黄金の朝光と、目覚めぬ夢
朝の光が木々の隙間から差し込み、
乱れた毛布の上に温かい線を描いていた。
リアナは突然、跳ね起きた。
瞳を大きく見開き、荒い息を吐く。
まるで、“言葉にできない何か”から逃れてきたばかりのように。
額には冷たい汗がにじみ、
その夢の記憶は――あまりにも鮮明だった。
六つの声。
六つの影。
六つの目が、闇から彼女を見つめていた。
「……器よ。目覚めよ……」
—「また…」
リアナは小さくささやき、
震える手で額を押さえた。
その時、ドアが静かに開いた。
—「リアナ、お日さまよ。起きて。
羊たちに朝ごはんを先に取らせる気?」
母エイラの声だった。
やわらかな顔立ち。
髪はきちんとまとめられ、
その目は、隠された感情さえ読み取る優しさを湛えていた。
その後ろから、父のヴェランも顔を覗かせた。
大きくて穏やかな人。
土と人生で鍛えられた手を持つ男だった。
—「今朝はパンを焼いたぞ」
彼は冗談めかして言った。
「早く降りてこなきゃ、全部わたしが食べちゃうぞ」
あごひげをかきながら、いたずらっぽく笑う。
リアナは小さく笑い、ゆっくりと体を起こす。
—「うん、行くよ…。
ただの悪い夢。大したことないから」
けれど、エイラの目は離さなかった。
—「その“大したことない”にしては、顔が月より青白いわよ。
本当に、話さなくていいの?」
—「大丈夫。夢よ、ただの…何も起きないわ」
それは、嘘だった。
自分自身にさえ、認められなかった。
リアナは作業着に着替え、台所へ降りていった。
テーブルの上には、焼きたてのパン、温められたミルク、
先週仕込んだ自家製チーズが並んでいた。
まるで、いつもの朝。
でもリアナにとって――
何かが“ずれて”いた。
世界が、違う呼吸を始めたような感覚。
パンの味も、陽光の輝きも、
エイラとヴェランの笑い声も、確かに変わっていなかった。
それでも――
胸の奥で、あの声の残響が、遠い太鼓のように鳴り響いていた。
三人で朝食をとりながら、
作物の状態や天気、鶏小屋の修理予定を語り合った。
夢のことは誰も触れなかった。
リアナの指のわずかな震えに気づく者はいなかった。
そして誰も――
この日、羊たちが無邪気に草を食むその背後で、
運命そのものが、静かに動き始めていたことを――知らなかった。
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