018 ダンジョン&レベリング・9
「それより僕、なんか力が抜けちゃってぇ……」
「あれほどの威力の魔法だもの、ドラゴンが半分炭になってるし、魔力切れじゃない?」
「ううん、魔力はあるよ! まだもう1発撃てると思う!」
「どれだけ魔力があるのよ……。力が抜けたっていうのは気になるわね」
メガネやティルトウェイトも気になるところだが、それよりもアイヴィの状態が気がかりになった。体調が優れないわけではないらしく、どうにも体から力が抜けるような感覚に襲われているようだ。
「ステイタスを覗いてみるわ。何かわかるかも」
「うん~……」
そこでアシェルはアイヴィのステイタスを確認することにした。これで異変の正体が判明するかは不明だが、確認しないよりはしたほうが良いのは間違いないだろう。
◆ ◆ ◆
【ステイタス】
Name:アイヴィ
True name:アイヴィ
Lv (成長度):22
STR (筋力):9
CON (体力):15
POW (精神力):15+10
DEX (敏捷性):9
APP (外見):12+18
SIZ (体格):身長150cm,B94cm,W56cm,H100cm
INT (知性):14+20
MAG (魔力):24+5
EDU (教育):10
ギフト
・壁を破壊する者:不明
・分け与える者:獲得したものを親しい者達へ分け与えることが出来る
スキル
・エナジードレイン
・爆炎球体2:セリエから教わった中級爆炎魔法の強化版。ファイアボールと勘違いして覚えている。
・美容術:テオから教わった美容魔法。実際は割となんでも治る。
・魅了2:レオネから教わった精神操作魔法。同性にも効き、効力が強くなった。
・フライ:サキュバス固有のスキル。常時魔力消費なしで飛び回れる。
・バリアブレイク:バリア系を遠距離で破壊可能になる。
・マジックシールド:魔法障壁盾の術式を無意識に暗記し、自らのスキルとした。効果は同様。
・超核熱爆発:秘匿された魔法書で修得した最上級爆炎魔法。発動時にレベルを犠牲にして威力を増加させる。
特殊な装備
・性十字軍の斧杖
┣自らを愛せよ。
┣親しき隣人を愛せよ。
┗あーし、勉強とか無理なんですけど!
・暗黒教団の法衣
┣精神力+10
┣外見+5
┗魔力の回復を大きく上昇させる。
・魔法障壁盾
┣魔力+5
┣魔力を込めると、強力な障壁盾を前方に展開する。
┗魔力を強く込めると、強力な障壁盾を全方位に展開する。
・賢者の教え
┣知性+20
┣隠されたものを見つけることが出来る。
┗なんという頭の悪い斧杖。これは徹底的に教育が必要だな……。
◆ ◆ ◆
「さ、さ……!!」
「下がってる~!! 僕のレベルが~!!」
アイヴィの言う『力が抜ける』とは、レベルが下がっているということだった。ティルトウェイトは発動する時にレベルを減少させてしまう効果があるようで、この効果によってアイヴィのレベルが下がってしまっていたのだ。試し撃ちであっても発動は発動、問答無用でレベルが1つ下がっていた。
「これは、考えなしに使って良い魔法ではないようね……。そもそもあの威力だから、使い所は考えるべきなのは確かだけど」
「せっかくアーシェの役に立てると思ったのに~……」
「斧杖のおかげで私達には無害なようだから、私が苦戦している時や、どうしても無理と感じた相手には使って貰うかもしれないわね」
「ん~……。わかった~……」
アイヴィとしては、せっかく覚えた魔法がおいそれと使えないのは残念この上ないという気分だろう。しかし、これを考えなしに使い続けては上がるはずのレベルも上がらず、アシェルとのレベル差が開き続けるという現象が発生してしまう。この魔法は最後の切り札として使うのが望ましいだろう。
「それにしても、よくこの短時間で解読出来たわね。凄いわ、アイヴィ」
「えっへへ~……。う~ん、でももしかしたらなんだけど、短時間じゃないかも……?」
「え? 私がいつも寝てる時間は、大体6時間ぐらいだと思うけど」
「僕、お腹が空いてヘロヘロだから、6時間以上経ってると思う~……」
「…………昼か夜かもわからないから、どんどん時間の感覚がおかしくなってくるわね。このダンジョンに長居しないほうが良いかもしれないわ」
