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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 孤独の迷宮
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第7話 孤独の迷宮と第二階層



 時計がないため何時間休んだか分からない。

 元気よく数を数えていたテンマは1000秒と答えたが、この子の1秒は3,4秒くらいある数え方だったから1時間以上は休んだと考えておこう。

 まず栄養補給に、携帯食料というスティック状に練り上げられたものを一食分齧る。


(ク、クソ不味っ!?信じられないくらい不味い!!)


 配信で知っていたが、齧るまで臭いはないのに噛んだ瞬間、吐瀉物の臭いと何とも複雑な酸味や苦味が口いっぱいに広がる。

 想像の遥か上を突き抜けた不味さだ。これが濃縮ゲロ味だと言われたら普通に信じる。

 しかも唾液を吸って膨張をし続けている。

 商品名は「増えちゃうゲロ」ですね。

 心の中で罵倒を漏らしながら無表情で咀嚼し、吐かないように水で流し込んだ。

 次に拳を開き半透明の板を出す。


『試練資格JPN_No.01023

 青野信也 男 15歳

 技能:なし

 称号:なし

 生命:9/10

 精神:8/10

 装備:鉄の片刃短剣 ジャージ フード付きマント

 保有アイテム:背負い袋 携帯食料(14) 水筒大(2) ポーション(2) 紙束 ペン ナビゲートピクシー

 リソース:10P


 ダメージを負っていないのに生命が削られている。

 精神は特に不調を感じていないが疲労感はある。

 どちらの消耗も携帯食料が不味過ぎた影響ではないと信じたい。

 この数値がどこまで当てになるか分からないが、時間感覚がないのでどちらかが5を割ったら長い休憩を取ることにする。


 体を軽く伸ばしてから階段を下りていく。

 13段降りては小さい踊り場に出て、さらに折り返して13段降りる。

 竪穴の階段で130段降りた。二十キロ以上の荷物を担いで下りればそれなりに体力を削られる。

 第二階層の入り口についた時点で背負い袋は降ろした。

 

 水筒1個と携帯食料を5個は取り出しておく。

 水筒の中に携帯食を投入し、ふたを閉めてシャッフルして即席ゲロ、もといオートミールもどきを作成。

 絶対に食べたくはない。これ食うなら土を食うぞ。

 

 ちなみにだが孤独の迷宮の怪物は階段に侵入できる。

 ただ怪物は、獲物が逃げ込んだりでもしない限り利用はしないようなので、荷物置や休憩はし易い。


『テンマは引き続き違和感を報告して』

『合点承知なのです!』


 力こぶを作るテンマに和みつつ、地図を作成するために歩き回る。

 一応配信でステータス閲覧を使って怪物の情報は得ているが、実物にももう一度かけておいた方がいいだろう。

 配信で確認できた第二階層の怪物は一種類だけだった。


『ん!何か音がします。通路の先の部屋に何体かいるようです』


 テンマの警告。より一層足音に気を付け距離を詰めた。

 視線の先にはオレンジ色の大きな腹を持つ、中型犬サイズの蟻が3匹いた。


『火五 雄 0歳

 関係:敵対 感情:敵意 状態:空腹 精神:平静

 技能:ギ酸LV3 フェロモン

 称号:なし

 孤独の迷宮の掃除屋。迷宮の有機物を酸で溶かし食料とする。

 死亡する際に腹に蓄えた酸袋が破裂し、周囲に酸とフェロモンを振り撒く。

 ギ酸は有機物だけでなく大半の鉱物も溶かす→』


 彼らは歯五ほど攻撃的ではない。

 見つかってもすぐさま襲い掛かってはこないが、こちらを敵と見なしているので近付けば当然攻撃はしてくる。

 主な攻撃手段は?みつきで一見対処しやすいように思えるが、こいつらに近接戦を仕掛けるのは愚策だ。


 殺した瞬間に爆散してギ酸をまき散らし、体に浴びれば溶けて死ぬ。装備に浴びれば装備を失う。

 ギ酸の被害を避けられても、フェロモンは絶対に避けられない。あれは肉眼で捕らえられないし範囲が広い。

 フェロモンが体に付着すれば火五たちは容赦なく付け狙ってくる。それこそ階段を上がろうが降りようが関係はない。

 一番は戦わないことだが、地図作成の都合でそうも言っていられない。


 僕は持っていた例の携帯食料入りの水筒を傾け、掌で中身を受け止めた。

 ふやけて膨張して体積の増した、最早硬めのゲロとしか言えないそれを、こちらに気付いていない火五に向けて投げつけた。

 辺りに広がる芳醇なゲロ臭。

 テンマも両手で鼻と口を抑えて苦しそうだ。口で息しなさい。

 火五はと言えば、突然湧いてきたエサに疑問を覚えることなく貪り食っている。旨いのか、それ……。

 

