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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 奈落の受胎 八大地獄
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第1話 次なる始まりと静けさ



『ピーンポーンパーンポーン』


『これより試練、奈落の受胎を開始します』


『7日後、地球の各地に異層空間を形成します』


『異層空間内部には試練資格者のみが立ち入ることを許されます』


『異層空間内部に持ち込める物品はリソース交換の物品、試練で入手した物品に限ります』


『定められた時間までに試練資格者は異層空間内部の核を破壊し、異層空間を閉じてください』


『定められた時間までに核の破壊が行われなかった異層空間はこの世界に顕現します』


『顕現後の異層空間の攻略は可能ですが、攻略難易度は顕現前と大きく異なります』


『ステータスに異層空間位置情報、制限時間を追加します』


『良き戦いを』


『ピーンポーンパーンポーン』




 日曜日、家族と夕食を終えてすぐの事だった。

 相変わらずの大音量で顔を顰める。


 試練を告げる放送。


 今回は時間の猶予もある、特別ルールもない。

 ただし試練の舞台が現実の、僕たちが暮らす世界に影響を与えそうな内容だった。

 いつの間にか莉々に腰に取り付かれている。

 僕は理由を察してその背をポンポンと撫でた。

 

「大丈夫だよ、今度はいきなり居なくなったりしないから。大分猶予があるみたいだ」


 少し腕の力が緩むが離してはくれないようだ。

 フルフルとお腹に頭を擦り付けてくる。


「……っつ、まだあれからひと月も経っていないのに、どうしてこんなに拙速なの」

「人間と違う思考を持っているだろうから、考えてもしょうがなさそうだけどね」


 花音姉さんも不安そうに僕の服の袖を掴んでいる。無意識だろうか。


「お兄ちゃん、今の放送……」

「まだ、何もないよね?」

「心配しないで。今度はゆっくり時間があるし、変なルールもないから。それに下手すると僕の出番すらなさそうだよ。説明を聞く限り自由参加みたいだ、今回の試練」


 部屋に戻っていた萌香と春香たちまでリビングに戻ってきて、不安そうに僕を見詰めているが、僕は何でもなさそうに笑って返した。

 

「なら、安心ね…子どもの信也が危ない事なんてする必要はないんだから」

「……そうだな。その通りだ」


 母さんも安心したように息を吐いた。父さんは何かを考えるように顔を伏せている。

 これは今までの二つの試練と前提が大きく異なっている。

 自分以外の思惑が大いに絡まる予感がしていた。

 

 薄く張られた氷の上に乗っているかのような安心でしかない。

 僕は内心で付け足した。





「おはよう」


 学校の教室に辿り着けば視線が集まる。みんな興味津々というか、話したくてうずうずしている様子だ。

 というか既にこちらに何人も向かってきている。

 いつも恥ずかしいと思っている姉さんの守りが今は恋しい。

 

「青野!昨日の放送聞い……」

「はい、斎藤君ストップ!みんなもストップ!!」


 ぱっと女の子が僕の前に立ち、人波を防いでくれる。瀬尾さんだった。

 ムッとした様子でクラスメイト達に対峙している。

 

「まったく、昨日メッセージ回したでしょ、青野君に変なプレッシャーは掛けないようにしようって」

「そうだよ、早速破るなんてどういうつもり?」

「お仕置きしちゃおうかなぁ~」


 瀬尾さんの友達二人も加勢してくる。

 少し斜に構えた印象があるが気遣い上手な張本美亜さんと、ポワポワした喋りのノンビリ屋の安藤加奈さんだ。

 三人並ぶと見事に凸凹トリオに見える。張本さんが小柄で、瀬尾さんが中間、安藤さんが大柄だ。

 女の子に大柄は失礼かもしれないが、安藤さん僕より身長高い。


 斎藤君やクラスメイト達は思い出したように顔色を変えて、謝りつつ慌てて回れ右した。

 

「もう、気になるのは分るけど約束破るの早すぎだよ」


 未だ睨みを利かせている三人。

 頼もしすぎて反面、自分が情けなくて恥ずかしくなってくる。

 公衆の面前で女の子に守られると羞恥心が擽られる。


「あ、青野君……勝手にこんなことして迷惑じゃなかった?」


「そんなことないよ。あんまり学校で試練の話はしたくなかったから、本当に有難う。女の子に守られて、ちょっと恥ずかしいけど」


 普通に顔が赤くなっていると思う。

 僕は言葉を終えると居た堪れなくて視線を逸らした。

 

