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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 奈落の受胎 八大地獄
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第8話 関東支部と今後の方針



『試練資格JPN_No.00489

 日原琴羽 女 21歳

 技能:カリスマLV3 槍術LV4 軽気功

 称号:なし

 生命:10/10

 精神:10/10

 装備:鉄の長槍 ジャージ フード付きマント

 保有アイテム:背負い袋 携帯食料(15) 水筒大(1) ポーション(3) 

 リソース:20P』


 目の前に浮かぶ半透明の板。

 間違いなく試練資格者の証と言える。

 でもリソースポイントが若干歪だ。

 リソース交換以外で増減をしたと思われるが、これだけだと分からない。


「これで信じてくれた?」

「はい、本物みたいです。身元は分かりましたけど、僕にどういったご用が?」

「そんなの決まってるじゃない、君と知り合いになりたいだけだよ」


 ダウト。

 近付いてくるとき、声を掛けるとき、明らかに僕を認識していた。

 偶然出会いではない。

 この場所もタイミングも事前に知り得た情報を元に僕の元まできた。

 それなのに、目的が知り合うだけなんて嘘だろう。

 少なくとも個人で出来る動きではない。別の意図があるとみるべきだ。


『テンマ、観察する人の人数は減ってる?』

『いえ、以前のままです。車に乗ってる人を含めれば一人増えていますです』


 政府の人間が無事かつ、容認した相手という事は明らかな敵ではないのか。


「どうしたの?考え込んで」

「あなたが敵か味方か考えていました」

「ぶっ!そんな、ボクが君の敵だなんて有り得ない!味方も味方、超味方だよ!」


 そういう物言いが胡散臭いのだが。

 そもそも女優というのも本当かどうか分からない。

 意識が戻る前の僕は、テレビ見ても芸能人の顔も名前も興味なかったみたいだから、記憶が掘り起こせない。今の僕も同じだけど。

 ステータス閲覧を使おうかと一瞬考えたが、それは控えた。

 

「兎に角、これで用事は終わりですね。あなたの顔も名前も一応覚えました。さようなら」

「ええ~もっと話そうよ、友情を深めようよ~」


 そもそも友達じゃないから深めるも何もない。


「凄く疲れてるから寝たいんです。さようなら」

「ああ、それについてはごめんね。でも疲れてるならこんなところで寝ないで、ちゃんとした場所で寝たら?」

「………帰れないくらい疲れてるので。さようなら」

「分かった。今日はこれでお別れにする。でも近々顔を合わせると思うから、その時は宜しくねっ」


 僕の終始胡散臭そうな目にもめげることなく、テンション高めで女性は去っていった。

 嵐が過ぎたのを確認して再び眠りにつこうとしたが、中途半端に覚醒したせいでその日は朝まで眠れなくなった。





 幸い補導されることなく公園で一夜を過ごし、朝一で元町さんに連絡を取って事の顛末を説明した。こちらに迎えに来てくれるとのことだった。

 会う前にお風呂入りたかったけど、公衆浴場はいろんな意味で利用し辛かったので水で湿らせたタオルで体を拭いて終わらせた。


「「「申し訳ございませんでしたっ」」」


 そして今に至る。

 朝の公園で、僕の目の前で元町さんを含む試練対策室関東支部の面々が深々と頭を下げている。

 どうも僕の家を警備している人が報告を怠っていたようで、彼らは連絡を受けるまで僕が野宿していたことを知らなかったようだ。


「いえ、謝られるようなことでは。僕が家族と碌に話し合わずに喧嘩してしまっただけですから。皆さんは何も悪いことをされていませんよ」

「しかし、過酷な試練に挑まれている信也様の体に障る野宿など、担当の人間には然るべき処分を下しますので、なにとぞ」


「いいですから、処分なんて。その人もビックリしたでしょう。これからも宜しくお願いしますとだけ伝えてください。くれぐれも処分なんてしないでくださいね」


 断罪する気満々の元町さんに何とか納得してもらい、この話はお終いとなった。


「信也様はこれからどうなさいますか?一度家に戻られるのでしょうか」

「電話でも言いましたが、このまま試練を続けます。止まることはしません。細かい事情は父さんには連絡します」

「……分かりました。移動や宿泊の手配はこちらで進めます」

「あ、でも一度今回の試練について情報を整理したいのですが、宜しいでしょうか。渡すものもありますし」

「はい、では私どもの支部にご案内いたします」





 そんなこんなで連れてこられた先は例の訓練校だった。

 どうやら関東支部は訓練校に併設されているようだ。確かにまとめた方が利便性はいいだろう。

 ただ僕はその話を聞いて途端に行きたくなくなった。

 ここには亡くなった15人の人たちの知り合いがいるという事だ。

 あれから数日しか経っていない。悲しみは消えるものではない。亡骸が帰ってきたのもつい先日のことだろう。

 僕が初めから戦っていれば彼らは死ななかったと考える人間はたくさんいるだろう。

 強く恨まれているかもしれない。

 

