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勇者の力は……不必要?せっかく異世界転生したので、新しい人生も謳歌したいと思います。 ……国王死亡!?  作者: 成田楽


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11話──腹の探り合い

「念のためだよ。念のため」


「なるほど。国王からの指示ではなく、独断でしたか。サマーニャさん」


 サマーニャは、壁に背を向けた状態で腕を組み静止して、誠が部屋から出てくるのを待っていた。


 そんなサマーニャは首を傾け、視線を誠へ向けた。


「……なんでそう思うの?」


「念のため、なんて言葉、私情が含まれてないと使わないでしょう?」


「それ──」


「それだけかって言いたいのなら、なんでそう思うの?なんて聞かずにまずは否定か肯定かをするべきだったと思いますよ。不安や不信感があるから俺の考えを知りたくなったんですよね」


「……シナイシくんは感が鋭いんだね」


「そうですか?貴方たちほどではないと思いますけど。なにせ、昨日までただのなんの力も無い一般人でしたから」


「ふーん。その話はどこまで本当なの?」


「どこまで?どこまでと言われましても、話したことが全てですよ。俺が貴方たちを完全には信頼できないよう、貴方たちも俺を信頼することは難しい。それはわかってますよ?どちらにとっても、互いが未知の存在なんですから。でしょう?」


「……」


 サマーニャは数秒の思案の末、壁から背を離して誠の前に立った。


「もー、君とはやりずらいよ……」


「そうですか?特殊な環境でない限りコミュニケーションはそこそこ得意だと思うんですけど」


「そうじゃないし、異世界なんだから特殊な環境だよね」


「言われてみれば確かにそうだったかもですね。みなさん優しいので実家のような気持ちでしたよ」


「スィフル様の部屋で言ってたことと矛盾してるよ」


「おっとっと。今のは無かったことにしてくださいよ。というか、そろそろ自分の部屋に戻ってもいいですか?」


「いいけど、ついでにぼくのこと案内してよ。まだ教えられてないんだ」


「サマーニャさんに教えないのには理由があるんじゃないですか?」


「そうだね。きっとシナイシくんのことを案じてるんじゃないかな。ここに慣れるまで、絶えず部屋に誰か来られたら嫌でしょ?でも一部屋一部屋しらみつぶしに見ていけばわかることだし、先か後かの些細な違いだよ。だからぼくに教えて」


「……まぁ、いいですよ。夜中とかに来ないでくださいね」


「もちろんだよ!」


「声張り上げると姫様にバレますよ。とりあえず行きましょうか」


「そーだねー」


 誠の部屋はスィフル姫の部屋とまあまあ離れていて、わかりやすさ重視で説明すると右端と左端くらいの距離感だ。更にスィフル姫の部屋が五階にあるのに対して、誠の部屋は四階だ。


