肉を超えて
数日が過ぎていた。
アウィツォトルとの戦いから。
湖は、まるであの黒き怒りの沸騰などなかったかのように静けさを取り戻していた。
鳥たちはさえずり、風は以前と同じように木々を撫でていた──
けれど、リアナは忘れていなかった。
彼女の身体も、忘れてはいなかった。
いまだに、あの力の“残響”が肌の下で脈打っていた。
そして今──
神々の言葉によれば、次に来るのは、もっと恐ろしいものだった。
次の段階。
最も危険で、最も予測不可能な段階。
──“変身”──
変化の呼び声
—ゼウス:「お前は力、反応、制御を示した。
だが、真の力とは──たった一つの姿に縛られないことだ。」
—イシス:「変身とは、仮装ではない。
それは“つながる”こと。」
—フレイヤ:「戦士とは、影にも、雷にも、花にも──獣にもなれる者。」
—ヴィシュヌ:「すべてを理解することだ。
たとえ、それが“自分ではないもの”でも。」
—ケツァルコアトル:「……お前は、“あらゆる存在”になる覚悟があるか?」
リアナは森の中の開けた場所で、静かに深呼吸をした。
周囲には五つの神を象徴する、色と力を宿した神紋が浮かんでいた。
──「これって……他のものになろうと“思えば”いいの?」──
—イシス:「“思う”のではない。“感じる”の。」
第1の試み:シカ
リアナは目を閉じた。
思い描くのは──シカ。
しなやかで、軽やかで、森を風のように駆け抜ける姿。
重さのない身体。鋭い聴覚。葉を揺らす風の音さえ聞き取る。
体が震え、
皮膚が熱を帯びる。
脚が細く、長く変化していく──
片目を開けると……
そこには──ひづめ。
──「あっ! できてる!? 半分だけど、私、今、シ──!」
—フレイヤ:「叫ぶと、集中が途切れる。」
──遅かった。
その瞬間、形は崩れ、
奇妙な音と共に人間の姿に戻り、地面にドスンと落ちた。
—ゼウス:「部分的失敗。再挑戦。」
──「わたし機械じゃないんだけど!!」──とリアナはお尻をさすりながら抗議。
第2の試み:風
今度は「空気」を思った。
透明。
自由。
重さがない。
触れられない存在になりたいと──
輪郭が揺れ、身体がかすんでいく。
ポフッ。
やさしい音と共に、地面に──
一枚の白い羽根が、ふわりと舞い落ちた。
—ケツァルコアトル(笑いながら):「技術的には……成功だな。
変身はした。……ただ、ちょっとやりすぎたかもな?」
数秒後、リアナの人間の姿が再び現れる。
彼女は咳をしながら、よろよろと立ち上がる。
──「……わたし……羽根になったの……?」
—ヴィシュヌ:「その瞬間、お前が理解したもの……それが“軽さ”だった。」
リアナは仰向けに倒れた。
両腕を広げて空を見つめながら。
──「アウィツォトルと戦う方が、千倍マシだった……」
—フレイヤ:「だが……これを極めれば、遥かに強くなる。」
—ゼウス:「再び。」
──「ヤダ。」
—ゼウス:「……再び。」
リアナは空に向かって叫んだ。
鳥たちは一斉に飛び立った。
だが、ひとつだけ確かなことがある。
失敗のたびに、何かを学んでいる。
不完全な変身もまた、橋なのだ。
それは、彼女を新たな力へと一歩ずつ導くもの。
人間には持てぬはずの力。
だが、彼女には──もう、拒む選択肢はなかった。
変身は、
苦しい。
痛みを伴う。
時に、滑稽ですらある。
それでも──
それは「現実」。
そして──まだ始まりに過ぎなかった。
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