40話──副団長として……
誠と別れたサマーニャは、迷うことなく王城内を歩いて、とある部屋に前に辿り着いた。
スィッタを殺すため。
確定してなくとも、怪しい者は全員殺していけばいずれは犯人に辿り着ける。
(スィッタを殺した後にまた誰か死んだら……次はシナイシくん……かな)
「まーいいや」
そんなことは殺した後に考えればいいと、サマーニャはその関係ない思考を頭を振ると共に取り払った。
そしてドアノブに手を掛けようして、触れる直前のところで動きを止めた。
「……」
眉をひそめて、悩む素振りを見せたサマーニャ。
彼は自身の隊服のボタンを、上から一つ千切り取りながら三歩後ろに下がって、池の鯉に餌をやるようにいい加減に放り投げた。
小さくて軽いそれは、不格好な弧を描いて宙を舞い、コツンと扉にぶつか……らずに、なんの脈絡も無く現れた細々とした光線に撃ち落とされて弾かれる。
カツンッ、カツンッと、左の方へ跳ねて転がっていき、通路の真ん中を縦断するカーペットによって、勢いも音も吸収されて止まった。
「はぁ……だよね。知ってた」
サマーニャはボタンが一つ無くなった服を整えてから、腕を組んで誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
「ほんと、面倒な能力だよね。だからアルバァのあれも相まって疑わしくなっちゃってるんだよ」
それは言い訳のような言葉。
疑わしいから殺すと。自分が望んで殺そうとしているわけではないのだと。そう自分に言い聞かせているようだった。
「この国のためを思っての行動なのに、敵対心を持っているって受け取られるのは癪だよ。……避役みたいに溶け込んでさ、無害だと思われればどうにかなる?でもぼくの心が敵対心を抱いているか否かで判別してるんだよね」
組んだ腕を解いたサマーニャは、先ほどボタンが撃ち落とされた位置から射程範囲を把握して、扉のギリギリのところまで近付く。
「無心になれば通れるかもだけど、人間の思考力じゃ到底難しいことだし、今すぐそんな極地に至れるわけもないし……そうだなー。蚯蚓なら……かな」
手を前へ伸ばしつつ、足も床から離して、体重を前方へと移動させ、
「……蚯蚓」
──
「──」
──
「──」
──
「──やぁ、スィッタ。今朝ぶりだね」
血臭と排泄物の臭いが籠った部屋の中に、スィッタは居た。
膝を抱えて座り込んだ彼女は、現れたサマーニャに目を見開いていた。
「なんで……ッ」
「なんで?そんな曖昧に聞かれても、何について言われてるのかわからないよ。人間だからちゃんと言葉を尽くさないとね」
「なんでここにいるんですか……!」
「スィッタに会うためだよ」
反感を抱いた目で不快感を訴えかけるスィッタだが、サマーニャは全く意に介さず質問に答えた。
「そうじゃないです!」
「じゃあなに?」
「どうやって入ってきたんですかッ!」
「ただ部屋を開けただけのはずだけど……見てたのにわからないの?」
当たり前だろうと、常識を知らない人間を小馬鹿にするような言い方で告げるサマーニャ。
「ッ……!」
やれやれと、いつもの調子を崩さない彼を見るスィッタの目に、僅かに光が宿った。
「なら!サマーニャは私のことを──」
「勘違いしない方が良いよ」
「ぇ……」
サマーニャは芯のある声でスィッタの希望を遮った。
期待させてしまったのは申し訳ないと感じるが、絶望というものは希望を感じれば感じるほど悪化する。
ならば、さっさと落としてしまった方が相手のためになるだろうという、サマーニャからの僅かな慈悲だ。
「スィッタのことを仲間だとぼくが思ってるって思うなら、その考えは今すぐ捨てた方が良い。あの状況から、サムハも死んで、それなのにスィッタを仲間だって手のひら返す訳ないじゃん。馬鹿でもそんなバカな考えはしないよ」
「じゃあ……なんで……」
「なんでだろうね。これから殺す相手に、からくりをわざわざ丁寧に説明する気は無いから、自分で考えてよ。ぼくから言えるのは、君の結界には欠陥があったってことだけだね」
今にも泣きだしそうなスィッタを見下ろすサマーニャは、漂う悪臭に顔をしかめた。
後ろに下がって入り口近くに逃げても臭いからは逃れられない。
「……烏。ちなみに抵抗する気ある?」
「ッ!ないわけないじゃないですか!」
スィッタは立ち上がりつつサマーニャから距離を取ろうとし、壁に腰を打ち付けた。
壁際で座っていたのだからそうなるのは目に見えていたことなのだが、それすらも気付けないほど視野が狭まっているのだろうか。
サムハを失った絶望感からなのか、サマーニャに恐怖を抱いているからなのか……
「そっか。念のため聞いてみたけど、愚問だったね……」
サマーニャは残念そうにため息を吐き、その吐いた空気分また吸い込んで……意識を切り替えたサマーニャは全身の力を僅かに弛緩させ、スィッタの行動に目を配らせた。
「でもさ、それってサムハの意向に沿う行ないかな?」
「サムハ様はもういません」
「うん。そうだね。でもスィッタの死はこの国のためのなることなんだよ。国のためってのは、サムハのためってのとなんにも変わらないよね」
「私が死ぬことが、どう国に作用するっていうんですか!?もうなにも関係ないですよ!この国は終わってるんですから!」
「スィッタに疑いが掛かってる。それだけで十分死ぬ価値があるんだよ。国の未来に繋がるんだよ」
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