POW (精神力):37+20
DEX (敏捷性):22+10
APP (外見):51+10+18
SIZ (体格):身長151cm,B102cm,W55cm,H101cm
INT (知性):55+30
MAG (魔力):72+10
EDU (教育):25
ギフト
・魔に長けし者:不明
・壁を破壊する者:不明
・分け与える者:獲得したものを親しい者達へ分け与えることが出来る
・愛される者:あらゆる者と友好関係を築きやすい
スキル
・ハイネスドレイン
・超核熱爆発2:最上級爆炎魔法。発動時にレベルを犠牲にして威力を増加させる。
・爆炎球体7:中級爆炎魔法。未だにファイアボールと勘違いして覚えている。
・解呪5:秘匿された魔法書で修得。あらゆる状態異常を解除する。
・秘匿9:存在の秘匿性を向上させる。
・超能力向上9:あらゆる能力を一時的に向上させる補助魔法。
・付与9:魔法を他者や物に付与し、条件を満たすと発動する。最上級魔法まで付与可能。
・美容術6:美容魔法と偽った最上級の神聖治癒魔法。非常に治癒が早い。
・魅了9:精神操作魔法。同性にも効き、効力が非常に強力。
・フライ:サキュバス固有のスキル。常時魔力消費なしで飛び回れる。
・バリアブレイク:バリア系を遠距離で破壊可能になる。
・マジックシールド3:魔法障壁盾を3枚まで展開出来る。強度も上昇した。
特殊な装備
・性十字軍の斧杖
┣知性+10
┣自らを愛せよ。
┣親しき隣人を愛せよ。
┗あーし、宇宙の真理を理解したわ……。ァィヴィは、宇宙ってこト……。
・朧鴉
┣敏捷性+10
┣魔力を込めると【闇雲】が発動し、姿を隠すことが出来る。
┗アイヴィ殿を隠すなんて、とんでもないことでござるよぉ!? しかし役目でござる……。
・暗黒教団の法衣
┣精神力+20
┣外見+10
┣魔力の回復を大きく上昇させる。
┗私のアイヴィに見惚れるが良いわ……。
・魔法障壁盾
┣魔力+10
┣魔力を込めると、強力な障壁盾を前方に展開する。
┣魔力を強く込めると、強力な障壁盾を全方位に展開する。
┗守護らねば、我らの可愛いアイヴィを……。
・賢者の教え
┣知性+20
┣隠されたものを見つけることが出来る。
┗なんなんだ、こいつらは……。
◆ ◆ ◆
「ん~……!!」
アシェルはアイヴィの装備を見て頭が痛くなったが、それ以上にレベルの上昇量に驚いていた。そしてステイタスの数値を見て、ずっと感じていた違和感にも合点がいったようだ。
「最近、ハイリザードマンの投擲攻撃が、凄くゆっくりに見えると思ったの」
「僕はね~、アンチディテクトと闇雲を使うと、ドラゴンの目の前まで行ってもバレないから強くなったのかな~って思ってた~」
「ドラゴンのお肉が、バターを切るみたいにスパスパ斬れるようになったわ」
「宝箱の中身が罠かどうか、わかるようにもなったよね~」
知らず知らずの内に多くのスキルを身に着け、知らず知らずの内にギフトまで獲得していたのだ。更にはマジックウェポンとマジックアイテムも成長しており、より強力な効果を獲得しているものも存在していた。
「あの宝石の宝箱から見つけた細剣で、ドラゴンすっぱり斬れちゃうんじゃない?」
「まさか、そんなことできっこないわ」
「やらなきゃわかんないよ~?」
「…………ちょっとだけよ」
しかし、数値を見てもどれほど凄いのかわからないアシェルは、数値からどれほどのことが出来るのかというところまではわからなかった。とりあえず試しに、偶然にも発見した細剣でドラゴンの死体を斬ることにしたようだが……。
「ストームブリンガー!!」
「え、あ、わぁああああああ!?」
「あ、あっ……」
