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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 奈落の受胎 世界縦断
80/149

第4話 side紀子 たった一人の息子



「あなたにとって信也は邪魔者でしょう?ずっと疎ましく思ってたはずよ。血の繋がらない息子のことを」


 花音の一言でこの場が凍り付いた。


 ああ、花音は覚えていたのね。


 そんな素振りなんて見せたこともないから、忘れているのだと思っていた。

 他のみんなは驚いているから、きっと覚えてはいなかったのだろう。

 ずっと小さい頃の話だから無理もない。

 

 最早彼らの話を、私は他人事のように聞いていた。

 もう夫の言葉の真偽など、どうでもいい。

 私の言葉で信也にもたらされたことを思えば、どうでもいい。

 

 あの子は実の親に捨てられて、もう一度私たちに捨てられたと思っている。

 捨てられたと思わせてしまった。


 それでも信也は誰かの為に命懸けで戦っている。日本を救って、今度は世界も救おうと。

 今の信也の心はどうなってしまっているだろうか。

 

 考えても、私には、あの子の心が何も分からなかった。


 私は、親失格ね。……人として、失格ね。





 青野信也と後に呼ばれる子どもに出会ったのは、まだ莉々が抱き上げて散歩出来るくらい小さい頃だった。


 出会ったその子は同じ年の子どもの中では小柄だった。栄養が全く足りていなくて、まともな食事をしていなことが直ぐに分かった。


 どうしてここにいるかと聞けば、分からないと答えられた。

 

 ご飯はどうしてるのかと聞けば、虫や川の生き物を手で捕まえて食べたり、誰かから食べ物を恵んでもらっていたと教えてくれた。

 

 両親のことを聞いても、その言葉の意味が分かっていないようだった。

 

 少なくとも、この子の中では面倒を見る大人はいないようだった。

 

 夫は直ぐに警察に連絡して、この子の保護を要請した。

 これで果たすべき義務は果たし、この子とお別れになるはずだったけど、不思議と莉々が興味を引かれていた。

 

 そもそもこの子と私たちを出会わせたのも莉々だ。

 莉々は生まれてから誰にも懐かない子だった。

 私でさえ抵抗されないというだけで、母親として懐かれているかと言われると疑問が残る頃だった。

 

「さて、警察署まで連れて行こう……どうした?」

「莉々がなんだか興味を持ってるみたいで…」

「汚いから触らせないようにしないと、感染症になりかねない。花音も触るんじゃないぞ」


 既に莉々がこの子の顔に触ってしまった後だったけど、そこは何も言わなかった。

 この子は状況がよく分かっていないみたいで不安そうだったけど、大人しく私たちに従ってくれた。


 渋る夫を説得して実家で体を綺麗にして、消化にいい食事をとらせた。

 目を白黒させながらご飯を食べるこの子は、初めて料理というものを食べたかのような反応だった。


 自分や家族が如何に恵まれているか、そう考えてしまった。

 何も分かっていない、一生懸命料理を味わうこの子の未来を憂いた。





 あの子が児童養護施設に送られた後も顔を見せに行った。


 たまたま家の近所であったことも理由だけど、莉々が懐いている理由も知りたかった。

 施設で見た彼はまだ痩せてはいたけど、健康そうで清潔な衣服を身に着けていた。

 彼はとってもいい子だと施設の職員に聞いた。


 年の近い子どもの面倒をよく見るし、大人の言うことも素直に聞くそうで、珍しい子だと言われた。

 施設ではその境遇から心に問題を抱えやすいそうだが、この子は健全だった。

 これなら問題なく里親に出せるだろうという話だった。

 

 その話を聞いたときに言い知れぬ嫌悪感を抱いた。その理由は私にも理解できたけど、深く考えるにはまだ若く、自分の子どもの事だけで精いっぱいだった。



 その日の夜、子どもたちを寝かしつけた後に夫と話をした。

 

「今日はあの子に会ってきたのよ。施設の職員さんからも信頼されてて、とってもいい子らしいの。あんな環境にいたのにどうしてなのかしら」

「うーん、処世術じゃないか。大人の求める子どもを何となく理解してそう振舞っているんだろう。そうしたら、あの場所に居られるって分かってるんじゃないのかな。あの年で難しい事なんて分かるはずもないから、ほぼ無意識なんだろうけど」

