41話──副団長として……2
サマーニャは無駄な動きをすることなく、口だけを動かす。
「魔王が死んだからこの世界は何百年かぶりの平和が訪れた。魔王が死ぬまでの期間、ずっと人が死に続けた。死ぬことを受け入れて、抗いに向かった人間と、勇者がいたからこの世界は耐えて、先代の勇者まで持ち堪えることができた。屍の上にぼくたちは立ってるんだよ。今回のこれも、新しい屍ができただけのこと。そう考えたら、希望的になれないかな」
サマーニャは、心に響いているとは思っていない。
「すべてが上手くいくわけじゃない。幸福には犠牲は付き物……でしょ?稼ぐには鴨が必要。自由な人生には手足となる駒が必要。安全は事故から学ぶ。毒だって、食べた人が死んでからやっと毒だって気付けるんだ。勇者のことわざにもあるんだよ?トライアンドエラーってやつ」
響かせるつもりなら、殺す宣言はしていない。
「この疑心暗鬼から抜け出すには、怪しい人から順に身を捧げるしかない。誰も名乗らないなら、犯人を特定できないなら、確信が持てなくてもやるしかない。だからさ、もっと協力的になってよ。君が敬愛した人が望む未来のためだよ。サムハはワヒュード様の望む未来を目指してた。だから君が見るサムハの未来はワヒュード様の未来。そしてワヒュード様は、この国を良くしようとしてた」
この言葉で能力を解除して受け入れてくれても、なんの応対も無く部屋に籠られ続けられても、どちらにせよサマーニャのやることは変わらない。
サマーニャのやることが変わらないのだから、相手に変化を望むのは勝手すぎるし、そもそも殺害しようとしている時点で勝手もクソも無い。
「君の死は国の未来に繋がるんだよ。それなら、犠牲になることも厭わないよね」
「それは……」
「それにさ、諦めたらサムハのところに行けるんだよ?さっきこの国は終わってるって言ってたけど、そう諦めてるならさ、その命を諦めてもいいじゃん」
抵抗せず殺されてくれるなら、それに越したことはない。
王城内はスィッタの庭園。
油断すれば、長い時間をかけて張り巡らされたスィッタの結界が、サマーニャとの純粋な能力差を容易くひっくり返してくる。
だから戦わないのが一番良い。
「……サマーニャ」
「なに?」
「貴方がサムハ様たちを殺した可能性だってあります。もし貴方が犯人だった場合、私がここで死ねば、誰が貴方を抑えるのですか?」
「うーん……そう言われてもね~。……困るしかないよ」
ここから先は水掛け論になってしまう。
互いに潔白の証明はできないのだから。
「じゃあ結局は殺し合うしかないってことかぁ」
言葉で解決できないなら、能力を以って解決するしかない。
「ぼくを殺せる自身はある?一応サムハのせいで腕は怪我してるし、それに王城内だけど……」
「……」
「動かないと駄目だよスィッタ。警戒してるのがバレバレじゃん」
場所のアドバンテージはスィッタ。
しかし、情報のアドバンテージはサマーニャにある。
(ぼくの能力は知られてないはず。片鱗は見せちゃったけど、あんなのでバレるはずがないし……)
「ぼくの能力は象みたいに力が強いだけ……なんて甘い考えはしてないよね。そんなしょうもない能力で副団長の座に至れてるとは思わないもんね」
「……もちろんです」
「なにが発動条件だと思う?」
スィッタにとって自身の能力が未知なのなら、そのアドバンテージを活かして最大限脅す。
恐怖心を煽って行動を制限させるためだ。
意識的じゃなくても、恐怖は本能に付随するもの。勝手に深読みしてくれればそれでいい。
「例えば会話。こうして言葉を交わすことで相手の精神を乗っ取るとかね」
「……」
「体の動きにも注意しないといけない。アルバァみたいなことができるかもしれないしね……って言ってもアルバァも能力は隠してたんだっけ?参考にならないね」
「……」
「時間稼ぎが目的かもよ?こうして話している間にも、この部屋に毒ガスとか撒かれてるかもしれない」
サマーニャは適当な言葉を羅列させ、スィッタの頭に思い浮かぶ自身の能力の可能性を増やしていく。
「亀みたいに防御力が高いかもしれない。避役みたいに周囲に溶け込めるかもしれない。蜂みたいに毒を持ってるかも。猫みたいに反射神経が良かったり素早く動けたり……なんてね」
サマーニャは怖気づくことなく一歩前へ進み、ギシ……と木の軋む音が鳴った。
「さぁ!」
「──ッ!」
それを皮切りに互いが能力を行使し、この物語の幕を下ろそうと────
「ッ……え?」
僅かな違和感。
感覚的にも、視覚的にも、それが発生した。
感覚的な違和感は形容しがたいもの。しかし視覚の違和感は明らかな変化。
それは向かい合っていたスィッタが、瞬きすらしていないサマーニャの視界の中で、唐突にうつ伏せになって倒れていた。
「な……!」
サマーニャは姿勢を低くしてその場から離脱しつつ、首と目を動かして見えるところに敵が潜んでいないことを視認。それから開いたままの扉の方へ向かう。
しかし、そこでサマーニャはまっすぐ外に出ようとするのではなく、片足を上げて全体重を乗せて床を踏みしめた。
衝撃と共にサマーニャが通れるサイズの穴が開き、その体は下階へ降り立つ。
そこでサマーニャは、すぐ近くの扉から廊下へ脱出。
出てきたばかりの扉を前方に、背を廊下の壁に預けて止まった。
冷や汗を垂らしつつ、視線を扉の先から離さない。
「……蝙蝠」
乱れた呼吸を整えつつ、サマーニャは状況整理をする。
瞬間移動したような、時が飛んだような、サマーニャが観測できないなにかが起こっていた。
「なんで……蚯蚓は……?」
(目は離していなかった。能力も発動してない!なのになんで……倒れる瞬間すら見えなかった……)
全神経を集中させて、理解しようと努力する。
しかしわかることは、受け入れがたい、サマーニャが求めている事実ではないことだけ。
(息もしてない……スィッタが殺された……ッ!まるで同じ……スィッタと一緒のことが起きてる……!)
アルバァが死に、その時に居合わせたスィッタの言い訳。
あれが言い訳ではなく、事実だったこと。
サマーニャはそれを身をもって経験してしまった。
(犯人じゃなかった……)
直接手を下したわけではない。それでも罪悪感を感じてしまう。
しかし目を伏せ悲しむわけにはいかない。死にたいならその限りではないが、サマーニャは生きたいからスィッタを殺そうとしていた。だから、
(必要な犠牲だった。……それだけのことだよね)
そう、己を納得させるしかなかった。
「……避役」
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