アシェルがドラゴンスレイヤーで解体するのとほぼ変わらない斬れ味で、黄昏と黎明の細剣はドラゴンを輪切りに斬り裂いてしまった。あまりの手応えに驚きと戸惑いを隠せず、これほどまでに強くなってしまったのかという喜びと不安にも駆られていた。
「もう、下に降りて良いんじゃないかなぁ……?」
「…………そうね。いつまでもここに居ては、帰れない」
「僕ね、またあの人のシチューが食べたいなぁ」
「そうね……。ミダスの食器が出したものじゃない、本物の女将さんのシチュー……。食べに、帰りましょう」
望んでいたの力を得た喜びと、これほどまでの力を持ってしまったという不安。もはや、以前の鉄級冒険者のアシェルの姿はどこにもない。これが鉄級だと言うのなら、世の中の冒険者は石級を下回って砂粒級と言わざるを得ないだろう。
「良い、アイヴィ? 強くなったからって、油断しては駄目よ」
「うん……!」
「このドラゴンだって、あのハイリザードマンだって、とっても強いのは理解しているでしょう? でも、私達が凄く弱かった頃から負け続けている。どうしてだと思う?」
「能力を過信した、油断と傲慢!」
「そう。これだけ強いんだから大丈夫なんて考えは捨てて、常に相手のほうが強いと仮定して戦うの。私達は常に挑戦者であるべきなのよ」
「わかった! 僕、いつでもティルトウェイトを発射出来るようにしておくね!」
「そ、それはやり過ぎ……。でも、ないかしらね……。その精神が大事なのよ」
だが、これほどまでに強くなってもアシェルは慢心しない。ハイリザードマンやドラゴン達は教訓なのだ。どれだけ強くても、油断や過信、慢心や傲慢によって簡単に負けてしまう。彼らはアシェル達にそれを教えてくれた教訓なのだ。その教訓を忘れず、彼女達は遂に…………レベリングから、攻略へと移る決意をした。
「今回捌いたドラゴンと、金塊や装備も全部持っていきましょう。凄く大きなマジックバッグが宝石の宝箱から出たわよね? あれに全部詰めちゃうの」
「復元と傷直しのポーションと、ミダスの食器! それと、クロバネさん達の、遺品と遺骨だよね……!」
「ええ、全て持って行くわ。クロバネさん達は必ず、丁重に埋葬するのよ。ありったけの感謝を込めて」
「うん! 絶対連れて帰ろうね!」
「銀貨やマジックアイテムじゃない装備、クロバネさん達の物じゃないのは全部置いていくわ。それは、要らないと思うから」
「うん、わかった!」
必要なアイテムを非常に大きく性能の良いマジックバッグ――リュックサック程に大きい――に詰め込み、解体したドラゴンも丸ごと詰め込んで、アイヴィが全てを背負って出発の準備が整った。以前のアイヴィなら『重くて持てないよぉ~』と言っただろうが、もはや非力なアイヴィではないのだ。この程度の荷物なら、何も背負っていないのと同じように動くことが出来る。
「ブーストの魔法をエンチャントするよ! どの装備が良い? やっぱり武器?」
「この細剣にエンチャントして頂戴。エンチャントの効果切れは、大体10分よね?」
「うん。その都度かけ直さないとだし、1個までしか付与出来ないけど……」
「わかったわ。いつものルートだけど、いつもと違うのが居るかもしれないと思って、慎重に行きましょう」
「うん!!」
アシェル達は遂にこの階層を離れることにした。未だ見ぬ奥地へ、未踏のダンジョンの踏破を目指して。
――――今日は遠くから、怨嗟の声が聞こえる。
なんてことだ、行くな、行くな……。慢心してこのダンジョンで…………どうか死んでくれ、と。
だが、その声の主の願いが叶うことはない。アシェル達は決して慢心せず、傲慢にならず、油断なくこの先も進み続けるからだ。
彼女達の地上への帰還は、刻一刻と近づいている…………。




