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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 奈落の受胎 世界縦断
91/149

第15話 sideアナザー 彼は世界を救う



 <ドキュメンタリー放送1日目>

 

 

 今日はママカと街に出て買い物をしている。

 青野少年と日原女史の世界縦断の様子を映した、3夜連続の生放送がある日で、夕食は豪華にしようという事らしい。

 この間も日本に青野少年たちが帰ってきた祝勝会と称して高いお店に行ったけど、配信業とはそんなに儲かるのだろうか。

 

 色の濃いサングラスと、口元を覆うマスクで顔のほとんどを隠していても、相変わらず男性の視線を集めるママカ。

 学生時代の呼び名は敬意と悪意を持って「歩く猥褻物」とまで呼ばれていた。

 今でも、というより前より吸引力は上がっている。本人はその視線が気持ち悪くてしょうがないみたい。

 ちなみに私のあだ名は学生時代が「小学生」、社会人時代は「中1」だった。言い出した男たちは私刑にした。

 最近も子どもと勘違いされる出来事があったけど、それ以上に良いこともあったので問題ない。たまには父も良いことをするんだなと思った。感謝はしないけど。


「肉ヨシ、野菜ヨシ。酒とツマミはネットで注文済みだからいいとして、あと買うものあったかな?」

「甘いもの食べたい」

「オッケー、ケーキ買ってこうか。レアチーズケーキで美味しいお店があったはず」

「うん、それにしよう。お酒にも合う」


 街頭の巨大スクリーンの前を通りがかったとき、日原女史が女性アナウンサーと会話している場面が映り込んでいた。

 結構な人数の人たちがそれに見入っている。

 キラキラと光る、特別なオーラを纏った彼女を。


『いよいよ今日放送ですね。私も楽しみにしてましたよっ』

『皆さん結果は知っていると思いますけど、試練の外でも色々ありましたから、見ごたえあると思います。私のお勧めはインドですかね』

『それまたどうして?』

『そこは見てのお楽しみですよ。多分度肝を抜かれますよ』

 

 番組の宣伝に来ていた日原女史が喋れば多くの人が反応する。


「特別か……」

「ママカ?」

「ううん、何でもない。帰って仕込みしましょうかね、放送に間に合わなかったら最悪だし」


 急かすママカに背中を押されて家路につく。

 二人で料理をして、今日食べる分を準備しテーブルの上に盛り付ける。

 思ったより時間が掛かったけど、テレビが始まる頃にはセットアップが完了した。

 ママカはSNSに料理の写真をアップして、配信を開始する。


「やっほ~みんな、今日も見てるかな~ママカの試練鑑賞にようこそ~今日はみんなとテレビを鑑賞しつつ晩餐と晩酌を垂れ流すだけの配信で~す」

「こんばんは、ママカBさんです。皆さんの準備は済んでいますか?」


 コメント

 ・こんばんは!ピザ頼んだで。御供はコーラ

 ・おっつ!友達とバーベキューセット準備して、待機してる

 ・チィースッ!つまみオンリー。酒は色々用意した

 ・ママカたちの料理写真見たよ、めっちゃ美味しそう

 ・ご飯食べ終わって家族と見てる。ワクワクしてる

 ・もう結果が分かってるから安心して見られるな

 ・試練の配信も映るだろうけど、期待度が高いのは編集と日常

 ・テレビの本気を見定めてやろうではないか

 ・海外だと流石に二人の配信なかったもんね。スケジュールきつすぎて

 ・タイトなんてもんじゃなかった。移動時間考えたらまともに寝てたかも分からん

 ・世界の救世主万歳!

 ・青野少年も来てくれたらなあ

 ・芸能人じゃないし、あの子はこないだろ

 ・日原女史なら説得できるのでは?


「みんなも準備万端だね。食べてるときは基本マイク切るから」

「今日も宜しくお願いします。あ、始まりましたね」


 テレビの画面が暗くなり、しんと静まり返る。

 オレンジ色の蝶が一匹、闇の中に浮かび上がる。

 ポツポツと増え、闇を埋め尽くすように現れた蝶たちが淡い光源となってスタジオを映し出した。

 そこは巨大なホールのような場所で、客席には大勢の観客がいて、壇上に人が一人立っていた。

 真ん中に浮かび上がるように現れた日原女史が手を振れば、蝶の群れが彼女の周りを旋回し、大きな炎の塊に、中国の龍を思わせる長大な威容となった。

 ここまでくればスタジオの全容がよく分かる。

 劇団の舞台のような作りで、後ろには巨大な映像パネルが存在していた。


 炎の龍は天井付近を何度か旋回したのち、解けるように消えていった。

 スタジオに明かりがともり、一人の男性が日原女史に近付く。

 有名な司会者で今回のために呼ばれたようだ。


『いやー美しい演出でした……魔法、いえ生命術でしたか』

『はい、自分の生命、感覚で言えば体力を使って自然現象を生み出す術です。ボクは装備品で火の生命術だけを使えます』


 そこから司会者と日原女史が挨拶をして、コメンテーターやゲストなどが紹介される。

 ニュースで見た人もいるし、例のその道何年おじいさんもいる。今日も名言を残すかもしれない。


「もぐもぐ……日原女史にその気はないだろうけど、開幕で青野少年への盛大な煽りだよね」

「ぱくぱく……まあ……それは私も思った」


 コメント

 ・美しい炎だった。なお青野少年の炎は……

 ・青野少年は……まあ、その……身体強化得意だから

 ・うん……アレがアレだから

 ・ダメダメだって言っちゃえよ!

 ・自爆専用って言っちゃえよ!

