第2話 side夕希 名残の雪
世界に異層空間が現れてから、漠然とした不安が誰の胸の中にもあった。
表面上何事もなく続く日常。皆怖がっていた。
でも日本が地獄に変わる心配はもうない。信也先輩が戦って日本を救ってくれた。
とっても優しくて、とっても強い私の先輩。
ニュースに鬼と戦う先輩の姿が映っている。
見るのも恐ろしい鬼を流れるような剣舞で圧倒する。
銀閃が煌めく世界。恋愛フィルターなんてなくても、全世界の誰よりカッコイイ。
世の中にはマサムネ頼りとか、運がいいだけとか、先輩のこと悪く言う人もいたけど、この一戦でみんな口を閉じてしまった。
当たり前だよ、先輩の力は先輩だけのものだったんだから。
そもそもマサムネを手に入れる前から強かったのを忘れていたのって言いたい。
「そろそろ時間よ、テレビを見てないで支度しなさい」
「はーい」
私は立ち上がって身支度を済ませる。
玄関に出てみれば、既にお姉ちゃんが花音さんと談笑していた。
「おはようございます、私が最後ですか?」
「いいえ、ちょっと春香が遅れているわ。直前までニュースを見てたから。昨日も似たようなニュースがあってたはずだけど、飽きないわね」
「……へぇー」
私の気の抜けた返答にお姉ちゃんが視線を寄こす。私は取り合えず笑って誤魔化した。
そうこうしていると玄関が開いて萌香ちゃんと春香ちゃんと莉々ちゃんが揃って出てきた。急ぎ足だけど身だしなみは大丈夫な様だ。
「遅れましたー、朝からお兄ちゃん映ってるからついつい」
「もお、私まで巻き込まないでよ。というか莉々も知らん顔してるけど、ばっちり見てたでしょ」
「?」
莉々ちゃんは可愛く首を傾げている。とぼけているのが丸わかりだけど、萌香ちゃんは疲れたように肩をガックリと落した。
「ほら、騒いでないで行くわよ」
「そうね、ご近所迷惑になるし」
私たちは揃って登校を始める。
登校中は相変わらず視線を集める。
これだけ綺麗どころが揃っているのだから無理もない。
ここに先輩がいたら傍目にはハーレムみたいだけど、単なる身内の集まりだ。
まあ私が先輩と付き合いだしたら二人だけで登校するようになるかな。
そんなことを考えながら今日も平和な日本の学校生活がスタートしようとしていた。
みんなと別れてクラスに付けば、友達たちと会話する。
小中高一貫だからみんな顔見知りだし大体友達だ。
「朝のニュースに青野先輩出てたね」
「うん、そうだね」
「夕希ちゃんは幼馴染なんでしょ、青野先輩学校に登校してないみたいだけど最近は会ったりしてるの?」
「ずっと忙しそうだから会えてないよ。スマホも持ってないみたいで繋がらないんだよね」
「夕希ちゃんいいなあ……幼馴染ガチャ最高レアだよね、私なんて冴えないというか、汚点というか」
急にあまり話さない子が会話に入って来る。
中学生にしては少し派手めで目立つ子だ。自分に自信あることが態度に出ている。
最近こういう事が良くある。私が先輩の身内だと分かっていて接触を持とうとする子が多い。
幼馴染ガチャとか汚点とか、言葉選びが最悪だから間違っても親しくはなりたくない。
「まあ、身内同然だと恋愛対象にならないだろうから、そこは良かったけど」
その一言で空気が冷える。
冷気の発生源?もちろん私だ。
私の友達は私の好意を知っているし、私の前で先輩に対して仄めかすような言動を取らない。私の中でこの子は敵になった。
「そうだね、先輩は恋愛に興味ないからね。色目使ってくるような女の子には近付かないし」
「え、そうなの?イメージ通りと言えばイメージ通りだけど……」
「うん、本当だよ。だからあの女優さんとか露骨に避けてるでしょ?」
「確かに…アピールしたら駄目なんて、初めから勝負に持っていけないじゃん……」
ふん、他愛ない。先輩が日原さんを避けてるのはただの条件反射だ。
心理的には悔しいが近い位置にいる。今は空回りしているけど安心はできない。
会話に加わってきた子に色々言い含めて今後先輩に近付く害虫、もとい迷惑をかける芽を摘んでおいた。
全く、昔から摘んでも摘んでもすぐに湧いてくるんだから。
「うわぁ……また青野先輩のフラグが折れる音がした」
「夕希ちゃんマジフラグクラッシャー……」
