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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 奈落の受胎 八大地獄
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第5話 奈落の受胎と等活地獄



 映像と実際の空気は全然違う。

 肌がじりじりと焦がされるように暑く、息苦しい。

 視界が悪くないのは救いだが、僕から見やすいということは相手も同じだということだ。

 僕はその場に背負い袋を置いた。必要があれば取りに来るが、持って歩くつもりは無い。


『テンマ、索敵はどう?』

『ん~まだ捕捉はされていませんが、どの方向に進んでも会敵するのです』


 敵が多いのは映像と変わらないか。

 でも僕は一人なので少しは見つかり難いか。


『二人はこの異層空間の核の気配は分かる?』

『俺っちは、なんもわかねぇなあ』

『わたくしはあっちの方向に強い気配を感じるのです。それが核かどうかは分かりませんが』


 テンマが指す方向は僕の左手側だ。

 この世界を維持するための大事なものなら、それ相応の実力を持つ怪物が守っていても不思議ではない。


『当てもないしテンマの指した方向に行ってみようか』


 100mも歩かない内に、辺りで咆哮が響き渡る。どうやら捕捉されてしまったようだ。

 目的地にまっすぐ隠れる場所もない所を歩いたから仕方なくはあるが、安易すぎたかもしれない。


『主様、左右と正面から数十体の鬼が来ています。遅れて後方からも同じくらい接近中なのですっ』

『了解、それじゃあ行こうか』

『おう、俺っちと相棒なら楽勝だ……ぜ?』


 僕は腰から打刀、白鷺を抜く。

 マサムネのような白銀の刀身ではなく鋼色の刀身。

 鏡のように磨かれたそれは芸術品としても通じそうだが、寒気を感じさせるほどの刃の鋭さは敵の命を欲し怪しく輝いている。

 それなりに業物を見てきたが、この刀の威容はその中でも随一だ。


『ちょいちょい相棒、なんでそっち握ってんだ?』


 マサムネは思わずというか、テンマを解した思考での会話から空気を解した会話に変わった。

 丁度良かったので僕も声を出してそれに答える。

 

「今回の試練はマサムネを限界まで使わないからそのつもりで」

『はぁ?なんでだよ』

「少し試練について懐疑的なんだ。落ち着いたらちゃんと説明するし、危なかったらマサムネを頼るから」

『くっそ、よく分かんねえが分かった。あの程度、相棒の敵じゃなさそうだしな』


 僕は白鷺を右手に持った状態で正面の集団に向けて走り出す。

 赤、青、茶色、色々な色の鬼達。体系もバラバラで戦闘が出来るのか疑問を憶えるひ弱そうな個体までいる。カラフルではあるが色合いは黒くくすんでいてお世辞にも色彩豊かとはいえない。

 手には擦股のような武器や棍棒、柄の長い斧など間合いの長い得物を持っている。

 

『鬼五 雄 0歳

 関係:敵対 感情:敵意 状態:健康 精神:興奮

 技能:再生の権能

 称号:なし

 等活地獄の獄卒。獄卒に殺された魂は等活地獄に囚われ続け、あらゆる責め苦を受ける。

 等活地獄に無数に存在し、何体倒そうと新たに蘇る→

 統率個体の命令を常に受信していて一体でも捕捉されると全ての個体に情報が共有される』


 少数での試練の攻略は非常に厄介そうだ。明らかに集団を想定している。

 奈落の受胎の他の試練もそうなのかもしれないが、今は知るすべがない。

 

