第7話 奈落の受胎とアスモデウス
僕はカンヌからフランスの空港に移動した後、そのロビーでニュースを見ていた。
何処もフランスの異層空間消滅の話題でいっぱい……。
なんてことはなかった。
何故か僕かマーレさんと抱き合ったり、腕輪を渡している様子が映し出されている。
「僕は今からこの異層空間に挑む。マーレさんも死なせない」
〈おお、情熱的だね〉
〈ええ、この決意の籠った眼、こんな眼で死なせないなんて言われたらもうっ〉
外交問題しか考えていませんでしたが何か?ちょっとは心配もしたけど。
異層空間でマーレさんとの出会い。泣きわめく彼女を抱きとめて背中を擦っている。
〈この愁いを浮かべつつ微笑む表情を見てくれよ、泣いてる乙女に心を痛めているのさ〉
普通にややこしいことになってきたなあって顔です。
索敵の方法を教えているところが映る。
〈新たな技能を習得させるなんて前代未聞だよ、彼はいったいどんな魔法をかけたんだい!?〉
〈そんなの決まっているじゃない、それは……〉
適性があったから僕は背中を押しただけなのだけど。
マーレさんに声を掛け、棍棒を受け取り一人で統率個体に挑む僕。
編集されて、やたらかっこよく見えるぞ。編集頑張りすぎぃ。
〈ひょおっ、いけ、そこだっ、くっ、統率個体は流石に手強いかっ!〉
〈きゃああああ、彼女から受け取った武器で止めを刺したわ!二人の勝利よっ!!〉
そうはならんやろ。一人で戦ったの、ちゃんと見てた?
帰還し抱き合う二人の男女。
僕は腕輪を取出し彼女の腕に付けた。
ふわりと舞う衣を纏った彼女に向かって僕は「綺麗だ……」と呟く。
顔を赤くしてうるんだ瞳で僕を見上げるマーレさん。
一方的に抱き着かれただけだし、綺麗だといったのは衣のことだ。
僕みたいな永年女性と交際経験のなかった男が、そんな歯が浮くようなこと言えるはずないじゃないか。
にしてもマーレさん体を冷やしすぎて熱が出ているのかもしれない。帰ってきてから終始顔が赤かったし。
彼女と見つめ合い、そして颯爽と僕は背を向けた。
次の異層空間を攻略するために。
〈この潔さ、同じ男として尊敬に値する。正しく英傑だね〉
〈マーレが羨ましいわ。世の女性は彼女に嫉妬するでしょうね〉
「…………」
ニュースのような何かを見終えたあと、何の言葉もなく僕は空を仰いだ。
ヤバいですね!
行動の意味が相当曲解されているわ。
なんだこのラブロマンスみたいなおかしな偏向報道、事実無根だろ。
こんな報道のされ方された、マーレさんの気持ちを考えるべきである。
『主様カッコイイのですっ!』
『相手が胸のでけぇ姉ちゃんなのが締まらねぇが、我慢しとくか』
「……何と言いますか、流石は信也様ですねっ」
「元町さん面白がってません?声が上擦ってますよ、笑いたいの我慢してるでしょ」
この人、目は真面目だけど口元がっつり抑えている。
肩がピクピクしてるしダウトだ。
元町さんには僕の心情を吐露しているので、現実との乖離っぷりが悲惨すぎて笑いが起きたのだろう。
「お国柄からして仕方ないかと。異層空間が消えたことも嬉しかったのでしょう、彼らなりの祝福と捉えましょう」
「他人事だと思って……まあ、その内噂も消えるでしょうしいいですけど」
これを日本の家族が見たら仲違いどころか絶縁されるかもしれない。
命の危険にさらした状況でラブロマンスに傾向する男なんて、絶対みんな嫌いだろう。
「この程度では信也様のメンタルは小動もしませんか。ですが彼女は大分参っているようですね」
「はははっ、あっちもこっちも……僕は試練に挑みに来たのに、別の意味で難易度が上がってますね」
「まさしく試練ですね」
上手いこと言ったつもりか。ちょっとイラっときた。
僕は少し離れた場所に座った彼女を見た。
空港で人々が吉報に沸く中、あそこだけ暗い。うわぁ……人が気味悪そうに避けていく。
カリスマさんがマイナス方向で仕事している。普通の人ならあんなことならないだろう。マイナス思考の集団感染だ。
あんな中で琴羽の傍で小言と言っている後藤さんの心臓どうなってるんだろうか。
「そろそろ滑走路の準備が整いますね、移動しましょう」
「分かりました」
次の目的地はチェコ共和国のプラハだ。アスモデウスを攻略する。
輸送機に乗り込んで目的地を目指した。
一泊の後、朝から異層空間に挑むことになる。
今回もその国の試練資格者の男女から説明を受けて内部に入る。
フランスのようなやり取りもなく淡々としていて実に僕好みだ。
この異層空間では精神を狂わせる作用があり、異層空間内部にいる時間が長いほどその効果の影響を受ける。
どう考えても今の琴羽には致命的なので僕が一人で挑んだ。琴羽は僕に何かあったときのバックアップとした。
統率個体はテンマの索敵で直ぐに見つけたので、サックリと倒して終わりだ。
能力は強いが本体が弱かったようだ。




