011 ダンジョン&レベリング・2
さて、レベリングと言っても、現状はレベルを上げる作業の段階には達していない。むしろ魔物を倒すよりも、逆に倒される可能性のほうが非常に高い。
「アーシェ、泉を離れてからリザードマンを倒したよね? レベルって、上がってないの~?」
「確かに……。自覚するほどは強くなっていないけど……」
そもそも、魔物を倒したから強くなるのだろうか。どうやってレベルが上がるのかがわかっていない現状、魔物を倒すだけで強くなるのか不明だ。ただアシェルは、これまで魔物と戦った後に成長を感じることが多かったから、魔物を倒せればレベルが上がるという発想に至っただけだ。
『(ステイタス)』
格上の魔物であるリザードマンとの戦闘があったので、それでレベルが上がっていないか、アシェルはステイタスを開いて確かめることにした。
◆ ◆ ◆
【ステイタス】
Name:アシェル
True name:アルシエル・ヴィンセント
Lv (成長度):16
STR (筋力):7+5
CON (体力):6
POW (精神力):12+10
DEX (敏捷性):17
APP (外見):8+15
SIZ (体格):身長165cm,B88cm,W59cm,H89cm
INT (知性):14
MAG (魔力):8
EDU (教育):18
ギフト
・泉の代償:APP+15、その魅惑的な体型を隠すことは出来ない。
スキル
・シルフィード:一時的なDEXの向上 (+15)
・ピアシング:正確な刺突攻撃
・リッパー:ズタズタに引き裂く斬撃
特殊な装備
・ステイタスの腕輪:ステイタスを表示可能になる
・龍殺し
┣筋力+5
┣龍族を殺すことに特化した大剣。
┣勇気なき者には触ることすら叶わない。
┗汝、勇敢なる者。我、認めたり。
・魔法殺しの短剣
┣魔法生物を殺すことに特化した短剣。
┣魔法攻撃、魔法による妨害等に強い抵抗力を得る。
┗発動前の魔法陣を破壊出来る。
・朧鴉
┣敏捷性+10
┗魔力を込めると【闇雲】が発動し、姿を隠すことが出来る。
・龍鱗の軽量盾
┣龍殺し:効果選択中
┣魔法殺しの短剣
┣朧鴉
┣どんな武器でも収納出来る。残り1枠。
┗衝撃を非常に大きく緩和する。
・黒羽の戦姫
┣敏捷性+10
┣敏捷性に応じて幻影を発生させる。
┗日に数回、致命傷を避ける加護がかけられている。
◆ ◆ ◆
【ステイタス】
Name:アイヴィ
True name:アイヴィ
Lv (成長度):7
STR (筋力):6
CON (体力):13
POW (精神力):10+10
DEX (敏捷性):6
APP (外見):10+5+18
SIZ (体格):身長150cm,B94cm,W55cm,H100cm
INT (知性):8
MAG (魔力):18+5
EDU (教育):6
ギフト
・壁を破壊する者:不明
・分け与える者:獲得したものを親しい者達へ分け与えることが出来る
スキル
・エナジードレイン
・爆炎球体:セリエから教わった中級爆炎魔法。ファイアボールと勘違いして覚えている。
・美容術:テオから教わった美容魔法。実際は割となんでも治る。
・魅了:レオネから教わった精神操作魔法。同性にも効く。
・フライ:サキュバス固有のスキル。常時魔力消費なしで飛び回れる。
特殊な装備
・性十字軍の斧杖
┣自らを愛せよ。
┣親しき隣人を愛せよ。
┗てヵ、ァィヴィメッチャ尊ぃ。テンァゲっしょ。
・暗黒教団の法衣
┣精神力+10
┣外見+5
┗魔力の回復を大きく上昇させる。
・魔法障壁盾
┣魔力+5
┣魔力を込めると、強力な障壁盾を前方に展開する。
┗魔力を強く込めると、強力な障壁盾を全方位に展開する。
◆ ◆ ◆
「レベルが上がってる!」
「僕もー! いっぱい上がってるよ!!」
「多分、リザードマンを倒した時の経験で上がったのね。レイモンさんとツェルゲリオンさんは、レベルが上がるような経験ではなかったということだと思うわ」
「うんうん! きっとそう!」
「無抵抗の相手を手にかけてレベルが上がったら、外道な貴族だったら奴隷の首を落としかねないわね……。でも、どうやったら成長するか、誰にも話しては駄目よ」
「わかった~!」
「理由までは聞かないのね……」
「アーシェが駄目って言うなら駄目なんだよ~?」
「そ、そう……」
レベルが上がった要因としては、リザードマンを撃退したという経験のおかげだろう。レイモンとツェルゲリオンについては、無抵抗の相手の首を落としただけだったために成長には繋がらなかったようだ。もし、無抵抗の相手の首を落としてレベルが上がるような仕組みで、その話が広まってしまったら、外道な貴族は喜んで奴隷の首を落とすようになるだろう。そのようなことにはならなそうだが、アシェルは念の為にアイヴィにレベルが上がる仕組みは誰にも話さないようにと約束させた。
