表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 奈落の受胎 八大地獄
76/148

第21話 sideアナザー 彼は日本を救う



 <部隊と地獄>



「こっち、こっちっ!」

「お待たせ……久しぶりだね」

「ホントだよ、全然連絡付かないんだもん」

「ごめんね、仕事が忙しかったから」


 新幹線の駅、私だけに見えるように外されたサングラスとマスクの中の友人の素顔。

 久しぶりに見る彼女の顔は、あまり年齢を感じさせなかった。

 皴がないとか、肌の張りがいいとか、見掛けの話しじゃない。

 雰囲気や性格の話だ。学生の頃のままだった。

 その事実は私をほっとさせた。

 

 友人は私の顔を見て一瞬目を細めたが、何も言わずに自分の車のトランクに私の荷物を詰め込む。

 こういうところも変わっていない。



「おばさんから聞いたけど、暫くこっちにいるの?」

「うん。症状も安定したから、ようやく一人暮らしの許可が下りたんだ。お目付け役の近くっていう条件付きだけど。問題なさそうだったらまた働くと思うけど、今はモラトリアムだね」

「そっか」


 お目付け役というのがこの友人。学生時代は私の方がお目付け役だったのに立場が逆転してしまった。

 

 走り出した車の中で会話を始めれば昔の気安さが顔を出す。

 お互いの近況を話しては驚いたり笑ったり。

 友人はVtuberという配信の仕事をしているらしい。

 あまり新しいものに詳しくないからリアクションのしようがないけど、自由業で会社には所属していないみたい。

 自分一人で身を立てるなんてすごいと思った。

 私はどれだけ頑張っても父の娘以外の者になれなかったのに。

 

「ちょっと前までは鳴かず飛ばずだし、ろくでなし…なのは今も変わらないけど、そこそこ視聴者が来てくれるチャンネルになったんだ」

「そうなんだ。配信って何かを流すんだよね。何を配信してるの?」

「最近はもっぱら試練の配信だよ。試練の配信を見ながら色々コメントしたりするの」

「へぇ~母さんも見てた気がするけど有名なんだね」

「…………え?もしかして試練の配信を見たことないの?」

「うん。最近まで本当に無気力だったから。あの大音量の放送もいまいち覚えてないし」

「マジか…………これ、ネタになるかも?」


 何やら目に怪しい光を宿した友人。

 こういう時、いつも良からぬことに巻き込まれた気がする。

 

 マンションに到着してから最低限の荷物を荷解きして、隣の部屋のチャイムを鳴らす。

 友人は直ぐにドアを開けて迎えてくれた。

 何のことはない。友人と私はお隣同士のご近所さんになったのだ。

 自分が原因だから仕方ないけど、母さんは本当に心配症だ。

 

「上がって上がって、ご飯できてるよ」


 部屋に上がれば、リビングのテーブルの上に鉄鍋に入ったすき焼きが用意してあった。

 横に置かれたお肉様が神々しい光を放っている。


「うわ、このお肉高いんじゃないの?さしがきめ細やか」

「実際高いよ。まあ久しぶりだしいいじゃん。一人だといい肉食べようなんて思わないけど、誰かと一緒ならね。さあ、たんと食いねえ食いねえ」

「そう言う事なら、遠慮なくいただきます」


 手を合わせて早速お肉から頂く。

 口に入れればとろけるように柔らかで、脂身の甘さがじわっと口に広がる。

 間違いなく、人生で食べた中でトップクラスに美味しいお肉だ。

 友人も感動しているらしく、二人で無言で食べ勧めた。

 

 

「さて、食べちゃったね」

「うん、食べたよ」

 

 お腹いっぱいになって寛いでいると、友人が私にニンマリとした笑顔を見せて来た。


「さっき食べたお肉は、大卒の公務員の初任給の半分以上の値段がします」

「凄い高級だね」

「言いたいこと、分かるね?」

「…………あんたが高いお肉を食べさせてくれるなんて、って思った私の感動を返せコノヤロー!学生時代から何も変わってないじゃん、このクズッ!!」

「おお、それでこそ私の友。大人しすぎて別人かと思ったけど、ちゃんと元気じゃん」


 ポコポコと背中を叩いて不満をぶつけても、友人は悪戯っぽく笑っていた。





 そんなやり取りのあった次の日。

 指定された時間に友人宅を訪れれば、色々な機材の並んだ部屋に通された。


「で、私に何をさせたいわけ?」

「配信の助手だよ。難しいことお願いするつもりないから安心してよ。私の配信中に声を入れてくれるだけでいいよ」


 説明を受ければVtuberというのは画面に絵が表示されていて、人間は映らないようだ。

 私の絵もその内準備するから声だけ欲しいという。


「私に出来るとは思えないけど……」

「それについては大丈夫だよ。いつも通りのリアクションでいいし、実験みたいなものだから駄目そうなら止めればいいし」


 友人が緩いのか配信行為が緩いのか判断が付かないけど、肉の分は返さなくてはいけない。とりあえず友人の依頼を請け負うことに決めた。

 友人は機材を弄りつつもいくつかの画面に記事を表示させていた。

 それと一つの画面は映像にあたる部分が隠れていてコメントだけ流れている。友人は私が見ているのに気付いてそれを全部隠してしまった。

 記事の方は政治のニュースみたいだけど、ここ最近まともにニュースなんて見ていなかったから詳しいことはよく分からない。


「ん~やっぱり駄目か……」

「何の記事?」

「日本の試練関係。……無茶苦茶大事になってるのに、本当に何にも知らなさそうだね。今は日本が地獄に変わるか変わらないかの瀬戸際で、丁度日本が派遣した部隊が試練に失敗したところ」

「へ?」


 簡略化して試練の説明を受けたけど、顎が外れそうになるくらい衝撃的なものだった。

 既に二回実施され、今回で三回目。

 今回は前の二回と違い、現実への影響があるという。

 友人の冗談だと初めは思ったけど、テレビのニュースやネットの情報も全部が友人の話を肯定していて反論なんてすぐに出なくなった。

 いつの間に現実がこんなにファンタジーに染まっていたのだろうか。


「ま、不味いんじゃないの、ここも地獄になるってこと!?」

「失敗すればね」

「何でそんな悠長な……」

「だってどこ逃げても同じだよ?日本は富士山の異層空間壊さないと全部飲み込まれるし、他の国も陸地なんて殆ど残らないから」

「うそ……」

「ほんと」


 軽く言う友人に眩暈が走る。こんな大事件を全く拾わなかった自分のアンテナにも。

 というよりなんでこの子は落ち着いているのだろうか。


「日本、大丈夫かな……」

「こればっかりは、政府が何とかすると期待していいか分からないね。でも希望はあるよ」


「私たちには青野少年がいるから」


 その時の友人の目は、絶望なんて一欠片も感じさせないほどキラキラと眩しいくらい輝いていた。

 この顔ばかりは、私が初めて見た友人の新たな一面だった。




 <奈落の受胎と等活地獄>



「やっほ~みんな、今日も見てるかな~ママカの試練鑑賞にようこそ~やっぱり動き出したね、我らが誇る最強の試練資格者、天竜殺しである青野少年がっ!!」


 コメント

 ・やっほ~

 ・おっつ!

 ・来ちゃった

 ・乙

 ・未成年だろ、青野少年

 ・そうだけど未成年禁止した政府が失敗したんだからしゃーないだろ

 ・だからって頼ったら駄目じゃいない?大人じゃないだぞ



 目当ての試練資格者の試練が配信されたという事で、友人もそれに合わせて配信を始めた。

 コメントが流れてどんどんと視聴者数が増える。

 私も緊張してきた。上手くできるだろうか。

 友人曰く上手くやることは求められていないみたいだけど。

 

 

「今はリソースの間にいるみたいだから待機状態みたい。今のうちにちょっと人を紹介していいかな?」


 コメント

 ・誰?

 ・お、珍しくコラボか

 ・何年振り?

 ・友達いたの?

 ・まさか恋人とか

 ・は?青野少年というものがありなが……いや、何も関係なかった


「友達くらいいるわいっ!とにかく紹介しま~す、『ママカBさん』です!」

「ご、ご紹介にあずかりましたママカBさんと申します、宜しくお願い致します」

「かった!サラリーマンの挨拶じゃないんだから普通でいいのに」

「その普通がこれなんだけど」

「あ~社会人だったからしょうがないか。とにかく今日はこの子も交えて配信するよ。立ち絵は静止画だけど用意したから」


 画面に私の絵が表示される。

 ママカという友人のキャラクターの2Pカラーだった。手抜きが過ぎるが、思い付きで始めてしまったのでこれが精いっぱいだったのだろう。

 この配信も私が引っ越してきてから殆ど間がなかったし。


 コメント

 ・友人いたんかわれ!