「大丈夫に見えて、大丈夫じゃないってこと?」

「まともじゃないだろ。ついこの間まで大人から何も教わらなかった子どもだぞ。腹の中までは分からない。それとあの子に会いに行くのは止めた方がいい。紀子は感受性がある分、入れ込み過ぎる。情が移ってもいいことなんてないぞ」


 夫の意見は世間一般では正しいのだろう。正しいのだろうけど、私はあの子は違うのではないかと考えていた。でなければ莉々が懐くはずなんてない。


 莉々は私たちとは違う感覚であの子のことを捉えて、その上で懐いているような気がしてならなかった。





 その後も折を見て莉々を連れてあの子の元を訪ねた。

 

 あの子はいつも嬉しそうに私たちを歓迎して、莉々の面倒も見てくれている。

 莉々をあやすあの子を見ていると、本当の兄妹のように見えて微笑ましかった。

 その様子を眺めていると、いつも対応してくれる施設の職員の方が声を掛けてくる。


「あの子を里親に出そうと思うのですが、青野さんは如何でしょうか。あなたならあの子とやっていけると思いますよ。あんなにいい子でも、里親によってはまた施設に戻ることになりますから……私どもではどうしてもね……」

「私にはもう子どもが4人います。収入面では何とかなるかもしれませんが、私にとても務まるとは……」

「そうよね、ごめんなさい。……あの子たちを見ていて余計なことを言ってしまったわ」


 今日の会話と、莉々とあの子の姿がシコリのように頭の中に残り続けた。





 それから数か月経って、私は夫に尋ねてみた。


「ねえ、あの子のこと憶えてる?私たちが保護した男の子の事」

「覚えてるぞ」

「あの子の事、養子にしたいって言ったら賛成してくれるかしら」


 夫は呆れたようにため息を吐いた。


「犬猫と違うんだ、そんな簡単に言うものじゃないよ。拾ったからって責任が発生するわけじゃない。他人の、しかもネグレクトを受けた子どもをわざわざ養子だなんて、うちには4人子どもがいるし、紀子の負担も大きいだろ。金だってかかる」

「でも、あの子はこのままだと何処かの家の養子になって、また同じように捨てられてしまうかもしれないわ」

「……もしかしてまだ施設に通ってたのか。情が移るから止めるように言っただろ。あの子は別に紀子のことなんて、なんとも思ってないさ。何処かの誰かの里親の元で幸せになるよ。そう思うくらいでちょうどいい」


 その言葉を否定しようとして、ぐっと口を閉じた。夫は今のあの子のことを知らない。莉々が懐いていることも、私が来た時に嬉しそうにすることも、帰る時に寂しそうにすることも。


「どうしても駄目なの?」

「ああ、絶対に駄目だ」


 夫の頑なさに、私は説得を諦めた。





 次に会うのが最後だと自分に言い聞かせて、私はまた施設を訪れた。莉々にもお別れが出来るように連れてきた。

 施設にはあの子がいなかった。


「あの、いつもこの子と遊んでくれる男の子は……」

「あの子ですか?今日は里親候補の方と外で会っていますよ。出たばかりですので、直ぐには戻って来ませんが」


 どうやら無事に里親が見つかったらしい。ホッとする気持ちと、何か煮詰まったような気持ち悪い感情が喉にせり上がってくる。


 出発して間もなかったが、施設の中で待たせてもらうことにした。

 莉々は何処かを一点を見詰めたように動かなかったが、いつもより怖がりを起こしていなかったのであまり気にしなかった。

 私も釣られて特に珍しいものもない景色を眺めていると、何処からか『しゅらり』と何かが通り抜けたような音が耳に木霊した。

 似た音を聞いたような気がするけど、いつのことだったかしら……。

 

 