 ・本人も自覚あるだろ、今回の試練は炎どころか一回も魔法使ってないぞ

 ・賢明な判断だ

 ・箱庭の時は初めての魔法ではしゃいじゃったんだね、可愛い

 ・絶対これ見て顔引き攣ってるぜ青野少年www

 ・青野少年「鍛錬で倍返しだ」

 ・そこまで大人げ……子どもだったな、そういえば

 ・明日の放送、日原女史が足腰立たなくなってたらお子ちゃま確定


『挨拶も終わったところで早速映像を見ていきましょうか』

『そうですね。初めは飛行機の移動シーンから。これが豪華な飛行機だったんですよ、しかも専用機を貸し切り』


 青野少年たちが使用した飛行機の外観が映し出されて、内装を日原女史が紹介している。

 飛行機とは思えないホテルみたいな空間が広がっていた。

 これに乗って各地に赴いていたんだ。


『移動手段は各国政府が準備したそうですね』

『可能な限り移動に時間が掛からないようにしましたからね。それでも攻略より移動に時間が掛かることがほとんどでしたけど』


 他にも軍用ヘリ、輸送機など移動に用いられた各国の乗り物が出てくる。

 その後背後のスクリーンが切り替わり、ヨーロッパ周辺の地図が出てくる。

 そこには異層空間の位置と、奈落の浸食範囲が映し出されていた。


『そして、これらの移動手段を駆使して世界縦断最初の地、フランス、ルアーブルに赴いたんですね』

『はい、ヨーロッパ周辺にはソロモンの悪魔の名を冠した異層空間があり、72の内5つをボクたちが攻略しました』

『百聞は一見に如かず、早速彼らの活躍を見ていきましょう』



 映し出された映像は異層空間に向かって青野少年たちが歩いているところだった。

 近くのテントの内部に入れば軍人らしき人間がたむろしているが、全員試練資格者だと解説が言う。

 その中の一人、鎧を着こんで異彩を放っていた金髪碧眼の美少女が二人に挨拶をした。

 ママカは噛んでいたものを飲み込みマイクのスイッチを入れた。

 

「出た、謎の女。ちょっと気になるしマーレ嬢って呼び名付けとこうか」

「ママカ、怖いから。目が死んでるから」

「そういうママカBさんも、私と負けず劣らず目が死んでるけど」


 だって物凄い恵体なんだもん。

 これで16歳は反則だよ。恵まれない人間にも分けてよ。削って分けてよ。


 コメント

 ・この子、配信だけ見てたらマジで意味分からんのよな

 ・命がけのハニトラという結論になったけど、今日で真相が分かるのか

 ・美少女だよね

 ・うん、とってもエッチな美少女だ

 ・説明は理路整然としていて悪くない

 ・でもオロバスの配信であの醜態見た後だと、なんか残念というか

 ・入る前にこんなやり取りあったんだ

 ・思ったより思惑ありそうでドキドキする

 ・やべえ、テレビでこんな面白かったの久しぶりだぞ


「新たな考察が生まれそうだね。有能頼んだ」

「他人に丸投げって……」


 映像が試練に変わり、青野君が刀を構えシーンが映る。

 これは編集のしようがなかったのだろう、配信の映像そのままだった。

 背後から奇襲してきた統率個体を一刀のもとに切り伏せる。十数秒の早業だ。


『おおっ、流石に見事なものです。訓練校武術顧問の方は青野君をどうみますか?』

『ふむ……統率個体の動きを青野君は目で追っていなかった。恐らく真後ろの気配を読んで切り裂いたのだろう』

『そのようなことが可能なのですか?』

『……不可能ではないが、本気の殺意による近接戦をし続けて習得できるかどうかだろう。いつ見ても彼の技量は年齢と経験にあっとらん。彼が武神として生を受けた人間であっても納得できる』


 コメント

 ・青野少年ですから

 ・青野少年だしな

 ・悲報:その道おじいさんついに遂に仕事を放棄する

 ・まあこれ以上増やしたら人の寿命超えちゃうから

 ・青野少年は青野少年ってことで納得しようぜ

 ・お、映像の続きだな

 ・おお、みんな彫像になっとる

 ・青野少年と日原女史はいつも通りだけど、フランス陣営には衝撃が大きすぎたか

 ・俺、何かやっちゃいました?

 ・それすら思ってないぞ

 ・終わった、次行こうぜ、だもんな


「なにこれ超楽しい、青野少年の凄さは思考すら置き去りにするわ」

「いや、ママカもこの時思考停止してたでしょ」

「え、そうだったかな?もう忘れた。カルパッチョうみゃい」



『さて、続きまして疑惑の異層空間、オロバスの攻略ですね』

『え~疑惑って何ですか?初耳ですけど』

『何故、日原さんたちが攻略するはずのオロバスに、青野君とフランス試練資格者が共同で攻略することになったのか。また配信中の青野君のやりとりや、フランスのゴシップなど色々話題ですよ』

『忙しかったから気にしてませんでしたけど、疑惑扱いだったんですか……。うーんネタばらしするより見て確かめましょう、映像お願いします』


 コメント

 ・日原女史の反応普通だな

 ・寝取られじゃない?

 ・でもフランスでは公認カップルみたいに言ってなかった?

 ・偏向報道だろ、どう考えても

 ・見てみないことには分からん

 ・フランスの陰謀論かも

 ・ママカの予想はどう?


「いや、マーレ嬢とのゴシップでしょ?有り得ない、有り得ない。試練中の映像だけですら絶対ないって断言できる。1億歩譲って日原女史との関係で言われるのは分かるけど、マーレ嬢とは1000%無限光年もない」

「うーん、怒りで頭悪い数学になってる。そこまで断言できるの?」

「当たり前だよ。もしマーレ嬢といい仲になってたら、青野少年に全裸で会いに行くっ」

「もしもし警察ですか、自宅で露出狂が犯行予告を、あ、スマホ返して!」


 コメント

 ・代わりに通報しました!

 ・ママカの裸とか誰得やねん

 ・青野少年の無垢な瞳を汚すとか絶許

 ・話進んどるぞ。マーレ嬢たちに先回りされてる

 ・テレビクルーいるから、その分遅かったんだろ

 ・マーレ嬢と日原女史がバチバチしてる

 ・空気悪いけど青野少年はのほほんとしてるな

 ・和む

 ・フランスが自主的に攻略しようとしてきたのか

 ・いや、おかしくね?攻略依頼してきたのに

 ・面子の問題だろ、元町さんも言ってるじゃん

 ・めんどくせー

 ・ん?

 ・ん??

 ・ん???

 ・つまり、どういう事でしょう元町さん?


「マーレ嬢、許すまじってこと」

「ママカは極論過ぎ。個人的な感情じゃなくて、フランス政府から遠回しに良好な関係の構築か、あわよくば篭絡しろとか言われてるんじゃないかな。ただの個人の好意でこんな行動取れないし、こんな場面で突っかかるようなことしないだろうし。あらら、青野少年の取り合い始まっちゃった」


 その後はマーレ嬢と日原女史の売り言葉買い言葉、マーレ嬢は挑発に乗って一人で異層空間に潜ってしまった。

 その後青野少年も入るが、日原女史は止められる。


 コメント

 ・マーレ嬢の自業自得だったのね

 ・やっぱフランスの報道、いいとこしか放送してなかったじゃん

 ・うーん、でも政府の意向って言うなら被害者では?

