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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 奈落の受胎 世界縦断
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第10話 戦後とこれから



 目が覚めるとそこは教会、いや聖堂だろうか。

 周りには誰もいないが、異層空間じゃないという事は、無事に戦いは終わったようだ。

 

 僕はずぶ濡れのまま床に横たわっている。

 戦装束は何度も雷を浴びたせいでズタボロになっていたはずなのに、何故か綺麗さっぱり修復されていた。

 それどころか形がより僕の理想の可動範囲を確保した上で、必要な箇所に防護を割り振った形に変化している。意味が分からなかった。

 周りには水と泥と血の混じったものが大量に流れ出していて、大分汚い。怒られそう。


『あるじさまっ、良かったのです、目が覚めたのですっ!』

『テンマがいるってことは、ここが天国じゃなさそうだね……体は、治ってるのか』


 錆び付いたような鈍さと、僅かでも体を動かせば痛みが走るけど、無事は無事みたいだ。


『主様のポーションを体に振りかけました。傷は無くなりましたが……何故か戦装束も修復してしまいまして』


 ポーションに服が治る機能はない。

 そういえばこの戦装束には加護が付いているという記載があったから、その効果なのだろうか。


『そうか……でも消耗は治らなかったみたいだ。ちょっと動けそうにない。誰かが見つけてくれるまで待とうか。ちょっと寒いけど』

『わたくしが暖めるのです、む~~~~っ』


 どうやって暖める気だろうと思っていると、唸るテンマの手から緑色の光が溢れる。

 体が暖かな膜に包まれているようで心地がいい。

 癒し手とは違う感覚だ。双命の鎖を刺されてた時に近いがそれとも違う。

 

『いつのまにこんなことが……』

『さっき使えるようになったのです。よく分かりませんが、主様を助けようとしたら力に目覚めたような感覚でした』


 久しぶりにテンマのステータスを見た。


『テンマ 女 0歳

 関係:従者 感情:親愛 状態:健康 精神:平静

 技能:索敵LV9 罠探知LV6 看破LV9 暗視LV7 精気LV1 万理法 非観測存在 超成長 特殊技能制限解除

 称号:理を読む賢く幼きもの

 神使によって作られた魂無き造物。

 共に歩み、心は成熟し花開く→

 主のために真理を読み、万理を解す→』


 テンマはまた力を手に入れた。

 彼女の望んだ力だけど、それを喜んでいいのか分からない。

 僕はテンマのことを頼っているし、試練に協力してもらっている。

 テンマもそれを望んでいる。

 

