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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
インターミッション 白露
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第1話 宿題とお土産



 アメリカで死にかけようが、試練が終わろうが、家族と仲直りしようが時間は平等に流れ続けている。


 今日は制服に身を通して学校に宿題の提出に行っていた。

 大使館職員のご送迎付きで恐縮している。



 最後の異層空間攻略後、摩天楼で得た物品は全部フランスを通してヨーロッパに寄付した。

 そんなことしなくても莫大な金銭を受け取ったらしいけど、色々協力してもらったのでお気持ちみたいなものだ。拾い損ねた物品もちゃんとストレージに入っていた。中々使えそうなものばかりだったので今後に役立つだろう。

 余談だが統率個体が生み出したあの女王種たちも40日相当の難易度のエーテル結晶を持っていた。

 代わりに統率個体のエーテル結晶は80日相当のものにグレードダウンしていたが、フランスとしてはどっちでもよかったようで喜んでいた。

 僕にも支払われたアメリカの報酬金も、予定通り全額今回の試練で被害を被った人たちへの見舞金や支援に使ってもらえるように段取りをして貰った。

 丸投げで申し訳ないけど、代理人や専門家に任せることとした。

 

 

 フランス政府は僕の今後の生活についての要望をほとんど飲んでくれるようで、今まで通り日本に暮らして、学校も普通に通うことが出来る。

 今のビザも留学ビザに変わるから3年間は問題なく暮らせるようだ。

 ただ暮らす場所だけは現在準備中で、大使館で生活している。

 混乱の回避と不審な人物との接触を控えるためらしい。

 おかげで最近マーレと四六時中一緒にいる。フランスに帰らなくてもいいのだろうか。


 家族や日原邸の皆とは日本政府から預かったスマホは怖いから使えないし連絡が取れていない。

 一応フランスから新しいスマホを支給されたが、日本の例もあるのでほとんど使っていない。

 

 大使館の電話を借りて最低限の近況は母さんと奏さんには説明した。

 近々二家族や関係者の皆で集まって何やら話し合いがなされるようだ。

 全部綺麗さっぱり終わったし、身内でお疲れ様会でもするのだろうか。

 テンマがいたら喜んだだろうか。

 テンマがいるのが当たり前になりすぎていて、胸にぽっかりと穴が開いたような喪失感が未だに僕の中にはあった。

 

 

 