 母さんに叱られたばかりで、続けて恨み言を言われるのは辛い。

 別に訓練校によるわけでもないから気にしすぎだとは思うけど、近付かないに越したことはない。



 元町さんの案内で通された会議室で、職員たちを交えて二つの試練の特徴を話す。

 ステータス閲覧で得た情報は観察して分かったことだとこじつけた。

 

「なるほど、統率個体ですか。一度でも末端の鬼に捕捉されれば常に襲われ続ける。確かにそのような動きでしたね」


「黒縄地獄ではその辺りを検証してみたので間違いないかと思います。そして統率個体の持つ異層空間の核ですが、ストレージに自動的に入れられていました。それでストレージの表記が少し気になるものでして」


 僕はストレージの半透明の板をみんなに見えるように出す。


『エーテル結晶


 膨大なエネルギーを内包した結晶。

 超高度文明の都市エネルギーを賄うことが出来る』


「……何とも言えませんな。他の国も小さな異層空間の消滅に成功しているので、同じものを持っているはずですが、生憎と情報が回ってきていません」


 職員さんがそう漏らし皆沈黙する。

 人類にとってはいいものなんだろうけど、それだけに厄種になりそうな物質だ。


「どんな国が異層空間の消滅に成功しているんですか?」


「アメリカと中国は既に4つずつ消滅させています。他は良くて1つです」


「アメリカは試練資格者が鉱物を大量に持ち帰ったおかげで装備が充実しています。中国は試練資格者の物量にものを言わせてですな。中国の試練資格者の死者は既に全体の1割に達しています」


「アメリカは持ち帰った鉱物で作った装備を融通させる動きがありますが、恐らくかなりの金額を吹っ掛けられるでしょうな」


 うわぁ、あこぎな商売を。

 でもその様子なら最大の異層空間の一つは大丈夫かもしれない。

 中国の死者一割って、日本の試練資格者全滅と同じレベルの人間が亡くなっていることになる。


「三つの最大の異層空間の攻略状況はどうですか?」

「一応威力偵察として一度は挑んでいますが、どれも特殊言いますか、とても戦いと呼べるものではありません」

「バチカンの異層空間では、信也様が倒した統率個体クラスの相手が雑兵のように出現する魔境です」


「いや、青野君は雑兵のように統率個体を倒してなかったか?無傷で一太刀だっただろう」

「……我が国のエースをそこらの試練資格者の物差しで測るのはどうかと。比べるのは可哀そうですよ」

「確かに」


 話が変な方向に行きそうなので軌道修正させてもらう。

 おじさんたちに褒められてもうれしくないんだからね!

 

「現状は理解しました。それで今後の試練についてですけど、僕としては日本の異層空間を最優先に消滅させようと考えています」


「おおっ、それは素晴らしい。日本は安泰ですな」

「いやあ、肩の荷が下りるというか、青野君の一言で不安が吹き飛びますよ」


 みんなの顔が明るくなる。ここまではいいけど、この後だな。


「その後は他国の助勢を。特に最大級の異層空間は一つ残らず消滅させたいです」


 一部は、特に元町さんは顔を輝かせるが、職員さんの大半は渋い顔をする。


「いやいや、青野君がそこまでする必要は」

「一度入れば攻略するまで脱出できないのは同じだ。リスクが高すぎる」


 ですよね。自国の危険と関係ないのに戦力を失うかもしれないリスクは冒せない。


「必要なことだと考えます。憶測が混じりますが異層空間が攻略できなければどうなるか、放送を覚えていますか」

「現実への顕現だったか」

「難易度の変更もありましたな」


「そうです。僕が思うに予想される異層空間の顕現範囲が日本に被っていなくても影響がゼロなんてことはないと思います」


「仮に日本の中にある黒縄地獄が顕現したとしたら四国や岡山などの本州の一部が地獄に変わります。その後、鬼たちは大人しくその場にいると思いますか」


「む、それこそ顕現してみないと分からないというわけだね。他国の顕現した奈落から海を渡ることの出来る個体が日本まで来るかもしれないと」

「さらに言えば生態系は崩れ、飛行機や貨物船が沈められるリスクも出てくるでしょう」


 既に何人かは予想していたであろうが、顔色を変える職員が出てくる。


「そうだな。輸出入の問題もある。相手国を失えば日本は立ち行かなくなるだろう。資源の枯渇を待つまでもなく日本は破綻する」


 今発言したのは僕の他国への参戦に難色を示した人の言葉だ。

 僕が説明するまでもなく、最悪をちゃんと想定している。

 それが分かっていても僕を他国で戦わせたくないのか。


「そして難易度です。放送では大きく異なると言っていました。大きく下がるなんて思えませんよね。大きく上がる、怪物たちが今より遥かに強くなるとしたらどうですか」

「だが現実に顕現するという事は現実の武器が使えるという事だ、対処は容易ではないのか」

「それはどうでしょう。鬼は何度でも蘇ります。顕現した異層空間を終わらせる条件が統率個体を倒すだけとは限りません。そして攻略すれば一度地獄に変わった土地が戻るという保証もない」