 それでも心のどこかでは、ただご飯を食べたり、一緒に出かけたりして、危ないことなんてする必要なんてないんじゃないかと思ってしまう。

 テンマの成長は彼女の感じる苦難のように思えてならなかった。

 テンマが成長する必要性にかられないほどには、僕は頼りなく、強くなかったという事だ。


『主様?まだ痛いのですか?』

『少しだけね……もう少し休んで、外に出てみよう。誰かが探してくれているかもしれないから』


 感傷を胸にしまい。僕は目を瞑った。

 前世の力量に追いついた程度で満足せず、僕自身ももっと強くならなくてはいけない。

 彼女がこれ以上強さを求めなくても済むように。



 テンマに癒してもらいながら微睡んでいると、辺りから人の声が聞こえ出した。

 どうやら人がいるようだ。


〈そっちはどう?〉

〈いえこちらには……あの状況ではもう……〉

〈生きているわっ、信也が死ぬなんて、そんなこと絶対にないっ〉

「………い、お………い」


 僕を探してくれているようだ。返事をしたくてもかすれた声しか出ない。

 少しして扉の開く音が聞こえてくる。


〈しんやっ!〉

〈いましたっ!こっちらです〉


 誰かが走り寄って来る。

 跪いて僕の首に触れて脈を取っている。


「し、信也……生きているの?……」

「ちゃんと……生きて、ます、よ。ポーションで、傷も塞、がって、る。少し疲れた、から……柔らかいベッドで寝たい……です」


 一番乗りはマーレさんみたいだ。

 他の人たちもたくさん集まって来る。僕らを囲むように佇んでいる。

 喋るだけで息も絶え絶えだ。ポーション先輩もうちょっと仕事してほしかったぜ。と言いたいけど、多分体にかけただけだから内側への効果が薄かったのだろう。


「ええ、一番いいベッドを用意するわ。私の英雄……」


 そんなことを呟いて顔が迫って来る。

 頬に柔らかい感触がしてキスされたのが分かった。

 体が動かないのをいいことになんてことを。

 未来の奥さんに浮気認定されたらどうしてくれるのだ。

 女の子からチュウされてちょっと感動したのは内緒だけど。


『主様になんてことするのですっ!メッ!』


 視界の隅でテンマのメッが発動しようとしていた。

 振り上げられた手に陽炎が立ち上る。なんか空間が歪んで悲鳴を上げているぞ。

 さっきのステータスにそれらしい技能はなかった、今この瞬間目覚めたのだ。

 こんなことで目覚めるなって、さっきの決意は何だったのだろうか。

 バエルの雷撃を彷彿するのは、僕の気のせいではない。


『テンマ、ステイっ!それはシャレにならない、僕は別に何とも思ってないから、というか僕ごとメッされちゃうからっ』


 僕にしか分からない危険に悲鳴を上げながらテンマを宥め、無事に救助された。

 さっきの瞬間が、ヨーロッパに来て一番命の危険を感じたかもしれない。






 救急車に乗り病院に運ばれてベッドに転がされる。

 案内された部屋は病室というより高級ホテルのようだった。

 病院のスタッフさんに総出でお迎えされるし、ちょっとした騒ぎが起こっていた。

 

 途中でマーレの持っていたポーションを飲まされて、体力も回復して体もすっかり元通りになっているので入院の必要はなかったけど、一日様子を見ることになった。

 

 ポーション現物で返そうとしたけど、ヨーロッパの異層空間が消滅したから必要ないと言われた。

 琴羽のことを聞いたが、無事でピンピンしているようだ。

 バエルに刺さったままのマサムネも回収してくれている。

 

 僕のことは連絡してあるので明日にはこっちに来るらしい。

 何やら事後処理に追われているみたいだ。全部押し付ける形になって申し訳ない。

 

 僕は甲斐甲斐しくマーレに世話を焼かれ、のんびりと戦いの疲れを癒した。

 ポーションで回復はしても、嵐の中の戦いは中々堪えていた。


「テレビつけるわね。外は凄いことになっているわよ」


 マーレが備え付けのテレビの電源を入れると、そこには喜びの表情を浮かべる人たち、集まって騒いだり僕や琴羽を讃えている。

 攻略中の映像も流れてるし、全部今日の試練の話題一色だ。


「こんなに喜んでもらえるなら、頑張った甲斐があるよ」

「あなたはヨーロッパの英雄よ。望めばなんだって手に入るわね」

「ボランティアだからいいよ。僕は誰かに有難うって言ってもらえるだけで、十分満足だから」


 異層空間の拾得物も貰えるしボランティアとはちょっと違うけど、そこはいいだろう。

 ヨーロッパを救えば、間接的に日本の家族や未来のお嫁さんを救うことに繋がる。

 ただエゴを通した結果、人から喜ばれるのなら嬉しいことだ。

 

「信也……本当に何もいらないの?私たち……私はあなたに何かを返したいの」


 何にもないけどなあ。

 ポーションを融通してくれたら嬉しいけど、それだと営利目的になるからちょっと駄目だ。リソースPは残ってるし必ず必要というわけでもない。

 マーレが満足するような精神的なもので返してもらうのがいいだろう。

 

「じゃあ、今の試練が終わったら、今度はゆっくりフランスの街を案内してほしいな」


 琴羽もパリに行きたいって言っていたし、丁度いいだろう。

 無茶を頼んだ孫に謝罪も兼ねておみあげも買って帰りたい。

 元町さんに頼めばちょっとした寄り道くらい許してくれるかな。


「それって……報酬になるの?」

「ご褒美があると頑張れるよ。楽しみにしてるから」


 マーレは顔を赤らめつつ頷いてくれた。

 なんか恥ずかしそうにしていたけどそんな要素あっただろうか。

 僕といっしょが恥ずかしいとは……いや、恥ずかしいだろ!