「では信也様、ご用事が終わりましたらご連絡をください」

「はい、分かりました。有難うございます」


 車を降りるとそこには誰もいない。

 わざと時間を登校時間とずらしているので当たり前ではある。社長出勤というやつだ。

 犬木先生もこの時間は授業がないので会うのに問題はない。

 職員室には人が少なく、僕が入ってきたことでにわかに騒がしくなるが気にせずに犬木先生の机に向かった。

 特に変わりないようで僕を見付けて手を振ってくる。


「ご無沙汰してます、犬木先生。夏休みの宿題を持ってきました。遅くなってすいません」

「お、おお……大変だったなんて気軽に言えるもんじゃないが、良く宿題が出来たな」

「日本に帰ってきてからはそれなりに時間はありましたから。終わってたのにアメリカの所為で提出が遅れてしまって」

「あー…体はいいのか?随分酷かったように見えたが」

「普通に死にかけましたけど、体の方はポーションのおかげで大丈夫ですよ。真っ白い天使が10人くらいお迎えに来てましたね、ハハハッ」


 なんか気の毒そうに見られて笑ってもらえない。

 自分でもつまらないことを言った自覚はある。

 天使じゃなくてこっちを呪殺してくる毒蜘蛛だったし。


「また青野がこの学校に来るのは…なんて言うか、信じられない気持ちだな。世界の救世主だぞ、お前は」

「勘弁してください……僕は難しいことを考えずに、ただ戦っただけですから」


 やっぱり誇るなんて出来ないよな。

 テンマがここにいるならまだしも、一人になってしまった僕には救世主なんて分不相応だ。


「そうだな……青野がそう言うなら、もう言うまい。次の授業から俺と一緒に教室行くか。丁度いいことに、これから俺の授業だ」

「有り難うございます。心強いです」


 授業の終わりのチャイムが鳴り、犬木先生に連れられて教室まで来た。

 廊下ですれ違う生徒たちが、信じられないものでも見るかのように視線を向けてくる。


「おう、揃ってるか。漸く休校してたクラスメイトが復帰してきたぞ。留学生扱いだが、みんなあったかく迎えてやってくれ」

「ただいま、でいいのかな?戻って来たから、また宜しく」


 軽く挨拶をする。高校に入学してから居なかった期間の方が長かった教室。

 シンと静まり、緊張が伝わって来る。

 なんだ、一発ギャグでもすればいいのだろうか。

 度胸はあるけどネタがない。


「驚きすぎて声も出ないか。じゃあ席について授業を始めるぞ。席替えしたから青野の席はあっちだ」


 席替えしたようだけど、変わらず窓際の一番後ろだった。多分気を遣われての配置だろう。

 右隣には瀬尾さんがいたけど机に突っ伏していた。

 寝ているというよりは僕の顔を見ないようにしているように思える。

 声を掛けることも戸惑われたし授業が始まったので何も声を掛けなかった。


 次の休み時間も遠巻きにする人は多いけど、誰からも声を掛けられない。

 瀬尾さんも友達二人何処かに行ってしまったし、もしかして嫌われてしまったのだろうか。

 瀬尾さんに会ってから会った変化と言えば、海外で異層空間に挑んだくらいだけだ。

 もしかして人に近い怪物を倒したから怖がられているのかも。

 アメリカの怪物は限りなく人間の女性に近かった。

 統率個体も合わせれば11体を惨殺している。

 悶々と考えこみながら授業をこなしてお昼休みになった。


 いつも昼食を共にしていた場所に赴けば、姉妹と幼馴染たちが既に待っていた。


「お兄ちゃん、こっちっ」


 莉々に促されてその隣に腰掛ける。すると寄り添うようにぴったりとくっつかれた。

 すっかり明るくなったもので、周りの目があっても緊張の色はない。

 この快活さが本来の莉々の性格なのだろう。

 

「お兄ちゃんの分も、お母さんにお弁当作ってきてもらったよ」

「ありがとう、莉々。久しぶりだなあ……母さんの料理」


 お弁当を受け取り目を輝かせていると、皆が驚愕した表情で僕らを見ていた。


「みんな、どうしたの?」

「え?え?莉々ちゃん、喋ってる?」

「初めて声聞いた……ていうか誰?」

「性格が違いすぎ……いや、こんなもんかも」

「私も今まで聞いたことなかったわ」

「そうね、こんな莉々ちゃん初めて見たわ」

「?」

「もしかしてみんなの前で莉々は喋ったことなかったの?」


 全員から頷かれる。

 僕と喋ってるときは、4割くらいは言葉で会話できるようになっていたから、皆に対してもそんなものだと思っていた。

 よくよく思い出してみると、この間青野家に行ったときはみんなと話してばかりで莉々は特に喋っていなかったな。

 割と喋れるようになったかと思ってたけど、これはもうちょっと掛かりそうだな。

 

「莉々はこれからどんどん喋れるようになると思うよ。髪飾りの効果は確かだから」


 正確には、僕のステータス閲覧でマイナス技能に気付けたからだから、似たような症状全てを改善できるわけじゃないけど。


「莉々だけずるいよ、私もお土産欲しいなぁ」


 萌香が上目遣いでこちらを見てくるが、僕は渋い顔を作った。

 あまりに忙しすぎて、萌香たち用のお土産を買っていなかった。

 あれだけ海外を飛び回ったのに甲斐性がなさすぎるかもしれない。

 

「あ、ごめん、何にもいらないよ、ちょっと言ってみただけだから」


 黙っている僕に何を思ったのか、顔色を変えて焦る萌香。


「いや、お土産何にも買ってこなかったから、ちょっと失敗したなって。戦ってばっかりだったし、時間が出来たときもあったけど、あれは別の意味で体があかなかったし……」


 イタリアで1日休養にあてた日は、琴羽とマーレが対抗意識燃やして連れ回されただけだったな。

 リフレッシュにはなったけどお土産まで頭が回らなかった。


「あ、そっちか」

「フランスに行ったら何か買ってくるよ。要望があったら先に言ってね」

「お兄ちゃん、お姉ちゃんたちが言いたのは、わたしの髪飾りみたいなものだと思うよ」

「あーなるほど……それは渡せないんだ。莉々の髪飾りは試練にあまり関係ないから渡したけど、他の物品は大体試練にとって重要そうなものが多いから。一応その条件にあてはまらないものもあるけど、渡した相手の不幸になりそうだから、どっちにしても渡せない」