 この場の全員が息をのむ。

 僕が言っているのはあくまで予想だし考えすぎかもしれないが、もっと最悪の場合だってある。

 顕現した後も現代の武器は使えず、試練資格者だけで対処しろとかね。

 僕のことを気に入っている奴なら、手出しできるならそれくらいやりかねない。

 

「少なくとも、顕現範囲の広く難易度の高い異層空間を残すのは日本にとって、世界にとって危険です。僕は望まれれば戦います、命が燃え尽きる寸前であろうとも。他国との干渉なんて難しいことは分かりませんが、それだけは覚えておいてください」


 職員さんたちは僕に気圧されように身を引くが、特に威圧とかはしていない。

 淡々と喋っているだけだ。

 

 日本の残りの異層空間の移動予定を話し合ったところで今日はお開きとなった。

 今日話した内容は録画しているようで、偉い人たちにも確認してもらうという。

 別に文章でいいような気がするけど、気にしたら負けだ。


 大人との話し合いが終わり、建物を出てから大きく伸びをする。

 移動は明日からで、今日の予定は空白だ。


「信也様、こちらをお渡ししておきます。何かと不便でしょうから」


 元町さんが黒い最新鋭のスマホを渡してくる。僕のものではなない。


「信也様のスマホを準備しました。電話も通信も使い放題ですが、課金コンテンツは使えませんのでご留意を。必要と思われる連絡先は登録されています」


「何から何まですいません」


 そういえば父さんに預けたままでスマホ持ってなかった。

 連絡先は元町さんを始めとした職員さんと、父さんの連絡先が登録されていた。名刺交換していたし元町さんが知っていたのだろう。


 家族とは父さんだけに連絡を取り、他は番号を教えないでおいてもらおう。必要であれば伝言をお願いすればいいし。

 こういう時、僕に無関心な父さんの存在が有難い。

 それに母さんたちにどの面下げて連絡取れというのか。

 あれだけ反対されてるのに絶賛試練攻略中の状況なんて聞きたくもないだろう。

 ……僕が逃げてるだけかもな。

 

 重たく感じるスマホを手で弄び鬱屈としていると、一人の男性がこちらに近付いて来ていた。

 

「おや、そちらにいらっしゃるのは信也君ではないかな」

「あなたは……後藤さん、でしたよね。先日うちを訪ねてきた」

「ええ、ええ、その後藤ですよ。まさか見学においでだとは、連絡いただければ宜しかったのに。それより見ましたよ、試練の配信を。正しく修羅、正しく聖人、鬼より鬼の如き強さっ!」


 テンションたっか。沈んだ気持ちが強制的に吹き晴らされる。


「後藤さん、信也様が困っていますから」

「お、元町君も来ていたか。もしや今後の相談でもしていたのかね?」

「まだお伝え出来ません。近々知れ渡るとは思いますが、あまり信也様を些事に煩わせたくはありませんから」

「結構結構、気にしていないさ。あ~、ということは信也君が今日参られたのは別件ですか。残念ですなあ」

「そうですね。丁度時間は出来たんですけど、アポイントは取ってませんしまたの機会に……」

「なんですと!いやいや、全然かまいません。この後藤が案内しましょう、たった今暇になりましたので」


 ええ、そんな馬鹿な。

 この人テンションで物事決めてない?部下の人大丈夫?

 でもこれから暇なんてあまりないだろうし、先送りにしていた用事が一つ潰せるならいいか。


「分かりました、お手数ですが宜しくお願いします。元町さんもよかったですか?」

「信也様が了承されるなら。私はしばらく離れますので、何かあれば連絡ください。防具袋は預かりますが……」


『俺っちは相棒と一緒に行くぜ、面白そうだしよ』

「ほおおお、これが噂の生マサムネ殿!本当に声が聞こえてくる、一体どういう構造で……」


 後藤さんテンション爆上がりである。

 あ、僕訓練校に近付かないように気を付けていたはずなのに、知らないうちに後藤さんのテンションに流されていた。


「オホン、少々取り乱しました。さあ、まずは教室へ行きましょうっ」


 もう案内する気満々の後藤さんに何も言えず、僕はマスクとニット帽を装備してバレないことを祈った。


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