第14話 夏休みと女優業
そろそろ現実に目を向けなくてはならない。
祝勝会という試練における最後のイベントを終えたことで、僕は日常への回帰を余儀なくされていた。
学校は今、夏休みに入っている。
つまり夏休みの宿題を取りに行かなくてはいけないのだ。
学校に連絡をしたら家に連絡がいくのだろうか。というか今の僕って家出同然なのでは?事情が特殊だから放置されているだけで、一般的には立派な非行少年だ。
「ということなんですけど、どうしましょうか……」
「そうね……確実を期すなら、元町さんに連絡を取るのがいいと思うわ。彼なら信也君の事情を汲み取って対処してくれるでしょうし」
奏さんに相談した。実に的確なアドバイスだけど僕は難色を示す。
「そうですね。でも試練と関係ないことでご迷惑をかけるのはなんとも…」
「これも立派な試練に関係したことよ。あなたは日常生活を犠牲にしてまで戦ったんですもの。それくらいの迷惑は可愛いものだわ」
確かにそうかもしれない。
もう元町さんは僕の中で猫型ロボット的存在になりかけている。
助けて、モトえもんっ!
『分かりました。私の方で学校に伺って宿題を受け取ってきましょう。お任せください』
「すいません、お忙しいのにこのようなことを頼んでしまって」
『いえいえ、信也様が学校に行けば大騒ぎが起きるでしょうから。寧ろお気遣いいただいて有難うございます』
「よろしくお願いします」
『例の物も準備が整いましたので、宿題と一緒にお渡ししますね』
電話を切ってから首を傾げた。
なんで僕が学校に行くと大騒ぎになるのだろう。
夏休みに何かあるのだろうか。
一年生だからいまいち行事を把握できていなかった。
例の物についてはどうするか。タイミングを見て
琴羽に適当に理由を付けて渡せばいいか。
「大丈夫だったでしょう?」
「はい、寧ろ助かったと言われました」
「……そう言えばそうね、うっかりしていたわ。あの辺りは夏休みで沢山の学生が来てるらしいから」
「え、今まで暮らしててそんなことなかったですけど」
「信也君の関連の土地を聖地巡礼って言って訪れてるみたい。異層空間があった場所も観光客がごった返しているわ」
嘘だろおい。
うーん客観的に考えると、異層空間があった場所を巡る気持ちはまあ理解できるか。
僕の住んでた土地を巡る気持ちは理解できないけど。
「そんな場所に本人が現れたら大騒ぎでしょう?住んでいた街には、しばらくは近付かないようにしましょう」
「そうします。色んな人に迷惑かけそうですし」
難題が片付いてほっとした。
奏さんの入れてくれたお茶を飲んで和んでいると、思い出したように声を掛けられる。
「話は変わるけど、今日琴羽がテレビに出るわよ。ドキュメンタリーの宣伝でいくつか生放送番組に出るみたい」
「おお、何だか芸能人みたいですね」
「ふふ、芸能人よ、あの子は」
そう言えばそうだった。というかもうドキュメンタリーの放送するのか。
確かに話題が高いときに放送するのがいいか。
撮ったその日にデータを日本に送っていたなら編集も可能だろう。
デスマーチかもしれないけど。
夜は特にすることもないし、琴羽の雄姿を眺めてあげよう。
番組の放送時間となり、何故か奏さんと一郎さんに挟まれてソファーに座らせれている。
気にしたら負けだけど気になる。
「さ、始まるわよ」
映し出されたのは報道番組のようで、堅苦しいニュースを読む感じではなく、コメンテーターに色々意見を募るタイプのものだったはず。
ゲストとして琴羽が紹介されて、いつも通り明るいが僕と話しているときより随分と大人しく見える。
質問に淀みなく答え、番組の宣伝をしっかりこなしていた。出来る女のオーラが出てる。
それに出演者の中で琴羽だけ随分と華がある。
「ふふ、いつ見ても不思議な感覚が抜けないのよね」
「そうだな。似ているだけの別人に思えるよう感覚だな」
「そうなんですね」
「信也君と映ってるときは、そんなことないんだけど」
「良くも悪くも自然体なんだろ」
まあ僕も琴羽が急にこんな振る舞いをしだしたら、双子説を信じていたかもしれない。
それくらいには女優として活動する彼女は違っていた。
琴羽は次の日も何本か番組に出演した。
試練開始から88日目。
夏休みの宿題も無事に届いて、急ピッチで片付けている今日この頃。
ドキュメンタリー番組が3夜連続放送される最初の日となった。




