36話──決意
《死の告:ゴ》
サムハ・ピャーチ:死亡
彼は自身の書斎で息絶えていた。
戦闘した結果なのか、部屋の中は荒れていた。大きな棚が倒れていたり、中心から負荷で粉砕されたような書机。壁には指が入るほどの大きさの穴がいくつも空いており、更に窓ガラスは枠ごと粉々に破壊され、鋭い破片が床に散乱していた。
普段は見えない隙間などに溜まっていた埃が舞ったのか、少々室内は埃臭い。しかしその臭いはよく嗅がなければ感じ取ることができないほどに、他の要因により掻き消されてしまっていた。
それは死臭。
鼻に突き刺さる悪臭を撒き散らす肉塊が書机の後ろに鎮座していた。
肉塊に取り込まれてる布が、サムハが着用していたそれにそっくりであり、この書斎もサムハが管理している場所なので、肉はサムハだと推測できた。
また、肉の破片と液体が周りに飛び散り、紙や布、木材に染みを生み出していた。その中には白い毛、眼球、歯、砕けた骨なども混じり、元は生きた人間だったという事実を突きつけている。
誰が殺したのかは不明。
死亡時に居合わせた者はおらず、現場の状況しか証拠になり得るものが残されていなかった。
「……凄いことになってますね」
「でしょ。もう終わりだよこの国」
サマーニャから共有を受け、誠は素直な気持ちを告げた。
現在二人は、いつも通り誠の部屋にて話し合っている。
こそこそとする必要はもうほとんど無い。しかし誠からサマーニャへコンタクトを取ることなく、今回もサマーニャが誠の部屋に来たためそのままここに落ち着いているのだ。
変わったのは、わざわざ窓から侵入せずに堂々と扉をノックして入ってきたことだ。
「サムハさんが殺されて、その能力のせいで死人が出たって……ヤバすぎません?」
「ホントにね。見てよこれ、この傷」
サマーニャは袖をまくり、痛々しい抉れた傷を見せてくる。
失礼だとは思いつつも、誠はサマーニャの傷をみて顔をしかめる。
「中々に刺激的ですね……」
中心辺りはぐちゅぐちゅと膿んでいて、外側はかさぶたのようなものができていた。怪我したばかりの状態よりも見ていられないグロさがあった。
「こうなることは誰も想定してなかったよ。知ってたらサムハに治してもらうなんてことしなかったのになぁ~」
「サマーニャさん、その頬の傷痕もサムハさんに治してもらったところですか?」
サマーニャの右頬の下あたりには白い傷跡があった。誠の記憶が確かなら、昨日までのサマーニャにこんな傷痕は無かったはずだ。
それが気になって聞いてみると、サマーニャは不思議そうな顔をしつつ自分の頬を触り始めた。
「右頬です。はい、そのもう少し下辺りで……」
「あー、これか。確かにちょっとへこんでるね」
傷痕まで誘導され、自身の指の腹で触れることでサマーニャも誠がなんのことを言っていたのか気付く。
「かなーり前の傷だね。一年か二年か……確かこれもサムハに治してもらったかな。だから今は痕になって出てきたんだと思う」
「なるほど、サムハさんの再生……難しいですね。でも再生されていた人はその効果が無くなって、本来の怪我の状態。サムハさんが介入しなかった場合の、怪我をしてから現在までの状態になっているっていう理解でいいですか?」
「概ねそんな感じ。だからこれは痕になってるし、腕はこうなっちゃってるんだよ。でね、問題……いや、大問題があってさー」
「はい」
「これまでサムハに致命傷を治してもらってた隊員たち。みんな同時に即死したっぽいんだよね」
「そのまま死ぬところを再生されたからですか」
「うん。即死した人も、ギリギリ耐えた人も患部が腐ってるみたいでさ、一応ぼくの腕の症状的に、サムハの再生の効果には腐敗の遅延というか、抑制がかかるみたいなんだけど、応急処置とかも一切せずに再生してもらって、時間も経っちゃったらそりゃ腐るよね」
「……一応聞いておきたいんですが」
サムハの能力と、団長という役割。そして、サマーニャから聞いた隊員の死亡状況。
それらから推測できる、望んでいなかった可能性。
「サムハさんってこの王城関係者以外の人たちも治してました?」
もし治していたのだとしたら、今ごろ王国の各地で騒ぎが起きているだろう。他国でも影響を受けた人がいるかもしれない。
「ぼくにはわからないかな。サムハかぼくのどっちかは王城に残るようにしてたからさ」
「そうですか……」
「でも、もう隠し通すことは不可能に近いだろうね。シナイシくんが聞きたいのってそういうことでしょ?」
「あー、はい。直球に聞くとそうですね。サムハさんの死が不特定多数の人に影響を及ぼしたのだとしたら、あとは時間の問題かなと思いまして」
サムハが死んだこととそれによるサムハさんの能力による影響を知っている誠たちは原因に辿り着けている。
しかし、それらを知らない他の人たちは、原因不明の突然死や急な負傷などに見舞われている。それを特定せず放置するほど愚かな人間はいない。
必ず共通点を導き出し、サムハまで辿り着くはずだ。
そして、王国騎士団の団長が死んでいるにも関わらず、顔を見せてサムハの死亡についてやそれによる被害などについてなにも言わない王を怪しむ。
芋づる式に、何もかもバレていくだろう。
「団員たちにはなんと説明したんですか?」
「まだなんにも言ってないよ。正直に話すには大き過ぎる問題だもん。国王、団長、スィッタ以外の隊長が死んでるんだよ?理解してくれる隊員なんで極僅かしかいないって」
「……そうですね。きっと言葉では制御できなくなるでしょうね」
口では国のために命を捧げると言えても、本当に覚悟を決めている騎士は少ない。
そして、命を捧げる対象であった国王は死んでいる。更に王国騎士団の中でも最強格の団長が殺されている。そんな事実を知れば、少しでも不安に思った者から離れていくだろう。
皆、自分の命と家族の命を優先するものだ。
「サマーニャさんはこれから、どうするんですか?」
「そういうシナイシくんは?」
「逃げようかなと思ってます」
質問を返された誠は即答した。
「あらま、逃げちゃうの?」
「一応補足しますと、まだ逃げませんよ。でもいざとなったら勇者の身分は捨てるつもりです」
日本の学生だった第一の人生。
勇者として召喚された第二の人生。
そして、ただのシナイシマコトとして異世界を生きる、第三の人生だ。
「サマーニャさんが戦い続けてる間くらいは、俺もここにいますよ」
「そっか。じゃあぼくもやることやらないとだね」
誠の意思を知ったサマーニャは、一つの決意を固めたようだ。
「シナイシくん。ぼくはもう行動に出るよ」
「と、言いますと?」
「スィッタを殺す」
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