「そのくせヘタレ……」
「ちょっと、今誰がヘタレって言ったの!名乗り出なさいっ」
ワーキャー言いながら下手人をひっ捕らえる。
何のことはない日常だ。この平和はお昼休みまで続いて、終わった。
お昼休みはいつものメンツで昼食を共にする。
先輩がいないから生クリームとイチゴのないショートケーキみたいだけど、このメンバーが落ち着くし、莉々ちゃんが心配だから続けるつもりだ。
いつも通りおしゃべりしながらお弁当を食べているとふと違和感に気付いた。
さっきから春香ちゃんが会話に参加せずに黙々とお弁当を食べている。
いつも早食いでもないし、どちらかと言えばのんびり食べていたはずだったけど、どうしたんだろうか。
「春香ちゃんどうしたの、用事でもあるの?」
「え、うん、ちょっと呼び出しがあって」
「また告白?お昼休みに迷惑ね……」
萌香ちゃんも春香ちゃんも異常にモテる。
可愛い上に羨ましくなるくらいスタイルいいし、妙に目を引かれる魅力を持っている。
私は常に先輩ラブを公言してるからそんなにでもない。
それでも「あんな冴えない奴より俺にしろよ」みたいな身の程知らずに告白されることはあるから、その時は完膚なきまでに心をへし折らせてもらっている。
まあ今の先輩が凄すぎて告白してくるような人は軒並み消え失せたけど。
「違うよ、高等部の瀬尾先輩が渡したいものがあるから一人で来てって言われて、よく分かんないけどちょっと深刻そうな感じだった」
「……まさか」
「うん、有り得なくはない。そっち方面でも春香ちゃん人気だし」
百合の花が咲く展開か。瀬尾さんと言えば先輩のクラスメイトで友達らしい人。
その上結構可愛いから密かに警戒していた。
でもお姉ちゃんが睨みを利かせていたから現状放置していたけど、そっち狙いだったとは、私の眼を以てしても見えなかった。
「いやいや、違うから、そういう深刻さじゃなくて……あ、私もう行くね」
春香ちゃんはスマホを確認して去っていく。
私と萌香ちゃんはその背中を見送り、頷き合った。
「よし、尾行しよ」
「面白そう、見逃す手はない」
「あなたたち……報告書を提出するように」
なんだかんだ乗ってくる花音さんに敬礼を返し、萌香ちゃんと共に春香ちゃんの後を追った。
春香ちゃんがいたのは、高等部からこの中庭に来るための通路の脇のところで人目にはつかない場所だった。
私と萌香ちゃんは通路に隠れて二人の様子を窺う。
「ごめんね、呼び出しちゃって」
「それで用事って何ですか?」
「これを渡しに来たの。差出人は春香ちゃん一人に見てほしいって言ってたから」
取り出された封筒と、その話を聞いて私たちは察した。
「なんだ、やっぱり告白か。相手は違ったみたいだけど」
「ラブレターなんて古風だね。それにしても高等部生からも告白されるなんて、春香ちゃんモテモテだ」
特に面白い話でもなかったし、これ以上見るのなんだと思い、去ろうとした。
「ちゃんと読んであげてね。差出人は青野君だから」
その一言が風に乗って私の耳に届く。隣の萌香ちゃんも驚愕を露わにしていた。
なんで瀬尾先輩が青野先輩の手紙を預かっているの。
ただのクラスメイトなのに、家族にすら連絡してきてないのに。
よく分からない感情がドロドロと滲み出てくる。でも隣の萌香ちゃんはそんな私に目もくれずに春香ちゃんの元へ向かった。
「ちょっと、どういう事なんですか、お兄ちゃんからの手紙って」
「え、萌香がどうしてここにいるの?まさかのぞき見してたんじゃ……」
「そんなのどうでもいいよ、だって家族の私たちでも全然お兄ちゃんと連絡取れないんだよ!ただのクラスメイトの人が連絡取れるなんておかしいじゃん!」
その通りだ。余りにもおかしすぎる。
まさかこれ嘘なんじゃないの。
「えっと、理由は私にも分からないの。電話がかかってきてこれを春香ちゃん宛てに渡してほしいとだけ言われて、直ぐに立ち去っちゃったから」
「その連絡先はどこなんですかっ」
私も通路から飛び出して瀬尾先輩に近付いた。
「ごめん、もう繋がらないんだって……」
「……それ、嘘じゃないんですか。春香ちゃんのこと騙そうとしてませんか」
「してないよ、本当にそれだけなの。兎に角手紙は読んで。でも読むのは春香ちゃんだけにしてほしいって青野君が」