 ・日原女史なんも悪くないけど諭されて落ち込んじゃったな

 ・いや、冷静に対処すればここまでは拗れなかっただろ

 ・青野少年が一番冷静だけど、厳しい

 ・命掛かってんだから当たり前

 ・青野少年が消えたテントお通夜じゃん

 ・落ち込んだ日原女史見てて辛いんだけど……

 ・試練の映像に変わったな

 ・あの流れでのこの場面か

 ・結構印象変わる

 ・美少女に頼られて羨ましいと思ってたけど

 ・よーく見ると青野少年疲れてるというか面倒臭そうだな

 ・国の体面的に放置できなかったのか


 その後は私たちの知る展開が映し出されて攻略は終了した。

 カメラがスタジオに戻り、司会者が喋り出す。


『なるほど、こういう経緯だったのですね』

『はい、こっちとしても想定外でした。ボクが短慮だったところもありましたけど、当時は我慢ならなかったので』

『そうですか……ところでウンディーネクロスが、何故メリクールさんに渡されたか映像としては残っていませんでしたが』

『後にその理由が出てきますけど、そんな重大でもないので前もって言いますね。今回ボクたちは異層空間を攻略した際の拾得物を全て貰う契約をしているんですが、イレギュラーでフランスとの共同の攻略となりました。それでも契約上の権利はこちらにありますが、信也は不和を考慮してウンディーネクロスを渡した形になります』

『なるほど、エーテル結晶を渡せば第二第三の事態になりかねないからですか』

『はい、装備品は滅多なことじゃ落ちませんし、70日を超える高難度では落ちやすいですけど、そのレベルになると入ってきて生き延びるのは難しいでしょうから。メリクールさんは偶然と幸運で得ただけです』


 映像で元町さんと話している青野少年。

 ゴシップに対して嫌がるリアクションをしていて、元町さんとの漫才が繰り広げられていた。


 コメント

 ・元町さんと青野少年は仲良し!

 ・二人の漫才によってスタジオ笑いに包まれてる

 ・元町「まさしく試練ですね」は、さしもの青野少年もイラっときてるwww

 ・こんだけ青野少年と気安い人、そういないぞ

 ・実際青野少年と対面したら、緊張で喋れなくなる自信しかない

 ・日本にいたときからの仲だし、日原女史より先に協力してるし

 ・この人も今回の試練の立役者だもんな。勲章ものやで

 ・でも一安心だわ。青野少年全然マーレ嬢になびいてなくて

 ・当たり前だろ!ルフリア様を袖にする青野少年だぞ

 ・アスモデウスは特に何事もなくさっくり終わったな

 ・入る前後にも何もなかったぽい

 

『何だか日原さんの登場が急になくなったような』

『この辺りはあんまりカメラの前に出ていなかったので。ここでアスタロト戦前の映像ですね』


 青野少年が準備しているところが映されるが、日原女史はいない。

 マーレ嬢が登場して青野少年がハグされていた。ママカが血の涙を流していた。

 おまけに何だか甘いやり取りで見ているこっちが恥ずかしくなる。ママカが台パンしていた。

 

 コメント

 ・台パンうっさ!マイク切れっ!

 ・あれ、脈なしじゃなかったの?

 ・時間飛んだ?

 ・マーレ嬢の私服姿、超可愛いんだが

 ・くそ、マジでハニトラ仕掛けられてないか

 ・青野少年抜かれたら日本不味いぞ

 ・日原女史いないな。こんなとき真っ先に排除しそうなものだけど

 ・誰この職員さん?日本に居た時は見かけたことないけど

 ・日原女史、生水にでもあたった?頑強LV高かったら病気にまず掛かんないはずだけど

 ・この職員なんかおかしくない?

 ・いや、マジでおかしい

 ・日本側にも足引っ張る奴いるのかよ

 ・これテレビ局は許可取ってんのかね。取ってんだろうけど、これを流すとか

 ・国もこの職員切る気なのかも。この後、絶対なんか起きたぞ

 ・え、青野少年、何言って……

 ・ちょいちょい、この職員A級戦犯だろ!?

 ・……あ

 ・そうだよな、青野少年はそういう奴だ

 ・今の、全世界の人間に聞かせるべきだろ

 ・震えたわ

 ・一緒に見てた友達みんな黙っちまった

 ・スタジオも静まり返ってる


『……私も言葉で仕事をしていますが、今のような人の心を打つ言葉は一生に一度言えるかどうか……』

『そうですね……』


 青野少年はその場から去り、日原女史の元に向かった。

 彼女の隣に腰かけ話始めた。


 コメント

 ・日原女史が落ち込んでる

 ・まじか……あの職員なんなん?

 ・害悪そのものだろ

 ・元町さん有能なのに、なんで害悪が追加されたの?

 ・これ、日本も一枚岩じゃないとかある?

 ・何者かの思惑が、二人の善意を利用しようとしたってことか

 ・日原女史……

 ・ひ、日原女史?

 ・うーん、この茶番

 ・やっぱりこうじゃなくっちゃ

 ・あ、だめ、

 ・青野少年「必要だよ」キュン

 ・ああ、堕とされる……

 ・俺たち既に堕ちてるのに、まだ堕とされる……

 ・二度と入りたくないは草www

 ・体面気にせず逆セクハラしてきたら投げ飛ばしていいで。フェミニストの私が許す

 ・鎧の優秀さがよく分かるセリフ

 ・ああああ浄化される

 ・んあああ、やっぱり青野少年にとって日原女史の存在よ

 ・満たされる~

 ・からの落差w

 ・この女子二人、また喧嘩してるよ……

 ・もうこういうコミュニケーションって割り切ろうぜ

 ・見てる分には面白い

 ・そういえば静かだな。マイク切ってご飯食べてるの?


