第8話 孤独の迷宮と第三階層
第三階層に降り、荷物を置いて一息ついてから行動を開始する。
ここの怪物も一種類しかいない。
上の階層の怪物と毛色の違っていて、彼らは生物ではない。
『主様、入り口の10歩先に既にいます。あの岩がそうなのです』
テンマの指摘を受けて目を凝らす。通路の岩が若干飛び出ているように見える。
正直事前情報がなければ気付かなかっただろう。
しかし絶対通らなくてはならない一本道に現れたか、ハズレを引いたな。
『岩五 雄 0歳
関係:敵対 感情:敵意 状態:擬態 精神:平静
技能:頑強LV5 擬態
称号:なし
孤独の迷宮の岩人形。獲物を狩る間際まで動かず、周囲の背景に擬態する。
食事を必要としない彼らの狩りはただ嗜虐心を満たすためのもの→』
こいつを自力で倒す方法は思いつかなかった。
正確には思いついても実行できないと諦めた。
筋力があり、鋼鉄のメイスでもあれば1匹は倒せるかもしれないが、何度も戦えば武器が駄目になる。今のリソースでは到底足りない。
ならばどうするか。この攻略は配信を観察して分かった。
僕は石をいくつか拾い上げて岩五に投擲した。
岩五は即座に反応し擬態を解いて岩の体積が膨張し、形を作りながらその腕を振り上げた。
壁に岩五の腕がぶつかり、空気がびりびりと震える。
岩五はゆっくりとこちらに体を向けて来た。
岩五は人型で3mはある。肩幅が広く腕は地面に届くほど長い。顔らしきものが乗っているが、岩なので表情が動くことはない。
岩五はこちらに向けた歩みだし、ドスンと重い音を立てる。また一歩踏み出しては大きな音を立てる。
僕は岩五の顔に石を投げつけ、その足の間に滑り込んで逃走した。
1対1で対峙した場合の岩五の攻略法は逃げだ。何かしようと思ってはいけない。
歩幅は大きいが歯五以下の速度しかないため巻くことはできるが、一度擬態を解いた後は割としつこいので覚悟して逃げる必要がある。
『主様、また前方にいます。20歩目の足元の突起です』
テンマの存在が有難い。暗がりで的確に敵を見付けるテンマのおかげでリスクは小さい。
僕はまた石をばらまくように投げて岩五の擬態を解かせる。
擬態を解いた岩五の拳を躱してすぐさま走り抜ける。道の先に石を散弾のように投げつつ距離を開けていく。
小部屋に入ってから歩みを止めて岩五を待った。
2体目に発見した岩五が現れ僕に向かってくる。
部屋の隅を回る様に移動し1体目に発見した岩五を待つ。
1体目の岩五が現れたことで、2体目の岩五が僕を追うことを止め、1体目に顔を向けた。
1体目も僕ではなく2体目を見ている。
そして2体の岩五は同士討ちを始めた。
お金でも取れそうな大迫力の殴り合いだが、飛んできた石で怪我しても嫌なのでさっさと部屋から出た。
『あの怪物はどうしてご主人様を無視して仲間同士で戦っているのですか?』
『色々あるけど、第一に彼らは食事を必要としていないのが大きい』
『お口ありませんもんね!』
『ふっ…そうだね。第二にステータスで見たけど、あまりいい性格ではない。狩りは嗜虐心を満たすための行動だと書いてあった。なら同族でも自分の獲物を狙われたら面白くないだろ。まあ同族狩りの方が好みという解釈もできるけど、迷宮内に一定数いるならそれはない』
『ということは……どういう事でしょう?』
『擬態している怪物を逃げ切れる範囲で起こしていって、同士討ちさせる。あの一本道にいなかったら迂回しつつ階段探すのが安全だけどね』
僕は地図作成の都合で迂回は出来ないわけだが。縛りプレイ万歳!
同士討ちの説明は論理的な説明は難しいため誤魔化した。経験で分かるとしか言いようがないのだ。
そして彼らはいなくなった。
生き残るであろう最後の一体くらいは自力で倒さないといけないと思っていた。
結果は全員同士討ちだった。
最後の二体はクロスカウンター決めてたよ。怪物のくせにボクシングすんなし。
「第三階層の探索が全て終了したので、その結果を紙に書きました。通路の距離、分かれ道、部屋、第四階層への階段の位置など記していますのでご覧ください」
「もう一枚はここに出る怪物、名前は分からないので岩の怪物と呼称します。その特徴や数、習性、倒し方について分かる限り書きました。僕なりの解釈なのです。そこはご留意を」
「地図の作成の都合と、階段前の一本道で擬態されたので同士討ちをさせましたが、一番は彼らを起こさずに迂回しつつ階段を目指すのがベストです。一度擬態を解くとしつこかったので見つかった場合は諦めて同士討ちに切り替えましょう」
「走り回って流石に疲れました。いい時間ですので、ここで仮眠をとってから次の階層に進みます。5時間は寝る予定です。それでは」
お仕事終わり。意識しないようにはしてるけど、顔の見えない人たちに見られ続けるというのも疲れるな。
『テンマ、本格的に寝るから何かあったら起こしてほしい』
『おやすみなさい、主様。わたくしにお任せなのです』
階段横に座り込み、目を閉じてマントを被る。流石にステータスを確認しなくても体が限界なのが分かる。
僕の体はすぐに眠りに落ちた。
『カバーストーリー:ナビゲートピクシー』
孤独の迷宮において、試練資格者とそれを見守る配信視聴者たちがもっとも戸惑ったリソース交換品、それはナビゲートピクシーと呼ばれるものだ。
この物品は配信画面には一切映ることなく、試練資格者も彼らが見えない、存在を感じ取ることが出来ない。
しかし全く意味がないわけではない。
ナビゲートピクシーを選んだ者たちは試練中、虫の知らせないし、何もない場所に違和感を覚えたり、5感で捉え切れていない怪物の接近を察知するなど、時折何者かに助力を貰った感覚があったという。
この機能が1ポイントという破格の交換レートで手に入るなら安い買い物ではあると言える。
しかし悲しいかな、ナビゲートピクシーが気まぐれなのか不真面目なのか、常に危険を教えてくれるわけでも無いく、1ポイントという半端なポイントを使う事でポーションなど有効な物品を買えない自体が発生するため、破格のポイントに関わらずナビゲートピクシーを交換するものは少なかった。