「なんで、おかしいよ、春香だけなんて、どうして……私たちだって心配してるのに……」
絶対に嘘だ。この人のこと信じられない。
青野先輩がそんな贔屓するみたいなこと絶対にしない。
莉々ちゃんのこと特別扱いするけど、それは本人の事情があるし、これはそんな話じゃない。
「春香ちゃん、冷静に考えて先輩がこんなことすると思う?先輩からの手紙なんて真っ赤な嘘だよ。ただのクラスメイトの人が手紙を持ってることも、春香ちゃんだけに手紙を渡そうとすることも全部おかしい」
「本当のことだよっ……もしかして青野君の危惧してたことってこう言う事?だから春香ちゃんだけだったの……」
「……私は手紙を読みません」
「駄目だって、それだと青野君が……」
「大丈夫です、先輩がこんなことする人だとは思っていません。多分無理矢理やらされているんですよね。ですけど、その人の思惑に乗って手紙を読むなんて絶対に嫌ですっ」
手紙をビリビリに裂いて、執拗に細かく破り捨てる春香ちゃんに瀬尾先輩が絶句する。
紙片がパラパラと地面に落ち、風に舞う。
「嘘、どうして……」
「すいません先輩、私これで失礼します。散らかしてすいません」
一瞥もすることなく立ち去る春香ちゃんに私や萌香ちゃんも続く。
春香ちゃんは中等部の校舎まで来て、あまり人の通らない特別教室の廊下の壁に背中を付けてズルズルと座り込んで体操座りで塞ぎこんでしまった。
「さいあく……」
「春香ちゃん……」
「頭に血が上ってなにしたか、なに言ったかもわかんない。私瀬尾先輩に酷いことしてなかった?」
「あの先輩の方が余程ひどいことしたから大丈夫だよ。手紙を破り捨てるなんて、春香ちゃんもやるときはやるね」
「どこかで覗き見されてる気がしたから、見せつけてやろうと思って。あ~あ、気分はよくないけど、いい気味だよ」
少しいつもと違う様子に訝しく思っていると、萌香ちゃんが気付いた。
「夕希ちゃんには話してなかったけど、似たようなことあったんだ。お兄ちゃんから連絡預かってるっていう人がいて、それが嘘だったんだ」
「その人記者らしくて私たちからお兄ちゃんの話聞きだそうとしてただけだった。政府の人に対処してもらったから、もう近付いてくることないと思うけど、学校でもこんなことあるんだね」
だから手紙を破り捨てるまで春香ちゃん怒ってたんだ。納得が出来た。
「春香ちゃんもあの人との付き合い考えた方がいいよ。誰かに言われてやったことだったとしても、あんなことする人なんて……」
「……そうだね。でもちょっと信じられない気持ちもあるけど。あの人お兄ちゃんが仲良くしてた人だし」
それは確かにあるけど、先輩だって善悪の過多を正確に見抜いて付き合っているわけじゃないし、間違えることもある。
放課後になって部活のあるお姉ちゃん以外の面子で下校する。
待ち合わせ場所に行くために通路を通って中庭を過ぎようとしたとき、誰の姿も見えないのに声が聞こえてきた。
「あったぁ~これで10枚目ぇ」
「意外な才能があったね。図体でかいのに良く見つけるわ」
「それは言わないでよぉ~気にしてるんだから~」
「本当にこんなことに付き合わせてごめんね……」
「昼休みにベソかきそうな顔で帰ってこられて、知らぬ存ぜぬは流石に出来ないし」
「そうだよねえぇ~手紙渡すだけだったのに、どうしてだろうねぇ~」
「ごめんなさい。私が無能で多大なご迷惑をかけてごめんなさい」
「うわ、言葉選んでよ。今の由佳は地球の裏側で誰かが転んでも、自分の所為だとか言い出しかねないんだから」
「それぇ~言葉選び出来ないよぉ。お口チャックしかないねぇ~」
瀬尾先輩を含む女子生徒が地面や庭木の辺りを見回している。
奇しくもそこは春香ちゃんが手紙をビリビリに引き裂いたところだった。
丁度萌香ちゃんや春香ちゃん、莉々ちゃんが降りてくる。彼女たちも私の視線の先に気が付いた。
「また見っけぇ~13枚目だよぉ~」
「いや、マジで凄いな」
「うう、面目ないです……私3枚しか見つけてないのに……」
「見つけた数にまで落ち込まれると困るなぁ~……」
「何をやってるんですか?」
流石に無視できなくて植木に上半身を入れ込んで、背中を向けている瀬尾先輩に話しかけた。