「いえ、戦犯職員のやり取りで怒り心頭の後に、二人の尊さにやられて死にました」

「今回は生きとるわい。目をつぶって堪能してただけ。あ~この放送あかんよ。マジで地球最後のヒロイックファンタジー」

「縁起でもない。実際そうなりかけたんだから」


 完全復活を果たした日原女史と共に、アスタロトを打ち倒し、異層空間を消滅させた二人。

 生命術の初お披露目と、その威力に当時の私たちも度肝を抜かれた。

 青野少年と日原女史の配信映像を上手く繋いで編集されていたので、迫力と展開が映画みたいによく映える。


『おおおお、凄まじい。これが生命術の威力ですか!』

『火尖は映画から着想を得たものなんです。爆弾を括り付けた矢がありますよね。あれとは違い槍ですけど、槍そのものを爆弾として扱ってるんです。固い表皮だろうと貫通して内部から爆発させる術です』

『え、えげつないですね……』

『怪物相手何で容赦なんてしませんよ』


 力こぶを作りつつ、にこやかに笑う彼女に司会者は苦笑する。

 ガワは華奢な美人だが、ゴリラも裸足で逃げ出す超人だもんね。

 試練の最後の方は技能LVがさらにエグイことになってたし。


「実際えげつない術だよね」

「100日の難易度の統率個体に大ダメージ与えた術だからね。高層ビルでも倒壊させられるんじゃないかな」

「ミサイルじゃん。日原女史も順調に人間辞めだした件について」


 時間的には次が最後、そして山場となる。

 テレビ的には明日に持ってくるべきだと考えてもおかしくないけど、他の放送内容も自信があるのだろう。

 次の映像は最高難易度の一角であるバエルとの戦い。

 ではなく女の戦いだった。


 バエル戦の前に一日休養を設けた日、朝食を食べていた二人はマーレ嬢と遭遇していた。


 コメント

 ・おかしいおかしい、ここイタリア、偶然違う

 ・おい、絶対周りにスパイいるだろ

 ・青野少年、居場所を補足されている

 ・フランス政府公認ストーカー

 ・こんだけの美少女ならと思う反面、ハニトラと考えるとやっぱ怖すぎる

 ・フランス本気だよ……

 ・日原女史、青野少年を守り抜いてくれ!

 ・うーん、これは異層空間の攻略より難易度高いですぞ

 ・会場も困惑気味


『これは一体……』

『予定よりハイペースで攻略出来ていたので1日休養に充てていたんですけど、メリクールさんに遭遇したんですよね、偶然』

『……そ、そうですか、何とも……いや絶対違いますよね!?これ大丈夫なんですか?あ、大丈夫、そうですか……』


「司会者さん、今本当に焦ってなかった?」

「撮影から放送までの時間が短かったからぶっつけ本番なのかも。それか生のリアクションがほしいから敢えて教えてなかったんじゃあいかな。今更だけどフランス側もよく放送許したな……あ、マーレ嬢が腕組みやがった!」

「ママカ、顔がまたえらいことになってるよ」

 

 その後、どういうわけか3人で行動するという妥協案が通り街を歩くことに。

 日原女史も出会い頭は怒っていたけど、マーレ嬢を現地ガイドと割切ったらしく、普通に観光を楽しんでいた。


 コメント

 ・両手に花じゃん

 ・顔面偏差値の暴力

 ・テレビに出るようなアイドルだったとしても、この二人に挟まれたらモブになる

 ・絵面としては羨ましい

 ・始まれば意外と仲良くするのね

 ・日原女史は青野少年優先だし、青野少年が受け入れたらある程度割切るだろ

 ・そうかなあ

 ・こういうところが恋愛感情とは違うところ

 ・青野少年が恋人紹介してきても大丈夫?

 ・それは分からん

 ・どういう反応するんだろ?

 ・日原女史「私の屍を越えていけえぇい」

 ・無理です

 ・誰も勝てません

 ・逆に屍の山築きそう


 三人は露店で売られている揚げ菓子を購入したようだが、お店の人とのやり取りは普通に青野少年がしていた。

 マーレ嬢も驚いて質問したが、その言葉は日本語でもなければ英語でもない、フランス語だった。

 なのに青野少年は何の戸惑いもなくフランス語で返答していた。

 私もフランス語を話せるから分かるけど、青野少年の言葉はネイティブにかなり近い。一長一短で身に着くものではなく、出身がフランスと言われても納得できるレベルだ。


 ・あれ?青野少年イタリア語話せるんだ

 ・言っちゃなんだけどマイナー言語だよな

 ・マーレ嬢も驚いて、え?今度はマーレ嬢にフランス語で話しかけてるぞ!?

 ・日原女史と英語で会話してる……

 ・英語なら分かるけど、発音もバッチリだぞ

 ・マルチリンガル?

 ・すげぇ……あ、よく考えたらマーレ嬢も相当流暢な日本語喋ってるな

 ・そう言えば。話が通じるくらいにはイタリア語も英語も話せるみたいだし、確か16歳だったよな

 ・世界では低年齢で多言語話せるのってそんな珍しくないのか

 ・日本が遅れてるだけ?


「ママカBさん何カ国語喋れたっけ?」

「五カ国語まで。通じるか分からないレベルならもうちょっと増えるけど。ママカは?」

「日本語だけ」


 その日一日は三人ともリラックスして過ごせたようだ。

 私は視聴者と映像にツッコミを入れるママカを尻目に、白ワインとレアチーズケーキをつまみつつ彼らのデートを見守った。

 こんなに緩い気持ちで見ていられるのに、これが世界を救う旅の途中というのだから、何とも頼もしいものだった。


『微笑ましいですね。青春を思い出すといいますか』

『一応言っておきますけどボクは結構警戒してましたからね。何が起きても対処できるように。まあそんなこんなで一応休息して次の日に、バエルに挑んだというわけです』


「でっか……100日の異層空間は別格だね」

「青野少年の腰にマサムネと小狐丸がある。色々思い出してきた」

「あれ、なんか武装した人がいっぱいいる……マーレ嬢も」


 コメント

 ・一緒に来る気だったのかよ

 ・いや、事前映像の見る限り、あの嵐は青野少年でも庇い切れないぞ

 ・まさか死ぬ気か?

 ・やべえ、終わったことなのに今から始まりそうな感覚がしてくる

 ・うん、臨場感ある

 ・マサムネ正直すぎ

 ・そこがマサムネらしさだろ

 ・二人ともいよいよだな

 ・……ほわぁ

 ・これ当時見たかったやつ

 ・絶対盛り上がったな

 ・今でも盛り上がる

 ・胸が熱くなった

 

 「……起きて、死んでる場合じゃないよ」

 「でえじょうぶだ、酒があれば生きけーれる」

 

 二人のやり取りに逝きかけたママカを、頬を叩いて日本酒流し込んで蘇生した。

 そして戦いは始まった。

 映し出されるのは青野少年だけでなく日原女史の配信の映像もある。編集によって場面が切り替わり目まぐるしい攻防が露わになる。

 青野少年の配信では生命術以外よく分からなかったけど、相当な数の眷属と乱戦を繰り広げている。

 バエルの眷属たちは40日以上の統率個体と同等以上の力を持っているとされているが、まるで彼女の相手にならない。

 日本の最後の異層空間の時より格段に強くなっている。当然青野少年も。

 まさしく人が超常の存在に挑む、神話の戦いだ。

 天竜戦と見劣りするようなものじゃない。

 

 コメント

 ・バエル、マジ手強かったよな

 ・青野少年に唯一傷を付けた統率個体だもん

 ・それ聞くと青野少年すげぇ~ってなる

 ・そもそも雷ってどうやって切るの?身体強化してても無理だろ

 ・それは……まじでどうやって切ってんの!?