「んふっ……オホン、いやいや好きでやってるからいいってことよ!私たちマブだし!」

「それは由佳しか言ってないから。しれっと孫から逃げようとしてない?ていうか今なんか青野君の顔見て変な声出さなんかった?え、どうなの?」

「妹さんにも言ってたよねぇ~。由佳ちゃんは孫だよねぇ~。嘘は駄目だよ、嘘はぁ。ところでさっきのはなあにぃ~、妙な湿っぽい声ぇ?」


 よく分からないが3人が姦しくしゃべり始めたので、僕は軽く会釈して机に座って授業の準備をした。

 三人はフレンドリーだが、まだまだ女の子との自然な会話は難易度が高い。

 意識が戻る前の僕ってどうやってコミュニケーションとっていたのだろうか。

 いや、善人行動に寄せても元が僕だから参考にならないか。




 何事もなく一日が終わり、いつも通り補講を受けた後に帰宅する。

 玄関に知らない靴がいくつかあり、来客があることが分かった。

 関係ないだろうと制服からジャージに着替えて鍛錬に向かうことにする。

 母さんは来客対応中みたいだし。書置きしていけばいいか。

 前世の影響でアナログ人間なので、ちょっとしたことだとスマホを使わずに済ませる。

 

「……っ………!!」


 玄関を出ようとしたとき、母さんの怒気の籠った声が聞こえてきた。

 穏やかなで僕たちが危ない事でもしない限り、大きな声を出すことがない母さんがだ。

 何か危険があるのではないかと思い、僕はノックし客間を開けた。


「母さん、玄関まで声が聞こえたけど何かあった?」

「おおっ、君が信也君か!」

「信也、なんでもないわ。出ていなさい」


 部屋には母さんが居て、知らない二人組の男女がいた。

 一人は40代くらいの人の良さそうな男性。

 もう一人は気難しそうな30代前半位の女性だった。

 お世辞にもいい雰囲気ではなく、重い空気の中で人の良さそうな男性の陽気さは浮いている。


「いや~息子さんに大いに関わることですから彼も聞く権利はありますよ。寧ろ聞くべきでしょう。お母様からの伝聞ですと、どう話が拗れて伝わるか分かりませんから」

「青野様には何かやましいことでもあるのですか?」

「君の言い方は非常に良くないから止めなさい」

 

 二人組の温度は異なっているけど、言いたいことは同じなのだろう。

 女性の発言に対して男性が不快気に咎めていることから、二人に隔意があるというか、壁みたいなものを感じる。

 同僚というより商売敵とでもいうような。


「母さん、僕に関わる話なら僕も聞くよ。大丈夫だから」

「信也……」

「流石は信也君、話が分かる!それでは早速……」

「後藤さん、その前に一つ宜しいでしょうか」

「渡辺君、話の腰を折らないで貰えないかな。折角話を聞いて貰えるのに」


 気の良さそうな男性は後藤さんというらしい。気難しそうな女性は渡辺さん。

 渡辺さんは後藤さんを気にした風もなく僕に視線を向けた。


「青野信也君、あなたには虐待が疑われています」


「……え?」


 いきなりこの人、何言ってるの?脈絡迷子か?


 僕は自分の記憶を探ってみた。

 結果、僕の意識が宿る前の僕は虐待されていない。

 父さんから特に父親らしい干渉はされていないが、母さんからは他の姉妹より愛情深く育てられていたとすら感じる。

 

 幼少期の記憶は……思い出そうとしたが、蓋がされたように固く閉ざされていた。

 詳細は分からないが、この場で思い出さない方がいいと本能が訴えかけてくる。


「おいおい、君は一体何を言い出すんだ渡辺君っ!さっきのことも君が首を突っ込んでいい問題じゃないんだぞ」


 後藤さんが態度を変えて渡辺さんを叱責する。

 渡辺さんは煩わしそうにするだけで言葉を止めない。

 さっきのこととは僕が聞いた母さんの声の事だろうか。

 あの声は渡辺さんに対して言った言葉なのか。

 

