35話──王国騎士団団長
モロ・スクッシャ王国の王国騎士団団長、サムハ・ピャーチ。
彼は【破壊】と【再生】という二つの対となる能力を持っている。
どちらも対象に触れることが発動条件であり、一度触れたモノはいつでもどこでもサムハの意思で能力を発動させることができる。
【破壊】は肉体を内部から破壊し、外傷は与えない。
【再生】は肉体の損傷を再生し、傷跡を一切残さない。
破壊も再生もサムハの思考一つで、瞬間的に肉体へ影響を及ぼすことができ、王国騎士団の常識として、サムハと敵対すること=死とまで言われるほどの能力だった。
ここまでが一般的に知られているサムハの能力。
しかしその情報では、能力の本質はまだ隠れたまま。間違いとまではいかないが、明確に違うところがあるのだ。
相違点。それは、能力の仕様にある。
サムハの【破壊】と【再生】は、一種の状態異常。
例えば、怪我をしたら出血し、血小板により血液が固まり、白血球などが細胞を整理整頓し、線維芽細胞が傷口をくっつけて、表皮細胞が傷口を塞ぐ。
短縮してもわかりにくく難しいので、もっと単純でわかりやすい言葉にしよう。
そこにいなかった新しい細胞が集まって埋める、だ。それにより怪我は治る。再生される。
その再生という過程は、元に戻すわけではない。新しい細胞により、元の状態に限りなく近い状態を形成するのだ。
だが、サムハの【再生】はそれとは異なる仕組みで肉体を再生する。
自然治癒などの元の状態に近い新しい肉体にするのは「零に百を足す」。
失ったものを完全に元の状態に戻して治すのは「零を除外して百にする」。
そして、サムハの能力による再生は「零をそのままに百を置く」というものだ。
【再生】により瞬時に万全の状態にすることはできるが、肉体を作り変えているのではなく、ハリボテを付与しているだけ。【再生】という効果を付与し、傷を無かったものにしているのだ。
そのハリボテの裏に負傷は残る。
そして改変したのではなくハリボテを被せただけなので、その【再生】を取り消す事が可能。
肘から先の腕を失い、サムハの【再生】により五体満足になっても、サムハが【再生】を取り消せば肘から先が無い元の状態に戻る。
サムハの【再生】は、そんな条件と制限が掛かった能力なのだ。
【破壊】も同様の条件と制限を持つ。
スィッタをすぐに破壊する判断に至ったのは、元に戻せるから。後戻りできる能力だったからなのだ。
破壊したものを再生するのではなく、【破壊】という結果の取り消しにより元に戻る。
ちなみに、【破壊】の取り消しはあっても【再生】の取り消しはほとんど使わない。【再生】後も肉体の自然治癒は進んでいるので、日が進んでいれば【再生】を取り消しても変化しないからだ。
ハリボテの中では自然治癒が行なわれ、人体一つで治る傷なら知らぬ間に完治する。
欠損は自然治癒でも治らないため、長期間を経て傷口が塞がるだけ。
それが【再生】の付与ルールだ。
では【破壊】の付与はどうなるか。
本来であれば無傷なのに、【破壊】によって負傷状態にして、スィッタのように激痛を伴う行動の制限を課す。
最も恐ろしい点は、サムハが【破壊】を取り消さない限りは永遠に負傷状態が続くということ。そして、人体の生命活動に大きく関わっている部位を破壊すると、命を奪うことができるということだ。
生物以外には能力の付与を行なえず、もし破壊で命を奪っていれば、破壊の付与効果は無くなり、外傷も内傷も無い、原因不明の死を作り出すことができる。
アルバァはそんな破壊の能力の効果から、サムハを疑っていた。
破壊で殺した後に、わざわざ刺傷を付けていたのではないかと。
限られた人物しかサムハの能力の詳細を知らないが、一番隊隊長のナースィンは情報収集を息をするように行なえる能力の持ち主であり、そんなナースィンの右腕ともえいえる実力を持ち、かつ十分な理解力を持っていたアルバァだったからこそ、サムハに対して疑念を抱くところまで推測を進められていたのだ。
サムハは敵に回してはいけない。
何故それが王国騎士団の内部で常識になっているのか。
それは【破壊】と【再生】の能力とサムハの戦闘能力の高さがあるから。
そして、サムハと一度でも関わり、身体を触れられた者はいつでもどこでもサムハのさじ加減で【破壊】される可能性があるからだ。
どこを触れられたかにもよるが、急所を触れられた経験のある人間は文字通り命を握られることになる。
怪我を治してもらった者も、【再生】の取り消しにより再び負傷状態に戻される。
サムハ・ピャーチとは、味方であれば問題無い人間。
サムハ・ピャーチとは、味方でも関わりたくない人間。
サムハ・ピャーチとは、口角を上げさせ続けなければならない人間。
握手一つで、破滅か、円滑な未来という、一長一短な人生しか送れなくなる。
そんな人間がワヒュード・モロ・スクッシャという王へ忠誠を誓い付き従っていたのは、王国にとって幸福と言える状態だった。
もし悪の道へ進んでいたら、勇者をぶつけるしか方法は無かっただろう。
触れた人間全員を人質にできる能力を持つ人間なのだ。
犠牲者が出るのも致し方ないと考えられる、中途半端な善行心の勇者でないとまともに戦えない。
サムハは、なにもせず、己の能力も知らないまま、平凡に人生を終えるべきだったのだ。
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……
……
…………タッタッタッと、静まり返った部屋の中に、誰かの足音が聞こえた。
カーペットにより通常の歩行音なら発されずに吸収される足音。
だが体重を片足に偏らせて重力の影響を受ける、走りであれば僅かながらも扉越しに聞こえるのだ。
その音を出す者は扉の前で止まり、ガチャガチャと激しく開けようとするも内側から掛けられた鍵により阻まれ続ける。
すぐに諦めたのか音は鳴り止み、再び静けさが訪れるも、それは一時のものだった。
──ピシッ……
微かな亀裂音が聞こえ、次の瞬間には静寂と共に扉が蹴破られた。
「サムハ様ッ!!」
現れたのは、サムハにより四肢の行動を制限されていたはずのスィッタだった。
「サムハ……さま……?」
彼女に応える声は無かった。
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