 ・こんにちはっママカBさん

 ・ママカのネーミングセンスよ

 ・よろしく!

 ・ホントに友達?お金で雇われてない?

 ・礼儀正しいな

 ・声幼くないか?


「正真正銘の友達だよ!あと私と同い年だからね、この子。要するに私も若いってことだね」

「私は若くないですよ。若くというか幼く見られますけど、成人してますし年齢は…」

「ストップ!ネットで個人情報晒さないでっ。芋ずる式に私の年齢バレるから駄目!!」


 コメント

 ・惜しかった

 ・でもその内ポロっと言いそうだよねママカBさん

 ・隙見て探りいれようぜ!

 ・おけ

 ・了

 ・お、始まったぞ、青野少年の配信

 ・うえ、相変わらず地獄だ


 元配信も専用の画面に表示されている。

 恐ろしい勢いで視聴者数が増えてコメントが流れていく。

 友人の配信も個人のVtuberの中では視聴者数が多いみたいだけど、桁が違いすぎる。


 私もほんの少しだけ事前に等活地獄の動画を見たけど、とても入りたいと思える場所じゃなかった。

 今そこに、一人の男の子が降り立っている。

 大人たち15人と違い、子どもがたった一人で。

 

 背格好は決して大きくはない。

 背中に大きな刀を差し、腰にも長さの異なる刀が二本差してある。

 和風の黒い鎧みたいなものに身を包んでいた。

 

「ねえ、この子本当に大丈夫なの?強いって言ってたけど私にはそんな風には」

「まあ見てなって。リスナーの皆に言っておくけど、ママカBさんは事情があって試練のことほとんど知らないし、青野少年のこと何も知らないから」

「そんなハッキリ言わなくても………うえ、ナニコレ」

「これが一般的な反応だよ」

 

 コメント

 ・青野少年知らないとか嘘だろ!?

 ・漢の義務教育だぞ!

 ・淑女の嗜みよ!

 ・日本国宝だぞ!

 ・世界遺産よ!!

 ・マジで日本に住んでて、日本の国名知らないレベルだろ

 ・悲報、ママカBさん常識人に見せ掛けた非常識人だった

 ・まあ、人には色々あるしこれから俺らが教え込めば大丈夫だべ

 ・そうだな。教導の喜びを味わおうではないか

 ・ゆえちゅ


 凄い勢いでコメントが流れていく。

 私は日本人なのに、自分の国の名前を知らないレベルの非常識レッテルを貼られてしまった。

 そこまでの有名人だったのか。

 

 コメントで色々言われる中、映像の中に動きが生まれた。

 ゆっくりと歩いていた青野君、改め青野少年の周りから大きな声が響き渡っていた。

 不気味で震えてしまいそうになるほどの声。一つや二つじゃない。何重にも重なって聞こえてくる。

 それとは別に、青野少年の所から他者の声が聞こえてくる。


「何かしゃべってる?マサムネって刀のことだよね?」

「そうだよ、喋る刀のマサムネ。持ち主の身体能力を強化したり、白い力を固めて斬撃を放ったり、魔法使ったり体を回復させたりできる凄い奴」

「え、そんな刀ズルイ!ということは青野少年が強いんじゃなくてマサムネが強いってことじゃ……」

「うーん、今回は使わないのか。まあ青野少年なら大丈夫かな」

「え?」


 コメント

 ・鬼怖ええええ

 ・初手から大軍すぎんだろっ

 ・青野少年一切躊躇ねーよ

 ・概要に書いてあったけど、今持ってるのが白鷺で小さい方が子狐丸?

 ・加速した!

 ・え、消え

 ・すっげぇ~~!!

 ・最強!青野少年!最強!

 ・鬼の大軍が鎧袖一触だ

 ・マジでマサムネ無しでこれかよ、パネェ!


 何十体もいた鬼が瞬く間に黒い炎に変わった。

 あんな恐ろしい鬼がまるで敵になっていない。

 心臓がドクドク脈打ち手に汗が滲む。


「ちょっ、今の何!何が起きたの!?」

「青野少年が鬼の集団の内側に入って、そこからぶった切って全滅させた。お代わりの50体もあっという間にぶった切って全滅させた」

「いや、そんなことが聞きたいわけじゃなくて」

「まあ見てなって、嫌でもわかるよ、青野少年の強さが」


 コメント

 ・なんかストレージから出して飲んだね

 ・あれはルフリア様特製の薬だな。確か体力を継続回復させるやつ

 ・解説乙

 ・詳しいな

 ・ルフリア様のお言葉は一字一句覚えてるからな

 ・きもっ。分からんでもないけど

 ・究極の美女だもんね

 ・超々目の保養になるけど、副作用としてしばらく地球の女子が人型根菜にしか見えなくなる

 ・用法用量を守ってね

 ・少子化加速しそう

 ・青野少年の所為で、男に求められるハードルも馬鹿みたいに上がったそうな

 ・その二人を比較対象にするのはちょっと

 ・青野少年、同年代に滅茶苦茶モテてるだろな

 ・どっちかと言えば年上からじゃないか?母性とか庇護欲がそそられるとか、同年代には分かり辛い魅力だろ

 ・年下だろ。思春期に試練とか見せたら初恋全部掻っ攫いそう

 ・男もいけるで。ノンケでもあれほどの男にならと思わせてくれる

 ・晩年もいけるやろ。元軍人の爺ちゃんが天竜戦で興奮して、危うく逝きかけて焦った

 ・お前ら、もう面白がってるだけだろwww


 コメントは関係ない話をして楽観的だけど、青野少年の進行は殺伐としている。

 鬼と絶えず戦い、ほぼ全速力で走り続けている。

 友人の、ママカの言うことは理解できた。

 青野少年はとんでもなく強い。そして。


「綺麗でしょ、青野少年の剣技。戦いのための力なのに、暴力であるはずなのに」

「うん、言葉で表現出来ない。人がここまで極まれるものなの?」


 鋭いのに柔軟で、体捌きは舞踊のように艶やかだった。

 攻撃を一切自分の体に触れさせない、剣を凪ぎ黒い炎を巻き上げ加速していく。

 全く鬼に敗れるというイメージが湧かない。

 状況を忘れてただただ見惚れてしまった。


 コメント

 ・謎の実力だよな。15歳だぞ、この子

 ・狐人族の集落で見たときより洗練された気がする

 ・確かにここまでじゃなかったと思う

 ・また検証が捗るな

 ・今度はその道おじいさんがが、その道に百年身を置いたとか言うぞ

 ・テレビでコメントするたびに増えるその道の年数

 ・そろそろ一時間くらいたったか

 ・なんか遠くに変なもの見えね?

 ・ここって……

 ・これ、今も別の配信で映ってる場所だよ……

 

 青野少年が訪れた場所は不気味なオブジェの並ぶところだった。

 そこにとまって何かを啄んでいた鳥の怪物を倒した。

 青野少年が一つのオブジェに近付いたところで、ママカに手で視界を遮られる。


「……見ない方がいいよ。かなりひどいから」

「それって……ううん、大丈夫だから見せて」

 

 青野少年は磔になった女性の体を下ろし、ポーションという薬をかけたけど、それは何にも効果を発揮しなかった。

 青野少年は外套をその体に掛けて声を掛け、先へと進んだ。

 

 コメント

 ・うえ、ひでぇ

 ・ごめん、このシーン目瞑るわ、無理

 ・グロ注意

 ・まるで鳥葬だな、あと毎回遅い

 ・この状態で意識があるのかよ

 ・青野少年、色々躊躇ないな

 ・青野少年だし

 ・やっぱ聖人

 ・言葉が沁みるわ

 ・元配信に「ありがとう、青野君。彼女を助けてくれて」て書かれたぞ

 ・え、それって


 進む先に今までと比べ物にならないくらい迫力のある鬼がいた。

 明らかに別格だ。

 それでも青野少年は、止められない。


 ただの一振りで金棒を割き、もう一振りで鬼の巨体を黒い炎に変えた。


 コメント

 ・瞬きしたら終わってた

 ・二撃、というか実質一撃だった

 ・弱い?

 ・あの鬼に刀一本で立ち向かってから言え

 ・そんなことよりお祝いが先だろ、大分県が救われたぞおい!