 ・経験による第六感ではないかと。天竜戦でも切ってたし

 ・いや、一撃でもまともに当たったら死ぬ攻撃を経験した時点で死ぬだろ

 ・残機でもないと練習しようがない

 

『凄まじい、これが現実なんですか……こんなことが』

『最初の段階の作戦は、信也が相手の威力偵察をして、必要な手段を模索する形でした。ボクは生命術を使わずにとにかく生命を練り上げつつ、眷属を倒していた感じですね』

『嵐の中、意思の疎通が可能だったのですか?』

『ボクが炎を使って行いました。予め意味を決めていたので』

『とすると、今回の戦場をコントロールしていたのは』

『実はボクだったんですよ』


「マジか!?全然分かんなかった!」

「私、てっきり青野少年の動きに日原女史が合わせてるのかと思ってた」


 コメント

 ・これは素直に驚いた

 ・確かに火矢は合図とは思ったけど、指示でもあったんだ

 ・日原女史の作戦で、迷わず全開の身体強化する青野少年との信頼関係よ

 ・最後の攻防は何度見ても熱いな

 ・雷は自然現象の中で群を抜いて厄介だな

 ・天竜の真鱗の耐性が無かったら結果は違ってたかもしれない

 ・作戦勝ちだな

 ・信頼の勝利

 

『確かこの後青野君はいなくなっていたんですよね』

『はい、異層空間内で離れた位置にいたせいか近くに居なくて。探していたらメリクールさん、フランスが保護したと連絡が入った次第です。ポーションも提供されたので信也はすぐ復調しました』

『おお、ではフランスの方々には感謝ですね』

『ええ』

『長らく放送しましたが、今日はここまでのようです』

『また明日も同じ時間で放送しますので是非見てください。次はインドを中心にお送りします。最後にエンドロールがございますので、そちらで終わりとさせていただきます』


 コメント

 ・日原女史、朗らかだけど目が笑って無くないか?

 ・なんか1日向こうが預かってたらしいからな。おまけに報道陣やら政府の要人に捕まって会いに行けなかったみたいだし

 ・また陰謀?変なことされてないよね?

 ・それは……ここでは分からんな。それこそ青野少年のみぞ知る

 ・放送終わりみたいだけど、まだ続きがあるな

 ・ここ空港か?

 ・おう、怒ってるぜ日原女史

 ・女子の愚痴も受け止める名刀マサムネ

 ・その体でどうやって骨拾うのか

 ・なんか青野少年が謝らされてる

 ・なんか青野少年が愚痴られてる

 ・特に悪いことしてないのに謝れてえらいな!

 ・こういう時は素直に限る。経験上

 ・罰が膝枕って、羨ましいわ!

 ・全然罰じゃないじゃん、ご褒美じゃん!

 ・そこは抱き枕の刑だろ!ヘタレ!

 ・膝枕したい、青野少年罰したい!

 ・隣の部屋の奴がすげえ壁ドンしてきて五月蠅い

 ・俺もマンションの天井がバンバン叩かれる音がする

 ・あかん、何かよく分からん脳内ホルモンが過剰分泌されてクラクラしてきた

 ・うーん、コメントが混沌としてきたぞwww

 ・日原女史嬉しそう

 ・青野少年借りて来た猫やで


 映像が飛び、飛行機内のベッドで青野少年が日原女史に膝枕されていた。

 上機嫌に鼻歌を歌いつつ髪を撫でる日原女史と、緊張気味でされるがままの青野少年が映り、ママカがまた死んだ。

 笑顔と悲しみとが混じった気色の悪い顔だった。

 こうしてドキュメンタリー放送の1日目が終わったのだった。




 <ドキュメンタリー放送2日目>



 私は放送が終わってから身支度を済ませて寝たが、ママカは遅くまで感想を言い合っていたみたいでお昼ごろに目を覚ましていた。

 朝に作ったお味噌汁とご飯をよそい、手早くベーコンと目玉焼きを焼いて出す。

 私は昨日の残りを温め直して昼食として食べて、晩御飯は昨日買い出しした材料から何を作るか考えた。

 今日は胃に優しい質素なものでいいだろう。雑炊だと味気ないし、焼き魚と野菜たっぷりの汁ものにしようか。豚汁もいいけど粕汁も捨てがたい。

 いや、ポトフにしよう。魚は鮭焼けばいいか。


「うー飲み過ぎた……味噌汁が染みる……」

「あれからまだ飲んでたの?」

「なんか盛り上がってさ。ていうかドキュメンタリーの威力舐めてたわ、想像の数倍の栄養素詰まっててアナフィラキシーショック起こした」

「また頭の悪そうな……いや、微妙に例え間違ってもない」

「反応多くて面白かったしね。特に日原女史は人気が凄いよ。元々凄かったけど、さらに過熱したって感じ」

「青野少年は?」

「青野少年はもう天元突破してるからこれ以上は、といいたいけどこっちもこっちで過熱してた。ネットとテレビじゃ視聴者層違うし、今回は素顔が見えたから。珍しくテレビも需要が分かってるわ。絶対青野少年のファンが編集に関わってるね」

「うわぁ……目立つこと好きじゃないはずなのにね。ニュースは仕方ないにしても、どうしてドキュメンタリー出ちゃったんだろ?」

「青野少年のことだから、素材使いたいって言ってきたのをなし崩し的にOK出したんじゃないかな。基本自分が映ってるからそれが使えなかったら映像に違和感出ちゃうし」

「大人の事情に巻き込まれちゃったわけか」


 青野少年のことだ、昨日の放送で悶え苦しんだことだろう。

 可哀想に。でもごめんなさい、それでも見たいのです。

 朝食兼昼食を食べ終えたママカは、またパソコンに噛り付いてしまったので、私は一旦部屋に戻ってメールを処理しつつ夜を待った。



 そして第二夜の放送が始まる。

 昨日のような演出はなく普通のスタートだった。

 顔ぶれは少し変わったけど、司会と日原女史に変更はない。


『さて、放送二日目となりましたが、今夜の見どころは』

『何といってもアスラですね。試練自体もそうですけど、その外側も凄かったんですよ』

『期待値を上げてきますね』

『ふふ、その前にインド周辺に高難度の異層空間が固まっているのでその辺りから見ていきましょうか』


 今日は既に食事を済ませてお酒とつまみだけ準備している。

 ママカはビールで、私はハイボールにした。


「日原女史の言ってるの何のことだろ?余程のことが起きたんだよね」

「何か情報入ってないの?」

「調べれば分かるかもしれないけど、楽しみにとっといた。折角だから驚きたいし」


 コメント

 ・日本も危険地帯だったけど、インド周辺は別格だったな

 ・高難度固まり過ぎ

 ・軒並み二人に依頼してたもんな

 ・アスラに限っては1000人以上亡くなったぞ

 ・インドは試練資格者多いとはいえ、何でそこまで犠牲出したんだ?

