9話──おひめさま
《■の告:ゼロ》
場所は移り変わり、誠は少し暗んだ部屋にいた。
玉座の間の比べるとかなり狭いが、日本の一般的な一軒家の一部屋と比べると相当広い部屋だ。
教室二、三個分くらいはあるだろうか。自室として使うには些か余らせてしまうだろうと思える大きさだ。
何故誠がそんな部屋にいるのか。
誠に与えられた部屋がそれほど大きかったから?
……半分正解だ。
誠に与えられた部屋はとても広く、決して口には出さないが逆に居心地の悪さわ感じてしまうほどだった。
模様替えが許されるなら、部屋にある家具などを全て角に集め、部屋の中に更に簡易的に部屋を作って、狭まった場所で眠りに付きたいと思っていたくらいだ。
さて、今のは正解の部分。
確かに誠に大きな部屋は与えられていたが、現在誠が足を付けている部屋は、誠の部屋ではない。別の部屋だ。
では、どこなのか。
他人の自室だ。
では、誰の部屋なのか。
「…………」
無言の誠。
そして、その正面に座っているのは
「…………」
同じく無言のスィフル姫だ。
(気まずっ……)
自室とは別の意味で、居心地の悪さを感じる誠。
なぜこのような状況になったのか説明するならば、国王の悪ふざけが原因だった。
「……」
「……」
なんと、勇者は王族と並ぶ存在であり、歴代勇者の長く生きた者のほぼ全てが、王族や貴族と婚姻を結んでいたらしい。
勇者からすれば、比較的安全で安定した生活を送ることができるようになる。相手の親は金持ちだし、権力もあるから生活に不安を感じることがほとんどない。
なにより、勇者という特別な立場を、王族や貴族という特別な立場の相手だと共感し合える部分があり、分かり合えるところが仲を深める要因。
初めて親鳥を見たヒヨコのように、異世界へ来た勇者は初めて関わった人間へ心を傾けやすいというものある。
王族や貴族の利点と言えば、結婚する当事者はほとんどの場合勇者が好きだから。という単純な理由。
その家族や周りからの反発があれば難しいだろうが、それもほぼ無い。それどころかありえないくらい歓迎されるそうな。
オブラートで包まずに言ってしまうと、勇者の血を入れたいから。息子や娘が勇者との間に子供を作れば、他貴族や他国への見栄にもなる。貴族位を上げられる。
戦いだけが勇者の利用価値じゃないのだ。
そんなわけで、ワヒュード国王も誠という勇者を歓迎し、他国へ流れないようスィフル姫との関係を深めさせようとしている。
もしスィフル姫が上手くいかなければ、他の貴族の娘を誠へ向けるだろう。
ある意味、色恋沙汰の自由も勇者にはあまり許されていないかもしれない。
「……あー、いい部屋だね」
(……間が持たないし、間を持たせるための会話もできない。もう帰りたい……)
どことなく緊張した様子で、口を開かないスィフル姫を前に、面接のような気分で誠は立っていた。
来たばかりの勇者を姫と二人きりにするとかどうかしている気もするが、勇者をどうにかできるくらい姫が強い可能性。もしくは、結界かなんかの力で勇者がなにをしでかそうと問題無い。などの対応策があるのかもしれない。
そういうことを考えると、更に下手なことができず、手を太ももに付けて真っ直ぐ立つしかない。
恋仲になれたりしないかと夢は見たが、この状況では乗り気になれない。
「……」
誠の言葉にスィフル姫からの返答は無い。
帰ってくるとは、チラチラとたまに合う視線のみ。
スィフル姫の自室は、誠の部屋と比べると明るい色が多い気がした。
誠の自室を隅々まで見られているわけではないので具体的な差は言えないものの、白や薄ピンクなど、少女らしさのある棚や机、ベットなど。月明かりを閉ざすカーテンまでも白い。
床には、誠がこの世界に来た時に刻まれていた魔法陣と同じような模様があった。
(この国の紋章的なものなのか?でも玉座の間にはそれらしいものは無かったよな。俺の部屋にも無かったし……)
「シナイシ様」
「……なんでしょう?」
急に名前を呼ばれて、狼狽えるたりせず冷静な対応ができたことを褒めて欲しいなぁ。と、別のことを考えることで上目遣いな姫の庇護欲そそられる表情を蚊帳の外へ置こうとする。
「シナイシ様は……元の世界に帰りたいと思いますか?」
「元の世界に?」
「はい。だって……シナイシ様は元の世界に、ご家族の方だったり、ご友人の方を残してきてしまっていますよね。……寂しいって思ったりしないんですか?」
「……寂しい…………か」
日本での暮らし。これまでやってきたとこを考えて……
「どうでしょう。この世界でのこれからの人生も楽しそうですし、能力測定で夢のような力があることも知れましたし、悪くは無いですね」
「私の質問に答えてください」
誠は、スィフル姫の質問に対して、肯定も否定もせず、元の世界に対してではなくこの世界に対しての想いを告げていた。
そんな誠の的外れな回答を、スィフル姫は真剣な眼差しで指摘する。
(さすがにバレるか……)
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