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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 奈落の受胎 八大地獄
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第18話 奈落の受胎と焦熱地獄



「皆さんこんばんは、日原琴羽だよっ、今日はボクの家から配信してますっ」


「こんばんは、青野信也です。事前に告知があったと思いますが、明日は早朝から大阪の異層空間に挑みます。いつものように直前のオープニングをしないのでこの配信がそれにあたりますが、何で今回はこんなことになったの?」


「マンネリ防止と前回結構色々な声が入ってきちゃったらから。それに家の中ならいつもより長く配信できるでしょ」

「なるほど」


「後は落ち着いた場所でしかできないこともあるからね。というわけでみんなの疑問に答える質問コーナー!」

「唐突っ、え、僕聞いてないけど……」

「信也は打ち合わせすると型通りというか硬くなっちゃうからね、予想外のことをして刺激してあげてるのだよ。質問は、事前にSNSで募集して、スタッフが大丈夫そうなものを選んでるから変なものは混じってないよ」


 琴羽は上に穴の開いた白い箱を持ってきた。


「さあ、信也君、引いてどうぞ」


 コメントの期待の言葉を見て断れる雰囲気でもない。

 何か、質問大会を思い出してしまう。


「はい、読み上げますね……青野少年と日原女子は普段どんなことをしていますか。おお、無難だ」


「いい引きだね。ボクの普段は試練の始まる前は女優業と大学の勉強が主だったよ。それで気晴らしにパーっと買い物に行ったりするかな。試練が始まってからは鍛錬して鍛錬して鍛錬してる……あれ、ボクって凄く暗くない?」


「僕は試練が始まる前は特に趣味もなく漫然と過ごしてました。試練が始まってから鍛錬と勉強に追われてやっぱり何もしてない……あれ、僕って根暗?」


 お互い気付いてはいけないことに気付かされたが、意識を切り替えて次ぐに行く。


「はい、暗くならないうちに次いくよっ、ボクが引くね。なになに……青野君から見て日原さんはどんな風に見えていますか。その逆はどうですか……ふむ、またまたまともな質問だ」


「僕から見た琴羽か……基本的に陽気で明るいですかね。試練の関係でどうしても厳しく鍛錬しますけど、心折れずに付いてくるから芯も強い。個人としてみれば信頼できる人ですね……あれ、どうしたの?」


 また奇行というか、配信中にも関わらずクッションで顔を隠してしまっている。


「ちょっとこのままで喋らせて。ボクから見た信也は、試練の時だけで見ると兎に角と頼りになる男の子かな。命かかってるはずなのに安心感が半端ない。普段は別人みたいにぽやっとしてるんだよね。あとスマホとか全然見ないしSNSとかもしないから、よくボクの話に付き合ってくれるし。それに何だかんだ凄く優しいからね、優しすぎてちょっと悲しくなる気もするけど、でもそんなところが…ペラペラ……」


 クッションで顔を隠したまま、止まることなく喋り続ける琴羽に僕もコメントもちょっと引いてる。

 僕は空気を換えるため新しい質問を引いた。


「次いくよ次、えーと……海外の異層空間は攻略するんですか……ええ、スタッフさんこれ答えていいんですか?あ、いいんだ」


 視界に映る元町さんが両腕で丸を作る。

 とてもコミカル。


「日本の異層空間を攻略次第、単独で攻略に動きます。ただ、僕が予定しているのは今のところ最大級の異層空間の三つで、それ以上は分かりません。勿論相手の国から拒否されれば無理に攻略を行うつもりはありません」