 ・一見倒せそうに見えるからじゃないか。青野少年がリソースの話し出す前だったし、統率個体も本気出してないように見えたから

 ・ギャンブル依存症みたいなもんか。当たればデカいと


 アスラに至るまでの試練はハイペースで熟されて試練の模様が中心で、日常映像が少ない。

 殆ど移動に消費されるし、二人ともその時間に休んでいたようだ。

 細かいエピソードを聞きつつ、アスラの番がやって来た。


 青野少年たちがインドの地に降り立ち、異層空間に向かう最中それは起きた。

 異層空間の近くに集まっていた見渡す限りの民衆が、青野少年に向かってひれ伏していた。誰一人として顔を上げていない。


 コメント

 ・え、ナニコレ

 ・全員土下座してるぞ

 ・これ何十、いや何百万人いるんだ

 ・誰か来て何か言ってる、聞き取れん

 ・凄いよぼよぼのばあちゃんだな

 ・青野少年当然のように受け答えしてるんですが

 ・まじで頭の出来が違う

 ・頭いいで済むのか?どの国行っても現地人と会話できるってどないやねん


『これはいったい……この方は何を言っているのでしょうか』

『通訳の人が言うには「偉大なる戦士の帰還を歓迎します。今一度悪神を滅ぼした剣を振るってください」って言って、信也が「偉大なる母よ、私の剣は神の名を騙るものを滅ぼす、下を向く必要はありません」って返したらしいです』


 老婆は縋りつくように青野少年の手を握り、この場にいない誰かの名らしきものを言って涙を流していた。

 頭を下げていた人たちは復唱し、巨大な音となって空気をビリビリと震わせる。

 異様ともいえる光景だった。

 確かにこの映像は見応えがある、というか今後見る機会が訪れない光景だろう。


『よく、分からないのですが、青野君と老人の会話は通じていたのでしょうか?』

『後で現地の人に聞いたんですけど、昔この土地を悪神、恐らく人を害する獣だとは思いますけど、それが襲ってきて沢山の人が犠牲になったらしいです。おばあちゃん曰く、偉大な戦士はそれを倒した人間のことで、信也に特徴がそっくりなんだとか』

 

 日原女史が指示してスクリーンに似顔絵を映し出す。

 

「いや、どう見ても他人やろ」

「目と耳と口が付いた黒髪なら全員当て嵌まりそうだね。司会者さんも困ってる」


『な、なるほど……経緯は分かりました。勘違いとはいえ凄まじい盛り上がりですね』

『……勘違いなんですかね、本当に』


 コメント

 ・また青野少年の謎が増えたぞ

 ・おばあちゃんだし、ボケが入ってるのかも

 ・青野少年の活躍でそう思い込んだだけでは

 ・このばあちゃんがネット見てたとは思えんのだが

 ・俺、実は番宣してる日原女史の話が気になって、事前に調べてたから結構詳しいぜ

 ・お、有能助かる

 ・情報晒してけ

 ・おっほん……まず悪神だけど、そいつは実在してる

 ・あのばあさんは悪神の被害にあった生き残りで、のちの語り部。八十年も前からの

 ・悪神の正体は諸説あるけど、話の感じから見かけはでかい狼人間みたいなのと思っていい

 ・推測としては、何らかの四足獣が立ち上がった姿がモデルになるけど、これ以上は絞り切れん

 ・その獣が出現した村は子どもみたいな弱いものから順に喰われて相当な被害が出てた

 ・銃で武装した村人たちも戦ったけど、返り討ちにあって喰われた

 ・被害が広がり続けてたところに現れたのが流浪の旅人。名をツワブキ

 ・ツワブキは一本の古びたボロボロの剣で三日三晩の激闘の末に悪神を滅ぼした

 ・でもツワブキ自身重傷を負ったから、村人はガンジス川にその身を投げて傷を治そうとした

 ・ツワブキは結果として偉大なる神によって命を繋いで戻って来た

 ・彼は「目的は達した」と言葉を残してお礼も受け取らずにその場を去った

 ・救われた村人たちは偉大な戦士として彼の伝説を語り継いだ

 ・以上

 

「色々ツッコミどころはあるけど、結局どの辺りでその人と青野少年が同一人物だと?」


 コメント

 ・単純に顔。青野少年の顔が、語り部の知るツワブキと瓜二つだった

 ・さっきの似顔絵は気にしなくていい。絵心ないと大抵の人は記号みたいな顔しか描けないから

 ・語り部ばあさんがボケてないならそっくりさんか

 ・八十年前は青野少年いないし

 ・でも名前からして、日本人がそこにいたことになるよな

 ・青野君の顔はインド人とは勘違いされんから、そうだろうな

 ・事実だとしたら、銃で仕留められない危険な獣をボロボロの剣一本で倒した人間ってことだろ。素で日原女史並ってこと?

 ・この時代に居たら心強かっただろうな

 ・その人が善良な心を持ってて、試練資格を誰かから譲渡されればね

 ・青野少年と同じ顔やぞ、ぽやっとした顔やぞ。善人だろ

 ・今世紀一番の説得力

 ・納得した

 ・まさか青野少年のご先祖様?

 ・爺ちゃんか、ひい爺ちゃんじゃないか?

 ・まさかの青野少年のルーツ発見!?


「ツワブキねぇ……。ドキュメンタリー全部見終わったら調べてみようかな」

「あ、ツワブキで思い出したけど、ホラ吹き爺さんのお話に出てくる物語に似てるね」

「何それ?」

「ママカ知らないの?あー東京じゃ知らないか。私元々九州出身でこっちに越してきたらか知ってるんだけど、あ、それは後でいいや。マサムネと青野君が話してる」


 コメント

 ・こんな時に風邪か?

 ・厳しいスケジュールしてるし、青野少年日原女史みたいに頑強の技能ないから

 ・マサムネの熱い信頼よ

 ・ぶれないなあ

 ・あら?

