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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 孤独の迷宮
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第5話 孤独の迷宮と第一階層



迷宮内部は思ったより暗い。あと臭い。

歯五という怪物の臭いだろう。

通路の横幅は均一に見える。


暗がりの中で自身の精神状態を戦闘行動に移行する。

最後の化け物との戦いから何十年というブランク、そして平凡な少年の脆弱な肉体。ハンデは大きいけど割り切るしかない。


『テンマは何か違和感があったら僕に教えて。罠でも敵でも何でもいいから』

『ハイなのです!』


 ビシッと敬礼を返すテンマを横目に、背負い袋とマントをそこら辺の土を擦り付ける。

 新品のマントがみすぼらしくなったのを確認して、背負い袋は扉の付近に土をかけてから放置して前へ進み始めた。

 

 第一階層は歯五しか出ないことは配信で知っている。

 数は正確には不明だが、一番多くて30匹を数える位だった。

 扉から512歩いたところで十字路にぶつかる。懐から紙とペンを取り出し簡単に絵とメモを書く。


『テンマ、ここから僕たち以外の生物の反応はある?』

『無いのであります!』


 無いのなら右から順に行ってみよう。歩数を数えつつ道を進み、分かれ道や広い空間があれば歩数を計り、メモを紙に書き記していく。


 まだ怪物と遭遇していないのにストレスがかかるのが分かる。

 そして迷宮においてテンマという存在が如何に救いとなるかを実感する。


 フワフワと僕の少し前を飛ぶテンマに視線を向ければ、こちらの視線に気づいて『何か御用ですか?』と不思議そうな顔を返してくる。

 コミュニケーションを取れる誰かいるだけで心細さは途端に紛れる。

 僕も迷宮を甘く見ていた。

 一人で攻略していたら精神に影響が出ていたかもしれない。


『主様、何か来ます。右手の通路です。距離は多分40歩から50歩くらいです』


 まだ探索を始めて10分経っていない位だろうか。テンマが警告を発した。

 死角であり音も無かったため僕にはまだ感知できていない。

 テンマの警告がなければ先に発見されていたかもしれない。僕とは比べ物にならない探知能力だ。

 技能の有無による違いか、テンマという存在自体の特性か。


『テンマはそこから警戒を。僕は身を潜めてタイミングを計るから』

『戦うのですか?』

『ああ』


 僕は地面の石を拾い中央の通路に潜み、マントを深くかぶって息を殺す。

 マントの下で短剣の刃は抜いてある。


『ぎ……』


 右の通路から歯五が出てきた。配信で見た通り生理的に近付き難い怪物だ。

 僕は音を出さないよう、手首の力だけで元来た道に石を放り投げた。

 

 石が音を立て地面に跳ね返り、歯五はそちらに即座に首を振り走り出す。僕も溜め込んだ足の力で地面を押すように跳び、一気に接近した。


 短剣を横薙ぎに振るい、歯五の首に食い込ませる。パキと乾いた音と肉に食い込む感触が手の中に返って来る。

 歯五は俯せに倒れ絶命した。

 人間で言うなら脊椎断裂による即死のため、悲鳴を上げられずに済んだ。

 

 倒れた歯五の死体を短剣でザクザクと切り裂き傷口を増やす。

 血の臭いが辺りに広がっていくのが分かる。

 歯五の腰布を奪い、素早く短剣の血を拭った。


『索敵状況は』

『まだ気配はありません。でもざわつくような空気が広がっているのです』

『血の臭いに興奮しているみたいだね。一旦離れつつ、回り込むようにして戻ってこよう』


 音を立てずにその場を去る。血の臭いが漂えば歯五はここに集まり、同胞の体を喰らいに来る。

 あいつらは何もなければ同族食いはしていなかったが、極限の飢餓に対して血の滴る肉は麻薬だ。

 視野を狭くし、警戒心を緩め、僕の足音も同じような目的で来た同胞と勘違いするだろう。


『さっきの死体のある方にたくさん集まってきてます。ヤバイのです!』


 僕でも分かるほどの大量の足音と気配。

 予想通り集まってきた。ここからは大胆に動く。

 

 大きく迂回した先にいた歯五を後ろから襲い、刃のない峰で首を叩き折る。

 こうすれば血の流れるリスクは少ない。飢餓状態にある所為か一匹一匹は脆いし遅い。

 歯五との戦闘は歯に気を付ければ怪我を負うリスクは小さい。怪我を負った途端死のリスクが跳ね上がるため油断はできない。

 

 それからは歯五が同胞の死体を食べ終わるたびに、首の骨を折った歯五を切り開き、追加を用意してやる。

 また仲間の死体に夢中になる無防備な歯五の背中に奇襲を繰り返した。


 全ての歯五を倒したと確認できたのは、迷宮に潜って体感で3時間は経過した後だった。

 この迷宮にゲームのようなリポップがないことは配信で予習済みである。


『主様凄いのです!主様最強なのです!』

『はは、そんなことないさ。人生経験が他人より沢山あるだけだよ』


 手に持つ得物は違うが、この手の存在との戦闘経験は有り得ないほどある。

 ただこの体は若いが、体力も筋力もそこまでないから前世のようにはいかない。

 帰ったら鍛えよう。


『主様は何を熱心に書いているのですか?』

『ちょっとね。もうちょっとで出来るからお楽しみに。面白いものでもないけどね』

『う~ん?』


 僕は下の階層に降りる階段の入り口でテンマと雑談を交えつつ、紙にペンを走らせ書き込んでゆく。

 扉に置いていた背負い袋は回収済みだ。

 知り得た情報をまとめ、二枚の紙に収めたところで紙を掲げカメラ位置と思わしき場所に紙を掲げて見せて回る。


「第一階層の探索が全て終了したので、その結果を紙に書きました。通路の距離、分かれ道、部屋、第二階層への階段の位置など記していますのでご覧ください」


 まずは1枚の紙に書いた地図を掲げる。十分確認できたところでもう一枚の紙を掲げる。


「あともう一枚はここに出る怪物、名前は分からないので歯の怪物と呼称します。その特徴や数、習性について分かる限り書きました。僕なりの解釈ですのでそこはご留意を。一応簡単にですが怪物の絵もつけました」


 黙って闇討ちしてたから、視聴者は怪物の特徴なんて分からないだろう。

 エサでおびき寄せての暗殺するスタイルだけが正解ではないと考えている。

 ぶっちゃけ情報無くてもマッチョメンが大剣なり、棍棒なりを振り回したら雑魚扱いできる。事実それで突破した人もいた。

 あれは力のない人間にとってはなんの参考にもならない。

 今回のようにわざわざ戦わなくても、臭いを消して地図を覚えていれば、そう難しい階層ではないだろう。


「第一階層の攻略は以上となります。階段で警戒しつつ休憩を取って、回復したら第二階層に進みます。それでは」


 本当に誰か見てるのかな?誰も見てなかったら滑稽である。

 僕はそんなことを考えつつ、座り込んでしばし体を休めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『カバーストーリー:怪物と化け物』

 

 

 怪物と化け物の違いは一つだけ。

 化け物のはかつて存在した異形。もういない。

 怪物はそれ以外の異形。これからたくさん出てくる。


 化け物は特別。

 怪物は特別じゃない。


 化け物は特別な力でしか倒せない。

 怪物は特別な力じゃなくても倒せる。


 特別な力とは……なんだっけ、忘れちゃったな。


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