 アスラから落としたものが最たる例だ。僕も琴羽もお口チャックして誰にも言わないでおこうと話し合った。

 ストレージの説明が本当なら、存在を知られるだけで争いの種になるし、使った人間を必ず不幸にする。

 

「そっか……莉々は特別かぁ。いいなあ……」


 物欲しそうに萌香が莉々の髪飾りを見ている。莉々はさっと僕の背中に隠れた。

 事情があったとはいえ少々不平等だったかもしれない。

 一応それを見越して準備、というよりは効果を知って渡そうと思っていたものはあるけど、人目のある場で出すつもりはなかった。まあ身内だけだし、今渡してもいいか。


「しょうがない……萌香、ちょっと手を出して」


 ストレージからあるものを取り出し、萌香の差し出した右手に巻く。

 僕が手を放すと、萌香の手首には滑らかな赤い光沢を持った組紐が付いていた。


『流転の組紐


 装備者の運気を上昇させ、邪気から身を守る。

 一度だけ抗えぬ不幸の因果を回避することが出来る。

 その際この組紐は千切れ全ての効果を失う→

 髪につけることで邪気を払う力が強まり、手首足首に着けることで運気が強まる』


 ストレージの説明では、どこに付ければどういった効果が強くなるまでは説明がなかったけど、別に教えても困ることはないので説明しておいた。


「アフリカの70日の難易度でドロップした物品なんだ。これなら目立たないし、萌香にも似合いそうだからプレゼントするよ。変な視線で悩むことも減ると思う」

「わあぁ……糸で出来た組紐なのに不思議な光沢で綺麗……」


 萌香が太陽に手首をかざしてはしゃいでいる。

 喜んでもらえて何よりだ。


「………」


 そんな萌香を見えていた春香が、炭で塗りつぶしたみたいな暗いジト目を僕に寄越してきた。

 分かってるよ、ちょっと意地悪しただけだから。

 こちらに手招きすれば素早くやってきたので、同じ性能を持つ青色の組紐を手首に巻いた。


「これで宜しいでしょうか、お嬢様」

「ほわあ……もう一本あったんだ」

「うん、流石に品切れだけどね。残りは琴羽が3本持ってるはずだけど、僕が確保してるのはそれで全部だよ」


 姉さんがガックリと肩を落として、顔を下に向けて落ち込んでいた。

 心なしか夕希ちゃんや有紗さんも落ち込んでいる。

 莉々はそんな姉さんに近付いて右耳の髪をかき上げた。

 今日は耳の横をひと房三つ編みしているけど、その髪を纏めていたのは例の組紐だったようだ。

 莉々に渡したのはエメラルドグリーンだったな。


「え?それ、まさか……」

「♪~」


 莉々さんドヤ顔してる。皆が驚愕していた。

 これは先日有紗さんに不審者と間違われた際に咄嗟に投げ渡したものだ。


「莉々に渡した髪飾りが高価すぎて、心配だからこれも事前に渡してたんだ。邪気を払うし運もよくなるから。決して依怙贔屓とかじゃないよ」


 邪気払いの重ね掛けだ。これで莉々の魅了に対して、邪な思いを抱くものも少なくなると考えた。

 莉々よりレベルは低いが、同じく魅了を持つ春香や萌香も同じ理由でこれを渡したのだ。


「いやいや、絶対贔屓ですよっ、私にも何かください先輩っ!」

「ちょっと止めなさい、みっともないから……うう」


 夕希ちゃんの不満が爆発していて、何故か分からないがちょっと落ち込み気味の有紗さんに止められている。

 夕希ちゃんのドストレートの要求に笑いが漏れた。


「信也……」


 莉々のドヤ顔が会心の一撃となった姉さんが、見たこともないような弱弱しい表情でこちらを見詰めてくる。


「ごめん、今ので本当に品切れだからなにもないんだ」

「そんな……」

 

 僕は無慈悲に止めを刺し、姉さんが珍しく落ち込んでしまった。

 悪気はないんだ、姉さん。

 

 久しぶりの中庭での食事は、上機嫌組と落ち込み組に別れて和やかに終わった。


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