 ・浸食範囲被ってるから鹿児島県と静岡県も消さないと意味ないで

 ・その言い方だと県が消えるんですが

 ・青野少年に耐性が出来過ぎて、このくらいだと驚かない自分がいる

 ・そりゃ天竜倒した青野少年ですし

 ・あの時とは条件が何もかも違うから楽観視はやめとけ

 ・一度入ったら出られない以上、詰み要素があったら確かにヤバイな

 ・他の等活地獄の配信も切れたぞ。多分戻ってきてる

 ・よかった……遺族も辛かっただろ


 後日分かったが、戻ってきた人間はみんな遺体となっていた。

 配信中にマサムネも言っていたけど、肉体は本当に傷が治っただけの亡骸でしかなかった。

 それでも遺族たちは青野少年に感謝していた。


「青野少年の配信終わったね。残りの地獄はどうするんだろ」

「うーん、私も細かい経緯が分かんないんだよね。青野少年が試練資格者の中で一番強いのは確かだけど、強いからって義務が発生するわけじゃないから」

「ママカは反対なの?」

「正しいとは思ってないよ。でも青野少年がこうもあっさりと異層空間を消滅させたら、世間はどう考えるかな。被害を出さないためには、どうすべきなのかって」

「それは……」


 コメント

 ・何とかできないのかな

 ・箱庭の時は仕方なかったけど

 ・あれは辛すぎる。なるべく戦わせたくない

 ・青野少年ほどじゃなくても強い人いないの?

 ・日本にも試練資格者の訓練校出来てたよ!

 ・その訓練校の人間が今回の亡くなった15人だけどな

 ・政府も失敗できないから上澄み選んだよな、当然

 ・救いないじゃん。青野少年が戦うしかないじゃん

 ・海外からの助力は?もういくつか異層空間消滅させた国あっただろ

 ・やべーくらいの死人出してな

 ・やっぱ救いねえよ

 ・次、黒縄地獄だったっけ。そこも時間の余裕ないけど、どうなるんだろ


 その後も視聴者と議論を続けてお開きとなった。

 ママカもかなり専門的に言葉を交わしていて真剣だった。

 私は知識がなくてあまり意見が出来なかったけど、今この国が抱えている問題が少しずつ理解できた。

 日本も、世界も、ほんの僅かに均衡が崩れるだけで、壊れてしまうものだと知ってしまった。




 <奈落の受胎と黒縄地獄>



「やっほ~みんな、今日も見てるかな~ママカの試練鑑賞にようこそ~みんなの予想通りになったね。青野少年が単独で黒縄地獄に入ってる」


 コメント

 ・乙

 ・早いよ、青野少年

 ・昨日の今日だぞ

 ・瀬戸大橋のど真ん中の奴だな

 ・マジで浸食範囲とか関係なく邪魔な場所に出来てるよな、銀座とか盛岡とか

 ・あれ、ママカBさんは?

 

「居ますよ。挨拶の仕方がよく分からなかったので見学してました。皆さん、お早うございます」

「だから固いって!ママカBさんに色々仕込みたいのに青野少年の行動が早すぎて追いつかない」

 

 青野少年は早速鬼を一体倒したところだ。相変わらず強い。

 難易度が上がっているそうだけど、青野少年基準で見てると違いが分かりにくい。


 コメント

 ・ここも大丈夫そうじゃね?

 ・難易度が10日と15日だから差が少ないのかも。武器がちょい変わった?

 ・余裕だな。今日もマサムネの出番なし!

 ・使った方が早くないか

 ・昨日も身体強化してたら早めに終わってたよね

 ・強いからって舐めプかよ

 ・実な身体強化すでに使ってるんじゃないか?

 ・有名な配信者が指摘してたな。こっそりマサムネの力借りてるって

 ・ああ、あの人ね。考察鋭いし当たってるかも

 ・そりゃそうだろ。子どもの身体能力で簡単に鬼に勝てるわけない

 ・実力隠してるつもりかよ。遊んでんなよ、世界が大変な時に

 ・まだガキだからしょうがないか

 ・寛容に見ててやろうぜ

 ・は?お前ら誰だよ

 ・なんか感じ悪いな

 ・お、生きの良さそうなのが来ましたで、狂犬さん!

 

「新規さん?青野少年を侮辱する奴は出禁しま~す。二度とくんなっ!」


 ママカはパソコンを操作して、空気の悪いコメントをしてきた人たちを配信から追い出した。

 ついでによく分からないソフトを起動させたり、誰かとメッセージのやり取りをしだした。


「え、そんな感じでいいんだ」

「場合によってはあんまりよくないけど、私の場合は色々仕込むからアフターケアもバッチリ大丈夫。それに青野少年を愛でることに重きを置いてるから、こういうのには無暗に絡まない」


 コメント

 ・いやいやwww

 ・無知なママカBさんに嘘教えるなよwww

 ・滅茶苦茶絡むだろwww

 ・噛みついたら離さないだろwww

 ・アンチはどうでもいいけど、マサムネが何か言ってるぞ

 ・生命の前借り……え?

 ・残りの寿命……

 ・いや青野少年、そこ詳しく話してよ!

 ・怖い怖い怖い

 ・でも生命って言うぐらいだからステータスに書いてあるのと同じものじゃ

 ・じゃあ休んだら回復するとか……

 ・減った寿命が休んで回復するのかよ

 ・第一休んでないし。何だったら日本で一番過酷な労働してるし

 ・ダメ、日本政府是が非でも青野少年止めろ

 ・逮捕してでも異層空間に入れるな


「皆さん初耳なんですか?マサムネさん使い過ぎると寿命が無くなるって」

「知らない知らない、知るわけないでしょ!そんなんだったら戦わせたりなんて絶対しないよ!」


 ママカが本気で焦っているのが分かる。

 他人をここまで心配しているのを初めて見た。

 表面的にはいつも冷静で焦る態度を見せることなんてなかったのに。



 前回より慎重に、鬼に見つからないように奇襲を繰り返している。

 その分移動に時間が掛かっているけど、余裕は大分ありそうだ。

 ママカもコメントも落ち着きを取り戻し、配信を見守った。

 

 数時間後にはまた鬼のボスみたいなのが現れたけど、青野少年はあっさり倒してしまった。


 コメント

 ・これで瀬戸大橋解放か

 ・ニュースで取り上げて国民は喜んでんな

 ・始めるときも中継してたな

 ・なんか素直に喜べない

 ・最初の話が引っかかるわ

 ・なんかニュースの放送、作為的なもの感じね?

 ・耳障り良すぎ。世論が青野少年にやらせる方向に流れるぞ、これ

 ・マサムネ使わなきゃいいんだろ

 ・今の青野少年でも余裕があるし、日本の異層空間くらいなら

 ・俺らまで青野少年に押し付ける流れ止めろ!

 ・最初みたいに政府が部隊作って攻略に動き出せばあるいは


「青野少年はどうして戦うのかな。暮らす土地が無くなるから?でも戦う資格を持ってる人、青野少年だけじゃなくて日本だけで千人以上いるんだよね。今この子はたった一人で戦ってるよ」

「……精鋭だって言ってた15人があっという間に亡くなったからね。それに海外はもっと酷い。誰だって怖いよ。政府だって命の責任をこれ以上負いたくない。何もしなくても青野少年が終わらせてくれるなら、手なんて出さないし差し伸べないよ」

「じゃあ、青野少年はこれからもずっと一人なんだね……」


 私の言葉にママカもコメントも押し黙った。

 これから先、青野少年は一人で戦う。

 配信を見てる人たちも、ママカも、私なんかよりずっと良く理解しているのだろう。

 この配信は私の所為でお通夜みたいになってしまい、無理矢理明るく振舞ったママカによって締めくくられた。

 



 <奈落の受胎と衆合地獄>

 

 

 ママカの家でニュースを見ながら朝食を食べている時に、北海道の異層空間の様子が映し出された。

 まだ誰も挑戦していないけど、近日中に青野少年が来るのではと出待ちをしているようだ。

 配信しているママカや手伝いの私が言えることじゃないけど、面白がっているような人たちもいて、こんな人たちと自分たちが同じだと思うと若干落ち込む。

 ママカは自分がクズだって自覚した上で活動しているけど。


 映像の動きが変わり、職員みたいな人たちが集まって人垣を割って道が出来始めた。

 そこに車が到着し、大人たちと子どもが降りてくる。

 

「あの車から降りてきたの青野少年……みたいに見えるよ」

「え……まじっすか!すぐ配信開始する、ママカBさんは朝食食べてからでいいよ」

「私も行くっ」


 最近ではお互いボロを出さないために配信者名で呼び合っているけど、これ逆に日常でボロが出ないのだろうか?私普通に外でママカって言ってしまいそう。


「やっほ~みんな、今日も見てるかな~ママカの試練鑑賞にようこそ~マジで奈落の受胎は始まるタイミングが掴めないから、緊急放送ばっかりでごめんね。青野少年SNS始めてくれないかな」

「おはようございます。ママカBさんです。丁度青野少年異層空間の前に来たけど、揉めてる?」

 

 コメント

 ・乙、相手は日原琴羽だな

 ・おはよう、トップ女優だな。試練資格者になってから活動休止中だけど

 ・マジで!もしかして彼女が先に異層空間に入るとこだった?

 ・彼女は強いの?

