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心の迷い

ダリエルは、リアナのことが頭から離れなかった。


祭りの日の出来事以来、心の平穏など一瞬もなかった。


 


誰よりも早く火の中へ駆け込む姿を見た。

二人がかりでも持ち上がらないはずの梁を、彼女は一人で持ち上げた。

そして――煙の中から現れたときの、あの目。


まるで、どんなものにも負ける気がしないような目だった。


 


――一体何があったんだよ、リアナ……

ダリエルは、村の古井戸のそばに座ってそう呟いた。


胸が詰まるような感覚。

恐れ。驚き。

そしてそれ以外の、名もない何か。


 


彼はリアナのことを子どもの頃から知っていた。


あの笑い声。

些細なことで怒ったり、

祭りにワクワクしたり、

焼きたてのパンに目を輝かせたり、

洗いたての羊を撫でるのが好きだったことも。


彼女が強いことは、昔から知っていた。


 


でも、あれは――


彼の知る「強さ」ではなかった。


 


あの目の光。

確かな歩み。

恐れすら見せない冷静さ。


 


それは、リアナではなかった。

……だが、たしかにリアナでもあった。


 


――彼女は危険にさらされてるのか……

それとも、彼女自身が危険なんだろうか……


 


そして、もっと怖い考えが浮かぶ。


もし――リアナが本当のことを話したら、

自分は信じられるのだろうか?


 


答えは出なかった。


 


その夜、村の人々は「奇跡のように火が広がらなかった」と話していた。

だがダリエルは黙っていた。


心のどこかで、「不可能」を見たとわかっていた。

けれど同時に、「見間違いだった」と信じたくもあった。


 


 


翌日、彼はリアナを訪ねた。


 


彼女はいつも通り、父の仕事を手伝っていた。

落ち着いていて、まるで昨日のことなどなかったかのように見えた。


 


――ダリエル。どうしたの?

リアナが気づいて声をかける。


 


彼は数秒、迷った。


 


――ただ……様子を見に来ただけ。

昨日は……すごかったから。


 


リアナは静かに微笑む。


 


――うん……でも、もう大丈夫。


 


ダリエルは彼女の目をまっすぐ見つめた。


ほんの一瞬だけ、勇気を出しかけた。

問いかけようとした。

彼女が無意識に築いている壁を、壊そうとした。


 


だが――できなかった。


 


彼女を傷つけたくなかった。

答えが怖かった。

なにより……それが「リアナ」だったから。


 


――わかった。

彼は唾を飲み込みながら言った。

ただ……もし何か話したくなったら、何でも。俺は、ここにいるよ。


 


リアナは彼を見つめた。

そして、今度は本当に――笑った。


 


小さくて、温かくて、

言葉よりもずっと多くを伝える笑顔だった。


 


――ありがとう、ダリエル。


 


リアナの心の中で、フレイヤがからかうようにため息をついた。


 


――かわいそうな子。

彼女は君を大事に思ってる……

でも、今の自分の半分すら君に話せない。


 


イシスが付け加える。


 


――人の絆は美しい。

でも、壊れるときはあっけない……


 


リアナは、背を向けて歩き去るダリエルの後ろ姿を見つめていた。


 


そして、初めてこう思った。


「本当のことを言えたらいいのに」と。


 


けれど――その時ではなかった。


 


彼女の魂に、六柱の神が宿る限り。

そして初めて、

本当のことを打ち明けられたら…と願った。

けれど、まだその時ではなかった。

愛する人が大きな秘密を抱えていると疑ったら、あなたはどうしますか?

この章が心に響いたなら、ぜひ評価をお願いします。

お気に入りに追加して、力と愛、そして選択の物語を追いかけてください。

物語は続く――リアナの秘密は、もうすぐ隠しきれなくなる。

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