「信也君にとって、経済、人格、環境の整った家庭を私どもがご紹介可能です。如何でしょうか」

「渡辺、貴様っ!!」


 後藤さんが激高して渡辺さんの肩を掴む。

 何この茶番。僕も母さんも何を見せられているのだろうか。

 ちらりと母さんを窺えば顔を青くしていた。それに渡辺さんは口角を上げて冷たく見据える。


「どうやら心当たりがあるようですよ、後藤さん。離してください」


「いやいや、そんなわけないだろ。信也君は配信内ではそんな様子は……」


「それはあなたの主観では?私どもの元に多くの意見が寄せられ、早急に保護するように話が出ています。確かな根拠があるから私はこのように申しているのです」


 どうして配信を見てそんな結論が出るんだ。

 僕、もしかして変こと言っていたかな。

 でも瀬尾さんたちはそんなこと言ってなかったし、家族もそんな話は出していない。

 この後藤さんも心当たりなさそうだから一部の穿った意見とみるべきか。別の理由か。

 母さんが青くなったのは、単純に後藤さんが大きい声出したからじゃないかな。


「あの、僕を置いてきぼりでお話しをされてますけど、虐待なんて一度もされたことないですよ」

「虐待を受けている本人は分からないものです。物心もついていないころからであるならば尚更です」


 駄目だ、この人の中では僕は虐待を受けていること確定のようだ。

 言葉が通じないなら無視だな。どうでもいい。

 

「取り敢えず渡辺さんの話は分かりました。後藤さん、あなたの話を進めていただいても宜しいですか?そちらが元々僕を訪ねてまで話そうとしていたことでしょう」

「え、ええ、その通りで、流石のご慧眼に感心しますねぇ。それではこちらを。……渡辺、後で君たちの上司にはしっかりと経緯を聞かせてもらうから覚悟しとけよ」


 僕に人の良さそうな笑みを見せつつ、渡辺さんには小さな声でドスを利かせている。

 渡された資料は学校のパンプレットみたいに見えるけど、それは学校に似ていて学校ではないもの。


「試練資格者のための訓練校ですか。担任の先生から話には聞いていましたけど早かったですね」

「ええ、ええ、急ピッチで進めましたので。そりゃもう立派なものですよ。ぜひ見学に来てください。何だったらそのまま入校いただいて結構ですのでっ」


 場所は都内で寮に入ることが出来る。

 建物や設備は最新鋭で訓練校とは言え相当贅沢だ。

 全寮制ではなく外からでも通学可能で各手当も充実している。

 それが給料のような扱いになっていて、下手なサラリーマンより高給取りだ。怪我や死亡時の保障などもある

 

 僕の家からの距離感だと通うことは不可能だ。

 ここにベリエルでもいたら可能だけど。

 なるほど、これも政府が用意した支援の一環という事だろう。

 でも訓練校に所属しないと給料もらえないし保障も特にないのか……。

 

「資料は確認させていただきます。後日お返事すればよろしいですかね」

「ええ構いません。ただ可能であれば返事の前に一度赴いてはいただけないでしょうか。信也君に来てもらうだけで我々は感無量ですので」

「分かりました。そうさせていただきます」


 大げさなことを言っているけど、この人がそういう性格なのだろう。

 連絡先の名刺を貰って、後藤さんは一仕事終わったとばかりに力を抜いた。

 それを見計らったように渡辺さんが口を開く。

 

「信也君、あなたは今回の試練に参加しますか?」

「……どうでしょう、あまり家族に心配を掛けたくないので出来れば参加したくないですね」


「やはり、あなたにとって家族は足か…」


「もう君、いい加減にしろ!すいません信也君、青野さん。こいつは責任をもって連れ帰りますので、慌ただしくして申し訳ありませんでした」


 発言を遮った後藤さんは深々と頭を下げて、渡辺さんの腕を強引に引き玄関から外に出た。

 後藤さんは見送る僕と母さんにもう一度深々と頭を下げ、渡辺さんは不服そうに会釈をして去っていった。

 念のため二人の姿が見えなくなるのを確認して玄関を閉じて鍵を閉める。

 

「何だったんだろうね」

「……信也」

「母さん、僕のことで何か言われたの?」

「……なんでもないわ。これから鍛錬、だったわよね。気を付けるのよ」


 母さんは僕に何も言わずに2階に上がっていった。

 僕はその背中に何も言わずに見送った。

 今の母さんは平常心ではない。

 時間が経って話すような内容だったら教えてくれるだろう。

 そう考えて僕は玄関を出て鍛錬へと向かった。









『カバーストーリー:技能 良妻賢母』



 思考誘導型のユニーク技能。

 この技能の持ち主は、良き妻であること、良き母であることを無意識に働きかけられ、配偶者や子どもに関して良い影響を与える技能の習得、技能LVの成長に高い補正を掛ける。

 逆にそれ以外の行動に関心が向かい辛いため、別方面に才能があっても伸ばすことは困難となっている。

 技能の特性にそった行動をすることで高い精神耐性を得られる一方、反する行動を起こすと、強い苛立ちや精神の不安定化を招く。

 意図して思考誘導に抗う事は可能だが、技能という能力の詳細が浸透していないため、この手の技能の持ち主たちは思考誘導に気付くことはない。

 

 後天的要因によってのみ発現する技能。

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