民のささやきが始まるとき
最初は──ただの視線だった。
軽く、一瞬。
リアナとミラに向けられる挨拶の仕方が、どこか変わった。
広場では、気まずい沈黙。
囁き声が、耳元すれすれで聞こえる。
けれど日が経つにつれ、その噂は雑草のように広がっていった。
──あの子たち、どうやって魔術師を捕まえたんだ?
──二人も魔法を使ってるって…
──もしかして、奴とつながってるんじゃ…
パン屋では、もはや憧れの目ではなかった。
それは「警戒」だった。
市場では、人が離れていく。
離れた場所からじっと見つめる者もいた。
ミラは無視しようとした。
けれど、その顔からは笑顔が消えていた。
リアナは──歯を食いしばるばかり。
──ゼウス:「英雄は剣を持つ。そして疑いも背負う。」
──フレイヤ:「民は救いを望むのではない。日常を守りたがる。」
──イシス:「耐えよ。屈するな。」
けれど、何よりも堪えたのは──ダリエルの姿だった。
もう、会いに来なくなった。
もう、前のように近づいてこない。
そしてその日──
噴水の前で、リアナは彼に立ちはだかる。
リアナ:
──もう私の目を見て話せないの?
ダリエルは唾を飲み込み、視線を逸らす。
ダリエル:
──リアナ…ただ、知りたいんだ。
本当に君が、あの男を捕らえたの?
それってどうやったの?
なぜ君なんだ?
なぜ、いつも誰もいない場所に、君はいる?
リアナ(静かだが、揺るぎない声で):
──だって…私は目を閉じられない。
もし私がやらなければ──
誰もやらなかったかもしれないから。
ダリエルは去っていく。
憎しみではなく──
「疑い」で顔を覆った「恐れ」と共に。
…それが、一番痛かった。
あとから来たミラが、リアナの肩にそっと手を置く。
ミラ:
──言わせておけばいいよ。
私たちは…私たちが何をしたか知ってる。
リアナは深く息を吐いた。
リアナ:
──うん。
でもね…
痛いのは、言葉じゃない。
「誰が」それを言ったか──それなの。
もしこの章が、あなたの“古い傷”に触れたなら──
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“光が影を生む”その続きも、見届けて。
物語は続く。
世界が疑いを向ける時──
魂こそが、試される。




