010 ダンジョン&レベリング・1
この大部屋にある財宝の全ては、ツェルゲリオンがこの階層で300年間集め続けたものとなっている。彼は泉で再び願いを言えば、この財宝と引き換えにレイモンを助けることが出来ると信じて行動していた。なので、中身については詳しく確認せずこの部屋に積み上げて居るだけだった。どこに何があるのかという分類はされていないので、アシェル達は自分達が使えそうなものを分別がてら、最も性能が良いマジックバッグを探し続けていた。
「あ! アーシェ、またマジックバッグあったよ!」
「中身は、どう?」
「う~ん……」
性能の良し悪しは、アイヴィの直感による鑑定である。ステイタスの腕輪で鑑定しようと試みたが、どのマジックバッグの説明にも違いが発生しなかった。なので、アイヴィが『これだ!』と思ったものを何個か選択し、それを分別している形となる。なお、マジックバッグにマジックバッグを入れることは出来ないし、合成して更に大きなものを作るということも不可能である。
「あ! 何か入っているみたいだけど、今までで一番大きいかも!」
「じゃあそれを取り出して、優先度が高いものから入れよう」
「うん! あ……。なんだろう、本? 日記みたい……」
「日記? 今はそれどころじゃ……」
「うん~……」
これまでで最も大きい容量のマジックバッグを見つけることに成功したアイヴィだったが、中に入っていた日記がどうにも気になる様子だ。本当はこんなことで時間を使うべきではないと両者共に理解しているのだが、アイヴィがそこまで気になるならと、アシェルの方が折れて中身を見ることにした。
「……誰の日記かしらね」
「仲間と過ごす時間は楽しいとか、今日は暴走した森の主を討伐しにいったとか、そんなのばっかりだね~」
「…………ここから、ダンジョンについて書いてある」
「色んなところを冒険してる人だったんだね~」
中身は冒険者の日記で、特に何の変哲もない当たり障りのない日常が書き綴られていた。読み進めても特になんの情報も得られないと思い、もう一度探索に戻ろうとしたアシェルだったが、アイヴィが気になる一文を発見する。
「ダンジョンのモンスターは、同じ行動を取ることがある~……?」
「え……? ちょっと、私もそこ読みたい」
「は~い! ねえねえ、アーシェが読んで聞かせて~」
「私、そういうの得意じゃないんだけど……。はぁ……。この魔物は昨日も目撃したことがある、額に特徴的な柄を持つブレードラビットだ――――」
その日記には、こう記されていた。
『ダンジョンに通い始めて10日目、ダンジョンのモンスターは同じ行動を取ることがあるということに気がついた。この魔物は昨日も目撃したことがある、額に特徴的な柄を持つブレードラビットだ。この特徴的な黒いダイヤ柄の模様が他のブレードラビットも全て持っているなら、ブレードラビット全体の習性ということになるが、私がこれまで遭遇してきたブレードラビットにはこのような柄を持つ種類は見たことがない。私が右に躱そうとすれば左上方へと飛び、首の左側を狙ってくる。昨日と同じタイミング、同じ動き、同じ癖、同じ倒し方。間違いなくこのブレードラビットは、昨日倒したものと同一個体だ』
「ダンジョンに、全く同じ魔物が出たってこと~?」
「そう、書いてあるわね……」
アシェル達は激しく困惑した。同一個体が現れるというのはどういうことなのか? 魔石を残すと魔物が復活するという話は本当なのだろうか? 更に詳しい情報が書かれていないか、アシェル達は次のページへと進む。
『11日目、やはり同じブレードラビットだ。昨日魔石を取り出したにも関わらず、同じ個体が現れた。この個体も同じ動きをし、同じ方法で撃退出来た。その後この個体も魔石を摘出したが、その1時間後にまた同じ柄を持つ個体が現れた。この個体も全く同じ動き……。他の柄のブレードラビットは同じ動きでは討伐出来なかったが、この特定個体のみ同じ動きで処理が出来る。これでもう決まりだろう。このダンジョンでは、一度現れた魔物が繰り返し現れるという現象が起きるのだ。複製体のようなものではなく、完全なるコピー品。私はここである仮説を立てることにした……。このダンジョンに出現するモンスターには、必ずオリジナル版が存在しているはずだ、と』
