37話──決意2
怪しいと思うだとか、捕らえるとか、そのような甘さを捨てた発言。
そこにヘラヘラした様子は無く、声色からも冗談混じりの発言ではないことは明らかだ。
「確信はあるんですか?」
「無いよ。無いけど、やらないと永遠に犠牲者は増えていく。犯人は無実の人間だけを殺すけど、犯人以外が殺人を犯せばいつか犯人も手にかけれるでしょ」
「それって最終手段じゃないですか」
「もう最終手段を使うしかないところまで来てるんだよ。悠長にしていられない。ぼくは死にたくないんだ。殺されるくらいなら、無実の人間を殺しまくる非人道的行為に手を染める方がマシだよ」
「……取捨選択ですね」
「ぼくのこと見損なった?」
それは不安からではなく、ただの確認。
誠が頷けば、きっとサマーニャは単独行動で全てを終わらせようとするだろう。
「いえ、全然」
これはサマーニャをフェローするためでなく、誠の本音から出た言葉だ。
「逃げると言った通り、俺も自分の命を優先しますから、その考えには賛同できます。我が身可愛さは捨てられない物です。自分勝手な性格であればあるほど、幸福度は高くなる。内気で周囲の視線ばかりを気にして振舞いを矯正して、そんな人生に価値がありますかね?人間は生きがいというのも求めがちですが、同時に他者の生きがいを妨害しないように気を遣って生きないといけません。俺はそういうのはごめんですね。生きていることに価値を感じられなくなるような生き方なんて、生命体として矛盾していると思います。俺たちは常に矛であるべきなんですよ」
「……」
「人間は、良くも悪くも知能を獲得していますから、その時点でもう避けられない宿命なのかもしれません。それでも抗おうと、知能を良いように活かして生きれる人間こそが、本当の人生を送れる。……俺はそう思いますね。全ての行動選択は、サマーニャさんが望むままに、良いようにですよ」
「ぼくにとって、良いように」
「えぇ。スィッタさんを殺すことが正しいと思うなら、俺は止めません。だって俺の人生にスィッタさんは必要不可欠な存在ではないですから」
「ははは、ぶっちゃけるね」
「ただの取捨選択ですよ」
不必要に抱えていたら重量オーバーになってしまう。
誠は常に選んでいるだけだ。
「そっか。そう言ってくれるのはありがたいね。勇者が敵にならなくてよかったよ」
「俺が敵に?いやいや、俺は戦ったところでサマーニャさんの敵にはなりませんよ。戦いとすら呼べないただの一方的な虐殺が行なわれるだけでしょう」
「そうかな。サムハに掛けてた視力を奪うやつがあればなんでもできそうだけど」
「サマーニャさんのような性格の人が、もし襲われた時に抗えないと感じるような相手とこうして二人きりになるとは思えないんですが……どうでしょうか。合ってます?」
「やっぱりシナイシくんは勘が鋭いね」
サマーニャはそう言うと、袖を戻して腕を隠した。
「それで、シナイシくんはどうするの?ぼくは今すぐにでもスィッタを殺しに行こうと思ってるんだけど」
「……サマーニャさん的にはどうしてほしいですか?俺はどうするのが一番都合良いんですか?」
「好きにしなよ。邪魔しなければいいからね。部屋で寝てても、スィフル様のとこ行っててもいいし、なんなら着いてきてもいいよ?邪魔しないなら、だけどね」
「そうですか。なら俺は寝てますよ。スィフル様の部屋に行ったところでやることなんて無いですし、迷惑かける可能性があるなら同行するわけにはいきませんから」
「そっかぁ」
誠のその言葉を聞いたサマーニャは、喜ばず、残念がることもなく、部屋に残るというその意思だけを受け取り頷いた。
邪魔になる行動をしないのなら、どうなろうともサマーニャのこれからには大して関係無い。
「それはよかったよ。やっぱり殺しはよくないとか言い出したらどうしようかと」
「まさか。俺は正義の味方とか大それた人間じゃないですよ」
「勇者なのに?」
「その肩書きは勝手に付けられたものですよね。この世界、この国での歴史が言ってきてるだけです。勇者の存在意義だった魔王はもう死んでいますし、勇者なんてあって無いような存在ですよ」
「確かにそうかもだけど、他国への牽制にはなるんだからそれらしい立ち回りは魅せられるようにしとしてね」
「副団長ですね」
「副団長だからねー」
サマーニャはそう言うと、誠から視線を外して部屋の出口へと向かった。
そのまま部屋を出ていき、スィッタ殺害の目的に向けて動き出すかと思いきや、サマーニャは寸でのところで立ち止まる。
それから振り返って、
「もしぼくが殺されたらさ、その時はスィフル様でも連れ出して逃げなよ」
僅かな笑みを浮かべながら、勇者を後押しするように告げた。
「その時はそうしますよ」
「そこはサマーニャさんなら大丈夫ですよなんてこと言ってほしかったなー」
「励ましの言葉を言えたらよかったんですけど、そこまでサマーニャさんの能力を知りませんから。俺は無責任なことは言わない性格なんですよ」
「そっかぁ……じゃあ、せめて期待して待っててよ」
「えぇ。そうさせてもらいます。頑張ってくださいね」
そうして、手を振ってサマーニャを見送った誠は、ベットに寝転んだ。
「はぁ……」
誠は常に思っていた。
──暇な世界だな、と。
インターネットが無く、ゲーム機などの電子機器も無い。遊戯ができるアナログの暇つぶしアイテムも無い。
城下町に繰り出せばアナログゲームは見つかるかもしれないが、共にプレイする友人も居ない。
この王城に居座ることが非常に退屈。寝るくらいしか時間を潰す術がない。
更に、近々王の死が王国中に轟くだろう。
さすれば、王国の平穏は当分失われる。
守護神とも言える立場にあった王国騎士団の団長と隊長らも死んでいるのだ。不満、不安を抑えることは不可能。
このままでは暇が続くことは避けられない。
「肩身狭いんだよな……」
縛られていては何もできない。
満足に生きられない。
自由度が足りない。
幸福度が上がらない。
「……やっぱ、行くか」
暇だから。
そんな理由から、誠は脱力していた体を動かした。
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