「あ、帰ってきましたね」


 あの子は顔見知りの職員に手を引かれてこちらに向かって来ていた。

 こちらに気付いたように手を振る。


「あおのさん、こんにちはっ」

「こんにちは、お出かけだったの?」

「うん、さとおやさんに会ってきた。なんか怖そうだった」

「えっ?」

「会った時はやさしそうな人たちだったけど……話してて急に、なんとなく、この人たちは怖い人なんじゃないかって」

「こら、そういうこと言っちゃ駄目よ。これからあなたの両親になるんだから」

「はーい」


 あの子は元気よく返事をして、職員に促され間もなく手洗いに向かった。


「あの、怖そうな人って、大丈夫なんですか?」

「私が面談した時は全くそんな雰囲気はありませんでした。……6歳年上の女の子が一人の、とても裕福な家庭で身元はしっかりしていたのですが、あの子がそう感じたなら何かあるのかもしれません。大人の機微に聡い子ですから」


 金銭的な面で心配はなくても、それが本人の幸福に繋がるか分からない。

 あの子の観察力や直感が優れているのは、私も職員もよく知っていた。

 施設の子どもの不注意や危ない場面をいの一番に気付いて防いでいたから。


「取り止めにはならないのですか?」

「あの子が拒めばそうなるかもしれませんが、あの子は拒まないでしょうね。さっきも言いましたが、聡い子ですから」

「…………」


 それはつまり、自分の都合で断ることによって生じる周りの人間の不利益を嫌がっているという事だろうか。

 自分の人生を蔑ろにしてでも。あんな小さな子どもなのに。


 本当にこのままでいいの?後悔はしないの?

 そう私の内面が問いかけてくる。


 良いわけがない、後悔するに決まっている。


 私が見つけた子どもが、私が見てきた子どもが、不幸になるかもしれないなんて。

 夫の言うことは正しい。情が移るから止めろと言われたのに聞かなかったからだ。

 知らなかったら何も知らないまま、私の知らないところで、一人の子どもが不幸になっただけ。

 世界中で有り触れた、顔のない他人の不幸で済んだのに。


 あの子が職員さんの元に戻ってきて洗った手を見せている。

 私は腰を屈めてあの子に目線を合わせた。


「ねえ、私の子どもにならない?今日会った人たちと私だったらどっちがいい?」

「またあおのさんのおうちに行けるの?」

「ええ、ずっと一緒よ。もちろんあなたが望めばだけど」

「うん、ぼくあおのさんのおうちがいいっ」


 その嬉しそうな声を、喜ぶ笑顔を見て、私は決心を固めた。

 誰に反対されようと、たとえ夫に見捨てられようと後悔しない。

 この子は私の子ども、たった一人の息子。



 その日から夫とは何度も話し合い、喧嘩して、私が絶対に折れないと理解してもらえたらしく、あの子の里親を認めてもらった。

 あの子の年齢が低かったこともあり養子縁組で実子として戸籍が用意され、あの子は正式に青野信也となった。

 

 それは信也と出会って、1年がたったころの出来事だった。





 子育ては大変というけど、私たちは大いに信也に助けられた。

 施設で過ごしたからなのか、言わずとも妹たちの面倒を熱心に見るし、なにより莉々が懐いている。

 それに見たこと聞いたことの理解度が高く、教えれば何でもこなせた。

 天才ではないけれど、優しく聡い子だった。

 花音は素直な信也を可愛がったし、春香や萌香も兄として信也を慕っていた。

 莉々は言わずもがなでベッタリだった。

 

 子どもたちの将来を考えて、貯蓄を増やそうと生活費を切り詰めようと考えていたけど、信也が来てから夫の仕事が立て続けに大成功を収めていた。

 余剰な資産を投資に回せば大きな利益が上がり、順調すぎて5年ほどで子どもたち全員を大学にやれるくらい貯えが出来てしまった。

 まるで信也が幸運を運んできたかのようだった。

 