瀬尾先輩は悲壮感が凄いし、友人らしき人たちも制服に葉っぱを付けている。
「破れた紙を探してるんだ……大事な手紙だから修復できないかと思って……ごめんね、不審者じゃないから気にしないで」
「……その手紙、本当に大切なものだったんですか?」
「大切だよ、家族への手紙だから絶対届けてあげないと……私が手紙も渡せない無能でごめんなさい……」
「あ、そこの中等部生徒。興味本位で話しかけないであげて。この子マジでへこんでるから」
「放置が吉だよぉ~私たちも傍にいると気分が滅入ってくるもん」
「本当に、本当に青野信也先輩の手紙だったんですか?」
「そうだよ……え?私そんなこと言ったっけ……あ、見付けた4枚目!」
瀬尾先輩はズボリと植木から体を出す。
手入れの行き届いた髪に、枝や葉っぱが付いている。
その手には白い紙の欠片が握られていた。
「ふー、流石に腰が痛くなってき…た……あっ」
瀬尾先輩の瞳が私と、その後ろの萌香ちゃんたちを捉える。
口をパクパクと開き、友人さんたちも何事かと集まってきた。
「…………」
「えっと……手紙の欠片を集めておりまして……あははは……はは……」
「本当にこれ、お兄ちゃんの手紙なんですか?」
春香ちゃんが瀬尾先輩の手に持った紙の欠片を指す。
「……うん、間違いなくそうだよ」
「私、え、どうして…あの時、え……本当に?」
「ごめんね……私が渡そうとしたからいけなかったんだよね。分不相応なメッセンジャーでごめんなさい」
深々と頭を下げる瀬尾先輩に言いようのない罪悪感が湧いてくる。
「由佳ちゃん、どれだけ不審者さんだったんだろうねぇ~」
「渡した手紙を破り捨てられるくらいには怪しかったんでしょ、きっと。偶に信じられないくらいポンコツになるし」
これが全部仕込みだなんて、流石に私たちは思わない。
だとしたら本当に先輩の手紙だったんだ。顔からサーと血の気が引く。
よりにもよって先輩が書いた家族への手紙を偽物だなんて言ってしまった。
「でもお兄ちゃん、春香だけに手紙なんて……」
「そこは単純に私が春香ちゃんと仲いいからだと思う。春香ちゃんに手紙読んでもらって、みんなにも読んでもらう予定だったとか?用意した紙も封筒もコンビニで買ったものみたいだったし、急いで準備したから一つに纏めたんじゃないかな?」
辻褄は合う。寧ろそう考える方が自然だ。それは先輩の取りそうな行動だった。
「私、お兄ちゃんの手紙を……」
段々と顔を青くしていく春香ちゃんに、何でもなさそうに瀬尾先輩が答える。
「大丈夫だよ、春香ちゃん。私の友達に失せもの探しの才能が開花したみたいだから、直ぐに全部見つかるよ」
「そんなにプレッシャ~掛けないでよぉ~頑張るけどぉ」
「お、私も6枚目見っけ。なんだ、由佳が最下位だな」
「無能でごめんなさい」
「ああ~駄目だってぇ。そういうこと言うのぉ」
「ごめん、忘れてた」
なんとも言えない緩い会話に私たちは顔を見合わせ、互いに頷いた。
私も手紙探しに加わる。萌香ちゃんたちも。
莉々ちゃんは破り捨てた事情をよく分かっていないみたいだけど、紙の欠片が先輩からの手紙という事は話の流れで理解したみたいで、私より早く行動し始めていた。
……手の中に既に5枚も持っていて、ガチで瀬尾先輩をへこませた。
途中で花音さんと部活帰りのお姉ちゃんも加わって、事情を知った放課後残っていた生徒も集まって大捜索が行われた。
日が暮れる頃にはかなりの数が集まり、もう見つからなくなったので今は風のない屋内でパズルをしている。
協力してくれた生徒は下校している。
「それにしても莉々は凄かったわね……風で遠くに飛ばされた紙まで探し出してくるなんて」
MVPは莉々ちゃんだった。
鼻をひくひくと動かしたかと思えば何処かへと歩きだして紙を見付けてくる。
いや、人間の嗅覚はそこまで鋭いはずないはずなのに、匂いで探し当てたとしか思えない行動を取っていた。
「出来たわ……全部はないから欠けはあるけど、十分に読めそうね」
欠片の形に合わせて、裏面を貼り合わせていたので手紙の内内容はまだ分からない。
テープで止めてしまってから紙を裏返した。
これ、私やお姉ちゃんが見てもいいのかな。瀬尾先輩たちも最後まで付き合っていたのでこの場にいた。
