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勇者の力は……不必要?せっかく異世界転生したので、新しい人生も謳歌したいと思います。 ……国王死亡!?  作者: 成田楽


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7話──勇者の能力?3

「頑丈ではあるが、あまり派手にはやらないように頼むぞ」


「でもここは壁とか床にも防御結界は貼られてるんですよね?」


「そうではあるが、謁見の間ではあるからな。派手にやられても困るのだ。場所を変えるという案もあるだろうが、最も安心できる場所はこの場。やむを得んと、どうにか従ってくれ」


「そう言われたらもちろん従いますけど……じゃあシナイシくん、とりあえず手を合わせてみようよ」


 ワヒュード国王からの忠告について話し終えたサマーニャは、誠に向き直って両手を広げて前に突き出した。


 例えるなら、前ならえのパー状態だ。


「手を?わかりました」


 言われた通りに手を出して、一回り小さい手のひらに合わせてみる。


「大きなものを推し進めるように、ぼくのこと押してくれない?体全体を使ってさ、足も踏ん張っていいから、全力で押してみてほしいんだ。でも殴ったりしないでね。ぼくに触れるのはこの手の状態のままだけね」


「はい」


 しかし、これまでの常識のままにいけば、授かった能力関係なしに押し切れる体格差。


 それなのにサマーニャは誠へ純粋な力勝負を持ち掛けた。誠の能力を試すためとはいえ、これでは本当に誠の力が強くなっているのかわかりにくいと思われるが……


(それほどの自信があるってことなのか?……まぁ、俺以外、というか異世界人以外にも能力はあるみたいな口ぶりだったし、見た目に反して力自慢ってことか)


 合わせた手のひらも柔らかく、度重なる鍛錬で皮膚が硬くなったりしているようにも感じられない。


 とりあえず、誠は自分の力の上がり幅もよく分かっていないので子供の相手をする時のように、初めは加減しつつ押し始めた。


「……!」


 その結果、誠は幻影でも見ていたのかと思ってしまうほどの驚きに襲われた。


 紙で作った箱を押すのは簡単。


 言い方を緩くすると、紙の見た目の箱を押すのは簡単だ。


 だが、紙を表面に貼り付けた鉄の箱を押すのは、紙のみで作られた箱よりも圧倒的に推し進めるのは難しくなる。


 手のひらに乗るほどの小さいサイズであれば大した問題では無いが、大きくなれば大きくなるほどその重量の差は広がっていく。


 誠は今、マジシャンに奇想天外なマジックを見せられたような気持ちになっていた。


 見た目はどう考えても子供で、先入観だけで考えれば自分より弱いように見えるサマーニャ。しかし、その実態は地に根ずいた大木だった。


(……力はそこまで上がってないのか?なら本腰入れてみても大丈夫そうか)


 自分の力を試してみたいという思いもあったため、誠は目の前の少年を信じて更に力を込め──


「うーん、まあまあですけど、力はそこまでてますかねー」


 その前に、誠から受けた負荷を思案していたサマーニャが、ワヒュード国王へ結果を伝えてしまった。


 もちろんここで、じゃあいいやと引き下がるわけにもいかず、


「ちょ、ちょっと待ってください」


 力を誇示する気は無いが、過小評価されて扱いが悪くなることだけは困る。


 スィフル姫を任せるに値する勇者だと示すくらいはしなければならない。


「自分でもこの能力の力加減がわかってなかったので、若干弱めにしてたんですよ。なのでもう一度、今度は本気でやってみてもいいですか?」


「まぁいいけど」


 仕方ないなぁ、といった様子で誠の願いを聞き入れるサマーニャ。


 ただ、その顔にはもう舐めたような態度が見え見えだった。


 誠はそんなサマーニャを見て、心に留めておくだけにするくらいの配慮はしてくれよと思いつつも、意表を突いてやろうという負けず嫌いな男心で、つま先から指先まで力を込めた。


(……全力で、能力を引き出す感覚で……圧縮?粉砕?いや……固定観念に囚われずに、とにかくなんでもできるような怪力を想像して……)


 その想像に果たして本当に意味があるのかはわからない。ただ、誠が知っている漫画だと魔法には想像力が大切みたいなことが書いてあったので、この能力も同じようなものだろうと期待を込めて脳を働かせた。


「……お?おお!?」


 誠はサマーニャの体を、容赦無く転がすつもりで押し込んだ。


 その結果、小柄なサマーニャはジリジリと靴底を滑らせ始め、少しずつ、少しずつ後退させられていった。


 驚いたような声を出すサマーニャ。だが誠はそんなサマーニャを見ても、力を抜くことはしない。少し後退させた程度では満足しない。


 だから一気に。それこそタックルするように足を、膝を、腰を曲げて、自身の体重と靴底の摩擦を利用して全力で押し上げた。


 指を折り曲げて互いの手を握っているわけではないので、すくい上げるように押されたサマーニャは踏ん張ることもどこかに捕まったりして支えを得ることもできず、地面から足が離れる。


 それは一瞬の出来事であり、誰かが一呼吸する時間が経過した時には遠く離れた、玉座の上方へと飛んでいく。


(……やり過ぎたか?)


 想像以上の腕力、及び全身の力に驚く誠。その表情には、見事な能力を魅せることができたにも関わらず、あまり喜びは浮かんでいない。


 反して、飛ばされたサマーニャ。彼は空中で手足で傾けて身体制御をすると、反対の壁に足を付けて受け身をとり、そこからジャンプして部屋の中心辺りに着地。更に跳んで、飛ばされる前の元の位置まで戻ってきた。


 そんな彼の表情には歓喜のような、笑みが現れていた。

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