 夫は信也に対して無関心で、最低限の父としての義務を果たすに留めていたが、決して冷遇などしてはいない。

 もしそんなことをしていれば私が気付くだろうし、信也も夫に近付かないだろう。

 何となく二人の中で信頼のようなものが存在していることだけは分かっていた。


 家の中が騒がしくも暖かで、皆が明るい顔でいられる。

 そんな幸福に包まれた日々は、きっと信也がいなかったら得られなかったものだ。





「何か反論があるなら言ってみてくれないかしら。私たちが納得できるような答えがあればだけど」


 はっとして周囲の状況を見る。

 苛立たし気に夫を睨む花音。

 それに顔を強張らせている夫。

 驚きで状況を理解できていない春香たち。

 

 状況はあまり変わっていなかった。やり取りも覚えている。

 懐かしい記憶が、本当に一瞬だけ脳裏によみがえったかのようだった。

 そのおかげか、沈んできた気持ちに僅かな余裕ができた。

 

「花音、この人はそんなことしないわ」

「……どうしてそう言い切れるの」


 夫に視線を向けたまま、花音が口を開く。


「意外に思うかもしれないけど、この人と信也はお互いを信頼しているわ。確かに無関心に見えるけど、それが二人の距離感だから」

「信じられない」

「そう……みんなはどう。本当にこの人が信也に嘘を教えたと思うの?」

「うーん、私としては敏夫君がそんなことしたとは思えないね。二人と付き合いのある身で言わせてもらえれば、突拍子もないように思える」

「私も部外者だけど、そう思うわ。二人の関係って、お互い干渉せずに偶に話すくらいで事足りる関係みたいな。そういう信頼よね」


 どう言葉にしていいか迷う娘たちに代わり、塚本夫婦が答える。彼らは私の意見に肯定的なようだ。


「でも、養子にすることだって反対してたんでしょ、母さんといつも喧嘩していたじゃない」

「子ども一人迎えるのは大変なの。私が夢見がちな人間で、犬猫を飼う感覚で言っているのかって、そういうニュアンスで喧嘩してたのよ。だから必死に勉強して、根気と本気で言い負かしてやったわ」


 男親だし、女の子の姉妹の中に他人の男の子を入れるのは嫌という気持ちはあっただろうけどそれは言わない。


「私はよく分かんない。お兄ちゃんが養子だっていうのも衝撃的過ぎて」

「顔が似てないとは思ってたけど、莉々が一番懐いてるし、私たちの見分けつくし、昔から私たちのこと大切にしてくれたし、血が繋がってない要素の方が少ないよ。生き別れの兄妹とかじゃないの?」


 混乱しているのか、状況についてこれていない春香と萌香。

 萌香の理論だと、私は信也を生んだ覚えがないから夫が生ませたことになる。

 ジロリと睨みつければブンブンと首を振って否定していた。

 

「学校だって今まで私たちと別の所に通わせていたじゃない、それはなんでよ」

「あの学校の小学受験は、厳しい審査に通らないといけないの。信也の来歴では審査の段階で難しそうだったから受験しなかったの。高校編入ならその辺り緩くなるし、信也が今の高校を選んだ理由は家に近いからよ」


 抱えてきた疑念の答えが自分の中にあった答えと違っていたからか、漸く夫に掛かっていた花音からの重圧が緩み、夫はぷはぁっと息を吐きだした。

 夫は息を整えて、言い辛そうに口を開いた。


「……正直に言う。信也が家に来てから疎ましく思う事はよくあった。あいつだってそれは子どもの頃から気付いている。だけど不幸になれとか、苦しめなんて思ったりしない」


「信也が家に来てから10年以上見てきたんだぞ、それだけの期間あんな善人の塊みたいな奴と一緒にいて、絆されないなんてありえないだろ……家族の情なんて胸を張って言えないが、それでもあいつのことは男として信頼も信用もしている」


「だったら、なんでこんなことになってるのよ!!」


 もう花音も理解しているかもしれないけど、感情は全くおさまりが付いていない。


「……状況だけ見れば、信也側から俺たちに対して接触できないように、俺たちから信也側に接触できないようにさせたい人間がいるんだろう。全部があいつを中心に回っているんだとしたら」