 すっかり忘れていたけどゴシップ記事出されていたんだった。

 その相手から一緒に母国の街を歩こうなんてどんな拷問だよ。そりゃあ顔も赤くなる。

 恩人の頼みとあっては断れないのだ。

 なんだかんだ理由を付けて取りやめにしようと心に決めた。お互いその方がいいだろう。






 すっかり体の調子も戻った翌日、病院の前はえらい騒ぎになっており、昨日から人がごった返している。

 迷惑になるし次の試練もあるから退散することにした。

 病院のヘリポートに迎えが来るのでそれに乗って空港へと向かう。

 

「信也、必ずまた会いましょう。私はもっと強くなるから」

「マーレならきっとなれるよ。期待しているから」


 最後にハグをして僕らは別れた。

 防具無しだとヤバかったとだけ言っておこう。

 なんだか幸せな気持ちになれた。






「お帰り信也」

「……ただいま」

『相棒、無事で何よりだ。まあ、骨は拾ってやるぜ……』


 空港で待っていたのは「ボクは不機嫌です」と顔に貼り付けた琴羽と、げっそりとした声を出すマサムネだった。

 琴羽は顔を合わせた瞬間は喜びを見せていたが、直ぐにむっつりと口をへの字にしていた。

 うん、察するにマサムネは愚痴を聞かされていたようだ。


「ボクが信也を必死に探してたのに、あの女がちゃっかり確保してるし。なんか報道やら、観衆やら、政治家やら色々絡まれて時間取られるし。あの女のとは敬語じゃなくなって、最後にはハグまでしていたそうじゃない。ボクがとっても忙しくて大変だった時に……」

「それについては誠に申し訳ございません。誠心誠意、謝罪させていただきます」


 僕は不機嫌な琴羽に深々と頭を下げた。

 まずは謝罪をする。

 話を聞いてみても僕はあんまり悪くないように思えたけど、開き直ってはいけないのだ。

 琴羽はため息を吐いてそっぽを向いた。


「ボクもこんなこと言いたかったわけじゃないけど、素直じゃなくてごめん」

「いや、僕が全面的に悪いし、いくらでも愚痴っていいよ」

「……そうさせてもらう」


 その後げっそりするまで愚痴を聞かされた。相当腹に据えかねていたようだ。

 僕というよりマーレに対してだが。

 キスについては何も言わないのに、どうしてハグについて怒られるのだろうか。

 もしかして知らないのかな。よし、僕は何も言わないことにした。

 

「あ、そういえば大きいエーテル結晶の他に、装備品がまたドロップしたよ。ちょっと判断に困る代物だったけど」


 琴羽がそう言ってストレージを見せてくれる。


『指輪・・・・・2


 ソロモンの指輪

 眷属契約の指輪。眷属を召喚、送還する力を持つ


 戒めの指輪

 10個全てが対となるダイヤモンドをあつらえた指輪。

 全ての指に装備することで装備者に生命術、精神術の技能を付与する』


 気を失って分からなかったが、僕の最後の攻撃で石は砕けてバエルは消滅していたそうだ。

 石を琴羽が拾い上げたことで異層空間は消滅した。

 その時同じ場所に残っていたのがこれらしい。

 