ここでようやく時間の経過に気がついた。アシェル達は『長くてもせいぜい10時間ぐらいしか経過していないだろう』と思っているが、実際はその4倍以上も経過している。あのメガネを使って学習に没頭している間は時間の経過を感知出来なくなってしまい、今回のようなケースに陥ってしまう。アシェルも急激な成長に体が悲鳴を上げていたため、今回のように睡眠時間が大幅に増えたのだ。この事実に彼女達が気がつくことは恐らくないため、ここに記しておこうと思う。
閑話休題。
このままこのダンジョンに残り続けるのは、昼夜の感覚がなくなり、人間としての正しい生活習慣を失ってしまうということにも繋がる。長居はしたくないが、このまま闇雲に突き進んでもいずれは転んでしまう。レベリング継続と前進の判断は難しいところだ。
「でも、レベルも上げないと……」
「そうね。だから、効率的なルートでレベリングをする必要があると思うの」
「コウリツテキ?」
「今までは行き当たりばったりな戦いばかりだったけど、計画を立てて魔物を倒すということよ。レベリングと休息のテンポを決めれば、ある程度の生活リズムが構築出来るはず。これまで倒してきた相手は、全員油断しなければ勝てるであろう魔物ばかり。アイヴィのチャームが効く相手も多いし、レベリングを計画的にしようと思うの。それが、効率的ってこと」
「ん~……。うん! いつものルートを決めるってことだね!」
「そういうこと」
アシェルはレベリングの継続を選択した。これまで倒してきた相手は全員上位の存在ばかりだが、油断しなければほぼ確実に勝てる相手でもある。アイヴィが言うところの『いつものルート』を構築することで、レベリングを効率化して強くなろうと考えたのだ。
「まず、通路の魔物の排除。リザードマンはいつもの方法で、スライムはアイヴィのファイアボール。左右の部屋まで素早く慎重に移動して、左の部屋に居るリッチーを私が倒す。そしてブモブモ言ってるやつはアイヴィがチャームで止めて、右手で宝石の箱を開けさせましょう。いつもあるのかはわからないけど……」
「僕、メモを取るからちょっと待ってね!」
「そうね。メモを取ったほうが良いわね……」
アシェルの考えに基づき、効率的なレベリングルートを構築する。ここでこうするという動きを事前に決めておけば、その都度作戦を伝える必要もなくなり、更に効率化も進んでいくだろう。
「もしも、いつも居ない魔物が居たら?」
「アイヴィには申し訳ないけど、ティルトウェイトを使って貰うわ。その時は……そうね、私のレベルとかドレイン出来ないの?」
「あ! どうだろう……? やってみてもいい?」
「いいわよ」
更に、ティルトウェイトを使った際のデメリット緩和についても考える。もしもアイヴィがアシェルからレベルをドレイン出来るのであれば、レベルが下がるというデメリットもある程度緩和されるだろう。アイヴィだけが遅れ続けるということもなくなるというわけだ。
「う……。力が、抜ける感覚が……」
「おお! ティルトウェイトでレベルが下がる感覚を覚えたからかな~? 逆に上げたいな~って吸い取ってみたら、出来たかも!」
「ステイタス」
◆ ◆ ◆
【ステイタス】
Name:アシェル
True name:アルシエル・ヴィンセント
Lv (成長度):23
◆ ◆ ◆
◆ ◆ ◆
【ステイタス】
Name:アイヴィ
True name:アイヴィ
Lv (成長度):23
◆ ◆ ◆
どうやら彼女達の考えは上手くいったようだ。しかしこれなら、わざわざアシェルから吸収せずとも魔物からレベルを吸収すればよいのではないだろうか? その考えはすぐにアシェルも閃いたようだが、万が一のリスクを考え、魔物からレベルドレインをするという行為はやめたほうがいいと結論を出した。
「アイヴィ、チャームをかけた魔物からもレベルドレインが出来ると思うけど、それはやめたほうが良いと思うわ」
「どうして~? アーシェからわざわざ吸い取らなくても~……」
「物凄く、嫌な感覚だった。恐らくチャームが解除されて、至近距離で攻撃を受けることになる」
「あ……。僕は良い気分だったけど、アーシェの良い気分ごとレベルを吸い取っちゃったから、凄く嫌な気分になったのかも……?」
「それは、一緒に吸い取らないってことが出来るってこと?」