「こぴーひん? おりじなるばん?」
「真似をして完璧に同じものが作られてるのがコピー品で、真似された原点の存在がオリジナル版……だと思うわ」
「ほわ~……。じゃあ、さっき倒したリザードマンも、コピー品が現れるってことかな~?」
「このダンジョンの話だったらだけどね」
「あ、そっかぁ~……」
アシェル達には非常に興味深い内容だったが、どうやらこの人物はこの日で日記を書くのをやめてしまったらしい。ダンジョン11日目の日記を最後に、以降は空白のページで埋まっている。
「…………」
「アーシェ、どうしたの~? お腹痛いの~?」
「ある意味、痛いかもしれないわね……」
先程アシェルは『このダンジョンの話だったら』と述べたが、急に背筋を冷たいものが這うのを感じた。ここへ飛ばされる前に戦ったブレードラビットのことを思い出したのだ。
最初のブレードラビットはあまりにも必死に戦い過ぎてよく覚えていないが、3匹目に串刺しにしたブレードラビットはハッキリと覚えていた。アイヴィのファイアボールで黒焦げになる前、串刺しにしたブレードラビットの額には……。
「3匹目のブレードラビットに、ダイヤの黒い模様が、あったわ……」
「えっ!? 僕は、見えなかったけど……」
「アイヴィからはファイアボールに飲まれて見えなかっただろうけど、私はハッキリと見たわ。この日記に書かれている奴と、同じ特徴の……」
3匹目のブレードラビットには、この日記に書かれている特徴的な模様があったのだ。
アシェルはこの日記について、ある考察を立てた。もしかしたら、この日記の元の持ち主は日記を書くのをやめたのではなく……。書けなくなってしまったのではないか、と。もしかしたら、自分達と全く同じルートでここに辿り着いたのではないか、と…………。
「ブレードラビットとの連戦後、日記が書かれなくなった。これだけ几帳面に書いていた人が、何故……? それに、どうしてこの日記がここにあるのか……」
「どうしてだろう~?」
「レイモンさん達は、どうやって泉に辿り着いたんだと思う?」
「えっと、そういえば聞いてなかったね?」
アシェルの仮説は、こうだ。
「この日記は恐らく、クロバネと呼ばれていた人の日記だと思う。仲間達について書かれている話も、レイモンさんとツェルゲリオンさんについての話。ブレードラビットも、今日私達が戦った個体の話だとすると……。この人達もあの金の宝箱のトラップに掛かって、願いの泉に飛ばされたんだと思う」
「レイモンさんは泉でドラゴンになっちゃって、クロバネさんを傷つけたって……」
「だから、日記が書けなくなった。瀕死の重傷を負って辿り着いたのがこの部屋だから、日記がここにある……。あくまで私の仮説だけど、ね」
この日記の持ち主はクロバネであり、アシェル達と同様にテレポーターを作動させてしまい、願いの泉に辿り着いてこの部屋に到達した。レイモン達の話と合わせると、クロバネが致命傷を負ったのは泉でのことなので、泉については書かれておらず、ブレードラビットについての日記が最後になっているのだろう。
真相は定かではないが、アシェル達はこの考えで何もかもに納得がいった。そしてこの仮説が合っているとすると、このダンジョンは『同じ魔物のコピー個体が何度も出現する』ということになる。
「この日記の情報が確かなら、再出現した個体は前の個体の記憶を引き継いでいないことになるわ。同じ方法で倒せたということは、記憶を引き継いでいないはずなのよ」
「記憶があったら、何回も同じ攻撃には引っかからないもんね!」
「そう。だから、毎回同じように倒せるってこと。毎回同じ方法で倒してたクロバネって人が、どれだけ凄い冒険者だったのかがわかるわね……」
「凄い観察眼だね~……!!」
