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身体が目覚めた日

その日は曇り空で始まった。

一滴の雨も降っていないのに、

空はまるで息を止めているようだった。

何かが――今にも起ころうとしているかのように。

 

リアナは森の空き地へ戻ってきた。

昨日と同じように、魔法の修練を続けるつもりだった。

だが今日は――違っていた。

空気が重い。

息苦しいほどに張り詰めていて、

そして心の奥深くで、何かがざわめいていた。

 

――今日は、ただエネルギーを使うだけでは済まぬぞ。

ゼウスが、低く雷のような声で告げた。

 

――えっ……? どういう意味?

リアナが不安そうに尋ねる。

 

フレイヤが続いた。

静かでありながら、鍛え抜かれた鋼のように鋭い声で。

――雷を制御できたとしても……

その体が嵐に耐えられなければ意味がない。

鍛えられていない身体に魔法を流すのは、

ガラスの剣を振るうようなものよ。

 

ケツァルコアトルが風と共に語った。

その声は、静かでありながらどこまでも揺るぎなかった。

――お前の魂は強い。

だが肉体は……まだ人間のままだ。

それを変える時が来た。

 

リアナは唾を飲み込んだ。

――わ、私は……戦士じゃない……

 

――だが、なるのだ。

ゼウスの声が断言する。

そこに反論の余地はなかった。

 

次の瞬間、身体が自然と動き出した。

それは憑依ではない。

完全な支配でもない。

見えない手が、優しく、だが確かな力で背中を押してくるような――

目覚めたばかりの「本能」が導いているような感覚だった。

 

まずは腕立て伏せ。

次に跳躍。

そして回避、旋回、受け身、姿勢の回復、呼吸の制御――

心臓が速く打ち始めた。

肌が熱を帯びた。

筋肉が痛み始めた。

だが、止まらなかった。

 

――壊れはしない。

フレイヤが厳しくも温かな声で言う。

今、私たちが鍛えているのだから。

 

――呼吸を止めるな。

ヴィシュヌが冷静に導く。

力よりも大切なのは、リズムだ。

 

リアナは荒く息をついていた。

汗が頬に髪を張り付かせ、

脚が震え、肺が焼けつくようだった。

それでも、彼女の意志は――折れなかった。

 

――もう一度だ!

ゼウスが雷のように叫んだ。

 

ついに、リアナが叫び返した。

――もう無理! 私はあなたたちの兵士じゃない!

 

森が静まり返った。

風さえも、息を潜めていた。

 

その沈黙の中で、ケツァルコアトルがそっと囁いた。

葉をなでる風のように優しく、静かに。

――もうお前は、ただの羊飼いではない……

だが、兵士でもない。

 

リアナは奥歯を噛みしめた。

分かっていた。

この力を制御しなければ……

力が彼女を制御することになる。

 

痛む体を無理やり起こし、再び立ち上がる。

 

――……続けよう。

 

跳ぶ。

打つ。

回る。

息をする。

倒れずに立つ。

動くたびに痛みが走る。

だが、神々の言葉の一つ一つが、

昨日までの「少女の自分」から、確実に彼女を引き離していく。

 

訓練が終わった頃には、太陽はすでに木々の向こうに沈んでいた。

身体は限界に近かった。

それでも――

胸の奥には、燃えるような新たな火が灯っていた。

 

その日、リアナはまだ「戦士」ではなかった。

けれど、もう「無力な少女」ではなかった。

 

沈黙と灰色に染まる空までもが、

まるで彼女を見つめているかのようだった。

リアナが“人間の限界”を越える瞬間を見たいですか?

面白かったら評価をお願いします!

お気に入り登録で、彼女の“神の力”の覚醒を見逃さないで!

次はどの神の能力が目覚めるのか――お楽しみに!

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