「ううん、出来ない……。絶対一緒に吸い取っちゃう」
「そう……。それなら、尚更魔物からのレベルドレインはナシね。完全に無害、無抵抗な相手に限るとしましょう」
「うん! 約束するね」
レベルを吸われるという感覚は、強烈な嫌悪感を覚えるらしい。いくらチャームが掛かっていたとしても、この嫌悪感があってはチャームが解除されるという可能性が非常に高いだろう。至近距離でチャームが解除された魔物から攻撃を受けたら致命傷に繋がる。
「話を戻すわ。ハイリザードマンの出現位置が未確定ね。幸いにも戦鎚を地面に突いて移動するっていう癖があるから、現れたということだけはわかると思うけど……。すぐに対処出来ない場所で出会ったら、これをティルトウェイトの発動対象にするわ」
「うん。僕もそれが良いと思う」
「チャームが狙えるならそうして。少しでも危険を感じたら、無理に狙わないで。私の役に立つからとか、そういうのはナシよ」
「うん、約束するね」
アシェル達はもうすっかり忘れているが、アシェルとアイヴィとの従魔契約は依然として有効である。アイヴィが覚えきれない内容は、従魔契約が命令として受理し、アイヴィの行動をサポートするように働いている。本来は従魔を縛り付けるために使うマイナス要素の魔法だが、今回はそれがプラスに働いた形となる。ちなみに、従魔契約の魔法は割と一般的教養の範疇であり、ステイタスに表示されるような特別なスキルとしては扱われないようだ。なんでもかんでもスキルに表示されていたら、それこそ呼吸スキルなども記載されてしまうことになるからだろう。
「よし……じゃあ……」
「お腹減ったね~」
「そう、ね! 解体の途中だったドラゴンはほとんど炭になっているし、前に解体したドラゴンの入っていたバッグからお肉を取り出しましょうか」
「あ! なんでまた金貨を山にしてたのかなーって思ってたら、その中に隠してたんだ~」
「ええ、ここで戦闘した時に巻き込まれても壊されにくいように。むしろ、ガラクタっぽい装備を集めたマジックバッグがまだ無事だったのが不思議だわ」
「さっきのティルトウェイトが当たっても無事だったよ~」
「…………それは、おかしいわね」
さて、アシェルはようやくマジックバッグの耐久度がおかしいことに気がついた。前回はドラゴンのブレス、今回はアイヴィのティルトウェイト、どちらに巻き込まれても無事だったマジックバッグが多数存在している。燃え尽きて炭になってしまったものもあるが、性能が良いと判断したマジックバッグは全てが無事だったのだ。
「防御魔法の術式も付与されてるんだって~」
「え? どうしてわかるの?」
「メガネ先生が教えてくれた! 魔力を込めれば防御力が戻るって!」
「…………便利ね、そのメガネ」
「先生って呼べって怒ってるよ~!」
「メガネ先生、凄いお方なのね」
「あ、喜んでる! じゃあお馬鹿の教育に戻るって……どういうことだろうね?」
「さ、さあ……?」
アシェルは斧杖とメガネのステイタスを見て察するものがあったが、気がついていないフリをした。どうやら、あのメガネは斧杖と相性が悪いらしい……。
それよりも、マジックバッグである。無事だったものには防御魔法の術式が刻まれているらしく、数々の攻撃に耐え抜いてきた理由はこれだったようだ。
「とりあえず、残ってるマジックバッグに魔力を込めておくね!」
「それが良さそうね。そうしたら、ミダスの食器を出してくれる?」
「うん! 今日は何を食べようかな~♡」
「イチゴの乗ったショートケーキが食べたいわ……。ホールでも良いけれど……」
「アーシェってもしかして、イチゴ好き?」
「え、え? どうかしら……?」
「前もイチゴのクレープと、イチゴジャムのトースト食べてたよ?」
「…………す、好きかも」
「そうなんだぁ~! 僕、アーシェの意外なところを見つけちゃったね~!」
「な、何よ。別に良いじゃない、何が好きでも……」
「えっへへ~♡」
この尊いやり取りに耐えられなかったのか、炭化したドラゴンの翼が崩れ落ちた。その音にビックリしつつも、彼女達はミダスの食器を用いて数十時間振りの食事を摂る。時折、アイヴィが偏食にならないようアシェルが野菜も食べなさいと注意しつつ、レベリングの効率化に向けての前準備を進めるのであった……。