これを見破ったクロバネという冒険者は、アシェル達の想像を絶する程の凄まじい技量を持っていたらしい。しかし、そんな冒険者でも、仲間がドラゴン化するという状況には対応出来なかった。どれだけの強者であったとしても、ふとしたことで死んでしまう。それがダンジョンというものの恐ろしさなのだ。
「ありがとう、クロバネさん……。貴方の情報、必ず役立てて見せるから」
「クロバネさん、ありがとう~! このマジックバック、僕……使うね!!」
このダンジョンの異常性を再認識し、アシェル達は持って行くマジックバッグをクロバネが使っていたであろうものに決めた。持っていくアイテムは既にある程度決めており、このダンジョンへ入る前に購入したポーションは勿論のこと、どれだけ放置されていたか不明な干し肉や、蓋を開けて匂いを嗅いで恐らく水であろうと判断した瓶を持っていくことにした。ステイタスの腕輪は武具の強さを見ることが出来るが、残念ながらポーションや食べ物の情報は一切表示されなかったので、これらは完全に未鑑定品だ。
「…………最悪、レイモンさんのお肉に、手を出そう」
「う……。うん……」
「私だって、そうしたくない。でも、生き延びるためなのよ……」
アシェル達は最悪の事態を想定し、レイモンの死体に手を付ける覚悟もしていた。元人間とあって食べたくないという気持ちが強いが、空腹で命を落とすよりは何倍もマシだと思ったのだ。アイヴィも最終手段としてこれに同意し、今は手を付けないという方針で話が固まった。
「アイヴィ、まだバッグに入りそう?」
「うん、まだまだ余裕がありそう。それにこのバッグ、取り出したいものをイメージすれば、すんなり出てくるよ! 中に何が入っているのかもわかる!」
「本当に高性能なマジックバッグね……。普通は少し抵抗があったり、最悪入っているものがわからなくなったりするのに」
「凄いね~……。こんなに凄いバッグが使える冒険者だったんだよね……」
「そういうことになるわね……」
まだマジックバッグに物を詰め込む余裕はあるが、アシェル達は物資調達が今回限りとは考えていなかった。まずは安全そうな第一候補のアイテムだけを詰め込み、枯渇したら第二候補のアイテムを回収しにこようと考えていたのだ。それに、アイテムが多すぎると使用するのにもたついたり、バッグを複数となるとどれに入れたのか覚えていないという事態も起きかねない。まずは最高性能のバッグ1つに、第一候補のアイテムを詰めて出発すべきだと判断した。
「アーシェ、武器は大丈夫~?」
「大丈夫よ。ドラゴンスレイヤー以外に、魔法殺しの短剣、朧鴉を盾に入れたわ」
「僕も、この魔法障壁盾を持っていくよ! 魔力を流している間、魔法の大盾が出続けるんだよね?」
「そうよ。ドラゴンスレイヤーのフルスイングでびくともしなかったから、防御力は相当なものだと思う」
装備も使えそうなものを集めていた。アシェルは魔法生物に対して強力な力を発揮する短剣と、魔力を流すと姿を消すことが出来る黒い短剣をマジックウェポンの盾の中へ収納した。アイヴィは魔法障壁盾という名の小手を装備した。この小手に魔力を流せば、アシェルが全力で斬りつけてもびくともしない強度の半透明な大盾が出現する優れモノだ。
「疲弊したり魔力が少なくなったらこの部屋に。我慢したりしないで、少しでも異常を感じたら正直に言うこと」
「わかった、約束するね!」
「よし……いくよ」
「うん! いこう!!」
アシェル達は立ち上がり、未だ見ぬダンジョンの奥へと進み始めた。
このまま無策に進み続けては、いずれ力量差に押し潰される時がやってくる。レイモン達を超える冒険者となると誓ったからには、このままのレベルでは居られない。なので、彼女達はこの階層で修行をすることにした。
ひたすらに成長を求め、生き残るために戦い続ける行為…………。この行為に彼女達は、このような名前をつけることにした。
「レベリング、開始……!!」
「レベリング開始~!!」
『成長行動』。
こうしてこの世界に初めて、レベリングという言葉が生まれたのであった。