 ・うーん、そこそこかな

 ・孤独の迷宮で戦ってたと思うけど、よく分かんなかった

 ・でも迷宮突破してるし上澄みではあるはず

 ・知り合いくさくね?

 ・青野少年、塩対応だけど

 ・私の青野少年に馴れ馴れしくてイライラするわ

 ・はいはい、自称20代のアラサーは僻まないでね

 ・あ、青野少年が怒った

 ・怒ったというよりかは諭してる感じ

 ・そこ代われ、私も叱られたい、心配されたい


「よくぞ言ったぞ青野少年、女優がなんぼのもんじゃい!」

「ママカは女優と何かあったの?まあ今回に限っては共同で入るのは駄目だろうけど。青野少年全然知らされてなかったみたいだし」


 青野少年が異層空間に入った後、残された日原琴羽さんは集まった人たちの一部から総スカンを浴びていた。

 流石に危ういと思ったのか、青野少年と行動していた職員さんが保護していた。

 集まった彼らに彼女をどうこう言う権利はないはずだけど、自分たちに正義があるみたいな物言いばかりで気分が悪くなる。

 日原琴羽の登場に興奮していたママカも視聴者もスンとなった。


 衆合地獄の攻略自体は順調に終了した。

 お色気たっぷりの女の怪物が出たり、自由の女神みたいに大きな動く石像が出たりしたけど、青野少年はマサムネを抜くことなく白鷺だけで切り抜けた。

 ボス鬼も青野少年に手も足も出ずに敗れ去る。

 

 異層空間が消滅して出て来た青野少年を観衆は喜びと共に迎え入れ、テレビも大々的に報道している。

 ママカと私はそれを渋い顔で眺めた。

 コメントでは喜びと懸念が埋め尽くされている。


 コメント

 ・北海道おめでとう!

 ・また一つの地域が救われた

 ・日本の攻略状況、世界でトップクラスだぞ

 ・海外の大人数の攻略に対してこっちは一人だもんな

 ・青野少年、安定感ヤバイ、安心して見てられる

 ・今回はいつもより報道凄いな。カメラが集まってたし当然か

 ・最近不安な声が多かったけど、これで落ち着いて来るんじゃないか?

 ・日本に住んでてよかった

 ・止められないな……

 ・ここが分水嶺だったかもしれない


「……駄目、もう流れが決まってるよ」

「ここまで来たら、止められないだろうね。青野少年に日本を救わせる流れは」


 もう日本は恐怖から覚め、彼に魅せられてしまっている。正常な判断が出来なくなっている。

 彼が戦う事の疑問を投げかけ続けても、大多数の意見に飲み込まれてしまうだろう。

 日本を救う救世主が、誕生させられた瞬間だった。




 <配信とコンビ>

 

 

 衆合地獄の攻略から時間が開いたその日、日原琴羽のSNSで生配信の通知があった。

 青野少年も沈黙を保っていたし、絶対関連があるだろうと注目を集めている。

 そんな日原琴羽だが各方面で燃えに燃えていた。

 ただ別に彼女の過去にこれといった瑕疵はなく、とにかく燃やせるものは燃やせと言いがかりに近いものばかりでママカも私も見る気はない。


「今日は配信しないの?」

「うーん、微妙。青野少年に関係してるか確定情報ないし、浮気認定受けかねないし、飛び火したらやだし、どうしたものか」

「じゃあ止めとく?」

「いや、虎穴に入らずんば虎子を得ず。配信しようかな」



「やっほ~みんな、今日も見てるかな~ママカの試練鑑賞にようこそ~と言いたいけど今日はもしかしたら試練関係ないかも。話題の女優の日原琴羽の発表の見学だよ。どれくらいの付き合いになるか分からないけど、彼女のことは日原女史と呼ぼうか」

「こんにちは、ママカBさんです。今日も宜しくお願いします」


 コメント

 ・こんちゃ!

 ・日原女史ね、オケ

 ・こんにちは。ママカBさんちょっとずつ柔らかくなってる

 ・もっと肩の力抜こうぜ。俺なんて敬語使ったことないし

 ・お前はもっと使え定期

 ・日原女史か。燃え方えげつないもんな、材料なんてあってないようなものなのに

 ・いまいち燃えてる理由が分かんないんだよな~

 ・まあ人間の性みたいなものだよ、きっと

 

 日原琴羽、改め日原女史の配信は元気な挨拶から始まった。

 カメラに至近距離に映る彼女の顔を見ればなるほど、トップ女優と言われるだけあって相当の美人だ。炎上にはやっかみも多分に含まれているかもしれない。

 彼女の説明では衆合地獄での行動は政府の指示だったらしい。

 ただお互いの連絡が上手くいっていなかったのか、あのような結果になってしまったという事だ。


「まあ、確かに納得できるか。あの警備の中で彼女個人が異層空間の目の前に立てるはずないし」

「じゃあ炎上は終わり?」

「それはまだまだだね。だって燃やしてる人の大半が青野少ね……まじか!?配信してよかった、来た来た、待ってました!」


 日原女史の配信に青野少年が顔を出す。ママカが興奮しすぎて煩い。


 コメント

 ・きゃ~~~~~!

 ・キタキタキタキタッ!

 ・俺らの目の前にいて俺らのこと見てるぜ!!

 ・やっべ、涙腺が

 ・最近は青野少年見てると涎が出てくる

 ・パブロフの犬かよ


「なんでみんな興奮してるの?いつも見てるでしょ」

「いやいや、全然違いうから!いつものは戦ってるだけだし、今は視聴者の目の前に立って私たちのこと意識してるんだよ、やり取りできるんだよ、全然別物だよ、かっ~~~~興奮してきた!日原女史マジグッジョブ!!」

 

 日原女史に対する熱い掌返し。数分前まで嫌いな女ランキングトップ5に名を連ねていたはずだったけど、今は好きな女ランキングトップ5に入ってそう。

 カメラの前の青野少年はとても丁寧な対応で親近感が持てる。

 日原女史とのやり取りは何処か気安くて、批判のコメントは鳴りを潜めていた。


 配信前の批判のコメントは、だけど。

 1分もすれば隣の友人が、目の中を真っ黒なタールの沼みたいにドロドロにして画面に見入っている。

 

 コメント

 ・おい、誰も青野少年に気安く触っていいとは言ってないぞ

 ・は?優しく触られた、だと?

 ・鍛錬の話しか紛らわしい

 ・顔のいい女の尊厳破壊助かる

 

「ああ、いいな、いいな、私も青野少年と一緒の部屋で過ごしたい。隣に座って肩を寄せ合いたい。日原女史に向けて私の中の蛇王爆殺斬殺滅殺確殺撃が放たれそう」

「大丈夫?良い心療内科紹介するよ。私もお世話になったところだから安心だし」

「私はこれで正常だから大丈夫」

「そ、そっか」


 それから二人の漫才を挟んだ後に真面目な説明が映し出される。

 今まで青野少年から何の説明もなかったけど、今回で色々分かったし行動の仕方も理由があったことが理解できた。


 コメント

 ・軽く説明してるけど難易度やばいよな

 ・日原女史参加否定派だったけど、この話を聞くとな

 ・いくら青野少年が個人で強くても物量戦はキツイ

 ・マサムネを使わせない前提なら人数はいる

 ・でも現状認められるのは日原女史だけか

 ・……エモい

 ・……でも嫉妬で狂いそう

 ・この女優、美人なのに可愛すぎない?ファンになりそう

 ・青野少年、言葉が真っすぐだから刺さるんだよなあ

 ・あ、その質問は

 ・やっぱり天竜戦の体の崩壊は力の副作用だったのか

 ・あれだけの力を使ってノーリスクは虫が良すぎるからな

 ・日原女史、よくぞ聞いてくれた!

 ・……誤魔化し下手かよ、青野少年

 ・普段嘘つかないから分かり易すぎる。それが答えだろ

 ・え、唐突に締められたぞ

 ・いや、終わってないが


「ママカ、これどういう状況?」

「配信切ったつもりで配信切れてないね。ありがちなミス。気付いてないっぽいな、二人とも」


 配信が終わったと思っている二人の会話が始まった。

 さっきまでの配信の雰囲気ではない、本当の本音が垣間見える。

 日原女史は全然軽くないし、明るくもなかった。本気で青野少年のことを心配している姿が映し出されていた。

 青野少年もそんな日原女史の気持ちが分かるのか言葉を掛ける。

 それはきっと、誰にも聞かせるつもりのない本音に聞こえた。

 揺れることのない堅牢な心の壁の中に存在する孤独。

 面白がりなんて、決してできない。二人だけの聖域だった。


「ママカ……二人のこと、見守ろうね。色んなこと言われたり、大変なこともあるだろうけど」

「うん。地獄とか思惑とか関係なく、この二人なら大丈夫な気がする」


 コメント

 ・日原女史批判してた奴らこれ見てるか

 ・なんだよ、滅茶苦茶いい子じゃん

 ・お、青野少年?