「それと、レベルが上がって強くなったなんて思わないこと」
「どうして~? 強くなったのは本当だと思うけど~……」
「これはあくまで目安として考えて、自分の感覚を優先して。数字に踊らされていたら、相手より数字が低いからと戦うのを諦めるようになってしまう。私達は弱くても機転を効かせてブレードラビットに勝てたし、リザードマンにも勝つことが出来た。ステイタスの差が絶対の差ではないということよ」
「はわわわわわ…………」
「難しい話を一気にしたのが悪かったわね……」
アシェルはステイタスの数字に踊らされるなと注意したが、アイヴィの知性と教育の数字は嘘をつかないらしい。難しい話を連続でされると、アイヴィの情報処理能力は限界を迎えてしまうようだ。
「要するに、自分の力を信じなさいってこと。ステイタスは目安よ」
「う~……ん? うん、自分に出来ることをすれば良いんだね!」
「そういうことで良いわ」
ところで、アシェル達は1つ失念していた。先程まではツェルゲリオンが出していた金属音という気になる音があり、その音に対して魔物達も警戒をしていたのだ。
しかし、今はアシェル達の話し声しかしない。不気味な音がしなくなり、人間が2人程歩きながら喋り続けている。この情報が漏れてしまうのは、些かよろしくない現象を引き起こすこととなった。
『シャガアアアアアアア!!』
「奇襲……!? アイヴィ!!」
「ファイア――――」
曲がり角に差し掛かった瞬間、リザードマンによる奇襲を受けてしまった。緊張の連続から一時的に解放された影響で、アシェル達は気が緩んでいたのだ。
アシェルが盾を構えるが、リザードマンの斧が振り下ろされるほうが圧倒的に速い。アイヴィのファイアボールの発動も間に合わず、アシェルの左肩に斧が深々と刺さった…………ように、見えた。
「…………ッ!? どう……!?」
『ギャ!?』
「――――ボール!!」
どういうことなのか、アシェルに斧が直撃していなかった。直撃を確信していたリザードマンもこれには驚きを隠せず、謎の現象が起きてお互いに思考停止の硬直状態となってしまった。その隙に、アイヴィはなんとかファイアボールの発動に成功する。
リザードマンは反射的に盾を構えてこれを上手くガードすることが出来たが、予想外の爆炎のダメージの更に驚き、奇襲を仕掛けたはずなのに大パニックに陥っていた。そして硬直から立ち直ったアシェルは、この隙を見逃さずに追撃の一手へ転じる。
「やああああああ!!」
『ギャ、グゲッ!?』
ドラゴンスレイヤーを見た龍族は恐怖を感じる。前に戦ったリザードマン同様、このリザードマンも本能的恐怖に抗うことが出来なかった。掠っただけでも死ぬかもしれないという恐怖から、リザードマンはカウンターに出るべき場面で盾を構えて防御を選択してしまう。
――――しかし、くるべきはずの衝撃が、いつまで経ってもやってこなかった。
『ゲ……? グググ……?』
それどころか、前方に居たはずのアシェルが居ない。居るのはファイアボールを放ってきた後衛の魔族だけで、脅威だと感じた前衛の人間が何処にも居なかったのだ。
困惑、錯乱、そして大混乱。リザードマンは経験のない出来事にどう動けば良いのかわからなくなり、アシェルが居た方向へただただ盾を構えて立ち尽くしてしまった。
「――――奇襲返しよ」
そして、突如背後から声が聞こえた。慌てて振り向くも、そこには誰も居ない。ドラゴンスレイヤーの担い手は何処へいってしまったのか、今の声は幻聴だったのか、もはやどう動けば良いのか全く判断が出来なくなってしまった。
だが、次の瞬間。リザードマンは次にどうするかなど、もはやそんなことを考える必要性はなくなった。
『ギャ――――』
一瞬だけ、ドラゴンスレイヤーが何もない空間から振り下ろされるのが見えた。それが見えた時には、もう全てが手遅れだった。脳天が極大剣によって叩き斬られ、リザードマンの視界が鮮血に染まり、漆黒の闇へと意識が落ちていく。
「朧鴉……。目の前で消えても、何処にいったかわからなくなるのね」
「凄い!! 一瞬で消えちゃったんだもん!!」
アシェルはドラゴンスレイヤーを抜いて牽制しつつ、すぐに納刀して朧鴉を取り出し、そして姿を消していたのだ。真っ直ぐにいっても勝てない相手なら、真っ直ぐいかなければ良いだけのこと。咄嗟の機転が、アシェル達を圧倒的に不利な状況から勝利へと導いてくれた。
「アイヴィ、まだ居るかもしれない。警戒し……うっ……!」
「アーシェ!?」
気を引き締め直して警戒しようとしたアシェルだったが、突如として左肩から鮮血が吹き出す。やはり、さっきの攻撃は当たっていたのだろうか?