 既に鬼五との距離は10mを切った。僕はさらに踏み込み、加速する。

 鬼五の間合いに入る直前、化け物狩り培った歩術を使った。

 名もない歩術は、僕の体をブレさせ一瞬の残像をその場に残した。

 攻撃に移ろうとした敵の意識から逃れ、自分の間合いへと持ち込む。


 隙だらけの鬼五達に刀を薙ぎ払う。首が舞い、腕が飛び、体を割断する。

 まるで刀に抵抗がない。

 鬼五が思ったほど頑強じゃないのもあるが、刀の切れ味が凄まじすぎる。

 比喩ではなく豆腐でも切っているかのような手応えだ。


 切り裂いた鬼五達の体からは黒い炎が噴き出し、死体さえ残らず塵に変わっていく。

 鬼五10体を瞬く間に塵に変えたが、左右から新たな敵が躍りかかってくる。

 乱戦の合間でタイミングよく歩術を使い、接近していた50体以上の鬼五を全て切り裂く。

 僅かに空白地帯が出来るが、周囲から足音が地響きとなって聞こえてくる。


『主様、まだまだ来ます、一度離れないと永遠に戦わされそうなのですっ』

『分かった……幸い獄卒達は足が遅そうだし、強い気配まで走り抜けよう。必要ないと思うけど、初めての試練だし念のため使っておくかな』


 僕はストレージから丸薬を一つ取り出し飲み込む。程よく苦い。


『ルフリアの強壮丸


 肉体を活性させ体力を継続回復させる。

 効果中全力で走り続けても息が切れず、肉体疲労も軽減される。

 効果時間は2時間』


 ストレージの有用性は一度取り出すまでは重さ無しの倉庫となることだ。

 僕のストレージには箱庭で採取したものや譲られた沢山の物品があるため、リソース交換の物品を持たなくても、常に大量の物資を持ち運べる。

 こんなことになるとは思っていなかったけど、これでもかとお土産を持たせてくれた皆には本当に感謝しかない。




 一時間常に走り続け、時折正面からくる鬼を刻んで進んでいけば、僕でもはっきりと分かるほど気味の悪いものが目に映るようになってきた。

 岩が歪なオブジェとして乱立し、生物らしきものがそれに突き刺さり干からびている。

 