 ・この子が内面を話すなんて……

 ・いいな、二人とも

 ・大人に効く。罪悪感と感動とエモさで死ぬ

 ・なにこれ、浄化されて天に召されそう

 ・うーんこの温度差よ。風邪引きそう

 ・女子にハダカデバネズミぶっこむセンス

 ・元町さん!それをカメラに向けたください、何でもしますので!

 ・フリップ、言い値で買うで。ネットに晒すけどwww

 ・あ、青野少年明後日の方向見てる。

 ・気付いちゃったか残念

 ・青野少年冷静だけど、日原女史は本気で焦ってる

 ・まあ青野少年の心はタングステン以上だし

 ・この物語はフィクションです!


「落ちが付きましたの配信終わります。ばいば~い」



 ママカは配信を切って、そのまま後ろに倒れるように床に寝そべった。


「……なんていうか、分からされた気分」

「何が?」

「最初に人が15人亡くなったし、現実の影響があるから真剣に色々考えて真面目にしてたけど、それって私の配信のコンセプトじゃないんだよね」

「青野少年を愛でる配信だったっけ」

「そうだよ。今の青野少年や日原女史見てて色々葛藤は見えたけど、前を見てるし笑顔だった。甘酸っぱくて、エモくて、それこそ愛でたくなるような感じ」

「そうだね。これからなところもあるけど、何かが変わっていきそうに思えた」

「だから私も初心に戻って、もっと面白おかしくせねばと思うわけですよ。この先辛いことがあっても、なるべく明るくて、辛さを笑いに変えていけるように」

「うん……ママカらしいと思うよ」


 床から起き上がって「ヨシッ!」と言ってママカは立ち上がる。

 別に何か特別なことを始めようとしているわけじゃない。何となくそう声を上げただけだろう。

 彼女は前を向き、私もそれに釣られた。

 

 そこにはまだ途切れていない配信画面があった。


 コメント

 ・ママカに真面目なんて似合わねえ

 ・そうだぜ、俺らくらい試練を茶化そうぜ

 ・ママカもママカBさんもエモいね

 ・お二人は百合百合なんっすね

 ・この場合どちらが浮気になるのだろうか

 ・嫁と婿に当てはめればあるいは

 ・あ、気付いてね?

 ・やっほー

 ・切り忘れにご注意

 ・この物語はフィクションです!


「うそおおおおおっ、い、今のやり取り全部嘘だから!この物語はフィクションだからぁ!!」


 ママカは日原女史と一字一句違わない叫びを上げて配信を切った。

 私たちは二人して顔を真っ赤にした。

 私にもタングステン並みの心が欲しいと切実に願った。




<奈落の受胎と叫喚地獄>



 ママカの配信は既に始まっていて、青野少年と日原女史の登場を待っている。

 今日は試練に挑む前に、配信を流すと通知されていたからちゃんと準備できた。


「お、来た来た。お~日原女史の戦装束カッコイイ!」

「青野少年のものに似てるけどより現代的だね。それに金属で急所を守ってるみたい」

「いいなあこの二人、青野少年がいつもより年相応で可愛いし」

「青野少年の配信は基本試練中のものしかないかったからね。真剣にもなるし、余裕もないよね。もう敬語取れちゃってる」


 短いやり取りだけど、見てるとホッとする。

 一人じゃないだけで全然空気が違う。

 

 コメント

 ・やっぱりオープニングは欲しいよな

 ・青野少年だけだと真面目過ぎるし

 ・日原女史美しい

 ・大分仲良しになってる

 ・なんつーか……この二人見てると

 ・うん、これはどういう感情と処理していいのだろうか

 ・寝取られ?

 ・ぽっと出に奪われた感がある

 ・情報漁ったら日原女史も青野少年の古参ファンだけどね

 ・いや、ファンと対象が一線越えるの如何なものかと

 ・越えてない越えてない……越えてないよね?

 ・越えてたらヤバイから。青野少年未成年だぞ

 ・その辺りの区切りどうでも良くない?

 ・今コメントした奴、絶対成人した女だろ

 ・あ?だったらなんだ、ピチピチの二十代やぞ!

 ・はいはい、アラサー乙


「こいつら、緊張感無いな」

「視聴者のみんなもいつもより力抜けてるね。良い事なんじゃないかな」

「まあ、青野少年が居れば日原女史も死ぬことは無いだろうけど……」


 試練の配信を画面に映す。

 辺りに蒸気が立ち上り、視界がかなり悪い。感じられる熱気を上がっているようだ。

 

 コメント

 ・うえ、あからさまに難易度上げてきた

 ・敵も変わってそう

 ・いや、日原女史のステータスがヤバイ!

 ・は?ナニコレ、別格だろこれ

 ・LV7とか初めて見た……

 ・頑強と俊敏が増えてる。技能が増えた人とかいたか?

 ・知ってる限りじゃいない

 ・いたら報告上がってるから初めての事例なんじゃ

 ・日原女史を鍛えたの青野少年だよな

 ・青野少年ヤバイ

 ・青野少年が技能増えないの益々意味が分からん

 

 青野少年が索敵を行い、敵を発見したようだ。

 琴羽女史が体力継続回復の薬を飲み、程なくして戦闘が始まる。

 鋭利な爪を持った他の鬼より遥かに速い鬼。明らかに特殊な個体だ。

 青野少年はあっさり倒すけど、日原女史は若干手間取る。

 

 統率個体を探すために走りながら戦い、爪の鬼や新たに出現した弓の鬼の強襲を受ける。

 大量の鬼を黒い炎に変えるが、こちらも傷が増え、日原女史がついに大きな傷を受けた。

 最後のポーションで傷を治すが、体力継続回復の薬の効果が切れ、体力は限界に陥りかけていた。

 

「日原女史、マジで強かったけど限界みたい……」

「それだけ地獄が大変で、青野少年が規格外ってことだよね。二人でも人数が少なすぎるんだ」


 コメント

 ・思ってた十倍日原女史が強い

 ・でも急に難易度上がった地獄ではきつかったか

 ・衆合地獄ならついてこられただろうけど

 ・日原女史覚悟ガンギマリだな……

 ・置いて行けとか言われて置いて行けるかよ、青野少年だぞ

 ・俵のように抱えたけどそれで移動と戦闘は無理だろ

 ・まさか……抜いたか遂に

 

「マサムネ抜いたね。でもそこまで悲観的にならなくてもいいと思う。鍛錬や妖精族の集落の開拓では普通にマサムネを使ってた。青野少年もこのくらいの場面では、寿命の前借が起きるほどの力は使わないはず」

「私初めて見た。綺麗な刀だね……口調はあれだけど」

「うん、口調はあれなんだよね。ていうかマサムネも日原女史認めてるんだ……」


 青野少年は白い光を纏って駆け始めた。

 先ほどと比べ物にならない速度。荒れた足場をものともせずにスピードの速い爪の鬼さえ置き去りにする。

 そればかりでなく進行方向上にいた鬼の集団に躊躇なく突入し、スピードを落とさず通り抜けたと思ったら全てが黒い炎に変わっていた。

 そのまま矢のように駆け抜け、止まったかと思えば、統率個体の胸に刀を突きさしていた。

 私たちも視聴者も全て終わってからやっと認識できていた。


 コメント

 ・やっぱつえぇ

 ・一般人では認識することすら困難な速度

 ・通り抜けてなんで鬼の集団全滅してるの?

 ・統率個体でさえ何起きたか分かってなかったぞ

 ・一応ステータスの生命はちょっと減っただけだね

 ・よかった……

 ・そう言えば石拾ったら異層空間消えるけど、この石なに?

 ・青野少年説明してなかったな。エーテル結晶って言うエネルギーの塊

 ・研究中だけど、理論上小さいのでも一個あったら国のエネルギーが全部まかなえるらしい。プルトニウムとかと違って、超クリーンエネルギー

 ・ふーん……つまりどういうこと?

 ・沢山あると人類ハッピー

 ・人の命より重い価値のもの。国は試練資格者が何人死のうが欲しい

 ・夢の新エネルギーか。でもこんな直ぐよく詳細分かったな

 ・確かに早すぎだよな。研究って時間かかるものじゃないの?

 ・命より価値のあるもの、記念にあげるって言ってるけど……

 ・青野少年だし

 ・この子物欲とかないの?

 ・……日原女史

 ・やっぱりいい子

 ・青野少年もいい子

 ・ん、没収?