「戒めの指輪は強そうだね」

「拾う時に見たけど結構大きな指輪だよ。ボクら武器持ちだから、10個も指に着けたら邪魔すぎて戦えないよ」

「ソロモンの指輪はよく分からない。眷属ってどうやって手に入れるんだろう?」

「ね~」


 ソロモンの指輪の仕様についてはステータス閲覧を使えば分かるかもしれない。


「戒めの指輪は使わないと勿体ないかな。いっそのこと試練資格者の誰かに譲る?」

「え、普通に嫌」


 きっぱりと断られてしまう。

 薄々そういう反応しそうだとは思っていたけど。


「信也は欲が無さ過ぎ。何の苦労もしてない人に渡すなんて。命を張ってまで手に入れたものなのに」

「でもその指輪が目的なわけじゃなかったし、僕らが持ってても死蔵するだけだよ」

「それはそうだけど……良く知らない人に譲るのは嫌だ」

「じゃあもう一人術専門で戦う人を仲間に入れて、その人に譲るというのは」

「嫌だ」

「……そうか」


 話が付かないので戒めの指輪は琴羽のストレージに入れたままにしてもらって、ソロモンの指輪だけ取り出す。

 飾り気のない銀色と金色の混じったどこか安っぽい指輪だ。


『ソロモンの指輪


 屈服した相手と眷属の契約を交わし、従わせる指輪。

 契約した相手を召喚、送還する力を有する→

 眷属の召喚にはエネルギーが必要であり、その強さによって必要なエネルギーは上下する→

 契約眷属:    』


 屈服って何するんだろうか。オーソドックスで言えば戦って勝つことだけど、言葉のニュアンス的にそれだと不十分な気がする。

 琴羽に着けてもらうけど、何も感じないそうだ。


 僕も着けてみた。

 頭の中にふとベリエルの姿が浮かんだ。

 何となく妙な感じがして指輪のステータスをもう一度見てみる。


『ソロモンの指輪

 屈服した相手と眷属の契約を交わし従わせる指輪。

 契約した相手を召喚、送還する力を有する→

 眷属の召喚にはエネルギーが必要であり、その強さによって必要なエネルギーは上下する→

 契約眷属:ベリエル』


 ……ベリエルといつ契約した?

 そんな覚えはなし契約に必要な指輪も今着けたばっかりだぞ。

 ベリエル側から何かしたのか?いや、自分から眷属になる意味もメリットもない。

 

 ただ旨い話には裏がある。

 召喚には結構な量のエネルギーが必要なようだ。

 ベリエルは必要エネルギーが規格外で、とても人間の僕が用意できる量じゃない。

 ベリエル、君に決めた!とぶん投げて試練を楽にできるわけではないみたい。

 戒めの指輪と折半ということで、ソロモンの指輪は僕が持つことになった。


 テンマは生命エネルギーが有り余っているからと、やる気になっているのでソロモンの指輪を渡しておいた。気長に充填してもらおう。





 そんなこんなで、ヨーロッパでの全日程を終え、僕らは移動を開始した。

 僕はインドへ向かう飛行機の中、備え付けのベッドの上で琴羽に膝枕されていた。

 今回の罰兼ご褒美らしい。

 

「♪~」


 琴羽は機嫌よさそうに鼻歌を口ずさんで、僕の髪を撫でている。

 奏さんと違って落ち着かなくて、気持ちがなんだかソワソワするけど、目をつぶって耐えていた。

 

「……そういえば髪飾りはもう発送してくれた?」

「うん、大丈夫だよ。到着は東南アジアの異層空間で戦ってるときじゃないかな」

「分かった。ありがとう」


 インドは最大難易度の異層空間があるし、その周辺国も難易度が70日以上のものが5つ存在している。

 世界の中でも一番過酷な地域だ。それより低いのは20日と差が開いている。

 こちらは数も多くないし全て攻略されている。


 エーテル結晶が魅力的なのか、最近どの国も攻略に積極的で本当に厳しい場所以外は依頼がない。

 そもそも50日を超える難易度の異層空間がある地域が少ないのも大きい。

 それはいいのだけど、北アメリカにある最大難易度の異層空間については未だ救援はないのはちょっと心配だ。


「アメリカ、大丈夫かな。バエルと同等の難易度を攻略できる人なんて、信也以外にいるの?」

「琴羽クラスの実力者に、最適な耐性を付与した装備で身を固めれば行けると思う。実際他の国の異層空間で物品が落ちた事例もある」


 ある程度の難易度でないと装備は出ないけど、僕ら以外でも攻略者はいる。


「まず実現不可能じゃない?それに私だと少なくとも10人以上はいないと難しいし、ほとんど死んじゃうと思うけど」


 何でもなさそうに言って、また鼻歌を歌いながら撫でる作業に戻った。

 言い知れぬ不安と、何とも言い難い緊張感を味わいながら僕は次の場所へと向かうのだった。












『カバーストーリ―:技能 万理法』



 特殊技能の習得と成長に補正を掛けるユニーク技能。

 この技能を持つ者は、理を読み解きあらゆる特殊技能習得の可能性を持ち、習得した特殊技能に対して高い成長補正と能力補正が得られる。


 あくまで可能性があるというだけで、習得には相応の努力と経験が必要。

 また、強い欲求により技能保有者の固有技能を新たに生み出す可能性があるとされている。



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