 コメントから心配の声が書かれる。大多数の人は海外支援に反対のようだ。


「まあボクと信也なら余裕だから心配しないでよ」

「いや、琴羽は置いてくよ。一緒には行けない」

「えっ!なんで!?」


 クッションを放り捨てて僕に詰め寄ってくる。

 最大級の異層空間を単独で攻略するにはマサムネを使う必要があると考えている。

 人の身体能力では僕に付いてこられない。そもそも琴羽にはそこまでする理由がない。


「琴羽あとで話すから、次の質問引いて」

「絶対理由を話してもらうから……次の質問は……」


 そうやっていくつか質問に答えていき、いい時間になったところで配信を終了した。


 配信をしていた部屋を沈黙が包む。

 ことがことだけに、スタッフさんが撤収した後に奏さんや一郎さんも交えてリビングで話すことにした。

 彼らが僕の意見に賛同して、琴羽を止めてくれるのを期待して。

 奏さんがお茶を入れてくれたのを合図に琴羽が口を開いた。


「さて、さっきの話はどういう事かな。配信向けで話した訳じゃなくて、本心なの?」


 琴羽と正面から向かい合う。絶対引かない顔してるなあ。骨が折れそうだ。


「本心だよ。僕だけで海外の異層空間を攻略する」

「どうしてっ、ボクが頼りないからなの?もっと強くなるから、考え直してよ……一人でなんて駄目だよ……」


 どうしてそんなに辛そうな顔をするのだろうか。

 彼女の両親もまた、僕を痛ましそうに見てくる。

 

「僕の見通しが甘かったのが大きい。今の日本の異層空間の難易度は相当なものだよね。これでも最大にはほど遠い難易度なんだ。人間を越えるほどの強さでもない限りは、攻略できない。僕一人なら生き延びられると思うけど、守る自信はないんだ」

「それでもボクは一緒に行きたい……守らなくてもいい、もしそこで死ぬことになっても構わない。試練を始めてから覚悟は出来てる」


「……僕は琴羽に死んでほしくない。僕以上にお二人もそう思っていますよね。海外にまで出る必要なんてないんです」

「……信也君、私は琴羽に賛成するわ」

「俺も同じ意見だ。勿論止めたい気持ちが大きい、だが君が行くのに娘だけを止めるなんて出来るわけがないだろう」


「どうしてなんです、死ぬかもしれないなんて確率じゃないんです、情報がない未知の空間で、マサムネを使っても生きて帰れる可能性なんて、ほんの僅かもないかもしれないのに」

「どうしてはボクのセリフだよっ!」


 タックルするように抱きすくめれて目が白黒する。

 よりにもよってご両親の前で避け損ねた。速くなったものだと感心してしまった。


「ボクをどうこう言う前に、信也が命の心配してよ!強いのは知ってるよ、でも信也だって人間なんだよ、ポーションがあっても当たり所が悪かったら死んじゃうんだよ……どうして人のことばっかりで、自分の心配をしてくれないの……」


 震える体。場違いにも人肌の暖かさは安心感があると思ってしまった。

 でも抱きしめる力が強すぎて痛い。


「信也君を思う人間は沢山いるわ。あなただけが戦う必要なんてないの」

「ああ、俺たちもその一人だ、君を死なせたくない。例え他所の国が奈落に落ちても、その結果信也君が理不尽に責められても、君を守るだけの覚悟はある」


「どうして……」

「言ったでしょ、私たちはあなたの熱心なファンなのよ。そしてあなたは私たちのヒーローなの」

「ヒーロー、ですか?」


 それは海外で言われていることと同じ意味だろうか。


「試練が、孤独の迷宮が現れたときの絶望は相当なものだった。一人娘をあんな怪物が蠢く場所に送らねばならない、死の体験をさせなければならない。そうしなければ本当に死んでしまうからな」

「……ボク、本当は試練を受けるつもりなんて無かったんだ。制限時間まで待って死のうと思ってた」

「まさか……」


 自殺なんて、琴羽からは想像できない発想だ。

 孤独の迷宮は挑めば死んでも蘇ることが出来るが、挑まず開始時間を過ぎれば試練資格を喪失して本当の死を迎える。

 確かに恐怖はあっただろうけど、どうして。

 

「意味ないって思ったんだ。あんな試練が続くなら遠からず死んじゃうでしょ?二回も死にたくないから一回で済ませようって」

「私たちは反対したけど全然説得できなくて、もう琴羽の命を諦めていたの」

「そんな時に君が現れた。娘より年下の男の子が嘘みたいな発想で、解説まで交えながら攻略を進めるなんて目を疑った」


「あれは笑ったよ。本当に笑った。自殺しようなんて気が更々無くなった。ボクだって出来る、そう思って信也の動画を見て攻略法を憶えて、孤独の迷宮に挑戦して、攻略したんだ」