 ・終わったな。若干締まりが悪かったけど


「いや~これで四つの異層空間が消滅か。これより上の難易度があと四つあるって、今回の試練、日本の難易度高いんじゃないかな」

「青野少年のマサムネ使ってるの初めて見たけど、本当に強いんだね。過程で何が起きてるのか全然分かんなかった」

「あれでも手加減してるよ。青野少年がその気になったら地獄そのものを壊せそうな気がする」

「……冗談?」

「いや、マジで」


 コメント

 ・流石に無理では?

 ・あの光の柱なら異層空間を切ることは出来そうだけど、それで壊せるかな?

 ・どっちかと言えば天竜の領分だろ

 ・青野少年が「天竜、竜の息吹!」って命令したら出来そう

 ・なんつーか、ポケットから出てきそうな天竜だな

 ・ポケットのノリで召喚出来たら世界が滅ぶわ


「天竜って青野少年が倒した箱庭の王だっけ。強いの?」

「動画があるから見たらわかるよ。全力の青野少年も見れる。でも私の部屋で絶対見ないでね」

「え~私の部屋まだパソコンないし、大きいディスプレイもないんだけど」

「……人の尊厳が破壊されてもいいのなら、着替えと防水シートと給水ポリマーと消臭剤と新聞を大量に持ってきな」

「??」


 コメント

 ・他人の家で天竜戦見ようとするとかテロだろ

 ・ママカBさんは知らないから

 ・そう言えばそうだった

 ・自分の部屋で見た方がいいよ

 ・俺も他人の家で見るのはちょっと

 ・一応注意したぞ

 ・誰も詳細教えないのね。俺もだけど

 ・目が離せないから事前にしっかり水分補給しておけよ

 ・おまっ、なんて恐ろ、的確なアドバイスをw

 ・うむ、これもゆえちゅ



 後日ママカの部屋で天竜戦を大画面で見た。

 私の尊厳が見事に破壊された。




 <奈落の受胎と大叫喚地獄>

 

 

 今日は銀座の異層空間に挑む日。

 家から近いけど、私たちは今日も部屋で配信していた。


「折角東京に青野少年がいるのに会いに行かなくていいの?」

「私が人混み苦手なの知ってるよね。それにこの警備じゃ近付くどころか視認も難しいし。あ~会いたいなあ。お買い物の時ニアミスしたし運ないわ」

「ああ、あれね」


 嘆くママカの背中をポンポンと撫でる。

 実は先日私たちが買い物に行った場所には、30分後くらいに青野少年に、日原女史とその家族が居たそうなのだ。

 流石にプライベートで声を掛けることはしないつもりだろうけど、ファンとしては一目でも会いたかったのだろう。

 私も生で二人を見たいミーハーみたいな気持ちはあるけどママカほどではない。

 

 コメント

 ・投稿者は家族と勘違いしてたけどな

 ・日原女史は年齢的には姉っぽさはある

 ・中身と立場は逆だけどね

 ・日原女史の家族と買い物に行った経緯は不明だよな

 ・日常配信もあるしそのうち分かるんじゃないか?

 ・青野少年の家族の影は無いな

 ・んー家族ぐるみなら分かるけど、青野少年しかいないもんな

 ・あ、オープニング始まった

 ・青野少年、配信業に染まる。奏さん?あ、日原女史のお母さんか

 ・やめるなんてとんでもねえよ!

 ・ここでしか供給できない栄養素が無くなって死人が出るぞ!

 ・日常配信無くなるとか、考えただけで手足が震える

 ・それただのアル中じゃねえかwww

 ・俺も辞めないでーって叫んだ。現地の人混みがすげぇ

 ・日原女史もこっち側かよ。よー分かっとる

 ・楽しい会話はここまでか。始まるな


 大叫喚地獄の形相が露わになる。

 一面の白に覆われ視界なんてあったものじゃない。


「うわ、全然見えない」

「鬼も見えないならイーブンだけど、そんな都合よくはいかないよね……」

「また日原女史のステータス上がってる……全技能LV9って、もう訳わかんない。ポーションの数が戻ってるのは青野少年が提供したのか」


 コメント

 ・日原女史、死ぬ気で青野少年に追いつこうとしてる

 ・えぐいステータス

 ・世界中見てもこんな現象、日原女史だけだったぞ

 ・にしても何にも見えない

 ・難易度露骨に上げて来るなあ

 ・お、青野少年、子狐丸初めて抜いたぞ

 ・黒い結晶……真っ黒な黒曜石みたいな刀身だな

 ・魔法だ!と思うけど何したの?

 ・どうぇ~~~!!何してんの青野少年!霰降ってきたんだけど

 ・氷魔法か!

 ・霧が全部晴れたぞ!

 ・結晶化らしい。それアオイちゃんの能力じゃ

 ・まさかあの刀、アオイちゃんからの贈り物?


「霧が晴れて行動を開始するみたい……でも早く動かないとまた霧に包まれるのか」

「青野少年、やっぱり色々説明不足過ぎる。日原女史は頑張って少年を丸裸にしてほしい」

「ママカ、言い方」

「ごめんごめん、……ぶっ、この二人余裕あり過ぎ。日原女史テレビで見るより何倍も面白いし魅力的に見えるね」

「私は青野少年との絡みしか知らないけどそうなの?」

「一見清純で人懐っこいけど、人を寄せ付けない完璧主義者的なところがあったかな。私の分析が正しいか分からないけど。完璧主義者の面は今でも見えるけどね、青野少年に絶対追いつくって形で」


 コメント

 ・今回の戦いは青野少年がサポートに回るみたいだな

 ・経験積ませる形か。日原女史もう弓に対応してるぞ

 ・技能以外も有り得ん成長速度だろ

 ・青野少年のポジショニング神がかってる。鷹の目持ってるレベル

 ・二人とも一個前の異層空間とは別格だ

 ・日原女史は個人の実力、青野少年は連携が噛み合ってる

 ・くっそ強いぞ、この二人!


 乱戦を勝ち抜き最後の統率個体は青野少年のサポートを受けつつ日原女史が一人で倒してしまった。

 一度も致命傷は受けなかったが、ポーションは3本消費した。

 それでも大金星だろう。


「日原女史、凄いなあ……」

「うん、本当に」


 コメント

 ・戻ってきた二人が笑顔で手を振ってるぞ。

 ・おかえり!ありがとう!!

 ・東京は救われたな

 ・富士山をどうにかしないといけないけど、それでもめでたいぞ

 ・こんな日原女史見ても未だアンチ居るんだよなぁ

 ・噛みつくのが好きな連中ですし

 ・この子が君たちの住むところ一生懸命守ろうとしてるの分かってんのかね

 ・それ言ったら青野少年にもアンチ居るぞ

 ・今のアンチはアンチというか、実力否定派みたいな奴らだろ

 ・いい加減しつこいな

 ・大手を振って青野少年に噛みつけるのが、そこくらいしかないからだろ

 ・俺からしたらどっちでもいいけど。マサムネ使ってようがいまいが。日本救うために頑張ってるのに、そんなつまらんこといつまでの言われ続けないかんわけ?

 ・良い人もいれば悪い人もいる

 ・全員に感謝の心を求めるのは土台無理な話


「ラブアンドピースとか言わないけど、もうちょっと思いやれないものかな。二人を攻撃する奴の心境がわからんわ」

「ママカのそれは思考停止。二人は眩しいし、誰にとっても特別で、日本を救う救世主。みんな憧れるし、同時にそれを羨んでしまうんじゃないかな」

「そう、だね……この話止めよっか。あんまり面白くないし」


 それからは話を方向転換して今後のことを離した。

 ママカの顔には憂いが見えたけど、私は何も聞かなかった。

 私は知っているし、傷口に塩を塗ろうとは思わない。

 それは私も同じことだから。




 <奈落の受胎と焦熱地獄>



 コメント

 ・海外はなあ

 ・青野少年の意思は尊重するけど

 ・もし70日の難易度の異層空間でマサムネ使う事態になったら、100日なんてそれこそ寿命削るような戦いしかねないだろ

 ・でもどれだけ人数かけても青野少年レベルの戦力には届かないだろ

 ・日原女史レベルの人間がもっといたらいいけど、今のところいないし

 ・また一人になっちまうのかな


 既に青野少年たちは大坂の異層空間に辿り着いているだろうか。

 まだ配信は待機状態にはなっていないけど、既に私たちは配信を始めている。

 話題は昨日の日原女史と青野少年の配信での発表。

 青野少年が海外の異層空間の攻略を視野に入れていることだった。


「青野少年はきっと行くだろうね。でも日原女史はどうだろう……意思ではどうにもできない部分がある。信也君が本気にならざる得ない相手が出て来たときは、流石に一緒に戦えるとは思えない」

「私もママカと同じ意見だけど、二人には一緒にいてほしいな。厳しいからこそ、誰かに傍に居てほしい。青野少年にとっては日原女史がそうなんじゃないかな」

「いいコンビになってきたもんね」


 コメント

 ・一方的に見えてそうじゃないんだよね

 ・青野少年のデレは分かりにくいけど、古参なら態度の違いで分かる

 ・青野少年が盗られるのは嫌だけどもっと見たい自分がいる

 ・お、待機入ったぞ

 ・直ぐに始まったな……ナニコレ

 ・マジで……

 ・いや、これ人間が生きていける環境じゃないだろ

 ・二人ともめっちゃ余裕な顔なんですが

 ・まさか装備にある、天竜の真鱗か?