 地面に落ちたものが無くなれば、仲間の体に附着したものを啜る。

 3匹は全て食べ終えたがまだ残りがないか探し回っている。

 僕はわざと姿を見せて近くにオートミールもどきを投げる。

 火五はこちらに気付いたが、警戒しつつも近付いてきてそれを貪った。

 僕はその部屋を後にして別の部屋に向かい、そこにいた火五に同じようにオートミールもどきを投げつける。

 食べ終わりを確認して次に向かう。


『主様くしゃいです~』

『我慢しなさい。僕も臭いから』

『それに凄い数の蟻です!怖いです!』


 テンマは段々増えていく火五の群れを指さして笑っている。


『テンマのリアクションは怖がってるのと違うけど本当に怖いの?』


 臭いが辛すぎて情緒が変になっているのかもしれない。

 次々部屋を移動していくうちに蟻たちの数が膨れ上がり、20匹近い数が僕の後ろを追いかけてくる。危険性も相まって生理的嫌悪感が半端ない。

 ただ襲い掛かってくるといよりは、距離を保って近付いているが正しいだろう。

 僕は火五のいない部屋までテンマに誘導してもらい、その部屋の中心で水筒の中身を全部ぶちまけた。


「ぎーぎーぎー」

「ぎーぎゅーー」


 火五たちは喜んでそこに突っ込んでくる。押し合い圧し合いで秩序はない。

 たんとお食べ、最後の晩餐を。


 僕は通路まで下がり、隙だらけの彼らに向かって空の水筒を全力で投擲した。

 ダンベルほどの重量のある金属製水筒は、見事に柔らかそうな酸のタップリ詰まった腹に命中、皮が破れ酸が漏れ出し、それを浴びた火五は苦しむが仲間はオートミールもどきに夢中で脱出できていない。

 僕はそれを見届けるなりその場を離れた。

 

 ついには一匹を死に至らしめたのか、癇癪玉が爆発したような音を聞いた。

 それから続く爆発の連続と、火五の絶叫を背景に僕は元来た道をひた走り、降りてきた階段まで戻ってきていた。


『これで全滅してくれたらベストだけど、そうもいかないよな』

『ちょっと可哀そうだったのです。蟻さんは主様に懐いていたのですよ』


 ……いや、冗談だよね?隠し切れない敵意が漏れてたよ、彼ら。

 まあ別にいいか。フェロモンが萬栄していると思うので1時間ほど休憩して様子を見に行くことにする。





『いやー全滅してましたね!主様最強!主様サイコーなのです!』

『はははは……予想外の戦果だった』


 地図を描くためにこの階層を警戒しつつ練り歩いたが、火五は一匹たりともいなかった。

 代わりに僕がオートミールもどきをぶちまけた部屋では、通路にはみ出るほどの溶けだした火五の死体があった。

 ギ酸プールが出来るほどだ、2,300匹はくだらないだろう。本当にまともに相手をしなくてよかった。


「これで第二階層は終わりです。予想以上に上手くいきました。怪物の名前は分からないので蟻の怪物と呼称します。一応付け足しますが、僕が行おうとしたのは、死体のフェロモンで注意を引き付けている間に階段を降りる戦法で、全滅させるつもりの戦法ではありませんでした。酸の中を飛び込むとは、予想以上に蟻の怪物の仲間意識が強かったんですね。階段を降りて少し休憩したら第三階層に進みます。それでは」


 荷物を全部移動させ、また第三階層に降りる階段の前で地図と火五のことを書いた紙を見せる。

 作戦の注意点は詳しく書いておいた。少しのミスで大惨事になるからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『カバーストーリー:携帯食料』

 

 

 孤独の迷宮において、試練資格者たちを苦しめたのはなんだろうか。

 怪物、恐怖、暗がり、迷路、色々あるだろう。

 しかし全ての試練資格者たちは共通してその話になると話題にすることがある。

 携帯食料の不味さだ。

 

 リソースポイントの中で選べる食べ物は実はそれなりにある。

 しかし破格のポイント消費で購入できるものは携帯食料しかない。

 食した者たちのコメントは以下の通りだ。

 

 『ゲロ以下』

 『食べても吐き戻す』

 『口に入れるまで無害なのが質が悪い』

 『鼻摘まんでも飲み込んでも、胃から臭いが込み上げてきて無理』

 『口の中限定なら、シュールストレミング超えた』

 

  この味を知るものたちは、何事もなく食する試練資格者に対して畏怖を覚えたという。


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