「俺のこと嫌いなんですか?」


「別にそんなんじゃないよ。今日会ったばかりだし、相性の判断をするには早いよ。でも、好ましくは思ってるかな」


「どういうところが好ましいんですか?」


「聞きたい?」


「えぇ。今後の参考にもなりますから」


 好ましく思われるような身なりや身振りは大事だ。


 第一印象を変えれば大きく関係を向上させることに繋がる。特に誠の場合は勇者らしさをマスターできれば苦労がかなり減るだろう。


「でも、ぼくが好ましいって思ったのは君の強さだよ?」


「強さ?能力測定の時ですか?」


「うん。今までぼくに純粋な力で勝てる人っていなかったからさ。油断してたとしても、あれは本当にやられたって思ったね。悔しいよ」


「それにしてはあんまり悔しそうじゃないですね」


「だって、勇者だし。特別な存在に変に競争心燃やしてもしょうがないじゃん。豚が複数の伴侶連れてて、羨ましいって思う?」


「豚ってのは、私腹を肥やす系の太った貴族のことですか?それとも四足歩行のふがふが言ってる方の豚ですか?」


「どっちでもいいよ」


「どっちでもいいんですか」


「そういう貴族がいるのは否定できないしね。ちなみにぼくは全然羨ましいって思わないね」


「俺もです。四足歩行の方はそもそも種族が違うので論外ですね。貴族の方は、そんな豚に縋り付くような女はどのみち要らないですね」


「はははっ、言えてるね!ちなみにぼく以外の前で言わない方がいいよ。巡り巡って豚さんのところまで流れて、変ないちゃもん付けられるからね」


「さすがに場所は考えますよ」


 そんな風に、雑談をしながら階段を下りていく。


「話してみて思ったよ。シナイシくんは意外と良い人なんだね」


「そう言ってもらえるのは嬉しいですね。サマーニャさんこそ、ノリが良くてやりやすいので助かります」


「うん。でも、賢過ぎるはよくないよ。真面目な助言ねこれ」


 ふざけているわけではないことは、表情や声色からわかる。


「頼られるからってことですか?」


「それは理由の一割くらいかな」


 部屋の間に辿り着いたので誠が足を止めると、サマーニャも立ち止まって話を続けた。


「極端な話になるから軽めに聞いて欲しいんだけど、賢い奴隷は嫌でしょ?家畜とかも操れるから家畜なわけで、人間並みの知能があったら個人事業で成り立たせることは不可能に近い。反逆されるからね。国家と勇者の関係もそれに近いよ。ワヒュード様はそうと思ってなくても、貴族の中には勇者を思い通りに操って利用してやろうって考えている人がいる。でも勇者が賢かったら、自分の不利益に繋がる可能性を考えて刺客を差し向けたり勇者の座を下ろそうと画策するだろうね。ワヒュード様を国王の座から降ろしたい人とか」


「……なるほど。そういえば、俺の世界でもそんな話がありましたね」


「へぇ、やっぱり人間がいる世界ってある程度一緒の歴史辿るんだね。それで、その話ってどんなの?」


「俺の世界でも昔は奴隷制度があったんですよ。それで、その奴隷に知識を与えることを禁止させる条約……いや、法律がありました。国が決めていたことですね」


「国が許してたんだ?この世界では奴隷は無認可だよ」


「昔の話ですよ。読み書きを教えることとかを禁止していたとか。それで情報を共有したり反乱を計画したりすることを防ぐための法律だった気がします。他にも完全な無知を維持させる国があったような……。でもまぁ、俺が生きてた時代は、全世界で奴隷は禁止されてましたよ。大人から子供まで、徹底的に他人との差を作らないよう教育されてました」


「全世界でかぁ……。じゃあ、この世界はまだその意気に達してないね」


「そうなんですか?」


「だってシナイシくんの世界は奴隷が全く必要ないくらいには平和になって発展してるってことでしょ?でもここはまだまだ争いが絶えない。魔王が死んだら次は国同士。ワヒュード様とも話したでしょ?他国からスィフル様を守ってほしいって」


「……サマーニャさん、賢過ぎませんか?俺の世界知りませんよね?」


「もちろん知らないよ」


「カンニングしたんじゃないかって思うくらいには察しが良過ぎますよ」


「これくらい普通だよ。さて、ごめんね長話ししちゃって」


 サマーニャは満足したようで、子供らしさのある声色に戻った。


「疲れてるだろうしゆっくり寝なよ。団長は一週間後くらいから少しづつ始めて行くらしいから、そのうちに順応できるよう頑張ってね」


「そうさせていただきます」


「調子良いところ見せてると早まるかもだから、さっき言った賢さと一緒に調整しておいたらいいんじゃないかな」


「調整……は、やりませんよ」


「やらないの?」


「えぇ。姫様に言ってしまいましたから」


『どんな痛みや苦労からも姫様を守れるくらいには強くなれるよう頑張ります』


 口に出した言葉は引っ込められない。


「サマーニャさんも聞いたでしょう?」


「そうだね。じゃあ頑張らないとだ。団長に厳しくするよう伝えておく?」


「そこまではやらなくていいというか……余計なお世話ですよ。では、また明日会いましょう」


「うんまたね」


 手を振るサマーニャに会釈して、誠は自身の部屋に入った。


(不安だなぁ……)


 小柄なのに威圧感のあるサマーニャ。彼と接するのはとてもメンタルを削る行為だ。


 警戒されていてはなお辛いものがある。


 思わずスィフル姫にああ言ってしまったのは失敗だったかもしれないと、誠は僅かながら後悔していた。


 心のうちに秘めておくべきだったと。


「不安だ……」


 そんなもやもやはすぐには晴れず、目を瞑って暗闇に身を投じた誠の脳内を何度も過って煩わせてきた。これでは寝付くのに時間がかかりそうだと、明日の心配も積み重なる。


 しかし、誠の想像以上に肉体的にも精神的にも相当疲れていたのだろう。その日はいつの間にか眠りについていた。




 そして、明日になった。




 そして──




「……国王が殺された?」

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