 ・青野少年が祝勝会の取材で言ってた炎や熱に対する対策じゃね?

 ・待った、装備より日原女史のステータスが

 ・でけぇのが来たぞ!初っ端から統率個体かよ!!



 炎が一斉に噴き上がる中、灼熱の体を纏った統率個体が現れた。

 いきなりのボスの登場に動揺が走る。

 だが画面の二人に焦りはない。


「日原女史が行った!え、は、速っ!?」

「うそ……倒しちゃった……」


 統率個体は槍の一突きで石に変わり、消滅した。

 あまりのあっさりとした幕切れにコメントも止まってしまっている。

 マサムネと青野少年の言葉に我に返り、日原女史のステータスを確認した。


 コメント

 ・日原女史のステータス見てみろ、またおかしいことなってる!

 ・称号、それに身体技能制限解除って、明らかに今の戦闘に関係してるだろ

 ・技能LVも成長して、LVなしの技能も増えてる

 ・月読?……神様のことじゃないよね

 ・いや、それより称号の方だろ。え、これってそういう事なの?

 ・二人の間になんかあった、というとことか?

 ・分からん、分からんけど日原女史の意思が人間の限界を破ったってことでは

 ・もうここまできたら名実ともに二人を認めん奴おらんやろ


「もうなんも言えねえ……」

「そうだね……ここまで誰かを思うって、見てるこっちが赤面させられるというか」

「確かに。でも日原女史の青野君を思う気持ちって全然ファンとかそんなレベルのものじゃなくて、もっと重くて強くて固いものだよね。そうじゃなかったら、ここにいるみんなが称号持ちで人間の限界超えちゃってるはずだから。私もまだまだだなあ……」


 試練の配信が途切れ黒い画面を見続けているママカの目は、自分では一生手の届かない宝物を手にした人間を、羨んでいるように見えた。




 <奈落の受胎と阿鼻地獄>



 青野少年と日原女史は続く大焦熱地獄をあっさりと攻略してしまった。

 二人のコンビネーションが光る戦いだったし、前後のやり取りもすっかり仲良しで微笑ましくて、視聴者もほっこりしていた。

 だけど、あと一つ最大の難易度を誇る地獄が残っている。決して楽観視は出来ない。


 コメント

 ・青野少年の話にあった異層空間のリソースについてだけど、検証進んでる?

 ・有志でデータ集めたけど、当たってると思う。

 ・環境、広さ、手下、統率個体に割り振られる形だな

 ・難易度が高いほどリソースの絶対量が多い

 ・難易度イコール統率個体の強さじゃないのはハッキリとした

 ・日原女史がフラグ建てたけど、一番厄介なのは統率個体に全リソースを振った場合かな

 ・インドのアスラがその典型

 ・あの統率個体強そうに見えないけど、その所為で試練資格者が勝てると思い込んで、相当殺されてるよな

 ・リソース理論が確かなら、あれは人類の勝てる存在じゃない

 ・インドは置いておいて、大焦熱地獄は普通に攻略不可能レベルだったけど?

 ・初見殺しの環境はやばいだろうけど、対策できる類なら逆に他にリソースが回らない分有利になる

 ・高難易度は10日変わるだけで、馬鹿みたいに難易度が高くなったな

 ・最後の70日見るのが怖い

 ・ここ越えないと日本全土地獄になるのか……

 ・世界に青野少年と日原女史以上の試練資格者はいない

 ・実質、今日が日本の運命の日だな

 

「そろそろ始まるね……ここが最後の日本の異層空間。日本の試練資格者は青野少年たち以外動いてないから当然中に何が待っているか分からない。みんな、オムツだけはしといたほうがいいよ」


 ママカがちらっとこちらを見てきたので私は頷いて返した。天竜戦でえらいことになったのでちゃんと装備している。


 いつも通り緩いオープニング配信で緩い空気を醸し出した後、二人は異層空間に入っていった。

 待機状態が切り替わり、配信が始まる。

 

 コメント

 ・うっ……既に嫌な予感がする

 ・明らかにヤバイのがいる。天竜の時みたいな気配がする

 ・こんな空気の中でも軽い二人

 ・クッソ頼もしい

 ・経験した場数が違うしな

 ・鬼だ……数は少ないけど、今までの鬼と違う

 ・理性があるな……喋った!?

 ・ふえええ怖えよ、喋んなよ!

 ・まじで青野少年ブレねえ、おまけに動揺無し!

 ・頼もしすぎるぜ


「明らかに異質な鬼だね。一応空間が狭くて環境は普通だから、特化型に近いけど強そうな部下がいる分、強さは分散されてるはず」

「日原女史を参加させない?あ、青野少年マサムネ使うつもりだ……」

「うん、あの相手には必要。下手に加減するより一気に決着を……いや、ちょっと待って!?」


 ママカが叫びを上げて耳がキーンとなる。


 コメント

 ・はあっーーーーーー!?

 ・ふぉええええええ!?

 ・おいおいおいおい、マジかよ!マジかよ!?

 ・一周回って笑えるんだけどwww

 ・マサムネは重りwwwwww

 ・真面目な場面なのに腹抱えて笑っちまったwww

 ・人間超えてる日原女史がふらつくレベルの重量担いでたのかよ……

 ・悲報:青野少年にとって今までの異層空間は鍛錬でしかない

 ・朗報:アンチ爆散www

 ・だから青野少年に噛みつくなとあれほど言ったのに

 ・もうあいつら表歩けないな。ご愁傷様

 ・まだ粘ってるよ。戦いだしたらボロが出るって

 ・もう止めときゃいいのに、自分で傷口広げるのね

 ・ボロ出たら自分の住む場所無くなるの分かってる?

 ・分かってないんだろうな~

 ・こいつらの言い分、自分の体にガソリンかけて自分で火を点けるようなもんだぞ


「アンチはどうでも良し。戦いが始まるよ。相手は腕四本の異形の鬼。手数では明らかに不利だけど、どうなるか」

「接近戦は不利だよね。刀もそんなに長くないし」


 戦いは静かに始まった。

 お互いの間合いをゆっくりと詰めていき、鬼の間合いに入った瞬間、爆発的な速度で動き出す。

 瞬きのような攻防が終われば、鬼は武器を壊され、全身に傷を負っていた。

 青野少年は無傷で佇み、手には白鷺と子狐丸が握られていた。


「きゃあああああ、かっけえぇ~~~~!!二刀流とか、青野少年魅せすぎだよ、やっべぇえええ!!」

「ママカ五月蠅い!耳元で叫ばないで!」

「お、またかち合う……えぐっ、ぐろっ!いや、強すぎだよ、楽勝じゃん!!」

「うー五月蠅い……」


 ママカは興奮しすぎて私の言葉なんて聞いちゃいない。

 私もこの戦いに夢中なっている。いるけど耳元で叫ばれるといまいち集中できない。


「青野少年、鬼にも認められちゃってるよ。まあ当然だけどね」

「ママカは何目線なの……でも鬼はまだ諦めてないみたいだけど」


 コメント

 ・勝ったな!

 ・やったか!?

 ・青野少年にかかればこんなもんよ

 ・アンチが燃えとるぜ、ごうごう燃えとるぜ

 ・もうぐうの音も出せてないwww

 ・あとでみんなで煽りにいくか

 ・噛みつこうぜ、俺たち狂犬のリスナーだしよ

 ・ん?鬼の様子が……

 ・あ、あかん

 ・ちょっとまて、変身とかいらねえから!

 ・部下全員喰ったぞ。しかもこの異層空間狭いし環境普通だから……

 ・実質統率個体に全リソースつぎ込んだ超特化型だろ……

 ・冷や汗、出て来た

 ・これ、さっきと全然違う、明らかに強くなってる

 ・今からでもマサムネを

 ・こいつに背中向ける余裕ねえよ!