「あなたは間違いなく私たちの娘の恩人なのよ。私たちではこの子を生かせなかった……自殺をさせるところだった」


 僕の攻略を見て助けになった人はいたとは思っていたけど、命を救われた人がいるとは思っていなかった。


「それから一家揃ってファンになったわけだ。お礼を言いたかったが、顔も知らない人間から接触されても迷惑だろうし会うのは我慢していたのだが、娘はなあ……」

「そうね……私達の知らないうちに利用しようとしてきた政府を逆に利用してねえ……」

「……えへへへ」


 何というか、すっきりした。

 綺麗に事情が呑み込めた。

 何で琴羽が僕に拘るのか。

 両親がこんなに僕に親切なのか。


「だから諦めてね。ボクの命は信也に貰ったものだから。信也の為に使っても問題なし、プラマイゼロだよ」

「どう言葉を捻っても死んだらマイナスだから……はあぁ~僕の負けだよ、もうずっと前から死ぬことを受け止めた琴羽には説得は無理そうだね」

「最初から言ってるでしょ。あ、でもチューしてくれたら取り下げるよっ!」

「それは勘弁」

「ボクが死ぬかもしれないよりも、チューが嫌って酷すぎないかな!人工呼吸みたいなもんじゃん!!」


 そのままチューは人工呼吸か否かの討論が始まり、なにか締まらない話の終わりとなった。

 琴羽の両親は僕たちの言い争いを可笑しそうに笑って眺めている。

 

 未だ離してくれない琴羽の腕の中で、今の僕に転生するときのことを思い出した。

 裕福で幸福な家庭に拾われる、そう書いたことを。

 

 少しでも運命が違っていたら、この家族の子どもとして過ごす未来もあったかもしれない。

 そう思ってしまった。






 次の日の朝、大阪府堺市の工場地帯の一角に来ていた。

 工場丸々異層空間に埋まっている。

 交通の面では迷惑じゃないけど、この工場の人達は働けないし、ここの部品で製品を作っているところは流通が止まってしまう。

 やっぱり異層空間にはもうちょっと場所を考えてほしい。

 完全に閉鎖されているので今回は周りに人がいない。


「今回の異層空間に入る前にこれを身に着けてね」


 僕は手のひらサイズの丸みを帯びた三角形の鉄板のようなものを琴羽に渡す。


「鱗?もしかして」

「天竜の首の鱗だよ。戦いの跡地に落ちてたのを貰ったんだ。ベリエルにも許可貰ったから」


『天竜の真鱗

 

 天竜の鱗の中で最も強固な鱗。触媒、装備の材料として最上位だが加工が困難→

 生命を込めることで様々な耐性を付与できる。炎熱耐性を付与』


 テンマに手伝って貰いつつ、耐性を付与するのが大変だったが、何とか準備できた。

 でもうまく生命を込められたのは、僕が一番最初に切り裂いた二つに分かれた鱗だけで、他の鱗は使えなかった。


『天竜の真鱗(破損)

 

 天竜の鱗の中で最も強固な鱗。触媒、装備の材料として最上位だが加工が困難→

 死の祝福によってあらゆる耐性を失っている』


 使えなかった鱗のステータスを確認するとこんな内容になっていた。

 あの時のことは正確には分かっていなかったけど、ベリエルに攻撃が簡単に通ったのは、死生の羽根による死の祝福で鱗の耐性を無くしたこと原因だったらしい。

 硬さは健在なので、使い道はないかと色々試している。


「その鱗を中心に、一定範囲の火や熱を遠ざけてくれる。込めた生命の量でどれだけ持つか変わるみたいだから、効果が薄くなったって感じたらすぐに言ってね。無くしても予備はないから」

「へぇ~信也隠し玉多すぎない?まだ何か隠してるでしょ」

「ノーコメントで。隠しているというよりは、まだ検証してる部分が多いから」


 異層空間に入りリソースを交換してポーションを3本琴羽に渡す。

 悔しそうな顔をしているが素直に受け取った。


 焦熱地獄に入れば、今までの地獄にない光景が目の前に広がる。

 地面の至る所に火が吹き上がり、マグマの川が流れている。

 火山性ガスが発生してはいないといいが、確証は持てない。生物はここでは生きていけない。

 

