もし、あなたなら
訓練場の夕日が沈みかける頃、リアナは古い木の柵に腰を下ろしていた。
少し遅れてミラが現れた。
髪は乱れ、手には半分折れた枝。
「衛兵たちと話さなかったの?」
ミラは枝を遠くへ放りながら尋ねた。
リアナは首を横に振る。
「その前に…君と話したかったの。」
ミラは、何も聞かずに隣に座った。
「提案されたの。」
「知ってる。村中の人が知ってるわ。」
「でも、誰も“どうすべきか”は教えてくれなかった。」
――ゼウス:「それは…誰にも言えないことだから。」
――フレイヤ:「完璧な答えはいらない。ただ、隣にいてくれる人が必要な時もある。」
――イシス:「必要なのは…正直な人。」
リアナはミラの方を見た。
「もし君だったら…もし王に会えるって言われて、
賢者に訓練されて、
人生が変わるようなチャンスをもらったら――
行く?」
ミラは少し考えてから答えた。
「正直に言うと……わからない。
一部の私は“行け”って言う。
すごいことだし、当然だって。
でも、もう一部は…
君を知ってる側の私は思うの。
それって、本当にリアナが望んでたことなのかなって。」
「じゃあ…君は?」
リアナの声は少し掠れていた。
「一緒に来てくれる?」
ミラは黙ったままだった。
「たぶん…行かない。
たぶん私は、その世界の人間じゃない。
なりたいとも、思ってない。」
リアナの胸に、静かな痛みが広がった。
それはわがままからではなかった。
ただ――彼女を置いていくことが、つらかった。
「…ミラ、怒ってるの?」
「ううん。」
「ただ、悲しいの。」
「どうして…?」
「だって、どんな選択をしても、
もうわかってるんだもの。
リアナがこの場所に永遠に留まることは、できないって。」
リアナは涙をこぼさなかった。
でも、その沈黙は千の言葉より重かった。
そしてミラは、静かに、少し疲れたように笑った。
「でも行くなら…
リアナらしく、堂々と行きなよ。
そして――絶対に忘れないで。
この旅の前に、“誰だったか”を。」
「あの時のリアナ――
裸足で野を駆けて、私に徒競走で勝ったあの子を。」
二人は少しだけ笑った。
その笑いの中にあったのは、真実。
そしてまだ正式ではない――
けれどもう避けられない“さよなら”だった。
あなたも、大切な人を“置いていかざるを得なかった”ことはありますか?」
「この章が心に触れたなら、評価してね。」
「お気に入りに追加して。だって、決断って…」
…続く物語のはじまりだから。




