6話──勇者の能力?2
「……」
(…………なるほど)
「どうだ?シナイシ殿よ」
「…………見れました」
「おぉ!それは良かった」
誠の言葉を聞いて嬉しそうにするワヒュード国王。
その隣でサマーニャも祝福する。
「良かったねシナイシくん。そもそも発現してなかったら一度命の危機とか、絶望感とかに苛まれてもらって生物の本能を刺激するって方法があったからさ」
「えっと……そうですね。それは本当に良かったです」
サマーニャが告げた方法の具体的な内容は聞かないでおくことにした。
「それで、見れたというか……確かに感じられました」
「ぜひ教えてくれたまえ」
「はい。えっと……これは能力について言えばいいんですよね」
「その通りだ」
「えっと…………デバフができるみたいです。目を見えなくさせることが……多分ですけど」
誠は感じたそれを、ワヒュード国王へ伝わるよう、なんとかわかりやすいように言葉にしていく。
「それと……ある程度力もあるっぽい?ですね」
「ほう。それは今すぐにでもできることなのか?可能であればどちらもこの場で試していただきたい」
「そのためのワシら、ということですね」
「その通りだ。頼むぞ」
「お任せ下さい。では、シナイシ様、貴方が感じた能力を、ワシに試して頂きたい。できますかね?」
サムハに見下ろされた誠は、若干の威圧感に怖気付きつつ、言われた通りに試してみることにした。
「わかりました。やってみますね。目を見えなくさせる……それから試してみます」
(目を見えにくさせる……暗闇状態って感じなのかな?目元に何かしら作用して視界を妨害するのか、目の活動を阻害するのか、それとも脳に直接作用して処理能力を奪うのか。……わからんな。なんでこうも曖昧な能力なんだ?能力を使えって言われても、ゲームみたいにタップするところも無いし、詠唱なんかも思い浮かばない。不親切にも程がある世界だ)
だが、内心で文句垂れても仕方ないとはわかっているため、どうにか頭に思い浮かんだその能力を発現させようと念を込めてみる。
(……無意識下で暴発するような能力になるとは思えない。もしそうなのであれば、事前に彼らから忠告されているだろうし、この世界もこうして成り立ってはいないはず。どんな能力にも明確なトリガーが存在すると考えていい。……意志を持つことか?)
無意識下で暴発しないためには、思い浮かべるだけでは駄目。
イラついた時などに、実行はせずとも殺したいと思う。そんな時にも発動しないような条件。
つまり、明確に対象に能力を行使する意志を持つこと。思い浮かばない、自分で考えなければいけない詠唱が無い限りはそれがトリガーだ。
そう、誠は結論付け、意識を目の前の大柄な老人、サムハへ向ける。
(これで目を見えなくさせる以外の攻撃をしたら敵対行為って見なされて殺させるか、取り押さえられそうだなぁ……。どうにか成功してくれ……ッ!)
「……ッ!」
意識しやすいよう、手をサムハへと向けて念じた。
その結果……
「どうですか?」
「どうなのだ、サムハよ」
「……これは、見えませんな」
「ッ……はぁ……」
無事に成功したことに一安心し、誠は思わず安堵の息を吐く。
そんな誠を尻目に、サムハはワヒュード国王へ、現状の報告を済ませる。
「きっと、ワヒュード様からはワシが普段通り目を開けているように見えるでしょう」
「そうだな」
「それはワシ自身も理解できます。瞼を上げているという肉体の動きは感じられますな。しかしながら、どう眼球を動かそうとも、暗闇ばかりが続くのみ。完全に視界が閉ざされております」
サムハは自身の状態を細かく説明していく。
誠は自分の体がどうにかなるわけでもなく、サムハの体に目に見えて影響が見られるわけでもないため、あまり実感が湧かずどこかを見つめているサムハの瞳を追う。
「へぇ。無詠唱で、しかもサムハに長時間のデバフねー。それは確かに勇者だ」
小さいサマーニャも、誠の能力を受けては無いがサムハの言葉を聞いて僅かに感嘆する。
「サムハよ、シナイシ殿の能力に抵抗はできるのか?」
「……不可能でしょう。五秒後に掛けると事前申告されているならまだしも、シナイシ様の今の能力はこの身で感じるよりも先に視界を閉ざす即効性。実際、振り払うべく現在抵抗しておりますが、どうにも描き消せない。これは相当厄介な能力でございますな」
「ほう。では、シナイシ殿と手加減無しに戦闘した場合、勝機はいかほどなのだ?」
「……現時点ではワシが何枚か上手でしょう。しかしながら、先ほどシナイシ様が仰られていたある程度力があるというもの。その力がどれほどのものかのか。そして、シナイシ様の秘める才能や、これからの研鑽によっては世辞を抜きに、ワシでも敗北を期す可能性があるでしょう。この視界の妨害の強制力は、それだけ戦闘の結果に影響を与えるものです」
「それは素晴らしい。それならばスィフルも安心して任せられる能力だ。では次に、その力の検証も含め、簡単な手合わせをしてくれたまえ」
ワヒュード国王は機嫌良さそうに命令を下した。
しかし、命令の当の本人はたまったもんじゃない。
(手合わせ!?この場に居合わせることを許されるくらいの人間で、団長って呼ばれてる人が弱いわけないじゃないか。日本でも世界でも、どんな達人も相手にならないような人だろって……常識外な存在にもほどがある)
「わかりました。よろしくお願いします」
しかしさそんな内心をわざわざ見せるわけにもいかず、仕方なく口角を上げて、肯定を含めた戦闘前の挨拶をした。
「……サマーニャが出るか?」
「えー、ぼく?なんでよ」
サムハの提案に対し、気遣いのへたっくれもなく嫌な顔を隠そうとしないサマーニャ。
しかし、
「まだ暗闇の中なんだ。この状態で手合わせしろと言いたいのか?」
サムハはまだ誠のデバフの影響を受けているから、だから無理だとサマーニャへ告げる。
「そうなの?それにしてはさっきより普通にしてるけど……」
「少しは慣れるだろう?後はシナイシ様の能力を受ける前に見えていた光景と、声と呼吸の音などを照らし合わせて大体の位置関係を掴めることができれば問題ない」
「えぇ……そろそろ、年相応になった方がいいと思うよ」
「サマーニャこそ、もう少し大人になるべきだろう。副団長を務めているのだからな」
「そういうことが言いたいんじゃないんだけどねぇ……ま、いいや。じゃあぼくがやるよ。良いですよね?」
「構わんぞ」
サムハとの話し合い?の結果、サマーニャが誠と手合わせすることになり、ワヒュード国王もそれを認めたことで決定が覆ることの無い事実となった。
「では、互いに怪我をしない程度に、試してみてくれたまえ。具体的な内容はサマーニャに一任しよう」
「かしこまりです。では……ぼくは君のことをシナイシくんって呼ぶね。ぼくのことは好きに呼んでくれていいよ」
サマーニャは体をグッと伸ばして軽い準備運動をしつつ、誠と当たり障りのない会話をする。
「わかりました。ではサマーニャさんと」
どれくらいの年齢差なのかはわからない。ただ、副団長と呼ばれてこの場にいるくらいだから地位は上の方で間違いない。
ならば、年功序列の考えは捨てて、成果主義で関わっていった方が悪印象を与えることなく関われるだろう。
そのような考えの元ではあるが、様付けはやり過ぎだと思い、さん付けで呼ぶことにした。
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