48話──慈
慈の告:ゼロ
少女は知らないだろう。
父親であるワヒュード以外の人間が殺されていることを。
いつかは知ることになる。全てを知る権利をスィフルは持っている。知りたいと願う好奇心や、父親が守っていた国への想いを十分に持っている。
きっかけさえあれば、知れるだろう。でもまだ知らない。
きっと……スィフルはまだ何も知らない。
「今後、もしかしたら国民が暴動を起こすかもしれません」
他愛ない雑談に付き合ってくれていた誠は、会話の終わり際にそんなことを告げた。
ワヒュード国王が死んだことにより、王権へ不満を貯めていた一部貴族や平民が下剋上を企むだろうと。
「ですが、前にも言ったように、スイフル様のことは俺が守りますから、安心していてください。では、俺はこの辺で失礼しますね」
「……シナイシ様」
「どうしました?」
スィフルは去ろうとしていた誠を呼び止めた。
「シナイシ様が……殺した訳じゃないですよね?」
「疑ってるんですか?」
「い、いえ!そんなんじゃないんですけど……その……」
「そっか」
誠は止めた足を再び動かし、扉を開けた。そのまま何も言わずに帰ってしまうのかと思ったが、廊下に両足が着いたところで誠は振り返った。
「当たり前じゃないですか。俺は誰も殺したことはありませんし、傷付けたことすら一度たりともない。この世界を想う、勇者なんですよ?」
「……そう、ですよね。私……ごめんなさい!」
「いえいえ。全然気にしてないので大丈夫ですよ。まだスィフル様には俺を信用しきれないというのも仕方ありませんから。ゆっくり時間をかけて、俺のことを少しずつでもいいので知っていってください」
「……シナイシ様」
「はい」
「シナイシ様は、居なくなりませんよね……?」
「どうでしょう?そうならないように善処はしますが、なにせ団長や副団長を欺く手段を持っている敵ですので、狙われたらもう……ね。でもその時は、勝てなくとも刺し違えるくらいの気ではいますから、任務に出られているスィッタさんの結界が張られているこの部屋に隠れていさえすればスィフル様に被害が及ぶことはないと思いますよ」
「でもそれではシナイシ様が……っ!」
「心配してくれてありがとうございます。ですが、俺はこれでも勇者です。魔王に対抗するための存在が、こんなところで朽ちたりはしませんよ」
「……嘘つきは、嫌いです」
「嘘かどうかは今後の行動で示しますよ」
誠は扉に手を掛け、
「あとでゆっくりお話しましょう。スィフル様の知る、この国のこと、貴族の方々についてもね」
ほとんど音を立てぬよう、ゆっくりと閉じた。
「……マコト…………ふふっ♪」
光ぼやける輪の中に、焦点を結べば輪郭が視えた。
それは枝石誠の姿。
輪の中の誠は眠っていた。自身の部屋で布団に包まれ、呼吸による体の浮き沈みまで確認できる。
熟睡しているようだった。
部屋を出ていったばかりの誠が、ぼやける光の中で眠っていた。
…………誠はまだ知らない。
スィフル姫は知っていた。その手に未来を乗せていた。
未来は改変不可だ。
未未来を視る行為、その後行動による結果すらも、未来の話。
視た未来に死が待っているのであれば、受け入れるしかない。順応していくのだ。絶望ではなく希望へと、心を改変するだけでいい。
それだけで、幸せなのだ。
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