『家族の皆へ
この手紙はメッセンジャーの瀬尾さんに頼んで春香宛に出すけど、春香が中身に問題ないと判断したら、みんなで読んでほしい。
時間がなかったから手抜きになってごめんね。
父さんから僕のことをみんなが負担に感じていると聞いているし、僕の顔を見たらみんなが悪感情をぶつけてくるかもしれないから、お互い会わない方がいいと聞いた。
それでも次無事に会える保証はどこにもないから、後悔の無いように手紙を書くことにしました。
春香がこの手紙を読んで気分が悪くなるようなら、家族に見せずに捨ててほしい。
瀬尾さんは僕に無理矢理押し付けられただけだから、怒ったりしないでね。
僕が全部悪いから。
さて、本題だけどこれから僕は海外に行って、試練で困ってる国の異層空間を攻略して来るから、しばらく日本には帰ってこれない。
僕が海外に行くのは******を守りたいだからだよ。傲慢で独りよがりな理由だと言われるかもしれないけど、それで救える人がるのなら、やってみる価値はある。
もし皆が抱えている問題が時間で解決してくれるものならいいけど、そうじゃなかったら、僕に関わらないことがみんなの為になるなら、遠慮なくそうして欲しい。
これからも僕は試練に挑むし目立ち続ける。迷惑をかけ続ける。
家族じゃなくなっ*******************************い続ける。
僕のことを家族として受け入れ***********************ことなく僕を切り捨ててくれていい。これが僕の生き方だから。
短いけどこれで終わります。お元気で』
「父さんから聞いた負担って何のこと?顔を合わせない方がいいって父さんが連絡したの?」
「えっと、皆さんに心当たりは……」
「ないよっ、確かにお兄ちゃん関係で良く人から話しかけられるけど、お兄ちゃんに対して負担に思うなんて、絶対にないし言ったこともないよっ」
「会いたいのに、連絡したいのに、それが出来ないからずっと我慢してたんだからっ」
「コクコクコクッ!」
春香ちゃんと萌香ちゃんは積もり積もった不満を発散するかのように声を荒げる。
莉々ちゃんは同意するように物凄い頷いている。
「……あの男に帰って聞き出すわ。返答によっては刺す」
え、怖い。花音さん本気だ。自分の腕を見れば鳥肌が立っていた。
いざという時のためにお姉ちゃんが立ち会った方がいいんじゃ。
お姉ちゃんなら花音さんが強硬に出ても止められるだろうし。
「一撃は駄目よ。信也君が味わった苦痛を少しでも理解させないと」
あ、駄目だこれ。お姉ちゃん目が真っ黒けになってる。激おこだ。
私が一番冷静かもしれない。
手紙のこと疑って馬鹿を見たから、今はちゃんと考えられている。
「と、取り得ず暴力は抜きにしませんか?先輩は絶対望みませんし、誤解があると思います。確かに先輩のお父さまは少し先輩に無関心ですけど、こんな嘘つきませんよね?」
私の言葉に萌香ちゃんたち中等部組がはっとする。
うん、私と一緒で教訓が生きていてよかった。
「いいえ、やりかねないわよ。あの男は信也のこと自分の……いえ、続きは家に帰ってからにしましょう」
不自然に言葉を切って、花音さんが成り行きを見守っていた瀬尾先輩たちに向き直る。
そのまま深々と頭を下げた。
「瀬尾さん、本当にごめんなさい。身内のことに巻き込んでしまって」
「へ?いえ、元はと言えば私の説明が悪かったというか、誤解を与えてしまったというか……」
「それはないわ。紙を探しているときに事情を聞いたけど、あなたに何一つ落ち度はないしここまで親身になってくれて感謝しているわ。瀬尾さんを頼った信也は、人を見る目があるわね」
同姓でも見惚れそうな微笑みを返されて瀬尾先輩たちが赤い顔になる。
「これからも信也と仲良くしてあげて。嫌でなければ私たちともね」
「滅相もないです。大歓迎ですっ」
「よかったねぇ~」
「ふう、もう紙探しはこりごりですけどね」
みんな帰り支度をして学校を後にする。
なんだか大団円みたいな空気が流れているけど、私は見逃がしていなかった。
この中に、あまりにも危険な光を瞳に宿した人物がいたことを。
まだ、何も終わってはいないのかもしれない。