『この先に強い気配がいますです。でも、その手前に変な気配が……生きた動物でしょうか?』

『なんか……様子がおかしくないか?』


 白鷺を握る手に力が籠る。僕はこの場所を知っている。


「ここ、配信で流れていた場所だ」


 近くに鬼達の気配はない。遠巻きにこちらを見ているようだ。

 ここには近付いてこない。

 僕は一番近くの、磔にされている何かの前まで来た。

 大きな、至る所の羽根が禿げた怪鳥が、磔にされた何かをかぎ爪で捕らえて貪り食っている。


「ぎゃじゃじゃじゃっ」


 こちらに気付いた怪鳥が不快な鳴き声を浴びせかけてくる。

 明らかに精神を病みそうな声だが、そんな効果は僕には発揮されない。

 一息で間合いを詰め、その首を切り落とした。この鳥も黒い炎に巻かれて塵になる。


『シンヤの戦装束


 西の狐人族の集落の月葉木の黒糸で作成されたシンヤ専用の鎧。

 鎧に編まれた乙女の髪には加護が宿り、着用者に環境耐性、魅了への高耐性、精神攻撃への耐性を与える』


 ストレージの情報ではなくステータス閲覧で確認した情報だ。

 どういう経緯でこの戦装束に加護が施されたか気になるが、有難い事には有難い。

 多分この等活地獄自体に精神を狂わせる何かが有りそうだが、僕には影響を与えられていない。

 僕は磔にされた何かに話しかけた。


「意識はありますか?」

「……殺して……殺して……殺して……殺して……」


 最早それは人の原型を留めていない、食い荒らされた何か。

 限りなく破壊された人体。

 普通なら死んでいてもおかしくない体なのに、まだ言葉を話すことが出来ている。

 僕はその人を磔から解放し、地面へと横たえた。

 ポーションを取り出し、体に振りかけたが全く回復しない。

 心の中で謝りステータス閲覧を使った。


『森野梓 女 27歳

 関係:無 感情:無 状態:無 精神:無

 技能:索敵LV1 頑強LV1

 称号:なし

 母子家庭で育った長女。

 早期に就職し、過酷な職場で仕事に明け暮れる。

 心の支えだった幼馴染と、近々式を挙げる予定→

 獄卒に殺されことにより、死体になっても魂を囚われ続けている→』


『相棒、この人はもう死んでる。魂だけを囚われてな。この世界を破壊しない限り、ずっとこのままだぜ』

「うん……」


 獄卒に殺されたものは本来の意味で回復しているわけではないようだ。

 ただ魂だけが肉体に留まらせられているだけで、その体は屍と成り果てていた。

 ストレージから外套を取り出してその体を隠した。


「……殺して……殺して……殺して……殺して……」


「もう少しだけ待っていてください。必ずあなたを元の世界に連れ帰りますから」


 返事はなく、ただ呟き続ける彼女を置いて僕は立ち上がり、テンマの指した気配の主の元に歩みを進めた。

 剣のように尖った岩の立ち並ぶ地面の中心にそれはいた。


「ごおおおおおっ………」


 馬鹿みたいに大きないびきのような音を漏らす、4mはあろうかという赤黒い肌の鬼。

 纏う空気が明らかに他の鬼とは異なる。胸には黄色の半透明の石が埋め込まれていた。

 敵意はあるが、こちらを用心深く観察してきている。

 今までの鬼には無かった知性を感じる。


『鬼五 雄 0歳

 関係:敵対 感情:敵意 状態:健康 精神:混乱

 技能:頑強LV6 俊敏LV3 棒術LV6 再生の権能 

 称号:なし

 等活地獄の統率個体である獄卒。

 等活地獄の核を取り込み世界の内部を全て知覚できるが、負担が大きいため配下の獄卒たちの目の範囲のみを知覚している→

 核を砕かない限り統率個体は倒されることはない』


「お前は、僕の言葉が分かるか」

「うおあ……ぶぼおおお……」

「返事をした気がするけど、何を言っているか分からないね」

『そうだな。まあ、やるこたぁ変わんねえが』


 僕が白鷺を正眼構えれば、統率個体は足元に転がっていた巨大な金棒を持ち上げた。

 統率個体と同じ全長、太く刺々しいスパイクが付いたそれを軽々と持ち上げている。

 

「囚われた人たちを返してもらう」

「ぐおおおおおおおおっ!」


 巨体に見合わない踏み込みの速さでもって、棍棒を垂直に振り下ろされる。


「かあっ!」


 その棍棒に合わせて刀の刃を合わせ、裂帛の気合いと共に切り下す。

 白い火花と共に金棒が鋭利に裂け、金棒の先端が僕の後方へ飛んでいく。

 

 統率個体は驚愕でもってそれを見た。鬼の狂相に似合わない人間味のある顔。

 だが僕がそれに気を取られるはずもない。

 

 見たことによって出来た隙は一足一刀の間合いでは致命的過ぎる隙だ。

 統率個体が僕に意識を戻したとき全てが終わっていた。


 僕は振り切った刀を戻し、統率個体を観察する。

 統率個体の隙をついて放たれた二ノ太刀によって、彼の胸の石は斜めに裂けていた。


「ごお?……ああああがぁああううっ」


 統率個体の肉体に黒い炎が吹き上がり、体がボロボロと炭のように黒くなり崩れていく。困惑の表情のまま肉体はチリとなり等活地獄の中に消えていった。


 統率個体の肉体は強かったのだろうが、あまりにも稚拙な意思しか宿っていなかった。

 他の鬼にしてもそうだ。大きな体を持った赤子とでも言えるかもしれない。少しだけやるせない気分になる。


 統率個体のいた場所には、半分に割れた筈の黄色の半透明の石が元の形に戻り残されていた。


『エーテル結晶

 

 膨大なエネルギーが内包された結晶→

 超高度文明の大都市を支えるエネルギーを作り出すことが可能』


 もしかして今回の試練はこのエーテル結晶を獲得するための試練なのだろうか。

 まだ他の異層空間を見ていないから断言できないけど。

 エーテル結晶を拾い上げると、上空からピシピシとガラスのひび割れるような音が聞こえてくる。

 

 見上げれば、空間にひび割れが出来ていた。

 罅は徐々に広がり、世界が砕け割れていく。

 白い光が辺り覆い、目が開けられなくなる。


 瞼を焼くほどの光が止んだのを確認し、僕は目を開いた。

 

「白船城の中。……帰ってこられたのか」


 周りを見渡せば15人の人間が横たわっていた。

 体は綺麗なもので、傷ひとつ見えない

 だけどそこに生気はなかった。人形のようだった。

 森野梓さんも僕のかけた外套を羽織って横たわっている。

 

 手に持っていたはずのエーテル結晶は無くなっていた。最初の場所に置いてきた背負い袋も見当たらない。

 