「大丈夫だよ、青野少年は何にも焦ってない。信じて」


 ママカが確信を込めて言う。

 私も目を逸らさずに画面を見た。

 私たちが、視聴者たちがどれほど怖がっていようと、青野少年は何も揺らがない。

 恐怖の一番近くにいるのに、ただ一本の刀のようにブレなく鬼を見定めている。


 一人と一体の攻防は一瞬だった。

 閃光のような赤と銀が交わり、火花が散り、鬼と人が交錯した。

 一方が倒れ、一方が立っていた。

 倒れたもの、鬼は末期の言葉を残して消滅した。

 そこにはエーテル結晶と赤い石の付いた首飾りが残った。


「んんんんっ~~~~~~青野少年の、大・勝・利!!!」

「やった、勝った!!」


 コメント

 ・うおおおおおおおっ

 ・ありがとう、青野少年!!

 ・信じてたぜ!

 ・祭りじゃああああ

 ・よかった……日本が救われた

 ・嬉しい。今後青野少年と日原女史の家に足向けて寝られないな

 ・うん、うん、うおおおおおおん

 ・気が抜けた……もう怖がらなくていいんだ

 ・ああ、日常が戻って来た


「しゃあ、これからアンチ向けの仕掛けを発動して祭りを……お、日原女史配信始めるぞ、見ないと!」

「ホントだ……え、今不穏な事言ってなかった?」


 コメント

 ・日原女史も嬉しそうだな

 ・青野少年はいつも通り

 ・実際あの鬼の実力は相当なもんだっただろ

 ・最後の攻防は目視不可能だった

 ・そう言えばエーテル結晶以外落ちてたな

 ・そんなことあるんだ……ストレージに説明書いてある

 ・性能凄くない?

 ・綺麗……欲しい

 ・数千億とかマジカヨ

 ・ぶっちゃけ付加価値凄すぎて値段付けれないけどな

 ・青野少年はマサムネありなら魔法使えるけど基本自爆だからなあ

 ・おお、この首飾りなら大丈夫みたい

 ・うなじ助かる!

 ・日原女史を変な目で見るなよ

 ・ますます美人になってきたからつい

 ・ちょっと前は美人だったけど、今は超美人

 ・やっぱ青野少年のえいきょ、ちょっと待って!それあげるの!?

 ・まじでこの子の物欲どっか行ってるだろ

 ・………………っ!

 ・え……今キュンとした。男なのに

 ・安心しろ、俺もだ。ちなみに俺は40代の男だ。

 ・ママカ喋ってないけど大丈夫?

 ・ママカBさんも静かだね


「ママカは死にました。キュン死にしてます。私も心臓止まったけど、動き出したので大丈夫です」


 コメント

 ・なるほど、そっとしとくか

 ・言われたのママカじゃないけどな

 ・二人の関係はエモい

 ・恋人とかそんな感じじゃないよね。年齢も性別を超えた絆みたいな

 ・称号にも表れてる

 ・あ……やっぱり海外行くのか

 ・青野少年だからな

 ・それに日原女史もな。二人なら安心できる

 ・青野少年は一人で戦わせたら駄目。この子は絶対無茶する 

 ・これ以上戦ってほしくないけど、しょうがないのか

 ・日原女史、青野少年を頼むぞ

 ・青野少年、コメントなしか

 ・孤独の迷宮の時とか家族のこと嬉しそうに喋ったのにね

 ・う、いま鳥肌立ったぞ

 ・背筋がピンとした

 ・日原女史、誰に向けて言ったんだ?


「……ママカが死んでるので私がしゃべりますね。状況的には家族な気がします。奈落の受胎から見始めた人間ですけど、青野少年って全く家族の話題を出さないですから、恐らくトラブルを抱えていたのではないでしょうか。日原女史は何から青野君を守ろうとしてるんだろう?」


 コメント

 ・ママカが話題にしないからここでは言われてないけど、その説は各方面である

 ・不自然だもんな

 ・そういえば青野少年の試練参加って家族が認めてるの?

 ・普通の親なら反対するわな。元々未成年は対象外だったし

 ・でも青野少年いなかったら日本なくなってるで

 ・70日の難易度は覚醒日原女史クラスでやっと戦えるレベルだからな

 ・いや青野少年が試練参加してなかったら、そもそも覚醒日原女史もいないから

 ・今の日本にそんなレベルいないし、あの鬼は数揃えても梨の礫にしかならん

 ・攻略の可能性があるのはアメリカとか装備と人材が充実してるところだろうけど

 ・大損害受けるから助けてくれないだろ。自国に100日難易度抱えてるし

 ・交換条件に青野少年に100日難易度攻略させろとか出されそう

 ・それ、本末転倒や


「もし反対されても試練に挑んでるなら、心細いだろうね……」


 青野少年のことを見た時間はそう長くないけど、この子の善性は本物だ。

 大切な家族の反対であっても、人を救うことを止めないだろう。

 彼の家族がそれを理解しているなら、反対の意思を持っていてもそれを我慢して応援する。

 それが青野少年にとっての何よりの心の支えになる。


 でも日原女史の行動がそれを否定する。

 日原女史の見せた姿は、近しい人間に対して明らかな隔意があった。

 独占欲ではない。

 あの目、あの声には。

 青野少年のため。その一心だけが存在していた。


「ふう……待たせたね、皆の衆。ちょっと夢の世界に旅立ってたよ」

「おはよう。いい夢見てたみたいだね。顔が気持ち悪かった」

「ぶーしょうがないじゃん。それより何の話してたの?」

「日原女史が、明らかに青野少年の近しい人に対して警告してたんじゃないかって、それを話題に。巻き戻してみて」


「…………ふむ。明らかに家族に対して言ってる。予想はしてたけど青野少年、家族の反対押し切って行動してたんだろうね。この分だと喧嘩か決裂かして家に帰ってない。あーだからあの買い物は日原女史の家族と青野少年だけだったのか」

「え、ママカは分かるの?」

「予想だけどね。割と自信ある」


 コメント

 ・ママカが言うならそうだろうな

 ・キモイくらい青野少年関係じゃ鋭いからな

 ・青野少年……可哀想すぎないか?

 ・青野少年家族大事にしてるって話だけど、家族からはそうでもない?

 ・いや、大事だから反対したんだろ

 ・本当に青野少年を理解してるなら止まらないことも分かるだろ

 ・俺らですら理解してることを家族が理解してないってことは、青野少年のこと見てないだろ

 ・止めろ。当事者じゃない人間が言っていい事じゃない。理解してても止めたい気持ちくらい分かるだろ

 ・そうだけどさ……


「メンゴメンゴ、私が変な材料投入しちゃった。この話止めてアンチボコさない?みんなでとどめ刺しに行こうぜ!」


 ママカのクズい提案に視聴者は乗り、その後血で血を争う展開が始まりすっかり青野少年の家族の話は消えてしまった。

 後日、青野少年と日原女史を批判していたアンチはこんがり焼かれて消し炭になった。

 社会レベルで。




 ネットに夢中なママカを置いて自分の部屋に戻る。

 静かなリビングで、一人思い返す。


 青野少年の話を聞いて、私も自分の家族のことを考えた。

 私は現在家族と向き合えていない。

 青野少年と違って日本を救うだとかそんな大きな話じゃない。

 父が私に求めた将来像と、私の将来像が噛み合わなくて、ずっと不仲になっているだけだ。

 

 私は自分の意見を優先して、家を出て仕事を始めて、頑張って、頑張り過ぎて、潰れてしまった。

 今でこそ普通にしていられるけど、当時は本当に生きる気力なんて一つも湧かなかった。


 あの人を人とも思わない父とはまだ上手く話せないし、今でも意見は合わない。

 将来的にも意見が合うなんて思えない。

 

 青野少年はどうなのかな。

 ママカみたいな熱狂的なファンとは違う。

 日原女史みたいな全力の献身とは違う。

 それでも青野少年が幸福を願う気持ちは存在する。

 それこそ、自分より幸せになってほしいと願うくらいには。


「日本を救ったあなたには、余計なお世話なのかな」

 

 私の独り言は部屋の空気に溶けて消えた。













『カバーストーリー:Vtuber(仮)ママカBさん』



 個人勢Vtuberとして、主な活動は雑談や同時視聴などの生配信や、ネットワーク関連の解説動画などで活動するママカの助手。

 アバターはパンクな格好をしたロックバンドの女ボーカルのような風貌で、単純にママカの色違いで立ち絵のみ。

 声は幼げで高い。実年齢を低く思われがち。

 

 元々外資系の仕事に就いており、巨額の資金を動かしていたが、自分の限界以上に仕事をし続けたため心身ともに壊れ、治療のため一度社会からドロップアウトした。

 

 父親と折り合いが悪く冷戦状態だが、母親とは良好な関係。

 漸く普通の生活に戻れる段階に来たが、心配した母親の指示でママカの近所に引っ越すこととなった。

 青野信也の試練配信を見て、自覚は薄いが熱狂的なファンとなっている。

 

 騙された始めたVtuber業だが、何だかんだ楽しんでおり、図らずとも本来の性質を取り戻していった。

 

 本人には言わないが、ママカを掛け替えのない親友と思っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