 ・あらあらあら

 ・いい空気だな

 ・おう、いいねえ、イイ感じの士気だ

 ・青野少年、職員のみんなに愛されてるな

 ・食い物の話しばっかされてるwww

 ・たらふく食わせてやりたい

 ・うおっ、また土下座されてるぞ!

 ・強さばかりか人徳まで人間越えて来たな

 ・統率個体登場!今まで一番小柄なのに存在感はダンチ

 ・さっきの話し聞いた後だと、統率個体のセリフが意味深すぎる

 ・その道おじいさん発言が当たっていた、だと?

 ・いや、よく考えろ。これ大分前に終わった話だからその道おじさんの方が丸パクリだぞ

 ・その道おじさんの話はいいから

 ・青野少年もしかしてマジモンの神の化身なんじゃない?

 ・ツワブキも神の化身だった、だから同じ顔ってこと?

 ・今度は悪神じゃなくて、試練から俺たちを救うために現れた、みたいな?

 ・いや~それにしてはらしくない気がするぞ

 ・戦ってないと普通の少年だもんね

 ・やってることは凄いけど、別に青野少年が神通力使えるわけじゃないし

 ・何だったら一個も技能無いし

 ・魔法使って自爆するしwww

 ・それは関係ないだろう!


 戦いが始まり、目まぐるしい攻防が起こる。

 はっきり言って視認することが出来ない。

 音と影だけの世界だ。

 青野君の速度はこの中で最も遅いが、立ち回りの上手さで二人について行っている。

 本当ならこの時点で違和感に気付くべきだったんだろうけど、当時は余裕がなかったので分からなかった。


『途轍もなく強かったんですよね、この統率個体は』

『はい、近接戦においては最強の敵ですね。身体能力、技量共にボクの完全な上を行っていました』


 傷が付くたびに統率個体の速度が上がり、ダメージを与えているのにどんどんと二人が追い込まれていく。

 

「この時の焦燥感はヤバかった」

「そうだね。マサムネ持った信也君が攻めきれないなんて、どんな強さなのって思ってた」


 そんな中、青野少年が日原女史に発破をかけて状況が一変する。

 日原女史が今まで魔法と槍を同時に使うシーンは無かったが、最初の腕を奪ったときの攻撃が呼び水となっていたのか、どんどんと二つの力が噛み合っていく。

 最後には腕を二本残すまで削り切ったが、強烈な反撃を受けてあわや奈落に落ちそうになった。

 

「ああ、始まるね」

「うん、始まる」


 コメント

 ・スーパーお悔やみタイム

 ・マサムネ「もうなんか哀れだな……」

 ・可哀想な統率個体よ

 ・お前は目の前に、誰が立っているか気付いているか?

 ・天竜殺しだぞ

 ・苦戦?

 ・何それ美味しいの?


 マサムネの挑発を受け激高する統率個体。

 そして起こる悲劇。

 統率個体は本気の青野少年の斬撃によって粉みじんまで分解された。

 

「いや、こいつが恐ろしい怪物なの理解してるけど、これ見るとなあ」

「ギャグだよね」


 そのあと青野少年と日原女史の師弟愛を見せつけられてめでたしめでたし、ではなかった。


『問題はこの後なんですよね』

『え、統率個体は倒しましたのよね?』


 コメント

 ・何かあったのか?

 ・まさかここから復活したのか統率個体!

 ・噛ませ犬じゃなかった、だと?

 ・いや、死んでるが。じゃなかったら配信に続きが映るだろ

 ・青野少年が謎の布袋とエーテル結晶拾って、異層空間が消えてくな

 ・カメラが変わった。外から異層空間映してる

 ・蜃気楼みたいに異層空間が消えて……日原女史はカメラの近くに現れたな

 ・うん……あれ、青野少年は?

 ・今遠くに水柱立たなかった?魚?

 ・あ、まさか……


『信也がガンジス川のど真ん中に落ちたんですよ』

『それは大変でしたね』

『マサムネ持って』

『それは……大変でしたね……』


 その後はひっちゃかめっちゃかだった。

 大勢のインドの人たちが、我先にとガンジス川に突っ込んでいき救助の船が動かせないし、さしもの青野少年もマサムネ持って泳ぐのは無理だったらしく、何とか浮かび上がって小狐丸で結晶を作って体を預けたが、すいすいと遠くに流され出して救助もままならない。

 一部の人間はまた土下座を敢行して拝み始めたり、とにかく混沌としていた。

 最終的には青野少年が自力で船のあるところまで結晶作りつつジャンプしたが、そこで力尽きて病院送りになってしまった。

 その後も続く人間の海とも呼べる光景。


『病院でも周りに物凄い人が集まって大変だったんですよ。皆さん祈りを捧げて儀式なのか何なのかよく分からないもの始めてしまって、異様な雰囲気でした』

『言葉が見つかりません。青野君、本当にお疲れ様でした』


 ある意味落ちが付いたのか、今日の放送はここでお終いだった。

 明日からはアフリカ、南アメリカ、ロシア近郊とオーストラリアを巡るそうだ。




 <ドキュメンタリー放送3日目>



 インド周辺は難易度こそ高かったが、基本近場だった。

 アスラ攻略以降はそれこそ全世界を回る旅になる。

 それに途中で高難度の異層空間の消滅依頼が何件も増えてしまい、日常どころではなく移動は寝る時間、起きている時間は試練というような過酷なものだった。


 コメント

 ・頭が下がるわ

 ・二人はマジものの救世主

 ・俺ら配信に映ってる部分しか見てなかったもんな

 ・これだけ大変なら二人が添い寝してても許せ、ゆるせ……、許せねえ!!

 ・生の青野少年を堪能しながら眠りにつくとかどんな贅沢なの……

 ・日原女史、青野少年が寝入ってからこっそり侵入してる。同意なしでは?

 ・まあ広いベッドで距離取ってるからセーフ、か?