「不思議な感覚。これだけ熱そうな場所なのに、まるで感じない」

「耐性は問題なく機能してる。さて、後は統率個体か」

『主様、こちらに大きな気配がきます、何だかいつもより大きいのです』


 地面が揺れる、下から突き上げるような衝撃が走る。


「うあ、流石にこれは……」

「なにこれ、まさか」


 敵じゃない、自然現象だ。

 遠くの山が赤々と噴き上がり、紅蓮の炎と黒煙をまき散らす。

 噴火して火山弾がこちらに飛んでくる。

 僕は刀で打ち払い、琴羽も槍で弾く。この程度何でもない。


「うえぇ、立ってるだけで煤ける……口の中じゃりじゃりする」

「口に濡れた布を当てよう、いくらかマシになる。あと運が良いことに統率個体がこっちに近付いて来てる」

「え、何処に……」


 マグマの川からそれは躍り出てきたのは、マグマを滴らせた焼けた石のような体を持つ人型の何か。胸には黄色の石が付いている。


「土人形、みたいだね。あいつの歩いた場所から火が吹き上がってる。普通なら近付くことも難しいけど」

「うん、耐性はバッチリ機能してるし動きが鈍い」


 僕が言うより早く琴羽は駆け出し、その土人形に向かう。


「おおおおおおおっ」


 土人形が叫びを上げると周りの地面から炎が一斉に噴き上がる。

 琴羽は口を閉じ、息を止めた。炎の中にその身を躍らせた。

 その大胆な行動は僕の渡した鱗への信頼、一本の矢のように真っすぐと統率個体に近付く。

 白燐鉱の槍が土人形の胸を穿ち、石を砕く。

 衝撃で土人形の体が蜘蛛の巣のようにひび割れた。


「悪いけど、この程度で躓いていられないから」


 槍を引き抜き、土人形が黒い炎に包まれる。

 全くの無傷。苦戦すらしていない。


『なんだ、嬢ちゃんかなりやるようになってないか?今のスピードは相当なもんだったぞ』

「生身の僕より明らかに速かったね。もしかして……」


 琴羽が石を拾い上げると異層空間が砕け散る。

 上から3番目の難易度にして、今までで最も早い攻略。

 現実に戻ってきたら、職員さんが驚いたままリアクションが取れなくなっていた。


「なんか、弱かった?」

「炎熱耐性のお陰もあるけど、あの土人形自体は他の鬼に劣るものじゃなかったよ。ちょっとステータス見せて貰ってもいい?」

「うん……うん?」


『試練資格JPN_No.00489

 日原琴羽 女 21歳

 技能:カリスマLV5 槍術LV10 頑強LV10 俊敏LV10 軽気功 月読 身体技能制限解除

 称号:寄り添う絆を結ぶもの

 生命: 9/10

 精神: 9/10

 装備:白燐鉱の長槍 白燐の戦装束 黒綱のマント 妖精族の首飾り 天竜の真鱗

 保有アイテム:ポーション(3) 

 リソース:20P』


「技能の制限が解除されてる。さっきの動きはこれが原因だったんだ」

「どれだけ鍛錬してもLV9以上にならなかったのに、急にどうして……それに称号が付いてる」

「信也様、日原さん、お帰りなさいませ。今回はかなり早かったですね」


 元町さんが僕らのものとまでやってくる。ありありと何が起きたのか疑問を顔に浮かべている。

 僕も同じだから説明が出来ない。

 でも一つだけ言えることがある。


「もう日本には僕は必要ないかもですね。エースの誕生です」


 琴羽は本当に僕の隣に立とうとしてくれている。

 それがたまらなく嬉しかった。

 僕は可笑しそうに笑いだしてしまい、二人は訳が分からなそうな表情で首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カバーストーリ―:技能 月読』

 

 

 戦闘能力を技能によって模倣するユニーク技能。

 この技能を持つ者は師事する者の戦闘能力に近付くため、対象の戦闘能力に合わせた技能獲得及び成長速度に大きく補正が掛かる。

 目標とする対象の戦闘能力が格上であるほど伸び率が高く、技能保有者の精神が伸び幅に特に影響する。

 師事する対象を心から慕っていなければ、成長の恩恵を一切受けることが出来ない。

 逆に心から慕う絆があれば、どのような状況に変わろうと恩恵は生き続ける。


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