8話──勇者の能力?4
「すごいね!」
一言、誠に対する称賛。
それからワヒュード国王へ向き直り、
「油断していたところはありますが、それでもすごい能力だと思いますよ!サムハだったら血でも吐いてたんじゃないですかねー」
「ほぉ。それほどとは。観させてはもらったが、実際に対面したサマーニャがそれほど言うのであれば、勇者に値する素晴らしい能力と見受けられるな」
感想を述べたサマーニャに、ワヒュード国王も同感だと頷く。
隣のスィフル姫も目をキラキラさせていた。
「そういえばサムハ、今の見えてた?」
「帰ってくるところはぼやけて見えたな。それだけでもシナイシ様の能力の強さは理解できるから問題ないぞ」
「そっかぁ。でも、ぼくの醜態はちょうど見られてなかったって考えればいっか」
「今後、シナイシ様にはその能力を活かすための戦闘技術を学んで貰うことになるだろう。ワシはその時にでも見させて頂きましょうぞ」
「それって……もしかしてぼくにやらせる気じゃないよね?」
「近接戦闘が可能な団員には模擬戦をやらせようと考えている。遠距離攻撃が得意な者にも、その対応を学んでもらうために働いてもらうつもりだ」
「ふーん。できればぼくの出番は少なくしてね」
「考えておこう。……ワヒュード様、たった今述べさせて頂いたように、ワシらの方でシナイシ様の技量向上に努めさせて頂きたいと考えているのですが、いかがでしょうか?」
「構わない。是非そのようにしてくれ。ただ、あまり無理強いはしないように。団員と同じ扱いはせず、実力や体力に見合った訓練を受けさせるのだ」
「はい。そのようにさせて頂きます」
「シナイシ殿、構わないな?」
「あぁ、えっと……大丈夫です」
誠が口を挟む隙すらなく、トントン拍子で決まっていく未来。
というか、口を挟んだところで更に良い別の案を出せる気もしないので頷くしか無かった。
(ブラック企業じゃないといいなぁ……)
可愛い姫の庇護者、言わば護衛という、言葉だけで考えれば良さげな職。
しかし、一国の姫の護衛とは中々な重荷。
責任は重大だし、その責任を抱えられるくらいの人間にならなければいけない。
周りの人間も誠を姫の庇護者として相応しい人間に育て上げようとするだろう。
(厳しい訓練だったら早々に音を上げて、格下げして貰おうかな……。それに、立ち振る舞いまで矯正させようとしてきたら、それこそダルいしメンタル崩壊しそうだ)
どこまでが勇者なのか。
彼らにとっての理想の勇者がなんなのか。
期待外れな勇者はどんな始末を受けるのか。
今向けられている顔の裏に、悪魔が潜んでいたりするのだろうか。
(……はぁ。やっぱり否定すべきだったかな。でも、姫は可愛いし、なんやかんやで恋仲になれたりしないかな)
誠も男の子である。夢は大きい。
だが、誠は夢をあまり見ない。現実を優先する派だ。
(でもどうせ、他国のイケメン王子とか、権力も財力も魅力も知力も、なにもかもが上を行く人間と結婚するんだろうな。あとは政略結婚とかな?)
これからの人生に、期待しようにも難しい。
でも避けられない。
誠は勇者というレッテルを貼られている。これまでこの世界で出会った全ての人間に貼られている。そしてこれから出会う人間にも余すことなく貼られていくだろう。
勇者の宿命なのかもしれない。
しかし、今朝まで日本という平和な国でなんでもない高校生だった誠が背負うには重すぎる宿命だ。
物語の勇者ならば、
はい、わかりました、頑張ります!!姫様のために、王様のために、王国のために、人間の未来のために、この身全て、全身全霊で頑張らさせて頂きます!
などと、心の底から言えただろう。
だが、誠はそんな物語の勇者ではない。聖人君子じゃないのだから。
(せめて勇者が、悪魔みたいな恐れられてる世界だったらな……)
話を膨らませ続ける国王と団長と副団長を死んだような目で見ながら、誠は悲しげに思った。
それから誠は、止まない会話を脳で処理することに飽き、目を逸らすとステンドグラスからぼんやり透けて見える外を眺めた。
外からは『ホーォ、ホーォ』と、鳩のような鳴き声が聴こえた。
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