「信也様、試練から無事に戻ってこられたのですね。異層空間も無くなっております、誠におめでとうございます」


 元町さんがこちらに顔を出してくる。彼にしては興奮気味で頬が色付いている。


「元町さん、彼らを運ぶ用意をしていただけませんか。それに身内の方にもご連絡を」


 彼は僕の顔から視線を下にずらし、ぎょっとして後退る。


「これは……わ、分かりました、直ちに手配いたしますので、信也様はこちらに。既に試練の配信を見た人間がここに集まってきております」


 僕は15人の亡骸に手を合わせてから外に出た。

 そして驚いた。いや、いったい何人いるんだ、見渡す限り人だらけだった。

 白船城の下から覗く道路にも人がごった返している。


「おお、青野君が出てきたぞっ」

「本当に一人であの地獄を越えたのか」

「配信を見たでしょ、当たり前のこと聞かないでよ」

「それよりヒーローを讃えよう、あーおーのーくーん、ありがとうっ!」

「ありがとうっあおのくん!君は救世主だ!」

「避難しなくて済んだぞー!」

「いや、まだ鹿児島やら富士が残ってるだろ。あれが消えないとどっちにしろ九州も日本も終わりだぞ」

「まあヒーローが居れば心配ないけどな、宜しく頼むぞーヒーローっ」


 うわ、凄い人の声。誰が何を言っているのかサッパリわからないけど、歓迎はされているようだ。これ出ていけるのかな。

 何とか元町さんと職員さんの協力で脱出して、10号線沿いの別府駅付近まで戻って来たが行きとは違い人が沢山訪れていてえらいことになっていた。


「流石信也様です。最早祭りですね……あの配信を見ていればその気持ちは痛いほどわかりますが」

「あの、その意見にいまいち納得が出来ないというか、浮かれた気分になるような映像ではなかったんじゃないですか」


 咎めるように苦言を呈せば、元町さんは運転しながら小さく首を横に振る。


「客観的な意見を言わせていただければ、あなたの振る舞いは正しく救いそのもの。英雄のごとき強さ、聖人のように敬虔さ、その輝きは人を惹きつけます」


 なんか、元町さんどこかの宗教にでも傾倒しているのだろうか。

 フィルター掛けずにちゃんと現実を見ています?そんな振る舞いしてないです。


『元町とか言ったか、お前分かってるじゃねぇかっ。相棒はつえぇだけじゃなく、一本芯の通った真っ当な心を持った男だ。そんじょそこらのつまんねぇ奴らとは格がちげぇ』

『そうなのです、主様は誰より気高いのですっ』

「まことマサムネ殿のおっしゃる通りかと」


 マサムネだけではなく、テンマまでそんなことを言う。

 そう言えば箱庭では何だかんだマサムネの言動に影響を受けていたな。

 こんな初期段階でマサムネと会話を重ねると、テンマがヤンチャになっちゃわないか心配になる。


『……えっ?なんでテンマがここにっ!?』


 咄嗟に思考の会話に切り替えてテンマを話しかける。驚きすぎてオーバーリアクションをしてしまったが、幸い元町さんは運転中で気付いていない。


『わたくしがここにいるのは、何かおかしいですか?』

『そんなことないよ。今までの流れだとリセットがあると思っていたから驚いただけだよ』


 不安そうに尋ねてくるテンマに僕は気にしていない風に言ったが、内心考え込んでいた。

 テンマがリセットされないということは、この試練のリソース交換は異層空間全て共通と言うことになる。


 これはリソースの管理がよりシビアになる。というより僕みたいに鬼と乱戦していたらリソースが絶対足りない。ポーション使わなくても武器が持たない。

 箱庭の物品を持ち帰れなかった人間にとことん不利だ。

 

 だけど非常にいい面もある。

 テンマが数か月にわたりこの世界に居られるということだ。

 等活地獄なんて情緒もへったくれもない場所に呼び出してしまったけど、これならテンマにも試練とは別の、楽しい思い出が出来るのではないだろうか。


 懐を確認したらポーションが二本入っていた。

 ……これ、下手な人間にバレたらえらいことになりそう。

 全世界に試練資格者がいるから直ぐに分かることだけど。

 

 エーテル結晶はストレージに自動で入れられていた。

 とりあえず時間を取られたくないので黒縄地獄が攻略できるまで放置する。


 元町さんと大分まで戻りまた飛行機に乗る。

 大阪まで行き、それから車で香川県高松市まで移動して、夜になったのでそこで一泊した。

 下手したら戦闘より移動の方が辛いかもしれない。

 体をほぐして軽く運動をこなしてから就寝した。

 明日はうどん食べたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カバーストーリ―:技能 頑強』

 

 

 肉体の頑強さを上げるノーマル身体技能。

 この技能を持つ者は自身の肉体に対して、様々な補正を得ることが出来る。

 状態異常に対する耐性、病気への耐性、肉体強度、運動能力向上、体力増強など多岐に渡り、汎用性は高いが他の俊敏や剛腕などの特化した身体技能と違い、LVアップしなければ明確な恩恵は感じ取りにくい。

 試練において、生存率を高める上で有用な技能であり、この技能を持つ者は多い。

 後天的習得難易度が低く、才能が無くとも努力次第で手に入れることが出来る。

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