「黒羽の戦姫の、致命傷を避ける効果、だと思う……。致命傷を、ギリギリ動ける程度の傷に抑えてくれた……」
「血が、血が止まんないよ、アーシェ!! 死んじゃうよ!!」
「ポーション、出して…………」
「う、うん……!! えっと、えっと、これじゃなくて! これ、これだったかな……!? あ、1本割っちゃった!!」
「落ち着いて、深呼吸よ…………」
どうやら、装備の特殊な能力によってアシェルは死なずに済んだようだ。黒羽の戦姫の効果によって、本来は肩から裂けて体を両断される程の致命傷になるはずだった傷は、骨に達する程度の傷で済んでいた。それでも重傷であり、このままでは出血で意識を失ってしまうだろう。
アイヴィが大慌てでマジックバッグからアイテムを取り出すが、干し肉やら信憑性の微妙な瓶ばかり取り出してしまう。目当てのポーションは、店で購入した信頼出来るポーションだ。
「その4本が、お店で買ったポーションよ……」
「これ、どうすれば良い!? かけるの!? 飲ませるの!?」
「傷口にかけてくれれば、治るはず……」
「い、いくよ!! 治って、お願い……!!」
「あっ……ぐぅ……!!」
アイヴィはポーションを使ったことがなく、そして物凄く焦っていた。焦りのあまり、購入した4本全てをアシェルに使用してしまった。
4本も使用した甲斐があってか、アシェルの傷は急激に再生していく。しかし痛みまでは消すことが出来ないポーションだったため、ダメージを負った時と同じ程の痛みが体中を駆け巡る。叫びたい気持ちを抑え、これ以上魔物を呼ばないように悲鳴を堪えて再生しきるのをじっと待っている。
「…………治った、わ」
「よ、良かった~……。アーシェが死んじゃうかと思ったよお~……」
「放置してたら、死んだでしょうね……」
数十秒経って、アシェルの傷は完全に塞がった。アシェルは軽く左肩を動かし、痛みや違和感が残っていないかのチェックを行う。どうやら後遺症はない様子だ。
「でも、どうしよう……。ポーション、なくなっちゃった……」
「それに1本、割っちゃったわね」
「うん…………。あれ? ねえ、アーシェ! 見て!!」
「何? どうし…………」
ポーションがない絶望の表情から一転、アイヴィの表情は驚きと歓喜の表情に変わっていた。アシェルは一体何が起きたのかと、アイヴィの指差す方向に視線を移す。するとそこには、先程割ったばかりの液体瓶と干し肉が散乱しており…………。
「何……これ……」
「干し肉が、お肉になってる!!」
「は……? いや、干し肉にポーションをかけても、普通はこうはならないのよ……?」
「でも、なってるよ!!」
なんと、こぼれた液体が干し肉に触れ、触れた部分が元の肉へと戻っていたのだ。いや、再生していたというべきだろうか。とにかく、干し肉は瑞々しさと新鮮さを取り戻し、そのまま焼けば美味しく食べられそうな肉になっていたのだ。
「…………」
「アーシェ、どうしよう! 凄く美味しそう……」
「おいし、そうね……」
ここでアシェル達は、このダンジョンに入ってから何も食べていないことを思い出す。更にアシェルはたった今、ポーションでの再生治療を終えたばかり……。ポーションなどで再生を行うと、体が失ったものを取り戻そうと反応して空腹状態になるのだ。目の前に転がる美味しそうなお肉、アイヴィは火の魔法が使える……。アシェルの脳内は、この肉を食べたいという感情で支配されかかっていた。
「待って、待って……。こんな異常現象が起きたお肉は、食べたら危険だと思うの……」
「でも、アーシェのお腹が凄く鳴ってるよお~!」
「違うの、これは……。美味しそうだけど、待って……! あ……そう、だわ!!」
「どうしたの!? やっぱり、食べる!?」
食欲に負けそうになりながらも、アシェルの脳内に新たなアイデアが降りてくる。
ここにある干し肉や水らしき液体が入った瓶、財宝のある部屋に残した食料と液体瓶、それらを全て……安全なものかどうか確かめられるのではないか、と。
「レイモンさんの大部屋に戻ろう。あの部屋にあったポーションと干し肉、ある程度安全かどうか、判別出来るかもしれない」
「どういうこと……あっ!」
「この干し肉だけが特別なのか、この液体が特別なのか、ちょっとずつお肉を千切って液体をちょっと垂らせば、それぞれ別の反応があるはずよ。これで比較的安全なものを、判別出来る!」
思いついたからには試さざるを得ない。急いで大部屋に戻り、実験してみる必要性があるだろう。あわよくば、安全で美味しいお肉にありつけるかもしれない……。
アシェルの脳内は、もはや食べることでいっぱいだった。元気になったアシェルを見てアイヴィは安堵しつつ、アイヴィもアシェルに続いて大部屋へと戻っていった。