「この状況で、これだけのことを出来るんだったら政府の人間だろうね。しかも信也君に近い人間、信頼のある人間かな?」


「こんなことして何になるの?」

「私としては今の日本の状況こそが最高の結果だと思うね。日本の異層空間は最初の犠牲者以外出ていない。今にして思えば犠牲者を出したことでさえ、信也君を試練へと促すための呼び水のように思える」


 夕希ちゃんの質問に答えた塚本さんの返答に、ゾッとしたものが背筋を撫でる。

 一体信也は何に巻き込まれているのだろうか。

 

「おまけに日本のエーテル結晶は全部政府がもらい受けた。そして海外の異層空間まで攻略すれば、下手打たない限り信也の所属する日本は称賛される」


「信也との交渉次第で海外のエーテル結晶も確保できる可能性が……いや、面倒ごとは任せてくださいとか提案されたら、平気で任せましたって言って全部渡しそうだな」


 自分で思う事を言葉に漏らしつつ、夫は頭を抱えていた。

 ありありと未来が想像できたのだろう。


「私もそう思うわ……最近も異常な価値の首飾りをポンと渡していたわね。あの子の金銭感覚をもう少し育てた方が……流石に数千億円は無理ね」


 ちょっと自分の教育を間違えたことも思ったけど、そもそも教えられるものではなかった。

 せめて女性についてちゃんと学ばせればよかった気がする。

 信也には欠片もそんな気がないのは分かるけど、あなたみたいな純粋な子ばかりではないのよ。

 

「私たちがおねだりしたら、普通に同じようなものくれそう」

「うん、お兄ちゃんだもんね」

「止めた方がいいよ。あんな貴重なもの貰ったら、無理矢理でも奪ってきそうな人も出てくると思う。最低限自衛できる人じゃないと」

「……そう言いつつ夕希は喜んで貰いそうね」


 もう夫を疑うものはいなくなったのだろうか。そっと花音の様子を窺うと座り込んで下を向いていた。


「なんで……全部違っていたの?今も近くにいる政府が何かしてるんじゃ、信也は……」

「花音……」


 何も解決はしていない。まだ信也は大きな思惑の中にいるかもしれない。

 憶測が多いのは事実だ。

 どんな可能性を巡っても、今の状況は私たちにとって良くない。

 解決しなくては前に進めない。私もあの子に償ってあげられない。


「あなた、政府の人と一番やり取りをしていたでしょ、何か心当たりはないかしら」

「そうだな……一応名刺を貰ったが、その中に怪しい人間がいるかどうかなんて分からない。強いて上げるなら、元町という人間が信也に近いくらいは分かる。配信で名前を呼ばれていただろ、あの人の名刺だ」


「試練対策室関東支部支部長?……ここに所属している女性が前にやってきたわね。信也には殆ど聞かれなかったけど、この家が信也に相応しくないとかなんとか好き勝手言ってきたわ。挙句の果てに私の目の前で虐待されているんじゃないかって言ってきた人よ。その人がここの所属だったわね」

「え、そんな人がいるようなところの人が先輩の近くにいるんですか…」

「元町さんって、配信でたまに映ってるけどちょっと陰気な感じの人?悪い人には見えなさそうだけど……」

「善でも悪でもない人間は沢山いるさ。それにこの人だって上から指示を受けているだけかもしれない。まあ疑わしい人間には上げてよさそうだな」

「でもこれなら先輩に接触してちゃんとお話しできれば誤解は解けるってことですよね、前進ですよ」


「その信也はもう空の上よ」


 花音の言葉と共にニュースが流れる。

 既に信也が海外の地に立っていると、そう語られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カバーストーリー:切り裂いたもの』

 

 

 最古の英傑は二振りの刀を持っていた。

 

 その内の一振りである、最後まで担い手に手にあった刀は、あらゆるものを切り裂く概念そのものであった。

 担い手の意思に従い、それは献身的であった。

 永遠とも言える担い手の戦いを傍らで見守り、己の在り方を変えてでも最後まで支え続けた。

  

 しかしその献身は自由な意思を持った時まで、そうあり続けることが出来たのだろうか。

 

 担い手の老人が生涯を終えた後、その刀の行方を誰も知らない。

 

 名を忘れられた刀の思いを知る者は誰もいない。


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