 ・指一本でも触れたら、元町さんが火を噴くからな

 ・読書灯の明かりの中、無言で催涙スプレー並べるの怖すぎ

 ・熊用はやべぇ。失明するで

 ・青野少年絶対守るマン


「ぐぎぎぎぎっぎいぎぎっ」

「耳元で歯ぎしりしないで、生理的に怖い」


 こうやって裏側に存在する苦労を知ることで、いかに大変だったか理解できる。

 私はママカの映した画面の一つを見詰めた。そこには数値が並べられる。

 今までの試練で確定した死者の数は2万4882人。

 それだけの試練資格者が亡くなっている。

 まだ試練資格者が3万人以上いると安心することは出来ない。

 今回の試練で亡くなった人たちは戦う力を持った人がほとんどだ。

 いつまで続くか分からない試練に、一体どれほど死が待ち受けているのだろうか。


 放送は進み、そろそろ終わりの時間が差し掛かって来ただろう。

 丁度青野少年たちが最後に攻略した異層空間から出て来た映像が流れる。


『元々タイトな日程を前倒しで進めていて良かったですよ』

『確かにそうですね、でなければ奈落に飲まれる国が出ていたかもしれません。おっと、そろそろ時間ですか。準備は済んでいるようですね』

『え、何かありましたか?』


 少し焦った様子の日原女史に司会者は笑いかける。


『ふふっ、大丈夫ですよ、これは日原さんのご存じでない予定ですので。私たちからのサプライズです』

『ええ、生放送なんですから先に教えておいてくださいよ、何ですか一体……』



 コメント

 ・なんだろう

 ・お祝いのプレゼントじゃない?

 ・ゲスト登場とか

 ・マーレ嬢か!

 ・お前はそんなに血が見たいのかよ……

 ・流血勘弁

 ・じゃあなんだよ

 ・家族とか。いや、このタイミングではないか

 ・一番喜びそうな相手は目立つの嫌いだし

 ・もしかすると、もしかするのか?

 ・え、マジでそうなの!?

 ・時間切れっぽい


『ではどうぞ』


 辺りが暗くなり、日原女史にだけスポットライトが当たる。

 舞台袖に光が当たり一人の男性が現れた。

 フォーマルな蝶ネクタイの男性は、台座を押して進んでくる。

 そこには大太刀と細長い袋を乗せていた。


『うそっ……マサムネ?』

『よう、根性ある姉ちゃん!俺っちたちが来てやったぜ』


「予想外にもほどがあるわ!?」

「青野少年かもしれないとは思ったけど、マサムネ単独は誰も予想できないよ……」


 特に緊張した様子はない、陽気なマサムネがいた。

 気付いた観衆から戸惑いつつも拍手と歓声が上がる。

 司会が時間をおいてそれを収めて、日原女史とマサムネの会話が始まる。

 日原女史の顔には緊張があった。


『マサムネがなんで、これ信也知ってるの?』

『さっき電話とかいうので伝えてきた。直前まで知らなかったぜ。おう兄ちゃん、そいつを姉ちゃんに渡してやってくれ』


 男性は紫色の細長い袋を日原女史に手は渡す。

 日原女史はそれを受け取って中の物を取り出した。

 丁度白鷺と同じくらいの大きさの白塗りの刀だった。儀礼用の装飾はないが、金細工で蔦と花を表現された美しい拵えをしていた。


『狐人族の集落には守り刀ってものを送る風習があってよ、それに倣って相棒が準備したんだぜ。まあ贈る意味合いは色々あるけどな』

『抜いてもいい?』

『おうっ』


 日原女史がすらりと刀身を抜けば、鏡のように美しい銀の刃が現れる。

 鋼の刀にない濡れたような妖しさを纏うその刀にどよめきが走る。

 刀剣に詳しくない私ですら、この刀が名のあるものだと思わされる威容が存在していた。


『白燐鉱は鍛錬の工程で刀の強さが決まる。強い力で叩きより白く大きな火花を散らした刀は、同じ白燐鉱の刀を裂くほどの特別な刀になるって言われてる。相棒の白鷺がそれだな』

『もしかして、これも?』

『あたぼうよ!俺っちの身体強化で相棒が鍛えたんだぜ、マジモンの大業物よっ』


 白鷺はあの阿鼻地獄の鬼の力が結集した太刀を切り裂いていた。勿論青野少年の技量もあるだろうけど、同等だとするのなら間違いなく最上の一振りだ。


『家で渡してくれてもよかったのに、どうして……』

『相棒にとっちゃ赤面ものだろうが、ちったー俺っちも思うとこあったからよ。皆の者、耳の穴かっぽじってよく聞きな』

 

『ここにいる日原琴羽は相棒の薫陶を受けた本物の戦士だ。守り刀の銘は灯花、託した思いは絆だ。相棒は日原琴羽を自身の弟子として守り育てた。背中を預け合い、怪物たちの戦いに明け暮れた。相棒はいつの日か、彼女が自身を越えることを願っている。例え袂を分かとうとも、絆は変わることなく、永遠だ』


 日原女史はまじまじとその刀を見る。

 本当にそんなことを青野少年が言ったのかどうか悩んでいるのだろう。

 青野少年らしくはないけど、あの子は思っていることを胸の中にしまって言わない傾向があることは知っている。

 それに青野少年のことであれば、マサムネの言葉には大きな信頼がある。


『会ったときに聞いてみればいいさ。相棒は守り刀の意味を伝えずに、槍が使えなくなった時の護身用とか言って渡すつもりだったんだぜ。そこで俺っちが一肌脱いだってわけさ。こんだけの人間が証人なんだ、言い逃れなんて出来ねえぜ、きっと』


 セリフの最後、マサムネの悪い声が響く。

 しかしどこまでも暖かい。本当に気のいい刀だ。


『こいつが俺っちから姉ちゃんへの頑張ったご褒美だな、先に帰ってるぜ!』

『うん、ありがとう、マサムネ!』


 涙ぐむ日原女史に、颯爽と背を向けてマサムネは去って行った。

 まあ刀だから背中ないけど。


 コメント

 ・くそ、マサムネに全部持ってかれた!

 ・お前本当に刀かよ!?

 ・予想不可能ゲストすぐる

 ・あ~見せつけられる二人の絆に脳が破壊される~

 ・日原女史の喜ぶ顔が最高に美しすぎる

 ・ねえねえ、青野少年、今どんな気持ち?

 ・相棒のマサムネに裏切られてどんな気持ち?

 ・何も言わずに渡すつもりだったんだって?

 ・全国区でバラされてどんな気持ち?

 ・これが事実なら青野少年テレビ見ながら死んでるぞ

 ・世界を救った結果がこれだよ!

 ・おいたわしや青野少年

 ・悶え苦しむ青野少年見てええええ!

 ・カメラ、青野少年の現在を映して!

 ・無茶いうなwww

 


 サプライズが成功して会場から割れんばかりの拍手が送られる。

 放送時間も終わりとなり、最後の挨拶が行われて締めとなった。

 番組としては最高の終わりだったと言えるだろう。



 静かだと思って隣を振り向けば、ママカは死んでいた。

 白目向いてゾンビみたいになって死んでいた。

 最高にキモかった。


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